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飛んで東国 8

登場人物

浅間灯夜:おっちょこちょいな正義感溢るる青年


雨宮雫:自称お姉さん、他称オカン


里晴茜:天真爛漫な忍び、とある事情から和国では周りからオカン、またはお姉と呼ばれている

座敷牢を出てから、3人は暗く冷たい夜の廊下を歩いていた


所々が血に濡れた生者の気配を感じさせない御所の廊下は、3人にはとても不気味に映る


「もう直ぐ謁見の間に着くけど、そこに鬼の頭領がいる場所みたい」


努めて声を張り上げない様に静かに雫が呟くが、なぜそうもはっきりと言い切れるのか、トウヤは疑問に思った


「思ったんですけど、なんでそんな事がわかるんですか?」


「先に偵察に来てくれた子が居るんだよ、福って言うんだけど」


「その人も忍者なんですか?」


「そうそう、私達とは違う忍術を使う忍びだよ」


「へー、色んな人がいるんですね」


「あなた達喋りすぎよ」


敵が現れないからか、はたまた茜もこの暗闇に嫌気が刺したのかトウヤとの会話に興じてしまい雫から注意の言葉が飛んでくる


それに茜は手を合わせ謝るジェスチャーを行い、トウヤも頭を下げた


「た・・・て・・・」


「ん?」


その時、何やら遠くから甲高くも小さな声が聞こえた様な気がして、トウヤはピクリと反応する


「あの、何か聞こえませんでした・・・あれ?」


不審に思ったトウヤは前を歩く2人に声を掛けると急に歩みを止めた


「どうしたんですか?」


「あのさ雫、もしかして・・・」


「えぇマズイわね」


「え?」


何かあったのかと2人の顔を見てみれば冷や汗を流し、雫は仮面で覆われていない口元だけでもわかるくらいに顔を強張らせている


これは何かあったなと直感したトウヤはすぐに動ける様に構えを取った


「た・・・けて」


先程一瞬聞こえた声が再度聞こえ、声の主が徐々に近付いて来ているのがわかる


「たすけて、誰か助けて〜!!」


廊下の奥を目を細めて見れば何かが羽ばたいているのがわかった

それは大きさにして数センチ程の鳥類であり、スズメによく似ている


その姿を見た雫と茜は焦りを増大させたが、一方のトウヤは「え? スズメ?」と拍子抜けしていた


スズメを追いかける形で廊下の角を曲がって来た者を見るまでは


「あ! 雫さん、茜さん! ちょうど良かった助けてくださーい!!」


「待て不届者!」


「おい、あそこに誰かいるぞ! あいつの仲間か!」


廊下の角を曲がって現れたのは軍用甲冑に身を包む鬼達の姿だった


彼らはトウヤ達の姿を見つけるとすぐさま大声で応援を呼び出す


「あの馬鹿・・・!」


額に顔を当てて呆れ果てる雫を他所に、スズメは彼女達の前へと来ると頭が伸び大きく広がりやがて1人の忍び装束を見に纏った少女の姿へと変化した


残ったスズメの胴体がクナイへと変わりカランという金属音を廊下に響かせながら少女は涙目で雫へと抱きつく


「雫さん茜さん! 会いたかったです!」


「会いたかったじゃないわよ・・・」


「福の馬鹿! 鬼達を連れて来ないでよ!」


「いやだってあの鬼達私のこといつまでも追いかけてくるんですよ! 流石に無理ですって!」


「それを撒くのがあなたの仕事でしょ!?」


「無理ですって〜!!」


涙目で愚図る少女、福と呼ばれた少女に茜は怒声を浴びせるが福にも何やら言い分がある様でキャイキャイと口喧嘩を始めた


その様に呆れていた雫は一喝する


「2人とも落ち着きなさい! 取り敢えずこうなった以上は仕方ないから茜、トウヤ、戦うわよ!」


「あぁもう! 福、後でお仕置きだからね!」


「り、了解!」


『空間魔法、アクティベート』


「変身!」


『音声認識完了、アクシォン!』


雫の掛け声と共に茜は拳を構え、トウヤは直ぐ様変身を行う

そんな彼らに福は手をヒラヒラとさせながら安心しているのか気の抜けた微笑みを浮かべている


「頑張ってくださーい」


「福、貴方もよ」


「えぇ!? 私もですか!」


「当たり前でしょ! こんな数流石に相手にしてらんない!」


茜の声に福は「そんな〜」と情けない声を上げるが、鬼達は今も迫って来ていた


そんな鬼達に向けて雫と茜はクナイを投げ、トウヤはヒートソードを展開して迎撃を行う


投げたクナイは鬼達の甲冑に弾かれ宙を舞うが、クナイと位置を入れ替える形で転移して来た茜と雫が強烈な一撃を見舞う


「忍法、疾風迅雷:鉄砲!」


茜は鬼の頭上に転移した瞬間、魔力を置換した岩の塊を腕に纏うと鬼の頭目掛けて振るい撃ち出し、雫は持っていた忍者刀を首の甲冑の隙間へと突き立てると後ろに飛び距離を取る


「このやろう!」


頭を失い前のめりに倒れる鬼の背に手を掛け床へと飛び降りた茜目掛けて鬼が刀を振るうが、彼女を庇う様に後ろから飛び出たトウヤが熱線の刃を展開したヒートソードで刀を受け止める


ヒートソードで受け止められた刀は熱線の刃により溶け歪み、やがて鬼の膂力に刀が耐え切れずにバキィンという音を立て破壊された


その勢いのまま前のめりになる鬼にすかさずヒートソードを首へ突き刺すと激しい熱が鬼の身体を内部から焼き焦がす


一気に3人も倒された事で鬼達の間に動揺が広がるが、それでもと狭い廊下を走り3人へと突撃して来た


トウヤは鬼達の攻撃に備えようと身構えるが、そんな彼の横を後方から飛んで来た6本のクナイが通り抜けると、見る見ると漆黒の鴉へと姿形を変えていく


「忍法、鳥獣変化:爆裂鴉!」


福の忍術により現れた鴉達は鬼達が迎撃のために振るった刀を、するりと躱わすと首元に嘴を突き立てながら纏わりつくと、身体がひび割れ内から光を漏らし鬼もろとも爆散した


「すっげ・・・」


不定形の魔力を燃料にするのではなくその物を使い、時に岩へと置換し、時に物体の姿形を変える。忍術という術のデタラメさをトウヤは改めて再認識した


「行くわよ」


福を追いかけていた鬼を排除できたのを確認すると、改めて4人は謁見の間を目指して走り出す


遠くからは鬼達がトウヤ達を探して走り回る音が聞こえるが、謁見の間は直ぐに見つかった


「ここです! ここが謁見の間です!」


福が差した指の先には壁伝いに薄暗い廊下が続き、その先には豪華絢爛な襖があった


「なんか変わった作りだな」とトウヤが呟くと福はなんとも言えない表情であははと苦笑いを浮かべる


「トウヤ、私達はここまで」


「この騒ぎで鬼達が集まってくると思うからね、その対処は私達でやるよ」


「そんな、3人で御所中の鬼を相手にするっていうんですか!?」


御所にどれだけの鬼がいるかはわからないが生半可な数ではないのは確かであり、彼女達も無事では済まない、そんなトウヤの心配など無用とばかりに雫と茜は不敵に笑う


「大丈夫大丈夫、私達3人ならこの程度の数心配ないって」


「そうよ、心配しないで行ってきて?」


その目に恐れなど微塵も感じず、本当になんとも感じていないのがわかる。ならばとトウヤは内に宿る不安を押し殺すと3人に笑顔を向けた


「わかりました。お願いします!」


そうしてこの場を雫達3人に任せ、トウヤは謁見の間を目指した







「あの、3人って事はひょっとして私も入ってます?」


「もちろんよ、当たり前じゃない」


「そんなぁ・・・」


恐る恐ると言った様子で聞いた福は、雫の無慈悲な言葉に情けない声を出すと力無く座り込み項垂れる


「ふぅくぅ? あんたまだ覚悟決まってなかったの?」


「だってぇ・・・」


尚も泣き言を続けようとする彼女に、雫と茜はお互いの顔を見合い、笑みを浮かべながらため息を小さく吐く


泣き言を言う、ドジも踏む、さりとてやる時はやる女であり、2人にとってはどうしようもないくらい大切な仲間なのだ


だからこそ、茜はそっと座り込む彼女に手を差し伸べる


「大丈夫だって、私達3人に解決できない仕事はない、でしょ?」


「茜さん・・・」


差し伸べられた手を取ると、引かれるままに立ち上がる


「大丈夫?」


「はい、私頑張ります」


「あなたって意外と単純よね」


「酷い!!」


「はいはい、雫も福も落ち着いて、ほらそろそろ来そうだし、私たちも準備しないと」


そう言いながら茜が腕を前に伸ばすと、雫もまた茜の手に自身の手を重ねる


「そうね、トウヤにもここは任せろって言ったし、福行くわよ」


「はい!!」


最後に福が手を重ね合わせた


「忍法、鳥獣変化:重!!」


そうして3人は煙に包まれた

福:雫がオカン、茜がお姉と呼ばれる理由であり全ての黒幕、泣き虫で弱虫な性格ではあるがやる時はやる女であり、それで雫と茜の窮地を意外と救ってきた忍び

とある事件の立役者の1人

使用忍術は鳥獣変化、物体を生き物に変え、生き物の合成も行える忍びの中でも珍しい能力の持ち主

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