飛んで東国 3
登場人物
梅:トウヤが饅頭を分けた少女
翁:少女を迎えに来た老人
それは翁と梅の2人がトウヤから離れ角を曲がり歩いていた時の出来事だった
突如として傘を被った異様にガタイが良く背丈の長い集団が取り囲んできたのだ
梅が翁に抱き寄り、翁はそれを庇う様に手で隠すと警戒心を露わにした口調で強く話す
「あんたら、一体なんでしょうか? あっしらはただ歩いてただけなんですが」
そう翁が言ってみせると集団の1人が鼻で笑いながら前に歩み出てくると、梅を指差す
「隠したって無駄だ、そいつをこちらに渡せ」
「この子は私の大事な孫娘です。大勢で囲んで如何なさるおつもりでしょうか」
「うるせぇ! お前には関係ない事だ!」
前へと歩み出てきた男は翁の胸ぐらへと掴み掛かる
「お、おいどうしたってんだよ」
「やいあんたら! 店の前でそんな爺さんと小さい女の子を囲んで何しようってんだ!」
その光景を見た町人達は何事かと目を丸くし、店の店主と思わしき女が男達へと突っ掛かる
すると男は翁を離し女に歩み寄ると刀を抜き切先を向けた
「女、貴様にも関係の無い話だ、怪我したくなけりゃ失せろ!」
「おやめ下さい、その女性はなんも関係ありゃせんでしょう」
「ジジイ! 貴様は黙っていろ」
止めに入ろうとした翁の胸ぐらを再度掴み上げる男、そこに梅は堪らず声を上げた
「やめろ、爺を離せ!」
翁を掴む男の腕に掴み掛かった梅だが、男が鬱陶しそうに片腕を振るえば最も容易く薙ぎ払われた
地面を転がる梅の姿を見て鬱陶しげに舌打ちをする男に翁は堪えきれず男の腕を掴む
「なんだジジイ? やろうってのか?」
格下の相手と侮り切っていた男は翁を睨みつると今にも殴り掛からんと拳を振り上げた
「お前ら! 何やってんだ!」
突然男の声が聞こえたと思えば、翁を殴ろうと振り上げた腕をトウヤが掴み上げた。男は忌々しげにトウヤを見る
「なんだお前、邪魔するんじゃねぇ!」
「通りすがりのヒーローだよ、この人たちに何しようとしてた」
凄む男にトウヤは、怯む事なく言い返す。暫し睨み合う2人だが男が翁を離しトウヤの腕を振り払うと彼らから離れながら嘲る様に嫌らしい笑みを浮かべる
「お前ら、やれ」
男の言葉を契機に取り囲んでいた集団は一斉に刀を抜くと切り掛かってくる
多勢に無勢の状況であったが、トウヤもまた身体強化魔法を発動させるとヒートソードを呼び出し応戦した
「鉄の棒?」
刃を生成する事なく振るわれるヒートソードは正しく鉄の棒ではあるが、それでも鈍器に違いなく、怪人との戦いを得て成長したトウヤは斬りかかってくる刀をいなしすれ違い様に一撃を入れて行く
3人ほど打ちのめした頃だろう、片手で持つヒートソードを前にいる相手に突こうとした時だった
突いたヒートソードを中心に刀を螺旋を描きながら切先を潜り込ませると、一気に跳ね上げヒートソードを明後日の方向へと跳ね飛ばしたのだ
何が起こったのかわからず思わず唖然とするが返す刀で振り下ろされる刃に気が付き急ぎ魔力の流れを先程までヒートソードを持っていた手に纏わされると、迫る刀を流れに乗せ外側へと払い除けた
「こいつっ・・・!」
小さく呻く様な声を漏らす男の腹に拳を打ち込むとそのまま殴り飛ばす
「剣道の巻きだっけ? あんなのする奴いるのかよ」
思わず悪態を吐きながらも腕を振るうと次にフレアシューターを呼び出す
『フレアシューター、アクティベート!』
魔力を流し込むとフレアシューターが起動状態に入り機械音声が鳴り響く
またもや何も無い空間から見たこともない武器を取り出したトウヤの姿を見ると、すでに4人の仲間を倒したということもあってか傘を被った一団は警戒心をより一層高めた
「お前一体なんだ? 見たこともない武器を出して此処じゃ使わない戦い方をする・・・まさかブラシド人か?」
「ブラシド人・・・? あぁブラシド大陸のことか・・・そうだけど、それがどうかしたのか?」
困惑しながらもトウヤが言うと男は合点がいつたかの様に笑う
「なるほど、それでヒーローね・・・おいお前ら! ここは一旦引くぞ」
男の一声と共に取り囲んでいた者達は刀をしまい足早に立ち去って行く
「ヒーロー、この落とし前は早々につけてもらうぞ」
それだけ言うと男もまた走り去る。
追い掛けようとは思ったが、翁と梅の事が心配だった為後回しにする事にした
「大丈夫か、爺さん、梅」
「あぁはい、ありがとうございます」
「お主強いんじゃな、名はなんと申す?」
膝をつく翁を心配そうに労わりながらも梅が問い掛けてくると、トウヤは翁の脇に腕を通し立ち上がらせながら梅へと顔を向け自信満々に答えた
「俺は浅間灯夜! フェイル王国でヒーローやってるんだ」
「ほほぅ、ヒーローをやっている方でしたか通りで・・・ならば、後でお礼をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「いや良いよ、そんな事よりも爺さん達が無事ならそれで十分だよ」
「いえいえお気になさらず、今日の黄昏時にこの場所にてお待ちしております。それでは」
「あ、ちょっと!?」
強引に押し付けられる様に握らされた紙にトウヤは困惑の表情を浮かべるが、翁は梅を連れてそそくさとこの場を離れた
1人残ったトウヤは「参ったな」と小さく呟くが、とりあえず行ってみるだけ行くかと考え直した
最近後書きと前書きを書かなくても投稿できる事に気が付きました