やったぜ着いたぜベガドの街! 2 改
分割版その2です
バスの軋む音と共にトウヤはベオテの街へと降り立った
目の前に映る僅かに黒ずむ石灰の如き灰色の壁を他所に、トウヤは身体を捻りバスの中から見えていた光景に目をやる
灰色の3階建ての建物が多く建ち並ぶメインストリート、バスが2台は余裕で通れる大通りには多くの人が歩き日常を謳歌している
ある者は道に面したテラス席で食事し、ある者は格子の間から下にいる知り合いと笑い合う
そんな大通りの奥に見える区画を区切る重厚な壁と門の周りには多くの露店とそれに並ぶ人々の姿も見えた
何よりも目を引くのはその壁の向こうに見える巨大な城の頂
何処かで見た事のある風景だが、そのどれもが自分の知る姿とは違っている
そんな矛盾の様な感覚がよりトウヤの興奮を高めていた
これからどんな事が起こるのだろうか、うちから湧き上がる好奇心という衝動に突き動かされ、トウヤは期待と共に歩を進め目的の場所へと歩き出した
目的の建物は大通りに面していた
木製の作りで入り口にかけられた門札には「冒険者ギルドベガド支部」と書かれていた
それを確認するとトウヤは緊張の面持ちで重く感じる木製の扉を開ける
チリンチリンという小君良い音が扉の動きに合わせて鳴り響く
僅かに木の匂いを感じながら入ると目の前には多くの人が行き交う現代では珍しい木製のエントランスだった
手前には長椅子が2列ほど並べられており、壁際には机が何個か置かれている
奥には横に長い受付があり、飛び出た天井からは看板が紐で繋がれ垂れ下がっており、それぞれ2・3等級冒険者受付、1等級冒険者受付、特殊事案受付、依頼受付と書いていた
左側を向けばお馴染みの依頼が貼り付けられているであろう大きな掲示板が立っており、前には人だかりが出来ていた
受付の奥には事務所だろうか、机と事務仕事に勤しむ者の姿が見て取れる
他には左側には2階へと向かう階段と幾つか個室のような物があるのがわかった
さて、ここまで見たトウヤだが、何か妙に現実に引き戻されるような何やら冷めるような感覚を覚えた
「なんか・・・市役所みたいだな・・・」
そうボソリと呟き残念がるトウヤではあるが、残念ながらこの世界における冒険者ギルドとは言ってしまえば公的機関が国、各自治体又は民間からの依頼を受け、冒険者資格を有しいている者へと仕事を卸す斡旋所の様な役割を担っている
言ってしまえば日雇い専用ハローワークでありどうしてもシンプルな作りとなり、似てしまうのだ
そんな何処か冷めた気持ちを胸に抱きながら近くに立っているネームプレートを首から下げている職員らしき男性へと声をかけた
「すみません、ヒーローになりたいんですけどどこの受付に行けば良いですかね?」
「特別事案対策冒険者志望の方ですね、あちらの特別事案受付で受付を済ませて各種書類へのサインと軽い試験をお願い致します」
「あ、どうもありがとうございます」
ますます市役所っぽいなぁ、などと思いながらにこやかな表情で礼を告げ受付へと向かう
「すみません、ヒーロー志望で来たんですが」
「特対者志望ですか?かしこまりました。それではこちらの書類にそれぞれ生年月日とお名前、住所、住所がない場合は空欄でお願い致します。それと・・・」
受付の女性へと声をかけ各種書類とそれに対する説明を受けた後、壁際の机で各種書類を記載していった
生年月日や各種情報についてはサラと出会った時に持っていた自分のと思しき入国許可証の情報をそのまま書く
書類への記入と注意事項、主に戦闘時に発生した被害の各種責任の所在であったり、戦争または戦闘時に発生する徴兵に関する説明等が書かれた項目にサインをして受付へと提出した
「それでは準備が出来次第お呼びしますので椅子にかけてお待ち下さい」
そう言って受付にいた女性は事務所へと向かっていった
トウヤは受付の目の前の長椅子へと腰を下ろす
「なんか、コレジャナイ感すごいなぁ」
ヒーローと聞かされ夢を身過ぎていたのだろうか、受付でもらった書類にサインして提出するという何気ない日常感に僅かに嫌気がさしていた
異世界に来た以上はテンプレ展開の様に水晶割って驚かれて強敵を倒して英雄になる様な展開を期待していたが、現実はあまりにも味気無かった
夢は夢のままで良いとは言うが、まさしく今その意味を噛み締めている
「トウヤ・アサマさーん、準備が出来ましたのでこちらへどうぞ」
準備が整ったのか先程の職員から呼び出しが掛かった
短く返事をし、受付へと向かうと職員の指示により事務所内の個室へと案内される
個室に入ると目の前には円錐の台に嵌められた水晶が机の上に鎮座していた
その光景に期待で僅かに胸が膨らむ
「それではこれから魔力測定を行いますので、こちらの水晶に今出せる魔力を全力で流してください」
「任せて下さい!こんな水晶割ってやりますよ!」
「・・・割れないとは思いますが、その場合は破片に気を付けてくださいね」
先程夢想していた事が叶いそうな事態にトウヤは興奮していた
職員の言葉に必要以上に意識を向けず目の前の水晶に全力で向けた
水晶へと手を乗せ気合を込める為に何度か深呼吸を繰り返す
サラに教えてもらった魔力の流し方を思い起こし、ふん!という声と共に魔力を流した
流れた魔力により水晶が眩く光輝く
思わず目が眩む程の光に目を瞑るが負けじと魔力を流した
そうして光が収まってくると割れた水晶がどんな割れ方をしたのかと目を開け確認しようとする
「お疲れ様です。魔力量は・・・白、規定値は超えてますね、それでは次は面接がありますのでこの部屋でお待ち下さい」
「あ・・・はい・・・」
サングラスの様な黒い保護メガネをかけた職員は淡々と水晶の反応を確認していた
次に告げた言葉に呆然としながらも返事をした
やっぱ8000時は長いですね