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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
78/213

鬼畜!氷の修行! 3 終

カレーパン作ってたら遅くなりました

ちなみにカレーパンは最初の段階で周りの水分吸ってビチャビチャ状態


2時間くらいこねてグルテンを完全に死滅させて発光させたからもちもちさのない物に仕上がりました。

エオーネにこってり絞られたトウヤが数時間ぶりに部屋から出て来れば、騒がしい声と共にカウンター席に座るダーカー博士の姿があった


「あれ博士、珍しいですね」


隣に座る篝野と飲んでいたようで、他の皆は店を出た後らしい

そんなダーカー博士がトウヤの声を聞き、篝野から視線を外し目を向けてくる


「おぉトウヤじゃないか、聞いたぞあれ壊したのアンタらしいね」


彼女がそう指差す先にはトウヤの壊した机があった


「いや、まぁ・・・そうですね、はい」


あまりその話はしてほしくなかったが、事実ではあったので少しばかり苦々しい顔をしながらも答えると、その姿がツボに入ったのか笑い出す


えぇと困惑しながら彼女の顔を見ればほんのりと赤く染まっており、すでに酒が入っているのがわかる


「そう笑ってやらないでくれよ、坊主も一生懸命やった結果なんだ」


篝野がそう言うとダーカー博士は目尻に浮かべた笑い涙を指で拭いながら「悪い悪い」と特に悪びれる様子も無く言ってくる


一方のトウヤは篝野の言葉に感謝の念が湧き出た


「おっちゃん・・・」


「おっちゃんじゃない、お兄さんだ」


「んで?順調なのかい?授業の方は」


フィリアから修行の事も聞いていたダーカー博士は、その進捗が気になりトウヤと篝野に聞いてみた

すると、篝野はしたり顔を浮かべる


「順調だな、思った以上に成長が早い、この調子ならすぐに上級程度なら簡単に倒せるようになる」


「ほう、始めたのは今日の朝だろ?随分と早いじゃないか」


修行の進み具合に驚き声を上げる

だが、そんなダーカー博士とは逆に、篝野は当然だと言わんばかりに鼻を鳴らす


「当たり前だ、俺が修行をつけてるんだからな」


そう言いグラスを傾ける

ダーカー博士はグラスを揺らしながら、彼の自信たっぷりな様子に思わずふーん言う


朝の街の騒ぎを聞くに本当にこの男の手腕によるものなのか、はたまたトウヤ自身の物なのか

ある程度わかっているからこそ、つい笑ってしまった


「朝の街であんな騒ぎになるような事をした男がかい?」


「市中の噂など所詮当てにならんものだ、さてトウヤ、次の修行と行くかついてこい」


グラスの中身を飲みきり、カウンターに自身とトウヤの飲み代を置いて篝野はそそくさと店を後にする


「えっ・・・ちょっと!待てよおっちゃん!!」


そんな彼をトウヤも追いかけて出ていく


1人残ったダーカー博士は彼らに目を向ける事はなく、クイッとグラスを傾け一息つくとただ一言だけ言った


「逃げたな」


「逃げられたわね」


バタンと扉を閉める音がして目を向ければ、そこにはエオーネが立っていた


「おや、エオーネ久しぶり」


「久しぶりダーカー、今日はツケを払って貰うわよ」


「わかってる。アレのこともあるからね、今日は払うよ、あと修理費もうちに付けといてくれ」


ダーカー博士は自身の後ろで無惨な姿を晒すアレ、即ち机にチラリと目をやりながら答える

流石に自身の工房所属のヒーローがやった不祥事をそのままには出来ないのだ


だが、その言葉に驚いたのだろう、エオーネは目を見開きダーカー博士を見ていた


「珍しい・・・修理費も貴方持ちなんて、一体どんな風の吹き回し?」


「なに、ウチのヒーローへの出世祝いみたいなもんだよ」


「出世祝いねぇ、そう言うって事は何か面白い話でも聞けたの?」


グラスを取り出し、丸い氷を入れてボトルを傾ければ中身が注ぎ込まれる音が聞こえる

そんな中、ダーカー博士はエオーネの言葉に僅かに動きを止め、次いでため息を吐くと諦めたように薄く笑みを浮かべた


「なんだい、バレてたのか」


「当たり前よ、酒をあまり飲まない貴方がそれだけ酒を飲むんでるのだから、それに私も気になっていたしね」


グラスを手に取り、まるで彫像の如き優美で洗練された所作で口に運ぶ

傾けられたグラスから流れる酒をハリのある瑞々しい唇で受け止める

グラスを離して、ダーカー博士に目を向けるとエオーネは言った


「それで、何かわかったの?」


「いいや、何も」


「何もって、何かは分かったんじゃないの?」


エオーネの問い詰めるような言葉にダーカー博士は自傷気味に笑う


「唯一わかったのは、あいつのスーツがあの篝野って男の作ったスーツってだけさ、あとは素性も何も分からない」


そうスーツを作っただけである

篝野からメンテナンス用の術式でスーツを出して見せてもらった時、彼女は目の前に置かれたそれに圧倒された


自分が他会社から強化術式をライセンス生産してまで作ったスーツよりも高性能なスーツを、装甲、張り巡らされた各術式回路、空間魔法、破陣式、武器、全てに至るまで自身のものよりも高性能なお手製のスーツ


その事実に酒を飲まないでいられなかった


重くなった頭を机にへばりつかせながら、ダーカー博士は意気消沈と言った様子を浮かべる


「私よりも若い男が、私よりも性能の良いスーツを作る・・・世の中わからないものだね」


悔しさの滲む声でそう呟けば、エオーネは小さく息を吐く


「・・・珍しいものね、貴方が落ち込むなんて」


「そりゃ落ち込むさ、丹精かけて作った物が隠れた天才が既に作っていた物の廉価品だとわかればね」


「それで?このまま諦めるの?」


カウンターに腰を預け、そっと後ろにあるダーカー博士に顔を向けて意地悪げに言葉を掛ければ、机にへばりついていた彼女はほんの僅かな涙を添えたギラつく野心が光る目で笑みを浮かべながら顔を上げる


「諦めない、まだ見ぬ天才がいるなら私はそれすらも超えてやる」


「それでこそ私の見込んだ女よ」


そんな姿にエオーネは言う

彼女への賞賛を込めて、飽くなき向上心に敬意を込めて






それから数日の時が過ぎた頃、トウヤ達は再びベガドの街の郊外に来ていた


アレから修行日々は続いた。何度も何度も氷塊を壊してきて、ある時は足を使い、ある時は膝を使い、肘を使い


そうした修行の成果を今発揮する


「トウヤ!行くぞ!!」


離れた位置に立つ篝野の声が響く

上へと伸ばされた彼の手にはあの時と同じ巨大な氷塊が生成されている


僅かに不安な表情を浮かべながらもトウヤは勇ましく返す


「ばっちこーい!!」


その掛け声を聞くや否や、指を氷塊に食い込ませながら腕を大きく振り、大きさにして全長4mの氷塊がトウヤに向けて放り投げられる


放物線を描き飛んでくる氷塊はやがてその大きさを変えて近付き、4mの威容を示してきた


その迫力に生身のトウヤは怯む姿を見せる

やはり巨大な物体が自分に向かって飛んでくる様子はいつみても恐ろしい物だ


だが、トウヤもまた気合いを入れると前へと片足を出し構えを取る

魔力を腕全体に流し、肩から拳にかけての魔力の流れを作り出す


トウヤは修行を積んでいくにつれ学んだ事がある

それはエオーネの店で見せた魔力を捻ると言う方法、あれは言ってしまえばやり過ぎであったと言う事だ

一点に絞り過ぎた為、貫通すると言う点ではあの方法が1番ではあるが、今回の修行の目標は巨大な氷塊である

そうであるが故に、トウヤはこの修行で学んだ魔力操作を用いて一つの結論を導き出した


魔力を僅かに拳よりも前に移動させて突起の様な流れを作り出し、肩から拳にかけて流している魔力全体の流れを早めた

そして、自身に影を落とし近付く巨大な氷塊へと拳を振るいぶつける


その光景を見て篝野は呟く


「完成だな」


氷塊に打ち込まれた魔力の突起により生じた傷、そこにトウヤは腕に流れる全ての魔力を拳から一気に氷塊へと勢いよく撃ち込んだ


撃ち込まれた魔力は拳から突起を通じて氷塊の中を抉る様に進み、中心部へと到達すると一気に外側へと放出される


爆音を鳴り響かせながら内側から放出された魔力により爆散する氷塊

その氷塊を見てトウヤは勇ましく叫ぶのだ

己の新たな技の名を、名付けて


「ペネトレーションパンチ!!」


氷塊の破片が降る中でトウヤはビシッと構えを行い新たな技の名を叫ぶ


「カッコつけてるとこ悪いが、名前ダサいぞ?」


「良いんだよ、こう良いのはノリだよおっちゃん」


篝野からの言葉を気にする事なく言うトウヤだが、明らかにテンションの上がっているトウヤの姿に呆れの感情が浮かぶ


「あのなぁ・・・いや、まぁ今日ぐらいは良いか」


だが、篝野はあえて放っておく事にした


それは呆れ果てたからではない、街の平和を守っているとはいえ齢20の若者故に今日ぐらいは浮かれさせてやろうという思いからくるものだ


そう思えばトウヤに背を向け歩き出す


「あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ」


「どこ行くんだよおっちゃん」


「先にエオーネママのとこ行って用意しとく、お前も気が済んだら来いよ」


トウヤの「はーい」という声を背中で受けつながら篝野は街へと歩き去っていく





まだ陽の光が照り付け、明るい喧騒に包まれる街

そんな街の暗い路地の中、エオーネの店を目指していた筈の篝野は1人で歩いていた


刀を担ぐ様に肩に当て、悠然と歩いているが不意に立ち止まる


路地のそのものの暗さも相まって不気味な静けさを醸し出していた


「いるんだろ?出て来いよ」


視線は変わらず前を向いたまま、そう言うとドズンという重量音が彼の背後から聞こえる そこには緑の怪人の姿があった


「またお前か、どうせクヨキシから何か言われたんだろうが・・・懲りないな、お前も」


「黙れ、貴様のせいで俺は任務に失敗したんだ!お前さえいなければ!」


こうなるとわかっていながらも逃げ出したのに、それでも全てを篝野のせいにして激昂する怪人は振り向く事なくそっぽを向いている彼を指差すと荒々しく叫ぶ


「俺はお前を許さない」


「俺はお前を許さない」


怪人と全く同じタイミングで篝野が言葉を発する

まるで言うことがわかっていたかの様に放たれた言葉に怪人は驚く


「全くもって度し難いなお前らは、言うことが何でもかんでも他責で次の言葉が予想し易い」


「このっ・・・俺を誰だと思って・・・殺してやる!!」


篝野の煽りにされに怒り狂う怪人は今にも飛びかからんという勢いで言葉を発する

だが、身体は動かない


「いいや、その必要はない」


「え・・・?へ・・・?」


不意にグラリと視界が揺れ動きズレる

横に、そしてすぐに下に落ちた


「もう終わった」


「もう終わった」


残った聴覚が自身の後ろから聞こえるもう一つの篝野の声に気が付くと、薄れゆく意識の中で目の前の篝野だと思った物体がバラバラと崩れて始めたのを最後に、怪人の意識は永遠に途絶えた


爆散する事なく、切断面から魔力を垂れ流す怪人の遺骸をスーツを纏った篝野はただ何も言わず見下ろす

そして、不意に興が削がれたかの様に後ろへと向き直ると、今度こそエオーネの店に向けて歩き出す


路地の薄暗さの中に大通りの光が差し込み始めた頃、篝野がスーツを解除すると光の粒となり消えていくスーツが、大通りから差す光に紛れ空に溶けていく


「・・・これから、これからだぞ、浅間灯夜」


誰に言うでもなく呟かれた言葉


その言葉の真意を、未だ誰も知らない

この男を除いて

仕事と転職活動と並行しながらの執筆って意外ときついっすねぇ

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