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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
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母の愛 子の愛 2

本エピソードの追加登場人物


ラス:ベガドの街の町長、初老のダンディ

冒険者が警察を引き連れて戻った際には、既に女と少女の姿も、ネズミが群がっていた死体も、残った冒険者の姿も無かった


ただ、警察の執念により発見された水路の底に沈んだ指だけが遺されていたのだ


冒険者の証言と発見された指からなんらかの事件の可能性を示唆した警察は、自分達だけでは対処不可と考えギルドへと依頼を出した


その結果、トウヤ達ヒーローも動員された大規模な下水道調査が行われる事になる


「それで、集まったのがこれだと・・・」


「ええ、そうです。魔力鑑定の結果、水底に沈んでいた物を合わせて合計で12名分の魔力が検出されました」


ラスと警察署所長の前には多くの遺体、またはその一部が転がっていた


最初に見つかった指、水底に沈んでいた腐乱死体、通路側にあった焼け跡から見つかった焼死体の一部


大人から子供まで、多岐にわたる死体が2人の前に敷かれたシートの上に転がされていた


その光景にラスはただ黙り込む


「この事件・・・確か、サーカスの一件に関係している可能性は?」


「5名は確かに例の事件の行方不明者ですが、その他はあの事件には無関係の行方不明者ですし、何よりも大人が混じっている点、子供を怪人にせず殺している点からおそらく違うかと思われます」


「ならば、別事件の被害者という事か・・・彼らの共通点は?何か見つかっているのか?」


徐々に鋭くなっていく眼光を抑えながら、ラスは今後の対応を決めるべく所長に尋ねるが、彼は言葉に首を横に振るう


「何も・・・被害者の中には全く無関係な商人も含まれる事から無差別の可能性が考えられます・・・」


「厄介だな、無差別となるとどれだけの町民が犠牲になるかわからん・・・防衛隊からも回せる人員は回せる様に手配する。一刻も早い事件解決を頼む」


「畏まりました」


その言葉を聞くと、ラスは扉を開け部屋から退出する

内から湧き出る感情を、拳に込めて握り絞めながら警察署を後にした






その日、下水道の調査が終わり一旦地上に戻って来たトウヤは、食事を取るために市場に来ていた


身体に付いた下水道の悪臭を、ギルドから提供された消臭を用いてなんとか抑え込みながら屋台の料理を選んでいる


「トーヤおにーさん」


そうしていると、後ろから声を掛けられた

なぜ自分の名前が呼ばれたのかと不思議に思いながらも振り返ってみれば、目線の先には何もおらず、視界の下に黒い髪が見える


「君は・・・どうしたんだ?何かあったのか?」


視線を下に向けてみれば、そこに居たのはここ数日、いつも市場で見かけていた黒髪の少女の姿があった


彼女はいつもとは違う温和な表情を浮かべながら、優しい笑みで持ってトウヤに笑い掛けてくる


「良かった!お名前あってた!ねぇトーヤおにーさん、私はメーテル!よろしくね?」


「ん?おぉ俺は・・・って知ってるかな?アサマトウヤだ、よろしくメーテル」


いつもと様子の違う少女、メーテルの姿に違和感を覚えながらもトウヤは挨拶を返す


「ところでなんで俺に声を掛けて来たんだ?困り事か?」


そうトウヤが聞けば、少女は首を横に振るう


「ううん、ただお話がしたいなって思っただけ!」


「あぁなんだ、なら俺も今休憩中だし・・・あ、あそこのベンチでお話しよっか、お昼は食べたのか?」


「まだ!」


「よぉし、ならちょっと待ってくれな」


少女の元気の良い返事に、トウヤは思わず笑顔になりながらも、急ぎ屋台の店主に注文を伝え2つ商品を受け取ると、メーテルと共に市場のベンチに腰をかける


「はい、これ」


メーテルが座るのを確認したトウヤは、手に持つ商品の内一つを彼女に差し出す


「良いの?」


「おう!良いぜ気にせず食べな!」


そう笑顔で告げれば、メーテルは嬉しそうに包み紙を解いて行く

中には白いデンプン質の粒を集めて焼いた2枚のバンズに挟まれた肉と緑の野菜が挟まれた料理があった


「嫌いなものはあるか?」


「無いよ!お母さんにもよく褒められるんだ、メーテルは好き嫌いがなくて偉いって!」


「おー!凄いなぁ、俺なんかこの歳で嫌いなものばっかりだよ」


「えー!ダメだよ、ちゃんと食べないと」


「そうだなぁ、今度頑張って食べてみるよ」


2人は遠慮なくお互いの事を喋った

メーテルは母からの愛情を自慢するかの様に、トウヤはそんな彼女の言葉に態とらしく言葉を返したりして、喋り合う


気が付けば楽しい時間は終わりを迎えようとしていた


「あぁごめんな、メーテル、俺もう行かないと・・・」


トウヤがそう言うと、メーテルは残念そうな表情を浮かべる


「そっかぁ・・・残念」


その表情に僅かに罪悪感が湧きながらもトウヤはベンチから立ち上がり、メーテルの前でしゃがみ目線を合わせると彼女に笑い掛けた


「ありがとうな、色々話聞かせてもらって」


「ううん、こっちこそお話を聞いてくれてありがとう」


トウヤの言葉にメーテルが笑顔でそう返してくる

その笑顔を見れば見るほど、彼は腑に落ちない感覚が湧き上がり、敢えて避けていた事を彼女に聞くことにした


「なぁ、なんで俺を避けてたんだ?もし何かやったのなら謝るけど・・・」


だが、その言葉に彼女は答えない

言いにくそうにしながらも、僅かに視線を下に逸らす


そんな彼女の表情にトウヤは、何か事情があるのかと思うと、少しばかり小さく息を吐く


「わかった。言い辛い事情があるならこれ以上は聞かないでおくよ」


「良いの?」


彼の言葉に、メーテルは申し訳無さそうに呟くが、トウヤは気にして無さそうに笑顔で答えた


「言い難いことがあるのは誰でも一緒だ、それを無理に聞く気は無いよ、まぁいつか教えて貰える日が来るならその時に教えてくれ」


そう言うと、トウヤは立ち上がる


「それじゃ、またな」


「・・・ありがとうおにーさん・・・これだけ、伝えても良い?」


「ん?良いぜ、なんだい?」


「お母さんにあったら、私は大丈夫だから無理しないでって伝えて欲しいの」


その言葉に僅かな疑問を覚える


「それは良いけど・・・自分で伝えたら良いんじゃ無いか?」


「それが出来ないから言ってるんだよ、約束ね!」


メーテルはベンチから飛び上がると、走り去ってしまう


「あ・・・行っちゃったよ、まぁあったら伝えるけど・・・どんな人なんだよ」


そんな彼の呟きは市場の喧騒に呑まれ消えて行く





気持ちを切り替え、再び下水道に戻ったトウヤは通路へと足を踏み入れた


この下水道調査は幾つかのチームに分かれての行動であり、後に合流する本隊のベガド防衛隊から抽出された部隊の編成完了、到着するまでの間に冒険者のチームとヒーローにより構成された先遣隊が調査を行う手筈になっている


冒険者達は複数人で編成されたチームで調査を行っているが、人員の都合上トウヤ達ヒーローは1人での調査を行う事になっていた


「これスーツ無しで進むのは嫌だなぁ・・・」


1人で下水道の通路を進むトウヤは、スーツ越しに鼻に伝わる異臭に顔を顰める


スーツの暗視機能により映し出された光景には、走り回るネズミや蠢くモップ虫の姿が現れその度にトウヤに怖気が走った


そんな中、トウヤは誰かに見られている様な不気味な感覚を抱き、思わず身構えてしまう


誰かが前にいる

見たわけでも音を聞いたわけでは無いが、トウヤの直感がそう告げた


「誰かいるのか!」


トウヤは直感に従い叫んだ

僅かに反響する声


その声の中から誰かが、カツンカツンと足音を響かせながらゆっくりと歩いて来た


そして、トウヤの前に現れた人物を見て思わず身体が硬まる


「メーテル・・・?」


そこに居たのは先程トウヤと話していたメーテルだった


だが、同時にトウヤは感じるのだ

これは違うと


「浅間灯夜、デアテラの申し子・・・あなたに恨みは無い、だけどお母さんの邪魔をする奴はすべからく始末する」


彼女が静かに声を発する

幼さに反して、冷たい声で


闇を付き従え、広げながら歩いてくる


「デアテラ・・・ごめんなさい、今からあの子を殺します」


冷たい刃が牙を向く

おせち作るのって意外と楽しいですよねぇ

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