走る稲妻!新たな力、ライトニング! 4 終
初手はお互いに武器を構えた
怪人は拳銃を、トウヤはフレアシューターを
同時に放たれた弾丸と熱線は互いにぶつかり合い熱線が弾丸を溶かし怪人の胴体に命中する
「ガアァッ!イテェ!」
続け様に放たれる熱線に怪人は苦悶の声を上げるが、横に転がり躱わすと二丁拳銃を構え斉射した
咄嗟に放たれた弾丸を横に交わし、そのまま走り逃げるトウヤはすぐさま次の手を打つ
「フレアジェット、レディ!」
『イグニッション、プレパレーション』
機械音声がそう告げれば、吸気音が聞こえ出す
「イグニッション!!」
走っているトウヤの身体を、背中から吹き出した燃焼ガスが宙に持ち上げていく
「またそれかよ!クソがよ!」
悪態を吐きながら連射する怪人に構う事なくトウヤは上空へ上がると、そのままフレアシューターを連射した
「ガアアアア!クソッ!」
高速移動しながらの為か精度は良く無いが、上空から熱線が怪人の周囲に降り注ぐ
一方的に撃たれている為か、怪人は苛つき声を荒げ腕を振り回す
「ならこっちも本気を出してやるよ!」
そう言うと腰からアタッチメントを取り出し拳銃に取り付ける
何かやばい、そう直感したトウヤは動きを変えた
それまで円を描くように怪人の上空を高速で飛翔していたトウヤだが、降下し建物の影に隠れる
「どこだ!出て来い!」
周囲から響く音を頼りに怪人が辺りを見渡す
「・・・っ!そこか!」
振り返り拳銃の引き金を引く
だが、そこにはただ戦闘の余波で崩れた木箱があるだけだった
「セイヤー!!」
トウヤはその隙を付いた
建物と建物の間からフレアジェットの勢いのまま怪人の背中へと飛び蹴りを喰らわせる
後ろを向いていた怪人はその攻撃をモロに喰らう事になった
「ガアアアア!」
再び怪人は悲鳴をあげ地面を転がる
「トドメだ!」
『オーバーパワー、アクティベーション!』
ブレスレットを擦り合わせればフレアレッドのスーツの色が赤から黄色へと変わり、緑へと変わった魔力布をたなびかせながら一目散に倒れ伏す怪人へと近付く
『腕分集中!一撃粉砕!』
「セイハー!!」
拳を引き、倒れ伏す怪人へと拳を振るう
「馬鹿め」
だが、その拳は当たることはなかった
拳を振り切る前に怪人が拳銃を構えたのだ
そこから放たれたのは1発の弾丸では無い
数十発にも及ぶ弾丸を3秒間の間に放射したのだ
「しまっ・・・!!」
拳を大きく振おうと無防備に晒した胴体に無数の弾丸が殺到する
その1発1発が鋭い痛みを伴う弾丸
先日学園での放たれた特殊弾頭だった
フレアジェットの勢いのまま飛び込んだトウヤは弾丸の勢いにより急制動を掛けられる事になる
ガハッと身体の空気が無理やり外に押し出され、急に勢いを殺された事により首が勢いよく前へと振られ、次いで吹き飛ばされ落とされた衝撃で地面に強く打つ
明滅する視界の中、怪人の高笑いが響く
「アヒャヒャヒャ!!上手くいった上手くいった!!そう何度も同じでは喰らうかよ!」
それはブラフ、と言うにはあまりにもおざなりではあったが、対策をしていたのは本当であった
そうして、倒れ伏す拳銃をトウヤへと構えれば容赦なく引き金を引く
撃ち込まれた弾丸によりST合金製の物理装甲と防御結界が火花を散らし、トウヤは痛みから悲鳴を上げた
ヒヒッと笑う怪人が引き金を離せば、トウヤは苦悶の声を上げながら痛みにより悶える
その様子を怪人は楽しげにじっと舐め回すように見つめた
そうして、はーっと満足したような声を漏らす
「良いもん見れたぜ、スカッとしたよ・・・じゃあな」
再び拳銃を構えトウヤに狙いを済まし引き金を引いた
だが、大人しくやられるトウヤでは無い
仰向けに倒れながらもフレアジェットを展開して、床を滑るようにして移動する
弾丸は地面の家屋保護結界に当たり火花を散らす
「クソッ!避けるなよ!」
叫ぶ怪人は再びトウヤへと狙いを済ませる
それに気が付いたトウヤは素早く起き上がると高く上へと飛び再びフレアジェットを起動した
「クッ、近付けない・・・!」
肩のフレアジェットを起動し右へ左へと避け、時折後ろに飛び距離を離した後に大きく円を描き近づこうとするが、未来位置に撃ち込まれる弾丸の雨に思うように近付けずにいる
フレアシューターを撃ち込もうにも放たれる弾丸を避けるのに必死でそれどころでは無い
『トウヤ、苦戦している様だね』
そんな時、トウヤにひとつの通信が入る
ダーカー博士の声だ
「なんだよ博士!今話してる暇はわっと!」
避けるために下に降りたが、片方の拳銃を下に撃ち放たれた事により急制動を掛ける
そのまま上と下から迫る弾丸の雨に挟まれる形となってしまうが、後方に退き建物の影に入った
幸い建物は強力な家屋保護結界により守られている為、如何に怪人といえど破壊は難しい
「おーい、隠れてないで出て来いよざーこ!」
怪人の嘲笑う声が聞こえる
そんな声を意に返す事なくトウヤは通信先に話しかけた
「それで、なんの様だよ博士」
『いや何、例の物の実戦テストにちょうど良いなと思ってな』
「いや何、例の物の実戦テストにちょうど良いなと思ってな」
声が耳元と前からとで二重に聞こえる
まさかと思い顔を上げて見れば、そこには通信越しにいるはずの人物が目の前に立っていた
「ダーカー博士!?なんでここに!」
「これを渡しに来たんだよ、ほれ」
そう言って投げてきた物を掴めば、それは丸い装着口の付いた円盤上の物体だった
それを裏返したりしながらトウヤは尋ねる
「何これ・・・?ん・・・?まさかこれが!?」
「あぁそうだよあんたの強化装備さ」
「なんか・・・やたらコンパクトだな、どら焼きみたい」
どら・・・焼き?、ダーカー博士には何を言っているのかさっぱりだったが、馬鹿にされていることだけはわかった
「なんか腹立つな、まぁ良いとりあえず行ってこい」
「え?これどうやって使うんだよ」
「そんなの腰の横に嵌めるとこあるからそこにガッと嵌めれば良いんだよ」
えぇ、と思わず困惑の声が漏れ、今が戦闘中だということを一瞬忘れてしまう
「おーい!!早く出てこいよ!つまらないだろ!!早くしないとこの街ぶっ壊すぞ!」
いつまで経っても出てこないトウヤに怪人も流石に我慢の限界が来たのか喚き散らかす
「ほーら呼んでるぞ、良いから行って、こい!」
「えっ、ちょっと!?」
どうやらダーカー博士も博士の方で早く使ってほしいらしく、トウヤの背中を無理やり押し建物の影から押し出す
「お、やっと出てきた。何持ってんの?それ?でっかいクッキー?」
「どいつもこいつも!トウヤ!早くしな!」
怪人の煽る様な声に博士が青筋を立てながら反応しトウヤを急かし立てる
そんな博士の勢いに押されトウヤは意を決して腰の突起に円盤をはめ込み捻るとガチャリと音を立て繋がった
『強化装備認証、装備名:ライトニング!』
「それで、こうか!?」
そうして繋がり機械音声がなる円盤にブレスレットを擦り合わせれた
そうすればトウヤの身体が光に包まれ、足が肥大化していく
光を振り払う様に足を大きく振るえば、光がガラスの砕けた音共に振り払われ新たな姿が現れた
『モードチェンジ!ラーイトニングフォーム!!』
肩と胸部のST合金製物理装甲とは無くなり、代わりに装備されていたのは足先が尖り膝から下を覆う様にして纏われた20式電化装甲脚だった
「おお!なんだこれ!?スゲェ!」
思わず叫び足をあげマジマジと装備を見てしまう
これが強化装甲かと、感動を覚えた
だが、そんなトウヤの様子に腹を立てるものが1人いる
「なーんか姿が変わったかと思えば・・・俺を無視するな!!」
下ろしていた拳銃を素早く構え、引き金を引けば弾丸はトウヤ目掛け飛翔する
それに遅まきながら気が付いたトウヤは、目の前にまで迫った弾丸に思わず目を瞑り反射的に上半身を捻った
その瞬間だった
トウヤの身体が電流へと変化し、上半身だけを素早く移動させたのだ
それにより至近まで迫っていた弾丸は何も無い虚空を穿つ事になった
「・・・ん?お?お!?」
「・・・ハァッ!?」
「よっしゃあ!」
その光景を見た反応は三者三様だった
困惑する者、驚く者、喜ぶ者
トウヤは自らの手を身体をマジマジと確認し異常がない事を確認すると、怪人見て獰猛な笑顔を浮かべる
「これなら・・・行ける!!」
足を大きく広げ構えを取れば、前へと身体を傾け弾ける様に飛び出す
それに気が付いた怪人が、我に帰ると拳銃を構えた迎え撃とうとするがすでに遅い
トウヤの身体は、今度は全身を電流に変えると一瞬のうちに怪人の懐に潜り込み身体を再構成する
「セイヤー!!!」
振り上げられた足が力む暇すら与えず怪人の胴体を薙ぐ
殴られた時よりも強烈な痛みが怪人を襲うが、怪人は怯む事なくトウヤへと拳銃を向ける
だが、その瞬間には再度電流へと姿を変えたトウヤが真っ直ぐ後ろへと下がり、今度は左に動き姿を現し、右に動き姿を現しと変則的な動きで持って怪人を翻弄し再び蹴りを入れて来たのだ
完全に動きについて来れていない怪人の姿にトウヤは直感した
「これなら!」
腕に魔力を集中させれと再び身体を電流へと変化させる
だが、それでも学ばない怪人ではなかった
この短い戦闘の中で怪人は学んだのだ
ーーこいつ、真っ直ぐにしか進めないんだ
その事に気が付けばあとは簡単である
懐に飛び込んできた憎きヒーローに特殊弾頭の雨霰を食らわせるのだ
しかし、トウヤは懐には入り込まなかった
「後ろだと!?」
電流とかしたトウヤもまたその弱点に気が付いていた
それ故に怪人の考えを読み背後に移動したのだ
そうして魔力が込められた拳を怪人の脇腹に突き立てる
「ウォリャァ!!」
ドゴォンという轟音と共に突き立てられた必殺の拳
これで全てが終わったのだ
そう思った時だった
怪人が脇から拳銃を突き出し背後にいるトウヤに狙いをつける
「ハァッ!?」
思わず驚きの声を上げるトウヤだが、すぐさま電流とかし横に移動し弾丸を躱わす
しかし、なぜ倒せなかったのか?、トウヤの中にひとつの疑問が浮かんだ時、通信術式がダーカー博士からの通信を受信した
『すまん、言い忘れてたがその強化装備付けてると上半身の力が弱まるから必殺技は打てないぞ』
「それ早く言えよ!!」
体勢を立て直した怪人から放たれる銃弾を交わしながらトウヤは声を荒げた
その時、ガランという落下音が響く
怪人とトウヤがその方向に目を向ければ1人の男性と子供と思わしき男児の姿があった
なんでこんなところに、トウヤはそう思うがこちらに向け背中を向けている事からおそらく家に隠れていたが、戦闘が激化し離れようとした結果物音を立ててしまったのだろう
その親子を見た瞬間、怪人の目の色が変わる
そして、そんな怪人を見てトウヤは思い出す
かつて助けられなかった親子の姿を
「やめろ!!!!」
言い切る前に怪人が親子に拳銃を構え引き金を引く
撃ち出された弾丸は真っ直ぐ親子へと向かい飛翔し、その直前電流と化し親子の前に立ち塞がったトウヤの蹴りにより弾丸を弾く
「・・・!まだまだぁ!!」
片方の拳銃から撃ち出された何十発の銃弾が一挙にトウヤ達の元へと殺到する
以前ならば避けられない死が親子に降り注いでいた事だろう
だが、トウヤはもう2度と同じ過ちを繰り返すつもりはない
足を片方あげれば、より強化された視覚から殺到する銃弾の姿をしっかりと確認し、ひとつひとつを蹴り落としていく
動かす時は電流へと変化させ、銃弾を蹴り弾く際は元に戻す
その繰り返しにより銃弾を塞いでいく
それは正しく電流の壁だった
「なっ・・・クソッふざけやがって!!これならどうだぁ!!」
下ろしていたもう片方の拳銃を構え、二丁の拳銃から銃弾を浴びせに掛かる
しかし、放たれる量が2倍になろうとも変わらない
今度こそ守る
その強い信念のもと、トウヤはさらに蹴りを激化させた
あの家族の様な犠牲者を出させはしない
その思いがトウヤに力を与えたのだ
「セイヤーー!!!!!」
そうして、脚に魔力を込めて思いっきり振えば、吹き荒れる暴風が弾丸もろとも怪人を吹き飛ばす
勢いを失った弾丸が音を立てて地面へと落ちていく
それを確認すればトウヤは再度、円盤にブレスレットを擦り合わせる
『ライトニング!オーバーモード!!』
機械音声に合わせ、トウヤの身体はバチバチと青白い電流を上げる
『ライトニング、スペシャルムーブ!』
その瞬間、トウヤの身体は僅かな土煙を残し消えた
次いで聞こえてくるのは怪人の悲鳴と重厚な打撃音
すれ違い様に放たれた蹴りは怪人の身体を穿ったのだ
しかし、猛攻は止まらない
2回3回4回、数え切れぬほどの蹴りを目に見えぬ速度で怪人に食らわせる
そして、怪人を蹴り上げれば機械音声が鳴り響く
『フィニッシュブレイク!!』
そうしてトウヤは怪人の元へ向けて高く飛び身体を電流に変えてせまる
次に姿を現した時には暖まり切り膨大な魔力を充電した右の走行脚を怪人に向け突き出す
「うおおおお!!!」
振るわれた脚は怪人の下顎に突き刺さりそのままさらに高く身体を舞い上げた
「そん・・・な・・・嫌だ!もっとあそ・・・び・・・」
怪人の身体が激しく痙攣し空中で爆散する
これで漸く一連の騒動に方がついたのだ
地面へと着地したトウヤはゆっくりとだが何処か虚な様子で立ち上がれば自身の手が震えているのに気がつく
徐々に胸の内から湧き上がるえも言えぬ達成感を噛み締めながらも、怪人の断末魔から再びアレが改造された子供であった事を思い出し、達成感を抱く自身に吐き気を催す様な感情を覚えた
「これで・・・なっ・・・!?」
不意にバチン、という電流がトウヤの身体を駆け巡り、スーツの各所から火花が散る
あまりの衝撃にドサリと膝を付けば弾ける様にしてスーツが霧散していくのがわかった
「あちゃー・・・戦闘に耐え切れなかったか、調整が必要だな」
「えっ!?これまだ調整必要なの!?」
残念そうなダーカー博士の声に、トウヤが驚愕の声を上げる
博士の方はというと、様当然と言った様子で
「当たり前だろ、調整まだなんだから」
「・・・戦闘中にこうならなくてよかった・・・」
トウヤの力無き声が他エリアから聞こえてくる戦闘の喧騒に飲まれ消えていく
その喧騒もまた徐々に小さくなり
やがて戦闘は終結していく
後日、トウヤは改めて教会に来ていた
彼は中に入ると一目散に聖堂へと向い、膝をつき祈る
今回で亡くなった者達の冥福を、怪人となった子供達の冥福を、そして、何より
「レオ・・・ケイトの怪我が治って、また動ける様になったみたいだ、今じゃもうレオの為に泣いていられないと言ってるそうだ、強いよなあの子・・・」
ポツリポツリと呟いていく
どうかこの言葉がレオに届く事を祈りながら
「レオ・・・仇はうったぞ」
こうして、騒動は一先ず幕を下ろす結果となった
「スーラ様!どうか私にいかせてください!」
暗い部屋の中、1人の怪人が目の前に立つ人物に懇願する
「このままではビヨロコとクーラの要請を無視したとならば御身の立場が危うくなります・・・!そんな事・・・断じて許せません!」
怪人は願う
スーラの悲願の成就を
怪人は願う
スーラの為に
熱い忠義の心がひとつ、ここにある
「どうか、フレアレッドの討伐命令を私に!」
こうして、街の情勢はゆっくりとだが変化していく
それは良い意味でも悪い意味でも




