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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
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こぼれ落ちる手、魔導学園に潜む悪意 5 終

トウヤがレオを追って走れば、そこには中庭があった

あのカウボーイ風の怪人と戦った中庭


なぜあの怪人がここにいたのか、確かにフードの男の存在を感じた時もここだったはず、そう考えれば中庭の中を今一度探してみる事にした


「これは・・・」


そうして見つけた

あのフードの男を追って見た中庭の壁にぽっかりと穴が空いているのを


どうやらそれは最初からではなく人為的に開けられた穴である事がわかる


「レオ・・・ここに、いるんだな・・・」


意を決して穴の中へと入る

中には地下へと続く階段があり、奥に行けば行くほど照明の灯に照らされ明るくなっているのがわかった


一歩、また一歩と踏み知れば階段を降りていけば靴音の反響音が段々とあたりに響く様になってくる


そうして降りてきた先には一つの扉があったのであろう大穴が開いていた


「レオ・・・やっぱりここにいたんだな」


穴の先に入ればそこにいたのはレオだった

より正確に言えばレオだった者である


彼は頭を掻きむしりながら、どこか悲しげに叫んでいた


「もう・・・戻れないんだよな・・・わかってる。わかってるけど、レオ・・・なんでお前が・・・」


目の前の存在とレオの姿が重なり、剥離していく

それはレオであってレオではないとわかっている。わかってはいるが心がその事実を拒否するのだ


ただ幼馴染の為に努力する。恋をしている優しい素直な学生

だからこそ思う、短いながらも共に過ごして来たからこそ、なんでお前がと

なぜこうなってしまったのかと


だが、こうなってしまった以上は止めるしかない


「レオ・・・お前の未練も後悔も、俺が全部断ち切ってやる」


流れる涙が冷たく、それでいて熱く頬を滑り落ちていく

唇を噛み、悲しみから来る肩の震えを抑えながら、トウヤはブレスレットへと魔力を流す


『空間魔法、アクティベート』


「・・・変身」


『音声認識完了、アクシォン!』


悲しみを背負った赤い戦士が、優しい少年を終わらせるべく前へと歩み出る


「レオ!お前の事は俺が止める!」


その声に反応し、レオがトウヤへと顔を向ける


「アアアアアアアアアアアア!!!」


それは既に言葉にならぬ獣の如き叫びだった


そして、レオだった怪人は4つの足で持ってトウヤへと向かって走り出す


「フレアシューター!」


取り出したフレアシューターに魔力を流せば、すぐさま稼働状態へと移行する


『フレアシューター、アクティベート!』


引き金を引けば迫るレオだった怪人へと赤い熱線が飛翔する


怪人の胴体へと命中した熱線は怪人の身体の表面を焼き白煙が上がった


「ガアアアア!!」


痛みに悶える怪人ではあったが、すぐさま体勢を整えると再びトウヤに向かい飛んだ


巨体からは想像も付かない速さで飛翔した怪人は大きく放物線を描きながらトウヤへとのし掛かろうとする


それをトウヤは横に躱わすが、着地と同時に横に振り抜かれた腕に当たってしまう

そのまま振り抜かれ叩き飛ばされたトウヤは、地下室の壁にぶつけられ煙が舞う


「フレアジェット、レディ!」


『イグニッション、プレパレーション』


「イグニッション!」


声が地下室に反響すれば、凄まじい吸気音と共に煙が吹き飛び、中からトウヤが高速で飛び出してくる


音に反応し耳を抑える怪人は、そんなトウヤの動きに対応出来ず、フレアジェットの高速移動の勢いのままに繰り出された蹴りをモロに喰らう事になった


「ガアアアア!」


振り払うように動かした右腕は、トウヤがジェットを逆噴射した事により躱され、逆に離れた事により次の一手を生み出してしまう


踵から生成されたフレアジェットによる独楽の如き高速の回転蹴り、怯む怪人の腕を引き寄せ掴むとトウヤは力任せに背負い投げを行う


「せりゃぁぁ!!!」


気合いの言葉と共に放たれた力任せの背負い投げは怪人の身体を宙に上げ地下室の奥へと放り投げる


空中に舞い上がった怪人、だがトウヤの猛攻は止まらない、ぶつけられるのは雑多なフレアシューターの乱射であった


狙いなど付けずにただ当たりをつけて、感情任せに撃ち放たれる熱線は、怪人の身体と地下室の壁を何度も焦がす


下に落下した頃には既に怪人の身体は虫の息と言った有様であった


「これで決める・・・」


ゆっくりと近付くトウヤは再度ブレスレットを擦り合わせる


『オーバーパワー、アクティベーション!』


スーツの色が赤から黄色へ変わり、魔力布も黄色から緑へと色を変えた


未だ悶える怪人の共へ近付けば、トウヤは敢えて考えないように拳を振り上げる


『腕分集中!一撃粉砕!』


「うわああああ!」


考えないように、ただ叫ぶ、自身の覚悟の甘さを隠すように叫ぶのだ


これで全てが終わると信じて、これでレオを楽にさせてやれると信じて


だが・・・


「・・・!?」


向けられた顔を見れば、あの時のレオの表情が幻視されてしまう


『俺、昔から身長が低くてみんなから馬鹿にされてきたんですけど』


『その度に助けてくれる子がいるんです・・・だから、その子の為に強くならないとなぁって・・・』


あの夜に交わした言葉が頭に思い起こされてしまう


振り下ろされた拳が当たり地面に累積していた土が埃が宙を舞い視界を奪った


だが、見えぬ視界の中でもはっきりとわかることがある


「やっぱ・・・俺には出来ねぇよ、レオ」


振り下ろした拳は怪人の隣の壁を砕いていた

それはトウヤの甘さから来る長所であり短所である

美点であるそれは、使い所を間違えれば自身の命を奪う


そうであるが故に今トウヤは、窮地に陥る


すぐさま体勢を立て直した怪人がトウヤの身体を殴りつけた


グハッと小さく悲鳴を上げトウヤの身体を床の上を転がる


「ぐ、レオ・・・!」


身悶えしながらもゆっくりと近付いてくるレオへと悲痛な声を上げる


だが、声は届かない


「レオ!いるの?レオ!!」


その声に怪人がピクリと反応し、動きが止まる


「まさか・・・なんで、ここに・・・」


会ってはいけない、今ここにいてはいけない少女の声へとトウヤが目を向ける


そこには階段を降りて来たばかりのケイトの姿があった


「ケイト!やめろ、こっちにくるなぁ!!!」


「えっ・・・?」


その瞬間だった

怪人がケイトを見つけると、まるで標的を見つけた猫の様にその身体を伸ばし、弾ける様にして彼女へと迫る


「レ・・・オ・・・?」


最後に彼女が見たのは、自身の首元へ食らいつく怪人の姿だった


「あぁ・・・ああああ!レオ!お前、お前ぇ!!」


守りたいと言っていた相手を、秘めたる想いを宿している相手の首に牙を突き立てたレオの姿に、トウヤは慟哭する

そして、同時に自身の冷静な部分が囁いてくるのだ


あの時倒しておかなかったからこうなったと


「だから、までと言ったのだ!」


怪人の口端から血が溢れ出る

同時に突き立てていたと思われた牙もまた、下顎と共にダラリと垂れ下がった


カツンカツンという音が聞こえる

風の音が聞こえる


階段から現れた男が言う


「トウヤ、貴様にはまだ荷の重い役割だ」


そうして、灯に照らされて男の姿が顕になる


「それは俺が引き受けよう」


セド・ヴァラドがやって来た

同時に地下室に風が巻き起こる

風は柱を、床を、壁を無作為に刻み我らここにありと、その存在証明を残していく


あまりの事態に訳も分からず右往左往する怪人にケイトを自身の元へ引き寄せたセドがただ一言告げる


「すまん、レオ」


瞬間、当たりを待っていた風が怪人へと集う


足を切り落とされ逃げる術を失い、腕を失い抵抗する術を失い

そうして残ったレオを連想させる顔を細かく刻まれた


そして、怪人は慟哭の声を上げる暇すらなく爆散する





こうして生徒連続行方不明事件と、それに連なる前線での怪人騒動は幕を下ろしたのだ


あの地下室は過去に学園で行われた生体実験の際に用いられた部屋であるとのことだが、そこを組織に利用されたようだ


あそこを抑えた以上、これ以上の行方不明者は出ないだろう


だが、解決はしてもこの事件がもたらした傷はあまりにも多かった


それはもちろん、怪人側にとってもそうだ






貧民街の路地裏で1人の男が激しく怒りを顕にしながら叫ぶ


「畜生!!あいつら許さねぇ絶対にゆるさねぇ!!特にあのフレアレッドとか言うやつ!あいつさえいなければ俺は見つかる事はなかったんだ!畜生!!」


元は自身がトウヤに対して無駄に調子に乗り戦いを挑んだのが原因だが、それを忘れ激しく怒り狂う


そうして男は言う


「こうなりゃ復讐だ、もうどうだって良い!あいつさえ殺せばあいつさえ・・・アヒャ、アヒャヒャヒャ!」



そう、まだ悪意は止まらない












『学習型術式からの新たな提案を確認、提案:ライトニング』

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