こぼれ落ちる手、魔導学院に潜む悪意 4 改
知ってるかい?
この世の中には3種類の料理人がいる
計量するもの
しない者
気分のやつ
あいつは・・・
あれから2日経ったが未だにレオの姿は発見されていない
「今回はお2人が怪人の姿を見つけてくださったおかげで、ただの行方不明ではなく怪人災害として処理出来そうです」
「あれから怪人の報告は確認できず・・・か」
学園長室で席を囲む3人は現状の報告を行なっていた
学園長の報告にセドは悲痛な顔をしながらも静かにそう言う
重い空気が室内に漂う
ただ黙るトウヤの脳裏にはレオの元気な姿が映し出されている
あれから改めて考えてみれば、ケイトと同じ様にレオも悩んでいたのだろう
ケイトにあの様に思われている自分を変えたいと、逆に守れる様になりたいと
もし自分があの時もっと話を聞いていればと、湧き出る後悔の念に押し潰されようとしていた
「トウヤ、あれはお前のせいだけではない、だからあまり背負いすぎるな」
「・・・はい」
自責の念に苛まれながらも、捻り出した様な籠った声を出す
リンゴーンという予鈴がなる
まるでいくら後悔に苛まれていようとも日常は続く、その事を告げるかの様に
「お2人とも、今回はありがとうございます。おかげで行方不明事件の原因を突き止める事ができました」
「いえ、俺達もレオを守れず申し訳ございませんでした」
「確かにレオくんの事は残念で仕方ありません、ですが、だからこそお願いします。この学園から生徒を、彼らの家族から我が子を奪われない様にして下さい・・・お願いします」
膝の上で震える拳を押さえながら学園長は頭を下げてくる
そこに宿るのは己の保身などではない純粋な願い
大切な家族を預かる身だからこそ宿る願いを前に、トウヤとセドは今度こそ守ると誓いを心に立て強く応じた
教室の扉の前にくれば中が明るい声で俄かに騒がしくなっているのにセドとトウヤは気が付く
レオがいなくなってからというもの教室の雰囲気は暗くなっていた
だが、そんな中でも明るい声を出せる様になっくれたのは嬉しい事ではあるが、どうしたのだろうかと疑問にも思う
「トウヤ、わかっているとは思うが」
「ええ、態度には出さない様に気をつけます」
「そうか、なら行くぞ」
「はい!」
そうして教室の扉を開けると、生徒達が1箇所に集まっているのが見えた
「お前達何をやっている?授業を始めるぞ席につけ」
「すみません、先生」
口々に謝罪の声を上げたりしながらも席に戻ろうとする生徒達
だが、それでも興奮の治らない生徒の1人がセド達に向け声を発する
「でも、見て下さいよ!レオのやつ帰って来たんですよ!」
「え・・・?」
その言葉に、セドとトウヤの思考は止まり青褪める
生徒達が各々の席に戻っていけば、そこには確かにレオの姿があった
行方不明となったあの日と変わらぬ金色の髪、幼さを残すあどけない顔は注目されている恥ずかしさからか、僅かに頬を紅く染め上げながらはにかんでいる
「レオ・・・お前何処に行ってたんだよ」
あり得ないと、だが確かにレオはここにいると視覚的に認め震える声でトウヤが尋ねる
「すみません、道に迷ってる人がいたので案内してたら戻るのが遅くなってしまいました」
そう謝罪して来た
だが、学園の中でそんな事があり得るわけがない、そもそもそれで2日間も姿を消す訳もない
だからこそ、トウヤは込み上げてくる感情に歯止めが効かない
「レオ、少し時間をもらって良いか?別室で話そう」
そんなトウヤを他所にセドがレオへと詰め寄る
彼の手を掴み立ち上がらせようとした瞬間、レオは勢いよく上半身を机の上へと落とした
意識を失ってしまったのか寝息を立てる彼の姿に、クラスメイト達は違和感を覚えつつも、こいつ寝やがったよ、という1人の声を皮切りに笑い声が広がっていく
だが、そんな訳がないと今までの経験から直感したセドはクラス中に響き渡る声で叫ぶ
「全員教室の外に避難しろ!急げ!」
焦る声は、しかし、突然その様なことを言われて反応できる訳もなく生徒達は困惑の表情をのぞかせる
「あの、先生どうしたんですか?レオが帰って来たんですよ?」
先程まで泣いていたのか、目元を真っ赤に腫れさせたケイトがセドへと問いかけるが、セドは何も答えない
答えようがないのだ
そうして変化は始まる
それはレオの身体から起こった
制服を突き破り、筋組織が肥大化していく
セドが掴んでいる腕も同様に肥大化し思わず手を離し後ろへと下がる
「お前ら!早く避難しろ急げ!」
捲し立てる様に叫んだトウヤの声を皮切りに、レオの変化から異常に気がついた生徒達が悲鳴を上げながら教室の外へと向かう為に扉に殺到する
その間もレオの変化は止まらない
肥大化した身体は人間ではおおよそあり得ない筋肉の塊となる
爪は長く鋭く伸び、丸太の様に太い腕と足、分厚い鉄板の様な分厚さと硬さを見るものに連想させる胴体
そして、顔を肥大化させ、中心の鼻から前へと突き出して目はそれに釣られて細く長くなった目、耳や唇は人の要素を残しながらもまるで猫科動物の様な様相となる
「何だよあれ!?」
「ば、化け物!」
その言葉がトウヤの心に突き刺さる
辞めろ、辞めてくれ、あれはお前達の友達のレオなんだ、だからそんなことを言わないでくれ
目を覚ませばレオは、身体を起こし長く伸びた金色の髪を振り乱しながらも、まるで匂いを嗅ぐ様に鼻をスンスンと音を鳴らしながら辺りを見渡していく
そうしてただ一言
ライオンの様な声を上げると扉に殺到する生徒達に向けて飛び掛かる
『空間魔法、アクティベート』
「変身」
『音声認識完了、エクスチェンジ』
指を弾く音が聞こえれば変身したセドが生徒達の前に躍り出る
爪を突き立てようと空中で振り上げられた腕を、振り下ろされる敢えて前に出て受け止めた
ズシンと言う重い音と共に教室の木製の床が軋む
「仕方あるまい・・・」
この状況で手加減をする余裕はないと判断したセドは掌へと風を集中させると、未だ振り下ろした体勢のまま宙に浮いてるレオの身体へと掌ごと押し当てた
瞬間、内包された風は一気に解放され膨大な風の刃と共にレオの身体を教室の奥へと押しやる
「あぁ・・・レオ・・・」
ただトウヤは吹き飛ぶレオを見ることしか出来ない
助けたかった普通の少年のレオ
それが今、金の髪を振り回す怪人とかし生徒へと猛威を振るっていた
壁にぶつけられたレオは頭を振りながら低く唸る
「レオ、レオ!レオなんでしょ?何とか言ってよ!」
そんなレオにかけられた少女の声、トウヤとセドが見ればそこにあったのはケイトの姿だった
彼女はレオに近付きながら必死に声をかけている
未だ自分の声は届くと信じて、幼馴染の声はわかると信じて
いや、寧ろ逆なのだろう
レオが怪人に、化け物になったと信じたくないのだ
「・・・ケイ・・・ト・・・?」
だが、奇跡は起こった
意識なく怪人と成り果てたと思われていたが、レオの意識は残っていたのだ
その事にセドとトウヤは驚き、ケイトは喜びレオへと駆け寄る
「レオ!」
「待て!不用意に近付くな!!」
意識が戻ったのだから大丈夫だ
そうだ、優しい彼が本心からこんな事をする訳が望む訳がない!
彼女の中に溢れるレオに対する信頼、レオに対する淡い想いが彼女を駆り立てた
「レオ、レオ!レ・・・オ・・・?」
「エ・・・?」
だが、そんな期待は裏切られる
ケイトの顔を見て僅かに微笑んだレオではあったが、それと同時に鉄すらも容易に切り裂くその鋭利な爪をケイトへと振るった
直前で振られた為、ケイトの身体は両断される事なく、ただ鼻先が削られるだけで済んだ
「エ・・・ケイ・・・ト?ナン・・デ?アレ?コレ?ダレ?オレ?ナンデ?ナァンデ!?ナンダヨコレ!?」
それはレオ自身も無意識の内に振るわれたのだろう
後ろに倒れたケイトの姿に、彼女の鼻から流れる流血に混乱を隠せずにいた
錯乱する彼はただナンデ?と言う言葉を繰り返す
「レオ・・・頼む、落ち着いてくれ!俺だ!トウヤだ!なぁ、レオ・・・頼む、きっとすぐ治るから、なぁレオ!」
「トオヤ・・・センセイ・・・トオ・・・ヤ」
錯乱しているのであれば手術による洗脳は行われていないはずと、今度はトウヤが一抹の希望に縋りレオへと近付く
だが、それが最後だった
「アアア、イヤダ、ソンナメデミナイデ!イヤダ、イヤダァぁぁ!!!」
「レオ!!」
レオは外側の教室の窓を破り、外へと逃げ出す
「待て!レオ!!」
「トウヤお前も待て!!くそっ!」
トウヤはそんなレオを追って彼が開けた窓から飛び出す
そんな彼の姿にセドも止めに入るが、止まる事なく飛び出して行った
「良いか、皆聞け、俺が後を追うから他の先生や学園長に事情を話せ、良いな!」
そうして、彼もまた2人を追って窓から飛び出す
最近肩が痛いんですよねぇ
何でだろ?
とりあえず肩のにいちゃん下ろすか、ヨイショ




