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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
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勇者見参! 11終

人は助ける利点があれば助ける

そこに自分に対するメリットがデメリットを超えれば助けるのだ

だからこそ彼の様な行動が理解出来ず、だからこそ彼の様な物に惹かれるのだ

助けることに理由はいらない、まるで物語のヒーローの様にそう言えてしまう存在に人は憧れるのだ


だが、憧れるだけではいられない


トウヤの拳を片手で受け止めた怪人が、彼の腕を捻り上げる


力には責任が伴う、それは異国のヒーローの言葉だ

ならば、自分の責任とは何なのか


顔を殴られたトウヤが蹌踉めき後退りすれば、追い討ちで打ち込まれた拳が腹にめり込む


力が欲しい、天華はそう欲してしまう

今自分の為にその身を犠牲にしようとしているヒーローの為に


『その為の力ならあげたはずだよ』


優しい女性の声が頭に響く

それは彼女がこの世界へと降り立つ際に1人の女性から発された声と同じ物だった


そうだ、自身には力がある

誰かを守る為に拳を握り、その身を盾にする

そんな人間を死なせてたまるか


へたり込んだ足にグッと力を込める

ヨロヨロと立ち上がり顔を上げれば、その目にもう迷いはない


「私だって・・・私だって勇者なんだ・・・!うわああ!!」


恐怖をかき消す様に雄叫びを上げ天華は駆け出す

声に気が付いた怪人が視線を向けようが、倒れ伏すトウヤが逃げろと手を伸ばそうが構うことなく走り寄り、天華は手を伸ばす


「来て!」


ギュッと握られた拳から光が溢れる

紫色の魔力の奔流、それはやがて何本もの糸となり、糸はやがてひとつの物体を形作った


それは籠手、それは胴鎧、それは脛当て、それは兜


全身を覆う鈍銀の、華奢な少女が纏うにはあまりにも重厚過ぎる全身鎧が形作られた


「なっ・・・!?」


「これが鎧の勇者!」


「すごい!すごい!本当に鎧を召喚?作った?とにかくすごい!」


それを見たビヨロコとクーラは童子のように興奮した様子を見せ、片腕を天華へと向ける


その手はすでにトウヤのスーツを破壊した砲撃形態へと変異しており、砲口内に既に白い光が収束していた


気が付いたトウヤが叫ぶ


「天華!逃げろぉ!」


だが、既に魔力の充填は終わっていた

言葉なく撃ち放たれた魔結晶の砲弾は天華の眼前で炸裂する


御しきれなくなった彼女を消す為に放たれた凶弾は無数の細かな槍となって直撃した


火花を上げ、砕けた破片が舞い散る


その中から無傷の鎧が前へと歩み出す


「はぁっ!?」


「なんでだよ、意味わかんない!」


慌てる童子の声

被さる様に何度も何度も砲撃音が鳴り響く

放たれた

先程と同じく炸裂する物、先の尖った物、貫通力を高めた細い槍の様な物と様々な形に姿を変えながら撃ち込まれていく砲弾は、終ぞ鎧を貫通することはない


怪人の砲撃が通用しない事がわかると天華は強気になり反撃に転じた


「え・・・!?」


重なる2つの声、それはたったの一飛びで天華は彼らの懐に飛び込んできた彼女に向けた驚愕の声


やあぁ!という気合いの雄叫びと共に拳を握り締め引き絞られた矢の様に怪人の腹へと拳を打ち込む


ドゴォンというまるで鉄の塊を殴りつけたかの様な音が響くと、怪人の身体が弓形に曲がり後ろへと飛び倉庫の床を滑っていく


咄嗟に後ろに飛び攻撃によるダメージを減らそうと努力はしたが、それでも防ぎ切れない威力に怪人が身悶えをする


「クソッ!クソッ!」


「勇者が覚醒するなんて、これ程だなんて・・・」


焦りと怨嗟の声を吐き出しながら怪人が蹌踉めき立ち上がる


「もう僕達に出来ることはなさそうだね、クーラ」


「うん、こうなってしまった以上、逆に私たちがやられちゃうねビヨロコ」


そう言うと、手を上げると天井目掛けて砲弾を撃ち破壊した


バラバラと落ちてくる残骸と共に、怪人は天華に向けていた視線を倒れ伏すトウヤへと向ける


「さようなら、フレアレッド」


「勇者は諦めたけど、僕達はまだ君を諦めた訳じゃないからね」


金切り声の様な笑い声を響かせ怪人は高く飛び去っていく


しかし、まだその脅威が去った訳ではない


「トウヤ」


差し出される手を見てトウヤは笑う


だが、きっとその脅威が取り除かれる日が来る


先程の戦闘の音を聞きつけたのか、外が俄かに騒がしくなってきた


「そろそろいきましょうか、トウヤ」


「そうだな、帰ろう天華」


差し出された手を握り立ち上がる

そうして笑い合えば戦いの終わりを感じた


「逃しませんよ」


「コオト・ルシバ・ワーナ」


不意に怒気の籠った声が倉庫内に響く

それと同時に発された言葉、何を言ってるのかわからない未知の言語で発されたそれはトウヤの身体を縛る紐状の何かを作り出した

突然縛られたトウヤは困惑の色を浮かべ警戒心を一気に上げる


「なんかマズイ・・・天華逃げろ・・・」


「あわ・・・わ・・・」


焦りながらトウヤはそう言うが、天華はそんな言葉など入って来ないかのように先程とは違う意味で顔を青ざめ慌てふためている

天華の様子が先程とは違いおかしい事に気付いたトウヤではあったが、その理由についてはわからない


そうしていると、複数の足音が入ってきたのか倉庫内に響く

トウヤもまた天華が視線を向けている足音の方へと顔を向ければ、そこには美しい衣服を着飾った可憐な少女の姿があり、その後ろに控えるベガド防衛戦で見たような白いMRAや防衛隊の重厚な物とも違う、胸には紫と白のエンブレム、全体的に刺々しく一目見ただけでも腕、肘、脛にブレードが付いており近接戦を重視しているのが見て取れる


なんだこいつらと眺めていると先頭に立つ少女がキッと目を尖らせトウヤへと顔を向けた


「あなたは・・・この街のヒーローですか?」


凛とした鈴のような声色、だがその奥には警戒心が滲み出ていた


「そうだけど・・・あんた誰なんだよ」


「無礼者!この方をどなたと心得るか!」


「どなたって言われても・・・天華、知り合いなのか?」


首だけをなんとなく後ろに向ければ、怯えた様子の天華がぽつりぽつりと話し始める


「知ってるも何も・・・この人は・・・」


「失礼、名を申し上げておりませんでしたね、私はフェイル王国第一王女、フィレス・Fフェル・フェイルと申します」


その名を聞いた瞬間トウヤの時が一呼吸の間止まる

王女・・・王女・・・?と頭の中でそのフレーズを反芻させれば、どこか空高くまで飛んでいた意識が徐々に降りてくると共に、今の現状を理解し始めた


「おう・・・じょ・・・さま?」


「はい、私はこの国の王女です」


青褪めていく頭とは対照的に、現状をある程度理解しトウヤに敵意がない事がわかったからか彼女の顔からは警戒心が消えていく

そうしてニッコリと笑う


「この度は勇者様をお守り下さりありがとうございます」


「えええええ!!!?」


トウヤの声が倉庫の中に響き渡る








それから数日後

ベガドの街ではパレードが開かれていた

それは鎧の勇者の出立を祝うパレードである


「酷い目に遭いましたよ」


道に設けられたベンチに座り、トウヤはため息と共に言葉を漏らす


その言葉を聞き篝野は腹を抱えながら大きな声で笑う


「いや、お前・・・自分のいる国の王族の事くらい知っとけよ」


「笑い過ぎじゃないですか?それに王女様なんて顔見る機会ないんだから仕方ないじゃないですか、まさかあんなところにいるなんて思わないし」


「まぁ良いじゃねぇか、おかげで工房の名は売れたし、勇者様を助けて覚醒の補助もしたってんで報酬も出たんだろ?」


「いやまぁ・・・そうですけど・・・」


あの後、王女一行の護衛と共に工房に帰還したトウヤではあったが、戦闘の一部始終を見ていた王女がダーカー博士の作った武具を気に入り博士に詰め寄ったり、護衛の報酬を貰ったりといろいろとあったのだが


「でも、これで良かったのかなぁって」


心残りがあるとすれば、天華があの後元の世界に帰らないと言い出した事だった

戦場に身を置く事になるが本当に大丈夫なのかと、心配になるトウヤではあったがそれを笑い飛ばすように篝野が言う


「確かに心配だろうけどな、それはあの子が決めた事だろ?見てみろよあの顔」


そう言い指を刺せば、その先にはパレード車に乗った天華の朗らかな笑顔があった


「彼女が決めた事だろ?なら見守ってやろうぜ」


「・・・そうですね」


覚悟を決め、怪人と相対し見事撃退した彼女であれば、この先どんな苦難が待ち受けていてもきっと乗り越える事ができる


そう信じるとトウヤは決意した


そんなトウヤに気が付いたのか、天華が満面の笑みで手を振ってくるのを小さく振り返す


例え環境が変われど、状況が変われど、人はそこに順応し生きていける

だが、その為にはそれ相応の覚悟が必要になる


それでも、乗り越えた先に未来があるのだと信じて








薄暗い路地裏で3つの影が蠢く


2つは子供、1人は大人の風貌をしたそれはまだ見ぬ悪意を持ってパレードを見つめる


「申し訳ございません、クヨキシ様」


「勇者の捕獲に失敗しました」


ビヨロコとクーラが膝を折りそう謝罪する女性は楽しげにパレードを見つめながら言った


「良いわよ、あとはスポンサー様がどうにかする案件だわ、どっちみち私達じゃ対処しきれなかった・・・それよりも」


視線を下げれば一枚の写真があった

そこには最重要確保目標という文字と共にトウヤの顔写真が写っている


その写真を見ながら女は嗤う


「もっと面白そうなものを見つけたからね、お手柄ね」


悪意は止まらぬ何処までも、人の欲が終わらぬ限り

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