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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
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勇者見参! 9

勢いよく扉を横に引けば、動いた扉により舞った埃が差し込まれた太陽光によりキラキラと輝きまう

そんな倉庫の光が届かぬ程の奥に奴らはいた

暗闇の中に浮き出る2つの無邪気な双眸がこちらをじっとこちらを見つめている


その圧に僅かに気押されながらも前へと進み声を張り上げた


「来たぞ!天華はどこにいる?」


倉庫の中を縦横無尽に響く声、尻すぼみ消えていくその音に、クスクスと幼い笑い声が2つ被さってくる


「来ちゃった来ちゃった1人で来ちゃった」


「可哀想に、私たちに殺されちゃうよ?」


暗闇の中で光輝く双眸が前へと歩み出て、声の主の身体を、ゆっくりと足先から身体に掛けて光が照らし影が祓われていき、やがてその顔が露わになる


無邪気で口角を目一杯まで上げた邪悪な笑顔が現れた


思わずゾクリと悪寒が走り、無意識に唾を飲み込む


童子はそんなトウヤの様子を気にする事なく、優しく、ただ優しく言い聞かせる様に喋る


「でも大丈夫、君はおもちゃにしてから殺してあげる」


「ねぇねぇ、早く見せてよ!君のそのスーツ!」


目をさらに強く輝かせながら楽しげに言う

そんな姿に気持ち悪さを覚えながらもトウヤは構えた


覚悟はすでに決まっている


『空間魔法、アクティベート』


流された魔力によりブレスレットの術式が起動した

ブレスレットを重ね合わせる


「変身!」


『音声認識完了、アクシォン!』


勢いよくブレスレット同士を擦り引き離せば、機械音声と共に破陣式から解き放たれた魔力が、行き場を失い反発しあう事で魔力暴走が発生し増幅された膨大な魔力がブレスレットへと流れ込む


そうして光に包まれたトウヤが腕を振れば、赤い戦士が光の中から現れる


「トウ・・・ヤ・・・」


か細い声が聞こえてきた

彼の名を小さく呼ぶ声が


声の方を見れば、雑に鎖で両手を縛られた天華が吊されていた

憔悴しきっているのか、その顔には市場にいる時見せた眩しいほどの笑顔が消え失せ、赤く腫れた目をして表情は虚なものだ


それ故に笑いながらトウヤは言う


「すぐに助けるから、ちょっと待っててくれ」


何故?

それは天華の中に生まれた疑問

何故、彼は自分をそこまで助けるのだろうか?自分が勇者だから?それでも死ぬと知っていながら何故来たのか?


そんな彼女尽きぬ疑問を浮かべる彼女ではあったが、たった一つのシンプルな物な希望を浮かべている

ヒーローが助けに来てくれた

負けるとわかってる。彼が死ぬとわかっている

だが、その事実は彼女の心を何よりも落ち着かせながらも昂らせたのだ


「ねぇねぇ、何言ってるのー?」


「助けられると思ってるの?」


小首を傾げながら笑う童子に、ヒーローもまた小さく笑い返す

それは嘲笑ではない、侮りではない


何よりも誰かを安心させる為の勇ましい明るい声を努めて出すのだ


「いいや助けるよ、だって俺はヒーローだからな」


「うーん、意味わかんない」


言い終わるや否やビヨロコが前へと飛び出た

両腕を大きく上げながら大股で前へ前へと、男児らしい活発さで走る


そのままトウヤへと瞬時に駆け寄れば細い腕を矢の様に引き、トウヤの頭目掛けて打ち放つ

空間を割き放たれた細腕からは想像も出来ない破壊の一撃


当たればひとたまりもないその一撃をトウヤは臆すことなく

摑み流す


勢いに合わせ伸ばされた腕に手をそわせ自身の身体を起点に、背負う様にして前へと叩き付ける

所謂背負い投げであった


突如として腕を掴まれ、ビヨロコは勢いのまま地面へと叩きつけられようとしている


迫る地面、だがビヨロコが空いた手を伸ばせば地面へと先に着いた手が地面に叩き付けられるのを防ぐ


『イグニッション、プレパレーション』


咄嗟に魔力を背中に流せば、機械音声が聞こえ聞こえないかの時点で手を離すと、僅かに後ろに下がる


「イグニッション!」


声と共にトウヤの身体が瞬時に前へと押し出された

そうしてビヨロコへとフレアジェットにより瞬時に加速した身体と膝をその頭に喰らわせる


モロに顔に膝蹴りを受けたビヨロコは声を出すことなく、その身体は後ろへと吹き飛び倉庫に保管されていたドラム缶へと突っ込む


「うわぁ、痛そー」


いつの間にか吹き飛んだビヨロコの近くに現れたクーラが、手で口を押さえながら楽しげに呟く

だがトウヤは攻撃の手を緩めない


『フレアシューター、アクティベート』


呼び出されたフレアシューターへと魔力を流せば機械音声が流れる

引き金を引けば収束された熱線が何条も打ち出された


「見て見て、あれも第4勇者と同じ光の弾だよ!」


「すごいすごい!欲しい!あれも欲しい!」


熱線の雨霰の中、クーラが防御結界を展開すれば表面に当たり散っていく熱線を見て興奮した様子でそれを眺める


攻撃の悉くが通用しない

わかってはいたが、そんな有様にトウヤは焦りを感じる


「なら、今度はこっちの番だね」


そう言えば防御結界の奥にいるビヨロコの片腕を持ち上げた

何をするのかとトウヤが身構えると、ビヨロコの上げた手が捩れ出す

捩れはやがて腕全体へと波及し、怪人体のその一端が垣間見られた

童子の身体に似つかわしくない歪な大きさをした禍々しい先端に行けば広がり、まるでラッパの様にぽっかりと開いた空洞が顔を覗かせた腕


その空洞の奥に仄暗い光が宿る

怪しく光る白い魔力の光、それはやがて一つの丸い形へと姿を変えていく


「もっと遊びたいから死なないでね?」


瞬間、炸裂音と共に一つの塊が打ち出される

それは魔結晶の塊とも言うべき物であった


撃ち出された魔結晶の塊はやがてトウヤに当たる直前に爆散し無数の破片をトウヤへと打ち出す


飛び散る破片、それだけ聞けば大したことのない物に聞こえるが、それ一つ一つがMRA、軍事用の魔導強化装甲服の防御結界を貫通し金属装甲をも簡単に引き裂く威力を持った必殺の一撃

だが、それを知らぬトウヤには対応が出来ない


撃ち出されたそれに警戒はすれど、面での制圧を行う死の弾丸をトウヤはその身体を持って威力を知る事となる


爆音と土埃が舞う中、トウヤの悲鳴が倉庫内に響く


高速で撃ち出されたそれを躱わす事ができず全身に浴びる事になったトウヤ

MRAよりもさらに高性能なスーツのおかげで致命傷は避けられたが、無数の切り傷をその身体に負うことになった


痛みから身悶えすれば突き刺さる魔結晶同士が干渉しあい甲高い音を奏でる

防御結界を貫通し切り裂かれたスーツからはジワリと血が滲み出ていた


「うわぁ、痛そー」


「すっごい痛そう」


その様子を戯けた様子で眺めてくる

息も絶え絶えといった様子のトウヤを見て2人の童子は嘲笑した


やがてトウヤは全身の力がガクリと抜け膝をつく


「トウヤ・・・」


鎖で吊された天華にもまた、その様子は見えていた

膝を着きながらも、なおもビヨロコとクーラを睨み付けるトウヤの姿を、立ち向かおうとするヒーローの姿を


「トウヤ!私の事は良いから、早く逃げて!」


何故そこまで戦うのか

もうこれ以上傷ついて欲しくない

それ故に言葉だったが、トウヤは逃げ出す素振りを見せない


なんで?なんで逃げないの?

意味を理解出来ない天華はトウヤの行動に困惑する


「逃げないよ・・・言ったろ、助かるって」


「そんなの・・・なんで」


彼からしてみればそれは案外悩む程もない簡単な理由だった

考えるのは簡単だが実行するのは難しい理由


「助けを求める人がいるなら助けに行く、手を差し伸べる。例えどんな状況になろうとも俺が天華を助けたいから・・・諦めないよ」


割れたバイザーの奥でトウヤは笑う

天華を助けた時の様に、優しい瞳で彼女を見つめる


そこに確かに諦めの文字はない

再び敵と相対すれば、熱き目に宿す言葉は不退転

不倶戴天の敵を倒し、助けを求める人を救うヒーローとしての有様を彼は示すのだ


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