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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
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勇者見参! 6

扉の前でポケットの中を探り、鍵を取り出すと鍵穴へと差し込む

ガチャリと音を立て鍵を開けて扉を開けば中からは金木犀の香りが漂ってくる


「ちょっと散らかってるけど、上がって」


そう促されるがままに天華はお邪魔しますと呟き中へと入った


中は洋風な作りが成されており、壁にはドライフラワーにしたホオズキが束ねられ飾りている


先をいくトウヤに続きリビングに入れば、新聞掛けに掛けられた新聞、机には纏められた備品達と彼の言葉に反して片付いていた


「トウヤ、これ並べる?」


「そうですね、机にもう並べちゃいましょうか」


そう言うと持っていた紙袋を机に置き、先ほど購入した料理を並べていく


焼いた丸く成形された小麦粉生地に赤いソースと発酵食品がトッピングされた物、鶏肉に照りが着いたソースを絡めた物、発酵させた小麦粉の生地を焼いた物など、幅広い品数の料理が並べられていく


ーーピザっぽいのに照り焼きっぽいもの、なんか食文化とか似てるなぁ


などと天華が思いながら見ていると、玄関につけられた呼び鈴がなる音がする


「博士かな?ちょっと行ってきます」


そう言いトウヤが玄関へと向かう

呼び鈴は未だ鳴っており、何やら話し声も聞こえた


「博士、お疲れ様で・・・す」


「何だその顔は」


ガチャリと扉を開けてみればそこにはセドの姿があった

彼はトウヤの惚けた顔を見てむすりとしながらそう言う


なぜ彼がいるのか、疑問に思うトウヤではあったが、その答えはすぐにわかった


「トウヤ、勇者の護衛の為にもう1人増える事になった」


「勇者って・・・博士、そういうのは最初に言って下さいと何度も」


「あーはいはい、今回急遽決まったんだから仕方ないだろう、さぁトウヤ中に入れておくれ」


セドの小言を流しダーカー博士は入れてくれとトウヤに頼む

事態を飲み込んだトウヤはどうぞ、と言い2人を家へと上げる


「すまんな、俺も何が何やらわかってないんだ、あとこれは餞別だ」


家に入ったセドがそうトウヤへと耳打ちすると、ひょいと手に持っていた縦に長い紙袋を渡してきた


「あぁ・・・ありがとうございます」


「良い家だな、これから頑張れよ」


そう言い家の中へと入っていく

意外と良い人なのか?などと思い紙袋を持ってリビングへと戻る







「あのトウヤさん、少し良いですか?」


そう天華から声を掛けられたのは食事と片付けが終わり、皆が思い思いの時間を過ごしていた時だった

机でダーカー博士とフィリアとで話をしていた天華が、話題が途切れた瞬間立ち上がりトウヤへと声を掛けできたのだ


「おう良いぜ、えーとほら、ここ座りなよ」


ソファに座り購入したレシピ本を眺めていたトウヤは彼女の言葉に快く返事をすると自身の横に置いている本を退け座る様に促すが、それに対して天華は首を横に振る


「あのすみません、出来たら他のところでお願いします」


何やら他の人に聞かれたく無い話らしい

だが、トウヤにとっては思い当たる節が無い為些か不思議に思いながらも場所を帰る事にした


「なら、そうだな・・・空いてるとしたら俺の寝室くらいだけど良いか?」


「はい、大丈夫です」


了承の意を示した彼女に、なら行こうかと声を掛けてソファから立ち上がると、寝室に案内する

リビングを出てすぐの場所にある寝室の電気をつけ中へと入ると、天華はすぐさま扉を閉めた


どうも余程誰にも聞かれたく無い内容らしい、ますます不思議に思いながらも彼女の話を聞く事にする


「それで、どうしたんだよ改まって話なんて」


「その・・・トウヤさんってどうやってあそこまで戦える様になったんですか?」


どう言うことかとトウヤは思い詳しく聞いてみれば、彼女は戦うのが怖い、例え魔物や魔人でも命を奪う行為が恐ろしく感じるのだ

だからこそ、トウヤが如何にして怪人を倒せる様になったのか教えてほしいとの事だった


その内容に思わずトウヤは顔を顰めそうになる


「なんで・・・戦おうと思ったんだ?」


敢えてその言葉に秘された本心、ならなんで逃げ出したんだと言う言葉は敢えて出さず、彼女へと問いかけた


すると、言い辛そうにしながらもポツリポツリと喋り出す


「私・・・戦う事が怖くて、だから逃げ出したんです。けど、トウヤさん達の戦いを見て、ダーカーさんから話を聞いて私も戦わなきゃってそれで・・・」


使命感、それが彼女の言葉の理由であった

やらねばならぬと思う事のために覚悟の理由を探す、そのあり様はトウヤの頭を悩ませた


中途半端なことを言っても彼女自身に響かなければ中身の無い覚悟を持ち途中で折れるだろう


だが、その事でうまい言い回しで力説出来るほどトウヤは経験を積んでいないし自信もない


そうであるが故にあるがままを話した


「俺は・・・そうだな、言い辛いんだけど軽い気持ちでヒーローになったんだ」


「軽い気持ちで・・・?」


何か訳があってヒーローをやっていたのかと思ってた天華だが、その意外な言葉に驚く


「そうそう、仮面パンチャーとか特撮ヒーローみたいで良いじゃんってノリ、だけど・・・時間が経つにつれ怖くなってきたんだ、ほら、あの作品でも人が改造されて怪人になるだろ?」


「そうですね・・・」


「だけど、いざその場面に出くわしたら自然と覚悟が決まっちまったんだよ」


どこか悲しげに笑うトウヤの顔に、天華は仄暗い気持ちが心のうちに宿るのを感じた


いざその場面になって覚悟が決まってしまう

それは成り行きでどうしようもなくなった諦めの様にも感じたからだ

だからこそ、天華は自分もそうなるのではと恐ろしさを内心宿しながら尋ねた

少しでも、自分の諦めのハードルが下がる様にと願いながら


「その・・・その時何で覚悟できたんですか?何か理由とか・・・」


そんなものはない、その言葉の幻聴を聞きながら緊張の面持ちでトウヤに問う


「そりゃ・・・この街の人の事を知ってたからさ、なんか許せなくなって、俺がやらなきゃ行けないって、誰がやるんだって思うと覚悟が決まったんだ」


それは天華が思っていた言葉とは全く真逆の答えだった

どこか内心彼女は期待していたのだ

諦めて戦いに赴いたと、あぁやっぱり彼もそうなんだと、だが答えは違った


どこまでも彼はヒーローだったのだ


「何でそんな・・・私にはわかりません・・・」


天華は思う

幾ら憧れを抱いていようとも、その存在になれる訳が無いと、同じ世界から来たのであればそれがわかるだろうと

だからこそ、トウヤの考えが理解出来なかった


だが、そんな暗い表情を浮かべる天華へと笑い掛ける


「俺もこうなるとは思わなかったよ、怪人を倒して、でもその正体が子供で俺は子供を殺した事になるのかって、人殺しなのかって、でも、誰かの命を生活を守る為に俺がやらなきゃ行けないんだって、まだ数回しか戦ってないけどわかってしまったんだよ」


その言葉に、笑顔に天華はただ黙って聞くしか出来なかった


「それだけみんなを守りたいって思っちゃったんだよ、きっと君にもそう思う時が来る」


「そんなの・・・わからないですよ・・・」


「そうだな・・・だからさ、もし辛いなら帰ったら良い、ラスさんも言ってたろ?帰れる準備はしてるって」


彼女の事を思うが故に発された言葉、その優しさが今の天華には苦しかった


「すみません、ありがとう・・・ございました」


そう言うと逃げる様に部屋から出る

今はただ、彼の優しさから逃げたかったのだ


部屋から出た天華の姿を見送るしかトウヤには出来なかった


「あんなので良かったのかな・・・」


「今の彼女には何を言っても無駄だ」


そう独りごちると、不意に寝室の出入り口から声が聞こえる

慌てて部屋の外に出て見てみれば、そこには壁な寄り掛かるセドの姿があった


「セドさん・・・さっきまでリビングで本を読んでたはずじゃ・・・」


「内密の話をするならもう少し静かに出ろ、勇者様・・・彼女の顔も暗かったからな」


「つまり心配してきてくれたと」


「うるさい」


おそらく照れ隠しであろうその言葉には、確かな優しさを感じ取り、トウヤは内心感謝の情が湧き出てくる


「しかし、無駄っていうのは・・・」


「そのままの意味だ、今の彼女は表面的には平静だが内心はどう見ても塞ぎ込んでいる。まぁ異なる世界に呼び出され戦えと皆から迫られればそうもなるだろう」


「だから、今はどんな言葉も響かないって事ですか?」


「別に気にするなとは言わん、だが、今の彼女には時間が必要なんだよ」


思えば、あの工房の掃除も彼女なりのガス抜きだったのかも知れない

壁から身を起こし、リビングへと立ち去る彼の背中を見てトウヤは呟く


「結構短い間に色んなこと見てくれてるんだな」


ヒーローの先達たる彼の背中は、何処までも大きく感じた

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