勇者見参 3改
ぶちまけられた籠の清掃を手伝いながら待っていたフィリアではあったが、こちらに向け声を上げなから手を振り戻ってくるトウヤの姿を見た時、ほんの僅かに違和感を覚える
「隣の、誰?」
彼が目の前まで来た時、その違和感ははっきりとした形になったので、疑問符を浮かべフィリアはトウヤへとその言葉をぶつけた
当の本人はどう説明すればいっかなぁと呟きながら何やら悩んでいるが、フィリアにとっては何のことやらさっぱりなので益々疑問符を浮かべるばかりである
「この子どうも俺と同じ和国の辺境から来たみたいなんですけど、この国で迷子になって無貌に襲われていたので保護してきました」
「そう、大変だったね」
いつも通りの無表情で天華へと声を掛けるフィリアではあるが、言葉を掛けられた彼女はフィリアの無表情過ぎる顔にどの様な感情で掛けられた言葉なのか分からず、どう反応したものかと困惑を露わにしながらもとりあえず頷いていた
「とりあえず、その子、ギルドに預けようか」
「あ・・・それは嫌です・・・」
そう言うフィリアではあったが、天華はトウヤの時よりも明確に嫌だと声に出して来る
彼女のその言葉にフィリアは小首を傾げた
「なんで?」
「なん・・・でってそれは・・・その・・・」
トウヤよりもはっきりと疑問を露わにするフィリアの言葉に、天華は口籠る
だが、そこでトウヤが疑問の声を挟み込んで来た
「あれ?フィリアさん言葉わかるんですか?」
彼女を追い掛ける時に発された言葉、それをフィリアは和国語みたいだったと評したにも関わらず、今は何の問題もなく会話をしている姿に疑問を覚えたのだ
ただ、その事を指摘してみれば、彼女は何気なく答える
「大陸共用語使ってる」
「あ、そっかぁ、それもそうですね」
確かに言われてみれば話出来ているのはその国の言葉を使ってるからだと言うのは、普通に考えるならば当たり前の話ではあった
その当たり前の事実がわからなかったトウヤは羞恥心に襲われる
『聞こえるかい?フィリア』
そんな時、フィリアの持つ通信結晶から言葉が発された
声の主はゼトアだ
フィリアは通信結晶に魔力を込めると返事をする
「聞こえる」
『先ほど南4番地で4体の怪人出現の報告を受けた。建築物への破壊工作が目的の様で人質はいないみたいだ、向かってくれるかい?』
どうやら怪人出現の連絡らしく、それを聞いたフィリアは了解とゼトアへ伝えると通信結晶を切りトウヤへと声をかけた
「トウヤ、怪人」
「怪人・・・?」
その言葉を聞いた瞬間、トウヤの顔付きが変わる
天華はその様子に思わず息を呑む、まさかヒーローだけではなく怪人まで居るとは、あまりにも場違いな嬉しさと恐怖の入り混じった感情を内心抱く
「すまん天華、ちょっと行って来るよ、それまで・・・エオーネさんの店が近いし、そこまで案内するから店で待っててもらって良いかな?」
「あ、はい・・・わかりました」
「フィリアさん、ちょっと俺天華を送ってから行きます。すぐ向かいますんで」
「わかった」
そう言うと2人は行動を開始する
魔力を流しながらトウヤは腕を大きく回し両腕のブレスレット同士を繋げ、フィリアは片手を上げて指を弾く準備をした
『空間魔法、アクティベート』
「変身!」
「変身」
『音声認識完了、アクシォン!』
『音声認識完了、エクスチェンジ』
2人の声と機械音声が響き、全身を包み込んだ光を払う様に手を振りヒーローの姿が現れた
「凄い・・・」
陽光に照らされ魔力の破片がキラキラと煌めく
そして、フィリアは現場へと向かい空中を高速で移動する
一方のトウヤは、天華へと近付き背中と膝裏へと手を回し救い上げる様に抱き上げた
「悪い、ちょっと急いでるから勘弁してくれ」
「え・・・?え・・・?えええ!?」
彼女へと告げるとトウヤもまた、空へと飛び跳ね屋根伝いに移動を始める
エオーネの店はすぐそこだった為に対して時間を要することなく到着した
店の前に着地するとトウヤは天華を降ろす
「それじゃ、あの店の中で待っていてくれ俺の知り合いって言ったら良い感じにしてくれると思うから、じゃ!」
「じゃって・・・あぁ!」
それだけ伝えるとトウヤは現場に向かうべく走り出す
「フレアジェット、レディ!」
その声と共に背部噴出口が露出し、機械音声が準備が出来たと告げる
『イグニッション、プレパレーション』
「イグニッション!」
噴出口から燃焼ガスが発生しトウヤは空へと舞い上がり、そのまま現場へと急行した
見えなくなったトウヤの姿を幻視しつつ、1人取り残された天華はどうすれば良いかと思案する
このまま彼の言う通り店の中で待っているべきなのはわかっているが、正直見ず知らずの店に入ってトウヤの知り合いです!などと言って居座る気分になかった
端的に言えば見に行きたかったのだ、ヒーローの戦いを、生の特撮の戦闘を
悲しいかな、それは治安が良く平和な日本に生まれたが故の野次馬精神なのか
それとも憧れ故の気持ちなのか
「よし・・・!」
そう言うと彼女はトウヤの飛んでいった方向へ向け走り出した
異世界に来たのだから、先ほど危うい目にあったが大丈夫だという安易な考えを抱きながら
聞こえる重厚な打撃音、ついで硬い金属の弾かれる音が通りに響く
もうそろそろだと思い、固唾を飲みながら角からそっと顔を覗かせればそこにはヒーロー達の戦っている姿があった
フィリアは空中を自在に飛び跳ね、両腕に太い触腕を持った一つ目の怪人2体と戦っている
空へと触腕を伸ばし振り、どうにかして彼女を落とそうとするがその機動性故に捉えられず1体の怪人の触腕が切断された
「うわああ!僕の腕が!腕がぁ!」
「よくも仲間を!殺してやる!」
怪人達の叫びが響き、暴れる様にして触腕を振るうが、彼女はそれをモノともせず防ぎ躱わす
一方のトウヤは、もう一体の同じ怪人と相対していた
黄色の魔力布をたなびかせながら振り下ろされた触腕の一撃を避けると、それへを掴み怪人の身体を引き寄せる
振り下ろした直後だった怪人は最も容易く引き寄せられ腹部へと彼の一撃が炸裂した
怯む怪人にトウヤは拳の連撃を加える
怪人が短い足を振るわれるが、それを後ろへ飛び退く事で躱わす
なおもう一体の怪人については、フィリアの奇襲により既に爆散している
「わぁ・・・」
本当に戦っている
フィクションではなくノンフィクションの戦いが目の前で繰り広げられている
そんな感動を天華は抱き目を輝かせた
「楽しいかい?お嬢ちゃん」
「はい!それはも・・・う・・・?」
突如として後ろからかけられた声に振り返ってみれば、白衣を着た女性の姿があった
女性は天華の返答に満足した様な笑みを浮かべている
「そうだろ、私の作った魔導服は飛び切り優秀だからね、見ているだけでも胸が躍るよ」
「はぁ・・・」
そんな事よりあなた誰?という思いがある彼女は、女性の言葉に何処か間の抜けた返答を返す
そうして女2人で話していると、バシン!という瑞々しい打撃音と共にトウヤの小さな悲鳴が聞こえた
女性があーあーという側で天華が振り返ってみれば、トウヤがこちら側へと吹き飛んでくるのが見える
あ、マズイと思いながらも近くに落ちてきたトウヤに思わず悲鳴を上げた
「すまん・・・!って博士、と天華!?お前こんなところで何やってるんだよ!」
声に気が付き振り向き謝罪するトウヤではあったが、そこにいたダーカー博士と天華の存在に驚きを露わにする
そんな彼の反応に気まずそうに目を背ける天華だが、それを面白そうにニヤけながらダーカー博士は見ていた
「こっちにばかり意識を向けていて良いのかい?ほら、なんか飛んで来てるよ」
「え?どわっ!?」
ダーカー博士の声で振り返ってみれば、振り下ろされる触腕の姿が目に映る
驚きの声を上げながら躱わすとマズイと思い、2人をカバーできる程の大きさの結界魔法を展開し受け止めた