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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
37/213

貧民街にやって来た! 8

メリーーーーー!!

もういっか


まぁもう一回だけ

おめでとーーーー!!!

現場から離れたシリは、大通りから路地裏に逃げ込み壁を背に息を整える


乱れた呼吸を抑えようと必死になりながらも落ち着きを取り戻して来た頭は、今の自分達の状況を理解させてしまった


「う・・・うぅ・・・」


ズルズルと壁に擦り滑る様に姿勢が落ちていく

今彼女の頭は後悔の念で満たされていた

なんで走って来たんだろう、本当に誰か助けてくれるのか、あのままみんなを守る為に何かした方が良かったのでは無いのか


駆け巡る後悔の念は止まるところを知らず、彼女の心を蝕んでいく

やがてそれは一粒の涙となり頬を伝い流れていった

後悔先に立たず、そうは言うがどうしても考えてしまうのが人間である

彼女もまた、その例に漏れず溢れ出る感情を抑えることが出来ずにいた


「ここで泣き、止まるのか?」


「え・・・?」


気付けば路地の奥の暗闇に誰かが立っているのがわかる

黒い服装をした男、そこまではわかるが顔は見えない


「誰・・・?」


「今ここで泣いても良いが、今も刻一刻と、お前の家族は苦痛に顔を歪めている、それで良いのか?」


無情な事実を突きつける言葉、それが彼女の胸に突き刺さった

チクリとした痛みと共に、ストレスからか吐き気が襲ってくる


だが、シリは歯を食いしばると壁に手を付きながらヨロヨロと立ち上がった


大切な家族が自分が助けを呼んで戻ってくるのを待ってる筈だと、一抹の希望に縋り立ち上がる


その姿を見て男は言う、慈しむ様にただ一言


「良い子だ、その家族愛、忘れるなよシリ」


次いで背後から聞こえて来たのは破断音だった

背後に目をやれば先ほどまで暗闇にいた男がシリへと手を伸ばしていた無貌の頭へと刀を突き立てている

頭を見れば、フェイスガードヘルメットの様な物を着けていた


そして男は、シリを一瞥すると言う


「行け!シリ!」


その言葉を頼りにまた駆け出す

愛する家族の為に、自身の行いを改める為に

施設はもうすぐそこだった



施設へと走り込んだシリが最初に見たのは、見知らぬ男に説教をされているトウヤの姿だった


はい、はい、すみません、そう言う彼の表情は暗く重い物で、それは自身が彼のブレスレットを取ったからだろうと言う事がわかる


すぐさまブレスレットを外すとそんなトウヤの元へと駆け寄った


「あ、あの!」


そう彼女が言うと、男とトウヤは共にこちらを向く

次に自身の差し出す様に伸ばされた手のひらに置かれた物に目を向けると驚きと共に声を上げる


「あ、これシリ!どこで見つけてくれたんだ?ありがとう!今めちゃくちゃ怒られててさ助かった」


「ごめんなさい、私が盗りました!」


発された声に被せる様に叫びにも似た声を上げると、トウヤは驚きのあまり押し黙ってしまう

彼女の声に釣られ周囲に居た人々もまた、何事かと視線を寄せ集まってくる


「本当にごめんなさい、これ、これ返しますからお願いしますみんなを助けて下さいお願いします!」


必死に頭を下げ悲鳴の様な声を上げながら謝罪するが、その声は集まった人々にも聞こえていた

僅かな静寂、そんな中、視線もまた鋭いものへと変わっていく


「そうやってまた騙すのか」


それは誰のものであったのだろうか?

男の声が静寂の中聞こえた声は一つの波紋となり広がっていく


「そいつ、助けてやると言ったら俺の事変態扱いしやがったんだ、ただ飯を持って行っただけなのに!」


「私もその子達に金をすられた!」


「そうやって叫ぶのも、どうせ周りを味方にしてにいちゃんの事が逃げられない様にする為に決まってる!」


断罪の連鎖は止まらない、どれが真実か嘘かはわからないが今までにシリの、シリ達のやった行いが今の彼女達へと災いを持って降り掛かる

オオカミ少年が嘘を吐き続けた結果誰にも信用されなくなった様に、彼女達もまた人々の好意を裏切り続けて信用されなくなった


そんな状況を静観していたトウヤの肩にポンと手を置かれる

見ればその主は調理場のおばちゃんだった


「にいちゃん言っちゃダメだよ、ありゃ罠だ間違いない」


首を横に振りながらそう言う彼女もまた、シリ達に石を投げられたうちの1人だ


それらの声は頭を下げているシリの耳にもしっかり入っている

何故信じてくれないのかと他責感情を出し思わず顔を歪めた

だが、同時に彼女にもその理由はわかっている、あの女怪人の言う通り人の好意を裏切って来た結果、欺いて来た結果、誰からの信用も失ったのだ

疑惑の目は今も深まり止まらところを知らない、それどころか彼女が今ここにいるのを鬱陶しく思う者まで現れ始めていた


トウヤもまた、ブレスレットを盗られた被害者の1人として行動を決めあぐねている

周囲の感情もまた理解出来た

そして同様に、彼女達の今までの姿を思い出す、チリと2人で自分達よりも幼い家族を必死に守ろうと行動していた姿を、だからこそトウヤはシリに近付く

何か言われると思ったのか、近付いた瞬間びくりと僅かに肩を振るわせた彼女に優しく声をかける


「返してくれてありがとう」


差し出されたブレスレットを手に取り嵌めていく


そんな彼の様子に恐る恐ると言った様子でシリは目に僅かな恐れの感情を浮かべながら顔を上げた


その様子に安心させる様に笑い掛けると、しゃがみ目線を合わせる


「よっしゃ、それじゃチリ達は今どこにいるんだ?案内してくれるか?」


「にいちゃんあんた・・・」


何かを言いたげにしているおばちゃんだが、こちらを心配して声をかけてくれているのだろうと察しがついているので、向き直ると笑いかけながら言った


「大丈夫だよおばちゃん、変身してから行くからもし襲われても対応出来るし・・・それに」


チラリとシリを一瞥する。見れば恐れではなくグチャグチャの感情を浮かべ今にも泣き出しそうな彼女の姿が目に映る


「罪を罪だと理解させるのが正義、コイツも自分のやった事は理解したと思うし、それなら正義の味方として護らなきゃだしな!」


私刑ではなく理解させる事を、嘘偽りか疑うよりも信じてあげる事をトウヤは選んだ、屈託のない笑顔でそれをおばちゃんへと伝える


その顔を見ておばちゃんは呆れた様に額を抑える。だが、そこにあるのは先程までのシリへの不信感ではなく彼の気持ちを尊重する晴れやかな感情であった


「なら言って来な、ヘマするんじゃないよ!」


「はい!」


送られた激励は心に熱く灯り、トウヤだけではなくシリにも希望の火を付ける

先程までの重たい空気は既に消え、明るい雰囲気へと変わっていた


それを感じ取ったが故に彼女の目尻には一粒の涙が溜まる

先ほどとは違う希望の涙、人を騙り後悔の念から流すのではなく、人を信じ希望の念から来る感謝の涙

次第に堰き止められていた感情は抑えが外れ溢れ出る


急に泣き出したシリの姿にトウヤは笑いかけた


「どうしたんだよ、落ち着けってほら行くぞ、みんなが待ってる」


そう言うと小さく頷くシリ

そして、静観し様子を見ていたセドへと声を掛ける


「すいません、セドさん、先にこっちの対応して来ます」


「勝手にしろ、お前の不注意が引き起こした問題だ、ならお前が始末しろ」


要は行って良いという事だろう

その事を理解したトウヤはありがとうございますと礼を告げると、ブレスレットに魔力を流す

流れた魔力により起動したブレスレットは暖気状態へと移行し光輝く

左腕を前へと突き出し折り曲げ拳を顔へと近付ける

右腕は大きく円を描くように回して左腕に装着したブレスレットと右腕に装着したブレスレットを重ね合わせた

両腕のブレスレットが干渉し、魔力回路が開通してダーカー式破砕陣へと魔力が供給される


『空間魔法、アクティベート』


「変身!」


『音声認識完了、アクシォン!』


トウヤの全身を光が包み込む、腕を振るうとその光がガラスの様な音を立てて光が砕け、中から雫頭の赤い強化装甲服を纏ったトウヤの姿が顕になった 


「案内してくれ、シリ!」


「こっち!」


少女の案内の元、ヒーローは走る


「あんた、行かないのかい?」


その背中を見つめながらおばちゃんがセドへとそう言うと、彼は鼻で笑いながらさも当然の様に言った


「さっきも言いましたが、あいつの起こした問題です。あいつに処理させます」


「とか言いながら様子見について行く気満々なんだろ?」


そう見透かした様に言うと、セドは押し黙ってしまう

どうやら図星だった様だ


その様子を見ておばちゃんは大きく笑う


「全く、あんたらヒーローってのはなんでこう可愛い子しか居ないのかねぇ!」


「ええい!うるさい!失礼する!」


「気を付けて行って来るんだよ」


シャケ!シャケシャケ!

シャァケェーーーー!

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