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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
36/177

貧民街にやって来た! 7

それから施設を出た子供達は一同帰路に着く

施設に女児を預け一安心といったところだろうか


「良かったね、助けてもらえて」


先頭を歩くチリにシリが笑い掛けて来る

その言葉に頷きながらチリは答えた


「うん、本当に良かった。シリほんと凄いよ、こういう時のためにトウヤにいちゃんと仲良くなってた方が良いって言ってたんだね」


安堵の言葉と共に自身の親友の先見の明に胸が熱くなった

いつも自分を助けてくれたそんな彼女ではあるが、また助けて貰ったなと改めて感謝の念を送る


「シリ、本当にありがとう」


「え?違うよ?」


「え?」


「これなんだと思う?」


そう言って彼女が袖を捲るとそこにはブレスレットが嵌められていた

何処かで見覚えがあると思うと、嫌な予感がチリを駆け巡る

それはトウヤがつけていた変身ブレスレットだ


「なんでシリがそれを持ってるんだよ!それはトウヤにいちゃんの」


声を荒げそう言うと子供達は何事かとチリへと目を向ける。だがシリはその視線を意に返すことなくクスクスと笑い出し、歳に似つかわしくない妖艶な笑みをチリに送る


「なぁに?トウヤにいちゃんって、貴女いつの間にそんなに絆されたの?」


「そんなの今は良いだろ!自分がやった事をわかってるのか!」


放たれた言葉を一喝し、チリは彼女のやった事の重大さを問いただす

ヒーローの使用する道具を盗む行為、それはこの世界に於いては重罪であった

各工房の最新技術を用いて作成された武具はそれだけで機密の塊である

それを安易に机の上に放り出したトウヤもトウヤではあるが、だからとて盗み出すのは許される事ではない

だが、そんな彼女の焦りも意に返す様子もなくシリは表情を変えずにチリへと笑いかける


「大丈夫、もう話は通してるから」


「通してるって・・・まさか!」


「そう、その通り」


背後から声がする

粘つく悪意を伴った高い女性の声が


まさかと思いゆっくりとチリが振り返って見ればそこには、長髪の勝気な目をした女性とフードを被った5人の集団がいた

それを見た瞬間、再度シリへと顔を向け睨み付ける


「お前、まさかあのフードの男と会っていたのか!?」


「えぇそうよ、取り引きをしたの」


「取り引き?あんな胡散臭い奴とか?」


信じられない様な目でシリの顔を見るが、彼女は余裕ある態度でそれに応じた


「胡散臭いなんて酷いわ、彼は話がわかる人よ、あの男のブレスレットを持って来たら私達の生活を保証してくれるって言ってくれたの」


あの男とは十中八九トウヤの事だろう

欲の詰まった目でそう語る彼女の姿に、チリは空いた口が塞がらない程の驚愕の念を抱いてしまう


「お前・・・それ本当に・・・」


「お嬢ちゃん達、お話しするのも良いけど例の物持って来たのよね?」


「はい、ここにあります!」


呆然と立ち尽くすチリを躱しシリが女の方へと走っていく

止めなければ、そう思いながらもチリはどうすれば良いのかわからなくなり、ただチリの背中を見つめることしか出来なかった


女の前に立ったシリは急いで袖を捲り上げると、腕につけたそれを女に見せる


「これ、これで良いんですよね?」


気持ちが昂っているのか、言葉を繰り返しながら女によく見えるようにブレスレットを見せた

それを見せると女は顔を大きく歪め笑顔になる


「あぁ良い子だねぇ、それだよそれ、良い子にはご褒美をあげないと」


「ありがとうございます!!」


あ、まずい

チリの頭にその言葉が過ぎる

今の女に異変はない、だが確実に何かがあるとチリの貧民街を生き抜いて来た直感がそう告げたのだ

そして、直感を信じシリの元へと走り出した瞬間、女の背中が膨れ上がった

服を切り裂き現れたのは1本の細長い触手、それが女の背後から伸びシリの頭上で鎌首をもたげている


「シリ!上!」


チリがそう叫ぶと何事かと僅かに後ろに下がりながらシリが振り返ったので、咄嗟に彼女の手を掴み引っ張った

その瞬間、振り下ろされた触手は空を切り裂き、家屋保護用結界を突き破り石畳へと突き刺さる


それを見たチリは思わず固唾を飲んだ

最新式の榴弾砲すら防ぐ結界が最も容易く貫通する威力、もし直撃していればと嫌な想像をしてしまう


「なん・・・で・・・?」


震えたか細い声が彼女の隣から聞こえてくる

困惑の表情を浮かべたシリが、先ほどとは打って変わり、信じられない物を見るような目で女を見ていた


その光景に思わず、女は笑ってしまう


あはははは、そう甲高い裏声とも取れる声で笑う女

それを見てシリは呆然としチリは叫んだ


「何がおかしいんだよ!」


「だって面白いじゃない、信じてた奴に裏切られた時の驚き絶望する様な顔!最高よ!」


それを聞き思わず身震いをする。異常者、それがチリが抱いたこの女の印象だった


「全部・・・嘘だったの?」


「当たり前じゃない、あんた馬鹿じゃないの?」


ガラガラと自身の胸の中で何かが崩れる音がシリには聞こえた

成功報酬で家族に楽をさせる。こんな暮らしから脱することができる。その夢が全て崩れ去る


「そんな・・・それじゃ私は・・・なんの、ために・・・」


「チリ・・・」


路地裏の子供達、そんな中でもシリは飄々とした雰囲気で常に家族を見守って来た

そんな彼女が力無く項垂れる姿に悔しさを感じずにはいられない


だが、そんな彼女を見て女は笑う、蔑みの目で見つめ高らかに笑う


「何悲劇のヒロインぶってるのよ、本当に笑えてくる。ねぇ?なんで人の行為に悪意を持って答え、欺き、裏切り、他者を利用しようと、出来ると考えてる悪い子供、あんた達は知らないかもだけどねぇ、親から悪い子になるなって言われると思う?」


可笑しそうにニヤニヤとしながら、鼻に付く言い方で問いかけてくる

それをチリはしらねぇよ一蹴した


「そうよねぇ!あんた達みたいなのにわかる訳ないわよねぇ!そんなの簡単よ、悪い事をする子供はね、より悪い大人に騙されてこうやって酷い目に遭うからだよ!ははは!!」


それはチリにとって苦痛の時間だった

騙され、立ち向かおうにも力でねじ伏せられる未来しか見えず、ただ黙って聞くことしか出来ない

何より最悪なのは、女の言ってる事に説得力がある事だった

今のこの現状こそが、彼女の言った通りの事態だからだ


そうして彼女は安心させる様に子供に言い聞かせる親の様に、優しく言葉を発する


「でも安心してね、あんた達もすぐに私の様な大人になれるわ、連れ帰って腕を捥いで目を抉って身体を引き裂いて、あぁは、私の様な大きくて誰にも負けないくらい力が強くて、頭の冴えた大人になってるから」


その場にいた子供達は皆怯えた

敢えて怯えさせる様に放たれた言葉の通り、目の前で今も触手を振り回す異形の人間、それと同じ様に改造されるのだ、喜ぶ訳がない


行け、女が小さく後ろに控えるフードの集団に声を掛けると、バッとフードを脱ぎ捨て無貌の姿が顕になる

無貌達は女の指示に従い子供達へと掴み掛かった


「嫌だ!そんな姿になりたくない!」


「助けて、お母さん助けて!」


迫る無貌に助けを求めて発された言葉は宙を舞い、無情にも虚しく空へと消えていく


助けなど来なかった。来るはずもなかった

そこは従来より人通りの少ない道であり、もし仮に偶々通りかかった人がいても助けることは無いだろう


「やめて下さいやめて!お願いします助けて!誰か助けて!」


這う様に前へと出たシリがそう叫ぶ

子供達の叫びにより騒がしくなった通りではあるが、相も変わらず人気は無かった


そんな姿を見て女が嗤う


「人からの信用をなくして誰もが離れていったのに誰が助けてくれのぉ?誰がお前達の言葉を信じるの?法律?それとも義務?そんな形の無いものがお前達を守ってくれるとでも思ってるの?あはははは!」


「そん・・・な・・・」


幾ら助けを呼ぼうとも変わらぬ状況、示された言葉に心を揺さぶられる

個ではなく人と人の繋がりがあってこそ成し得ることはある。特にそれが弱者であればある程に顕著になっていく


彼女達は自らを子供であると言う事実に甘んじ、それらを怠った。怠った故の末路であった


その事実を目の前の女に示され、幼いながらも聡い頭で理解してしまい、シリの心は折れてしまう


俯き、現実を否定しようとするが耳に入る叫びは嫌なまでに彼女の頭に現実を突きつけ混乱する


「何してんだシリ!しっかりしろ!」


堂々巡りの思考の中、動かぬ身体を誰かが起こす

力無く起こした者の姿を見れば、チリが彼女の身体を引き上げる様に持ち上げていた


「チリ・・・ご、ごめんなさい、私」


「そんなの良いから!早くここから離れるぞ!」


シリの身体を必死になって引き釣り、離れようとするが、彼女は未だなお力無く項垂れている


「無理だよ・・・もう逃げられない」


「うるさいうるさい!逃げる前から諦めるなよ!それに・・・それに・・・きっとトウヤにいちゃんならなんとかしてくれる!」


こんな状況になっても力を借りようとする己の無力さから悔しさから顔を歪ませながら、チリがそう言う

本当に助けてくれるのか、彼からブレスレットを盗った自分達を助けてくれるのか、今頃事態が発覚して大騒ぎになっているかも、そんな考えがチリの頭を回っている

だが、それでも信じてしまうのだ、きっとトウヤならと


「そんなことさせると思ってるの?」


必死になり周りが見えていなかった彼女の視界は、女の蔑む声と共に状況を認識する


女の背後で漂っていた触手が彼女達を捕えようと真っ直ぐ伸ばされた

その速さから2人同時に避ける事はできない、間に合わない

だからこそ、チリの身体は考えるよりも先に動いた。身体強化魔法を発動させシリの身体を後ろへと放り投げたのだ


宙を舞う小さな身体はやがて石畳の上へと落ちていく

落ちた衝撃でキャッと小さな悲鳴を上げ痛みに身悶えするが、次いで聞こえて来たチリの叫びに痛みを無視して身体を動かす


「チリ!」


見ればそこには触手に巻き付かれ捕らえられたチリの姿があった

全身を締め付けられるように縛り付けられた彼女は痛みにより顔を歪めがらもシリの姿を確認すると叫ぶ


「走れ!シリ!!」


嫌だ置いて行きたくない

そんな叫びにシリは感情を浮かべ顔を横に振る


「立って走れ!このままじゃみんな殺される!!早く!」


みんな殺される。その言葉がシリを動かした

混乱した頭でたた死なせてはならない、そんな思いで震える手で立ち上がり走り出す


「本当に助けが来ると思ってるの?あなた達本当に阿呆よね」


走り去るシリの背中を見送りながら女が言う

どうせ無理、そんな思いと侮蔑の乗った言葉にチリは笑みを浮かべながら言う


「家族のいないだろうお前にはわからないだろうけどな、これで良いんだよ、助けが来なくても家族が1人で助けられたらそれで良いんだよ」


「この、クソガキ!」


先程の女の言葉を、中身を変えて突き付けたチリの言葉は女の琴線に触れる

自身が優位な状況にも関わらず、ただ見下されたと言う思いが、女を激情へと至らせたのだ

女が感情に任せ触手を強く締め上げると、チリのくぐもった悲鳴を上げる

その声に満足したのか女は落ち着いた様な表情を見せると、無貌達へと視線を向けた

見れば無貌達は子供達を荒縄で拘束した後なのだろう、傍で立ち尽くしている


「まぁ良いわ、そう言う事なら私も大人として対応しましょう、お前達!あの逃げた小娘を追え!!」


「なっ・・・!」


「力が無いのにそんな事をベラベラと喋って、本当に残念な子供よね」


悪辣な笑みをわざとらしく浮かべ、覗き込む様にチリを見ながらそう言う

チリはそんな女の事など意に返す事なくシリの走り去った方角へと目を向ける

すでに5体の無貌達がシリを追いかけていた


「シリ・・・!」

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