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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
35/177

貧民街にやって来た! 6

ここはどうやっても分割しきれなかったのでちょい長めです

「おわっ!?」


路地裏から出て角を曲がった時、彼女は何かにぶつかる

何事かと上を見れば髪がボサボサの無精髭を生やした男が驚いた様な顔付きでこちらに視線を向けていた


「おっと、おいおい大丈夫か?」


「あ、あぁ、大丈夫」


それを聞いた男はチリに視線を合わせると笑顔で言う


「そうか、そりゃ良かった。あんま走り回るんじゃねぇぞ危ないから」


「わかったよ、でも俺急いでいるからじゃな!」


そんな男の言葉を流しつつチリは薬屋へと走り出そうとした

だが、そんな彼女の腕を男は掴んで来る


「おいおい待て待て」


「な、何するんだよ!離せよ!俺急いでるんだから!」


男の手を引き剥がそうと腕を振るうが、単純な大人と子供の力の差により振り解けずにいた

そんな彼女を宥める様に男は声を掛ける


「あぁ待てっての、お前今からどこに行くつもりなんだ?」


その言葉に心臓が跳ね上がった

慌てて男の顔に目をやれば、何事かと疑問符を浮かべた男の顔が目に映る

ならばきっと自分の考え過ぎなのだろう、この男が知ってる訳が無いと思い平静を装いながら口を開こうとした


「薬屋に行くんだろ?」


彼女が言葉を発する前に男の言葉が被せられる

やはりこの男は知っていたのだ、自分が今からどこに行くのかを


「・・・なんで知ってるんだよ」


だからこそ、彼女は逃げる隙を窺いつつ話に興じる事にした

どうせこの後に言われる言葉はわかっている

彼女が相対した大人達から耳にタコが出来る位言われ続けた定型分、それを予見しながら男の様子を窺う


「まぁなんだって良いだろうそんな事、お前なもし言ったら後悔する事になるぞ、やめとけそんな事」


ほら見たことか、彼女は思う

彼女が生きていく為にやってきた行為の悉くを、この言葉で止めようとして来た

こちらの事情を知らず、ただ体裁を整える為だけにやめとけと言うだけの大人達の定番のフレーズ、それが彼女がこの言葉に思うイメージである


だが、こちらにも事情があると彼女は思うと男に言葉を返した


「辞めとけって言われて辞めるバカがいるかよ」


「あのなぁ、別に他に手段がない訳じゃ無いだろ」


「手段がないからこうやってるんだろ!」


そう言われて思わず頭に来たのか、チリが叫ぶ

もし金があるのであれば医者に罹って治してもらう、だが金がない以上はどうしようもないではない

そんな彼女の叫びを男は真正面から受ける

そして、一言だけ発した


「手段はそれだけなのか?」


「はぁ?」


哀しそうな目を向けながらそう呟く男、だが発言の意味がわからずチリは混乱する


「良いか?こういう時こそ大人を頼れ、身近な人を頼れ、別にお前らだけで悩む必要は無いんだよ」


「あんた・・・何言って」


「おっちゃん、そこで何してるんだよ?」


男の背後から声が掛けられた

チリとその男に取っては聞き馴染みのある若い男の声

チリは思わずその男へ助けを求めた


「にいちゃん助けて!このおっさんが」


「おうトウヤ、良いところに来たな!この嬢ちゃんお前に要があるってよ!」


被せられる様に発せられた言葉は、チリにとっては意外な物だった

だが、同時に最悪な部類に入る物でもある

よりにもよってこのタイミングでこの男に、トウヤに借りを作りたく無かったのだ

だが、トウヤはそうなのかと言うと笑顔で近付いて来る


「どうしたんだ?俺が出来る事ならなんだって聞くぞ」


「え、いや」


もう逃げられない、仮に逃げても男が事情を話せばトウヤはこちらを捕まえにおって来るだろう

短い葛藤の中、彼女は諦め、どうせ無駄だと言う負の期待の中事情を喋る


語った後のトウヤの顔は何とも言えない困惑した様な表情だった

それはトウヤの考えから来る表情であり、彼にとって風邪とはそれ程危ない病気では無いからだ


「衛生環境も悪く、栄養価の高い食事を摂れないこいつらじゃ自然治癒に期待するのも酷な話だからな、トウヤどうする?」


見かねて篝野が説明口調でトウヤへと話し掛ける

それを聞き合点がいったという表情を浮かべたトウヤは暫し悩む様に腕を組む


「そうだなぁ、とりあえずその子の所に案内してもらって良いかな?施設には救護所もあった筈だしそこに行って診てもらおう」


「あれ職員用で金取られたと思うけど良いのか?」


意地悪げに笑いながら篝野が言う

この世界での医療費というのは兎に角高い、トウヤの元いた世界の基準に置き換えれば風邪の治療にも1万5000円以上は掛かる

だが、トウヤはあっけらかんとした様子で答えた


「それで1人の命が救えるなら安いもんだろ」


「それでこそヒーローだ!」


それを聞いた瞬間、篝野は下心の無い満面の笑みになりトウヤの肩へと手を伸ばし組んで来る


「さて嬢ちゃん、こいつの腹は決まったがお前はどうだ?」


「え?」


発言の意味がわからず硬直していたチリは、名前を呼ばれてどうすれば良いのかわからずあたふたしていた

その混乱した様子に思わず笑みを浮かべつつ篝野は再度声を掛ける


「その寝込んでる子供の元に俺たちを案内するか、薬を手に入れる何かしらの方法を考えるかどっちが良いかって話だよ」


それを聞き押し黙ってしまう

だがすでに彼女に選択の余地はなかった


「・・・こっち」


チリが路地裏を指差して歩き出す

それに2人もついて行く


「おーこりゃ大変だなぁ、ひっどい熱だ」


「よし、急いで連れて行こう」


倒れた女児をトウヤが背負い、篝野は横からがんばれーと気楽そうに声を掛ける

そんな2人を眺めながらシスとチリは2人で並んで立っていた

ピリついた空気が流れるシスの横で、チリは申し訳無さそうに顔を伏せ時折ちらちらとシリの顔に目をやるが、チスの方に一切目を向ける事なく終始笑顔で立っているが間違いなく怒っているのがチリにはわかったのだ


「ねぇチリ、何でこんなことしたの?」


シリの言葉にチスの方がビクリと上がった


「いや、その」


彼女の怒気に当てられ、チリはしどろもどろになる


「何で薬を盗みに行ったの?」


「そうしなきゃあいつ死んでたかも知れないんだぞ」


「そうかもだけど、今あの人の信用失ったら私の考えてる計画がうまく行かなかったかも知れないんだよ?」


「ごめん」


肩を下げ謝る

そんなチリの様子にシリは大きくため息を吐くと、顔をそっと近づけて耳打ちした


「もうしないでね」


優しい声音で発されたそれは、チリにとっては最終警告の様にも聞こえる


「おーい、早くいくぞ」


「はーい、それじゃ行こチリ」


「う、うん」


差し出されたシリの手を取りチリは共に走っていく


ーーそうだ、邪魔されてはならない


ひとつの悪意を持って、トウヤ達の元へと駆けていく


ーーこれはチャンスなのだから


幼い悪意は芽吹く

幼いが故に拙い、脆く崩れやすい悪意

その悪意の先に起こる結末をまだ彼女は知らない

そして、悪意を向けられている事を露とも思わずトウヤは子供達と談笑しながら施設へと向かう


「ねぇこれからどこにいくの?」


そう言ったのは女児が心配だからとついて来た路地裏の子供達の1人である男児だ

彼は背負われている女児に心配そうな顔を向けながらもトウヤにそう尋ねた


「今からこの子を治しに行くんだ、大丈夫、そう心配そうな顔するなって」


男児に笑顔を向けながら快活にそう答える

すると男児は何とも不思議そうな顔でトウヤを見つめた


「ねぇ、何でいつも僕たちの事気にしてくれるの?」


彼らは幾らか事情はあれどみな路地裏を住処とする浮浪児である

素行不良も相まり最初は助けてくれ様として来た大人達も次第に足が遠のいて行った

だから、何度も訪ねてくるトウヤが不思議でしょうがなかったのだ

そんな男児の言葉にトウヤはさも当然の様に語ってみせる


「そりゃ、人の為に何か出来ることがあるならやるのは当然だろ?」


「なんで?」


「何でってそりゃ・・・何でだろうな」


解答に困ってしまい思わず笑みを浮かべてしまう

彼にとって人の為に何かをするのは当然、それ自体が一つの答えだから答えようが無いのだ


「実利がある訳じゃない、それをやったからと言って必ず礼を言ってもらえる訳でもない、それでも・・・多分憧れてんだよな、先輩達に」


今トウヤの頭に浮かぶのはこの世界に来てから出会った人達の姿だった

冒険者として、ヒーローとしての姿を学び、自分の事を気に掛けてくれる先輩達、森で出会い魔法を教えてくれ、自身の命を投げ出してでも助けてくれようとしたサラ

彼の行動指針には彼らの姿があった

何かしらの利を考えての行動かも知れないが、それでもその背中にどうしようもなく憧れてしまったのだ


「つまり優越感に浸りたいだけって事かよ」


チリが忌々しげにそう呟く

自分達を気にしてくれてるのも、こうやって助けてくれているのも全て自分の満足感の為だと

だが、トウヤは彼女に頭を向け笑いながら言う


「まぁどう思ってくれても良いよ、献愛とは時に苦痛を伴うもの、俺だって自分勝手な都合を押し付けたくは無いし、そう思われるのも覚悟の上だよ」


「何でそんな・・・」


「言っただろ、先輩達に憧れて自分もそうなりたいって思っただけって・・・だからさ、助けてほしい時は無理せず助けって言ってくれよ、全員が助けてくれる訳じゃ無いけど俺みたいな奴もいたりするんだから、諦めず人に頼れよ、あ!もちろん人は選べよ!明らかに怪しいやつとか、それ利用しようとする奴はいるからな!」


トウヤは慌てた様に注釈を付ける

気取っている様で純粋にチリ達を心配しているその姿は人によっては不快に映るかもしれない

だが、チリにとってはその姿に好感を持てた

不器用ながらもカッコつかない何処か頼りない様子でも、そこにあるのは嘘偽りのない人の姿なのだと

そこまで思い至るとチリは再度トウヤへと話しかけた


「なぁにいちゃん」


「ん?どうした?トイレにでも行きたいのか?」


「バカ、違うよ」


デリカシーの無い発言だった。だが、それはきっとこちらを子供として気遣った結果なのだろうと、チリも笑って流す


「にいちゃん名前なんていうの?」


「俺?浅間灯夜だよ」


「違う違う、ヒーローとしての名前だよ」


「あー、ん?」


ヒーローとしての名前?何だそれは、そうトウヤが思い頭を悩ませているとクスクスとシリが笑いながらトウヤへと笑いかけてくる


「お兄さんチリはね、異世界の勇者が広めたヒーローの物語が大好きなんです。アイアンスーパーとかマンオブマンとか、仮面セイバーとか、だからヒーローとしての名前があるなら聞きたいし、無いなら考えてみたいんですよ」


「あ、バカ!違うってそんなんじゃ・・・ねぇし」


「ほー!へー!そっかそっか、そっかぁ」


恥ずかしそうに反応するチリであったが、違うと言い切れないのか言葉尻が萎んでいく

それを見聞きしたトウヤは嬉しくなり満面の笑みで反応してしまう

そんな反応をしたトウヤに恥ずかしさを隠す為かチリはキッとトウヤを睨みつける


「そうだよ!悪いかよ!」


「良いや悪くないよ、めちゃくちゃ嬉しいよ、そうだなぁ名前ないから考えてほしいなぁ、誰か考えてくれないもんかなぁ」


「誰が考えてやるか!知らね!」


チラチラとチスを見ながらわざとらしく言ってみせるがそれをわかっているのか、チスは拗ねてしまう

流石にからかいすぎたかとトウヤが思っていると他の子供達がトウヤの横に走り寄って来た


「なら、僕たちが考えてあげる!」


「お!良いのか?」


「良いよーどんなのが良い?」


「そうだなぁ、炎と赤い見た目だからそれ関係が良いかな?」


そう告げると子供達は思い思いに考え出す

その様子を微笑ましく思い笑顔で眺める


「フ・・レ・・」


そうしているとか細い声で何かを呟く声が聞こえた

声の方に振り返ってみればチスが顔を俯いているのが見え、隣にはニマニマと笑顔を浮かべているシスの姿もある


「どうしたチス?」


不思議そうにトウヤが名前を呼ぶと、チスは赤らめた顔をゆっくりと上げ恥ずかしそうに先程の発言を繰り返した


「フレアレッドって・・・どう」


おそらく名前であろう単語を聞き、トウヤの思考は止まる

次いで訪れたのは父性にも似た嬉しさの感情だった

抑えられない感情に顔が改めて笑顔になる


「お前、なんだよ考えてくれてたのかよ!」


「うるさいうるさい!で?どうなんだよ!」


「そりゃ良いに決まってるよ!みんなはどう思う?」


「チリちゃんの名前が良い!」


「良いと思うよ!」


「チリねぇちゃんが考えた名前ならそれで良いよ」


そうトウヤが周りの子供達に聞いてみれば概ね好印象だった

どちらかと言えば、チリが考えたから良いという意見が多くはあったが、それで名前が纏まっているのであればそれで良いかとトウヤは思う


「なら、決まりだな!俺のヒーローとしての名前は今日からフレアレッドだ!よろしくな」


「良い名前もらったなトウヤ」


「お、おっちゃんもそう思うか?」


先程まで聞くに徹していた篝野もまた、その名前に異議はないのだろう

祝福の言葉をトウヤへと送る


「おお、だがあんまり騒いでやるなよ、背負ってる子が可哀想だ、それに施設もすぐそこだしな」


彼の指摘の通り、彼らは今ボランティア施設への道中でありトウヤの背中には今もぐったりとした女児の姿がある。ある程度であれば良いが先程のトウヤの様な騒ぎ様では背負われている女児もしんどいだろう

その事を理解したトウヤはそれもそうかと納得し、声を落として喋ることにした

そうして施設に着いた一同はトウヤと篝野、シリとチリが着いていくことになるが、他の子供達は受付で待ってもらうことになる


「さて、お前らちょいと受付のとこで待っていてくれ、俺とトウヤで医務室に運んでくるから」


「すぐ薬もらってくるからちょっと待っててくれ」


そう言うとトウヤと篝野、付き添いのシリとチリの4人はスタッフに連れられて奥の医務室へと向かう

そこはベッドが4つある部屋であり、部屋で待機していた女医の指示通りにそのうちのひとつに女児を寝かしつける


「先生この子治りますか?」


「えぇ大丈夫、ここで2〜3日安静にしてればきっと良くなるわ」


マスク越しに女医が笑い掛けてきた

その言葉を聞き、チリは良かったと肩を撫で下ろす


「あ、篝野さんにトウヤじゃない!ちょうど良かったちょっと皮剥き手伝って貰っても良いかしら?」


偶然通り掛かったのだろう、開けっぱなしの扉の向こうには恰幅の良いエプロン姿の女性がトウヤへと声を掛けてきた

トウヤはわかりましたと返事をすると、両手首に付けていたブレスレットを外し医務室の机に置くと女医に声を掛ける


「すみません、ちょっとこれ預かって貰っても良いですか?」


「良いよ、そこ置いといて」


「ありがとうございます。それじゃごめんちょっと言ってくる」


「気を付けて帰れよ」


そう言うと2人は医務室から出ていく

残されたチスは女児の傍らに立つ


「チーちゃん」


「もう大丈夫だからな、トウヤにいちゃんが病院連れて来てくれたから、もうすぐ良くなるから」


普段は活気溢れる女児の弱々しい姿に胸が痛む

ここに連れて来たから大丈夫とは自身に言い聞かせるが、それでも心配になりソッと頭を撫でる


「チリ、そろそろお邪魔なると思うし帰ろっか」


「あ・・・うん、わかった。それじゃ明日も来るね」


1人置いていくことに尾を引かれるが、いつまでいても邪魔になると思い帰ることにした

小さく振ってくる手に、また同じ様に手を振りかえす

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