貧民街にやって来た! 5
その日、ボランティア施設の食堂は大いに賑わっていた
「あんた本当に連れて来れるなんて・・・驚いたねぇ」
食堂に勤める女性は騒ぎの中心を見て大いに感心した様に声を上げる。そこには件の子供達が長椅子に座り食事をとっていたのだ
「あんた一体何やったんだい?」
今まで何を言っても来る事が無かった子供達を、どうやって連れて来たのかと尋ねるとトウヤは胸を張り満面の笑みで言った
「話し合いをしただけですよ」
「話し合いねぇ・・・まぁ面倒く事が無くなって一安心だよ、ご苦労様ありがとうね」
言葉を受けへへっとトウヤは笑う
「なぁ・・・本当にこれで良いのか?」
椅子に座り楽し気に食事をとっている子供達の一団、その中で食事を手に取る事なく俯いたままのチリが隣に座るシリへと不安げな面持ちをしながら声をかけた
そんな彼女とは反対に楽し気な様子で食事をとるシリは何処か子犬を彷彿とさせる彼女の様子を面白く思ったのか、口元を手のひらで隠しながらクスクスと笑う
「な、何がおかしいんだよ!」
「だって、今のチリ可愛いんだもん」
「かわっ!?」
可愛いと言われ狼狽えるチリを肴に、シリはパンに指を押し込み毟り取りながら言った
「それに・・・くれるって言うなら貰ってもあげても良いじゃない、その方があっちも気持ち良いでしょ?私達を弱者と言うなら利用すれば良い」
むしり取られたパンは、配られた際の外観はすでに残しておらず一口で食べれそうな程に小さくなっている
それを彼女は残り僅かなスープの入った皿へと押し込み、パンはスープを吸って端が少しだけ茶色く染まる
「そうして全てを毟りとってあげるの、私達は弱者なんだからその権利はあるのよ」
濡れた皿の上にパンを擦り付けながら口角を上げ、子供とは思えない妖艶な笑みを浮かべる
それからしばらく時間が経った
「よう!また飯食いにこいよ!」
「うるさい帰れ!」
トウヤは彼らに食事に来させる習慣をつけさせるために暇があれば声を掛けにいく
ヒーローとしての仕事都合で施設に行けない日が多かったが、積み重ねの結果次第に彼らはトウヤが来る前には食事をとりに来る様になった
そんなある日の事だ
早朝の路地裏でチリは珍しく狼狽えているた
それは先程自分たちの寝床に飛び込んできた1人の男児の発言から端を発しており、彼曰く同じ寝床で寝ていた妹が熱を出したがどうすれば良いのかわからないという事であった
同じく男児の声に起こされたシリと共に急いで兄妹の寝床に行けば、確かに顔が赤く火照り魘される女児の姿がある
「おいおい、大丈夫か?」
「大変、すごい熱を出してる」
シリが女児の頭に自身の頭を付けると、彼女の体温が自身のものよりも高いことがわかった
その状況にチリが慌てる
病院に行こうにも健康保険などないこの国では医療は高額であり、コツコツゴミ拾いで貯めてきた程度の金ではどうする事も出来ないし、栄養価の高い食材も自分達では手に入らない
八方塞がり、如何にもこうにもならない状況にチリは頭を抱えるしかなかった
「チリねぇちゃん、シリねぇちゃん、妹は大丈夫なのか・・・」
そんなチリの様子に気が付いたのだろう、男児が不安げな面持ちでチリを見上げる
「大丈夫だ、俺がなんとかしてやる!」
「チリ・・・」
男児の不安を吹き飛ばす様に威勢よく啖呵を着るが、シリにはそれが自身の不安も払う為の啖呵に見えた
だが、現実問題どうしようもない、彼女達が考えられる2通りの方法はどう足掻いても自分達には出来ない事だ
だからこそ、彼女は第3の方法を考え出した
「薬屋に行ってくる」
「まさか貴女」
「それじゃシリ、こいつら頼む!」
「待ちなさいシリ!」
何をするのか察しが付いたシリがチリへと声を掛けるが、その声を意に介さず彼女は走り出した
例え自身が罪に問われようとも、大事な家族が助かるのであればなんだってやる
そんな思いが彼女を突き動かした




