貧民街にやって来た! 3
「いたいた、トウヤ!様子見に来たわよ」
名前を呼ばれ2人がピクリと反応し、声の主へと顔を向けるとそこにはエオーネとオータム、フィリアの姿があった
「あれ!?みなさんどうされたんですか?」
「どうって、そりゃ心配だから様子を見に来たのよ」
「先日あぁは言ったが、ボランティア活動には不慣れだろうしね」
「どう?無理してない?」
「ありがとうございます。篝野のおっちゃんも手伝ってくれてるので大丈夫です!」
「篝野?」
「えぇ、隣の・・・」
そう言い横に座っている篝野へと目を向けると、彼は食べる手を止め口を開けたままフィリアを凝視していた
「フィリア・・・リース・・・」
どこか心ここに在らずと言った様子で呟いた一言に、どうしたのかと疑問符を浮かべる
「どうしたんだよおっちゃん、ぼーっとして」
何処か様子が変な篝野にトウヤは心配になり声を掛けるが、当の本人はハッとした様子を見せると気まずそうな表情を見せた後にトウヤへと顔を近づけ言った
「お前フィリア・リースなんてこの辺じゃ有名人じゃ無いか、いつ出会ったんだよ、あと後ろの2人も!」
「いやそりゃ俺もヒーローなんだから、フィリアさんとはギルドであったんだよ、エオーネさんとオータムさんはその前の研修の時に先輩が連れてってくれた店で知り合ったんだ」
「そういうのは早く言えよ、俺ミーハーなんだから」
そう言うと立ち上がり膳を椅子に置くと、篝野はフィリアへと向け直り緊張しているのだろうか、声を震わせながらフィリアへと話しかけた
「どうもこんにちは、私は周辺を流浪している篝野と申します。フィリアさんお噂は予々聞いております。怪人溢るるこのベガドの街で大変ご活躍されているとか」
「ありがとう」
「なんだよおっちゃん、緊張してるの?」
「うるせぇ、お前みたいに有名人に会える立場じゃないんだよこっちは」
いつもよりも違和感があるくらい丁寧な言葉遣いにトウヤが茶々をいれ、それに声を荒げた後、コホンと咳払いをする
「それでは私は仕事がありますのでこれにて失礼します。みなさんどうぞごゆっくり、では」
「えっ、おっちゃん!?」
そう言うと篝野は椅子に置いた膳を取り、そそくさと足早に立ち去って行った
今までとは違う様子に違和感を覚え驚きながら呆然としてしまう
「ごめん、邪魔だった?」
「あぁいえ、多分ミーハー過ぎるだけだと思いますよ」
「まぁそういう人もいるという事よ、特に有名になればね」
「あの・・・」
足早に去っていく男の背中を眺めつつ思い思いに呟いていく
だが、いつもの彼らしくない姿にトウヤはあぁ言いつつも何処か違和感を感じられずにいられなかった
だが、そんな疑問もやって来た1人の来訪者により中断されることになる
掛けられた声へと顔を向けると、そこには1人の長髪の少女が立っていた
長髪の少女は何処かオドオドとした様子でトウヤ達を見渡している
そんな姿を見て、エオーネはしゃがんで目線を合わせると安心させる様に母の様な温和な笑顔で持って話しかけた
「あら、あなたどこから来たの?こんな所にどうしたのかしら?」
「え、あの、その」
「大丈夫よ、ここにいる人達は良い人ばかりだから、オネェさん達に話してみなさい」
ね?と微笑みながら首を傾け言うと、女児はエオーネの母の様な雰囲気に安心したのだろう
自身の言いたい事をぽつり、ぽつりとカタコトながら話し始めた
「あの、私たち家族がいて、ご、ご飯が必要なの」
「あら、なら簡単ね、トウヤ良いかしら?」
「あ、あぁちょっと待ってください、今すぐとりに行って来ます」
昼時ということもあり、配給はすでに始まっている
その事を理解しているトウヤは、すぐさま自身の食べかけの膳を椅子に置くと、厨房へと駆け足で向かっていく
「それじゃここでオネェさんと待ってよっか、すぐにあのお兄さんが・・・」
そう言いエオーネが目を離した瞬間だった
少女は前へと駆け出し、トウヤの膳に乗っている半分ほど食べかけていたパンを掴み上げる
「あ、おい君、それはトウヤの食べかけ・・・」
オータムがそう言い切る前に少女は全速力で走り去っていく
待っていれば新しい膳を持って来るのに、わざわざ食べかけを掴んで持っていくという奇行に、一同は茫然とした様子で彼女を見送るしかなかったのだ
「あれ?あの子は?」
そうこうしている間に新しい膳を両手で2つ持って来たトウヤが帰って来た
自分が膳をとりに行ってる間に何があったのか把握出来なかったトウヤは、茫然とした様子で少女が走り去った方を見る一同に声をかける
「すまない、トウヤくん」
「え?え?どうしたんですか?というかあの女の子は?」
「トウヤのパン持って、走って行った」
「え!?あれ食べかけで半分くらいしかなかったですよね?」
「本当にごめんなさい、何というか予想外過ぎたわ」
「あ、いえいえ、俺は大丈夫なんですが・・・」
申し訳無さそうに謝るエオーネだが、正直予想外の出来事過ぎて未だに頭がついて行けていない
一方のトウヤはというと、もらって来たばかりの膳を眺めながらどうしようかと思案していた
「えっと、じゃあとりあえずこの膳も持って行ってみますね、あの子どの方角に走って行きました?」
「あっち」
「ありがとうございます!ちょっと俺行っています」
自分で食べるわけにもいかないし、待っていた所で何も解決しないので、取り敢えず持って行くことにしたのだ
フィリアが指差してくれた方角へと、取り敢えず歩き出す
「おーい、膳を持って来たよ、いたら返事してくれ!」
女児が走り出した方向へと歩いては来てみたが、当人の姿は何処にも見えなかった
トウヤの声は虚しく空を切り霧散して行く
「困ったなぁ、スープが冷めちまうよ」
手に持つ膳を眺めながらそう1人で焦っていると、何やら前の角で誰かが言い合っているのが目に入った
そこにいたのは件の少女と他数名の子供達である
何やら少女が持っているパンを分けようとしている様だが、何人かが癇癪を起こし取り合いを起こしている様だ
その様子を目に見ると早歩きで持って集団へと近寄る
「おーい!お前ら喧嘩しちゃダメだろ、ほら新しい膳を持って来たから・・・」
そう言い切る前だった
トウヤの姿を見つけた1人の少女が、足元に落ちていた石を拾い上げ此方へと投げつけて来たのだ
慌てて身体を捻り投げられた石を躱わすが、次に集団へと目をやると全員が木の棒や石を持って、明確な敵意を持ってトウヤへと目を向けていた
「待て待て!?俺はただ新しい飯を持って来ただけだぞ、やめろって!」
「うるさい!お前らの施しなんか受けるかよ!あっち行け!」
投げられた木の棒や石を身体強化魔法で強化した背中で受け止め膳を守ろうとするが、当の子供達にはその事はどうでも良いらしい
膳の中身が溢れる事も厭わず物を投げて来る
「いてて、痛い、いやお前らの持って行ったの俺のパンだろ、そんなちっさいのじゃなくて無理せずこっちを食えよ!」
「うるさいうるさい!お前らの施しなんか受けてたまるか!それ置いてとっとと失せろ!」
「あぁわかったわかった!置くから取り敢えず投げるのやめろ!溢れる!あと痛い!」
施し受ける気満々じゃないかと内心思いながらも、物が飛んでこなくなったのを見計らい足元に膳を置く
「とりあえずここに置いとくから、後でも良いから取りにこいよ!」
「わかったから早く失せろよ!どっか行け!」
このクソガキ、とあまりにもヒーローらしくない事を思いながらも、トウヤは足早にこの場を立ち去る事にした
そうしてある程度離れた頃、後ろから喧騒が聞こえ振り返ってみると子供達が膳へと群がっているのが目に映る
「食いたいなら食いたいって言えよ、全く」
自分にもあんな時があったな等と思いながら、その光景を見て思わず笑みを浮かべていた




