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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 門鍵モンキー
第一章 異世界に行ったらヒーローになったSO
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唸れフレアナックル 8

「やったやったザマーミロ、僕に逆らうからこうなるんだよ!」


その光景を見た下級怪人は肩を振るわせると、腕の触手を上下に振り回しながら足をバタバタと動かして踊り出す

自分のやる事に逆らい、自分の意見に反発の意思を見せた邪魔な存在を排除できて相当嬉しかったのだろう、その踊りは怪人の発した言葉もあって非常に醜悪な物に見える


「そのはしたない踊りを今直ぐ辞めなさい」


そう声をかけられ目を向けると、そこには一時的に戦闘が止めたのであろう、警戒したまま構えを解かずトウヤの方へと視線を送るフィリアとダライチの姿があった

だが、下級怪人はそれを気にする素振りを見せない

それどころかダライチに食ってかかる


「うるさいな、僕はヒーローを倒したんだぞ、いつまでも手こずってたお前と違って僕は倒したんだからこのくらい良いだろう!」


「その考え方がはしたないのです。良いですか?敵とはいえ相手が人ならば相応の敬意を持って接するべきなのです」


そんな言葉に下級怪人は理解出来ないとうんざりした様子を見せる

他人は他人、ならばそこに対して敬意は不要である。それが怪人の考え方なのだ

繋がりを重要視せず己という個のみを重要視する

どれだけ崇高な目的という仮面をつけようとも、その本来の目的というのは行動や言葉の節々に現れる物だが、それがこの怪人の今の行動に現れていた


「うるさいな、お前も僕がギタギタにしちゃうよ?されたくなかったら早くどっか行ってね、僕は勝利の余韻にもう少し浸ってから帰るから」


その言葉にダライチは思わず呆れてしまう

なぜ初戦の新米ヒーローに勝っただけでここまで調子づけるのか、ダライチには理解出来なかったのである

さらに言われずとも処分する予定である事を忘れているのか、それとも理解出来ていなかったのか、なぜ帰れると思っているのだろうか

そうしてダライチが喋ろうとした


「なぁもう一回聞いても良いか?」


下級怪人へ向けて声がかけられる

それは倒れ伏していたトウヤが発した物だった

彼は蹌踉めきながらもゆらりと立ち上がると今一度下級怪人へと問いかける


「なんで、お前はここにいた人達にあんな酷い事をしたんだ、あのおっちゃんも他の人達も悪い人じゃなかった、ただ毎日を過ごしてただろ、なのになんで!」


「うるさいうるさい、そんなの知らないよここにいたのが悪いんでしょ、貧民街では今も人が死んでるんだよ、それなのにあいつらは普通に暮らしてるんだからこんな目にあっても別に良いでしょ、どうなろうと僕には関係無いよ」


関係ない、それが怪人の行動の理由だった

広場にいた人たちの生活には無関心だからこそ破壊する

その行動の先に彼らにどの様な苦難が待ち受けているのか無関心だった

僅かな良心は痛みはすれど、貧民街の為なら暴力を振るう無知故の行動

そして、それが正義であるという驕りと増長

その事を理解したトウヤの胸の内に沸々と湧き出る情動を覚えた


「関係ない、こうしなければ弱者は救われない、その結果がこれなのか?殺して怪我させて、日常を奪って、これがお前の正義なのか?」


湧き上がる情動の中で口から溢れる様に言葉をポツリポツリと漏らしていく

ここにいた人々の、大切な人の亡骸を抱え泣く人達の事を思えばこそ痛む胸を抑えながら


「そうだよ、というか何なんだよさっきからうざいな、雑魚はとっとと寝てろ、死んでろよ!」


ーーーあぁ、こいつは許せない


心の内に湧き出た感情に火が灯る

何処までも熱い炎が、トウヤの感情を支配した

それは怒りだ、残忍酷薄で人の道から離れた外道、それが正義を名乗り人々を傷つけたというのであれば許し難い行いである


「そうか、これがお前の正義なんだな」


そう言いながら右腕を上げると顔の前に強く握りしめた拳を置き、そこに左手のブレスレットを右手のブレスレットに合わせた

ブレスレット同士が干渉した事により、相互に魔力が干渉しあい光が溢れ一つの魔法陣を形成する


「なら俺がお前を、平然と誰かを犠牲にしようと考えられるお前の正義を否定してやる!」


一気に腕を引く、それにより破壊された魔法陣が膨大な魔力を生み出す

本来であれば空間魔法が発動して消費されるはずだが、すでに発動しているので行き場を失った魔力がトウヤの装甲服へと流れ込み一時的に身体強化術式を劇的に強化する

身体を覆うスーツの体色は赤から黄色へと変わり魔力布も黄色から緑色へと変わった


『オーバーパワー、アクティベーション!』


「なんだよ、色変わっただけじゃんか!」


そんなトウヤの様子に怯む事なく、下級怪人は触手を振るう

だがトウヤは半身を捻り躱わすと即座にそれを掴み引っ張る

下級怪人は足腰を踏ん張り耐えようとするが、膨大な魔力が供給された身体強化術式によってもたらされた強靭な膂力は下級怪人の踏ん張り虚しくその身体を宙に浮かせた


触手の縮小と合わさり弾のようにトウヤの元へと飛んでいく怪人は何もすることが出来ず待ち構えていたトウヤの拳を腹に受ける事になる

タイミングを合わせて放たれた右ストレートは怪人の勢いも相まって強烈な一撃となり腹部に拳を埋めた

次いでトウヤは、腕を引くと腹を抑えながらよろよろと後退りをする怪人の頭目掛けて上半紙を捻り、足を鞭のようにしならせながら上段蹴りを喰らわせた

頭に蹴りをもろに受けた怪人はそのまま倒れ込んだ


ふらつきながら立ち上がる下級怪人へトウヤはトドメの一撃を構えた


『腕部集中!一撃粉砕!』


拳に魔力を集中させると、ブレスレットから機械音声が流れる

集中させた高濃度の魔力がブレスレットを中心に渦を描く


「セイヤーー!!!」


『フレアナックル!』


機械音声に合わせトウヤが叫び拳を振るう

渦からは過剰魔力を噴射し一撃に勢いを付ける

体制を崩し、未だ先の蹴りから回復出来ていない下級怪人に必殺の一撃が直撃した

勢いを乗せて放たれた拳は50tもの威力を発揮し怪人の身体へと深く打ち込まれる

打ち込まれた拳は同時に供給された魔力を前方へと放出し怪人の身体を巡る術式をズタズタに引き裂いた


「なんで・・・やだ、僕はみんなのヒーローに・・・」


怪人の身体から力が抜け後ろへと倒れ込む、引き裂かれた術式から魔力が逆流し、衝突し暴発する

やがて身体がバタバタと暴れ出し中枢の魔結晶供給機関を中心に過負荷による無貌とは比べ物にならないほど大きく、激しく爆散した


構えを解くと、トウヤは顔を上へと向けた後、フィリアへと顔を向ける

すでにそこにはダライチや無貌達の姿は無く、相も変わらず表情の無い顔を向けているフィリアが立っていた


「やりました。倒せましたよフィリアさん」


強敵を倒した達成感から出た言葉ではあるが、少し悲しげな感情を乗せて発されたその言葉にフィリアは一言だけ返した


「お疲れ様」



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