唸れフレアナックル 2改
フィリアに引かれるがまま街中を歩いていくと、2人はとある建物の前に辿り着いた
そこにはダーカー工房と書かれた看板が立てかけられているのをトウヤは見つける
その文字を見てトウヤはほんの僅かに心が重くなるのを感じた
「ここがダーカー工房、あの人とまた会うのか・・・なんかちょっと怖いんだよなぁ、なんか観察するとか言ってたし」
初対面の際、特に彼女と何かがあったわけでは無いが、自分が異世界人だと気が付いているのでは無いかと言う不安と、言われた言葉が主な原因ではあった
そんなトウヤの内情を知らぬフィリアは、構わず入り口にトウヤを案内しようとする
「こっち」
「え、ちょっと待ってください、俺まだ心の準備が・・・」
そう言い止めようとするがすでに遅く、扉は開いていた
フィリアが中に入るのを見て、トウヤも覚悟を決め中に入る事にする
中は調度品の類はなく、椅子とテーブルの置いてある質素な部屋だった
部屋には埃が舞っているのか太陽光の反射を受け煌びやかに輝いている
窓辺には蜘蛛の巣が張っており、本当に人が住んでいるのかと疑いたくなる惨状だった
だがそんな惨状も特に気にしていないのか、フィリアは平然と部屋の奥へと歩いていき扉を開く
トウヤも慌てて追いかけると、先ほど彼女が開けた扉の奥の光景が目に入る
その先には下へと続く階段があったが、光の介在を許さないと言わんばかりの暗黒が広がり、ともすればどこまでも続く様な印象も覚えた
トウヤの下を覗く目も何処か恐れを宿している
「真っ暗ですね」
フィリアの後ろから階下を覗くトウヤがそう呟くと彼女は振り返り彼の目を見て言った
「怖い?」
「怖く無いです!」
そう、とだけ呟くと彼女は階段を降りて行った
トウヤは自身のプライドにかまけた発言を呪ったが、階段の途中でフィリアがこちらへ不思議そうに顔を向けて待っていたので、大人しく彼女の後をついて行く
階段を一段、また一段と降りていけば、目の前に鉄製の重厚な扉が現れ呆気ないほどすぐに終わる階段だったのが見てわかった
フィリアは階段の途中で待っていたのではなく、扉の前まで来たから待っていたのだ
それがわかるとむず痒い羞恥心に襲われる
コンコンと音が聞こえ、ついでフィリアが声を発する
「博士、連れて来た」
その言葉を境に重厚な鉄扉が部屋の中の光を溢れ出しながらギギギと音を立てて開かれて行き、中からギルドであった時と同じ姿をしたダーカー博士の姿が現われた
「お、やって来たね、さあ入っておいで」
ダーカー博士が手招きをしながらそう言い2人は部屋の中へと入って行く
そこは様々な実験器具や工具の置かれた作業部屋だった
先程の部屋とは違い物が整理され虫どころか埃一つない
ふと、トウヤは壁にかけられた設計図へと目をやるとそれが自身の持っていたブレスレットの物だとわかった
「待たせたねトウヤ、あんたのブレスレットの調整終わったよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って渡された一組のブレスレットを手に取り腕に嵌める
ほんの数日感ではあるが、久々に手に取り嵌めてみると何故か懐かしい気持ちになった
そんな感慨に浸っているとダーカー博士がウキウキとした様子で話しかけて来た
「立ちながらですまないが、使ったことがあるから一通りはわかると思うけど一応説明するよ、このブレスレットは私の作った試作4号魔道具だ、ブレスレット内部には試製魔法陣破壊型空間魔力増幅陣、長いから破陣式って呼ぶけど、それが備わっている。それが発動する事によって膨大な魔力が放出されて空間魔法が発動して、別空間に収納されている5式試製強化魔導装甲服があんたを包み込つ形で現界する、ここまでは良いかい?」
「あぁはい、なんとなくわかりました」
そう言うと彼女は満足げに頷き説明を続ける
「この装甲服は人工スライム製の弾性に優れたスーツにST合金製物理装甲と私の作った結界術式があんたを守る。逆に攻撃面はバロン式身体強化魔法が組み込まれてるから最大18tの拳を放つ事が出来るから、普通の人に触る時は気を付けな」
それを聞くとトウヤはこれってそんなに危ない物だったのかと思わず青ざめてしまう
「さて、ここからが本題だ」
そう言うと彼女は机に向けて置かれていたキャスター付きの椅子を2つ転がして来て座り、トウヤにも座る様に促した
遠慮なくその椅子に彼が座ると話の続きを喋り始めた
「これで相手をするのはテロ組織の作った怪人と呼ばれる連中だ、忌々しい事に奴らは攫って来た人間を改造して、身体に身体強化術式や魔物の特性を盛り込んだ部位を埋め込んで暴れ回っているのさ」
「魔物の特性・・・ですか?」
「そう、例えばスライム系であれば伸縮自在な触手や溶解液、蜘蛛系であれば糸と脚、ハチ系であれば毒針や羽と言った具合の改造さ」
それを聞き思わず怖気がした
攫って来た人に対してその様な尊厳を破壊し戦わせる様な非道な連中がいるのかと、そして同時に攫われた人達の事を思うと悲しい気持ちになってくる
だからこそ絞り出す様な声で言った
「ひどいな・・・」
「あぁそうさ、非常に腹立たしい、そんな技術をあんな非道な事に使ってるなんてね、だからこそあんたみたいなヒーローが必要なんだよ」
忌々しげに顔を歪めたダーカー博士は、トウヤに向けてそう言い放った
だが、同時に疑問が湧いてくる
「でもそうならなんで王国軍とかがMRAで対応しないんですか?」
それは先のベガド防衛戦を見たからこそ湧いてくる疑問ではあった
スライムローパーすら一撃の元粉砕し、街の窮地を救った彼らであれば対応出来るのではないかと
しかし、ダーカー博士から帰って来た言葉はある種トウヤの期待を裏切る結果になった
「最新式のMRAは稼働時間は内蔵された魔結晶でだいぶ長いけど、それ以前に性能差で負けてるんだよ、体内で魔結晶を生成出来るほど膨大な魔力を持つ怪人は、MRAでも簡単に対処出来ないほど強化されているし、何より出現場所がわからない以上対応しきれないんだよ」
MRAは魔結晶により動く装甲服であり、基本的に内蔵された魔結晶以上の魔力消費は出来ないのだ、それ故に身体強化術式をより強く長く発動できる怪人に軍配が上がる
また、怪人によるテロは場所を選ばず大陸中で行われている
それ故に軍では対応し切れないという事情もあった
トウヤにとってはあの圧倒的な力を見せたMRAが怪人に負けるという事実が信じられないほどの衝撃だった
「だからこそ、私たちみたいなギルドに登録している工房が独自技術でヒーローの装備を作ってる訳だ、もちろん報酬がない訳じゃないけどね、性能を見せつければ同盟軍にだって売り込みに行けるからある意味でwin-winの関係なのさ」
「売り込める技術があればの話」
「うっ・・・!?」
先程まで部屋の中を物色していたフィリアがそう言い放つと痛いところを突かれたのか、ダーカー博士の動きが止まる
「あんまり痛いとこつくんじゃないよフィリア」
そう言いこほんと咳払いをする
「まぁそんな感じで先魔、先天性魔力過剰障害を持ってる奴にこうやってヒーローをやってもらっている訳だ、何か質問は?」
ダーカー博士の問いにトウヤは首を振り何も無いと言うと彼女は立ち上がり言った
「普通の冒険者になるのであればここまで過剰な装備を持つ必要はない、でも、あんたには力がある。だからそいつを使いな、くれぐれも使い方を誤るんじゃないよ」
「わかりました。俺頑張ります!」
そう彼女が言う
力の使い方を間違え、その力に溺れ他者を害する者は多い
だからこそ、彼女はそう言い放ったのだろう
それを理解したトウヤは彼女の期待に沿うべく返事をした
「あんたには期待してるだ、色んな意味でね」
怪しい笑みを浮かべそう言い放つ彼女の姿にトウヤは再度震え上がる
自分の何が彼女をそう思わせているのか、該当する事が一つしか思い浮かばない以上彼はやはりこう思うのであった
ーーーやっぱこの人苦手だ




