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邪神降臨 3

今回キリが良いとこまで書いたらクソ長になりました

どうも、新話投稿です

アドラに連れられたトウヤ

彼は背後から未だ感じる視線から怪人達が監視についているのだろうと思い抵抗出来ずにそのまま街の外へと出た


「どこまで連れて行くつもりだ」


「おぉそう焦るな、もう少しすれば着く」


トランセンドでの一件もあり、トウヤの内心には焦りが募る


急かす様に問い掛けるがアドラからの返答は何とものんびりとしたものであった


「焦ってる?」


彼の発した言葉に返す言葉はない

そんなトウヤの気持ちを理解してか、それを嗤う


「敵に敢えて返す言葉はないか、まぁそうだよねぇトウヤくん」


「・・・え?」


今こいつは何と言った

背中越し故に表情は見えないがどう見ても先程と変わらない背丈をしている筈なのに、聞き覚えのある女の声で喋った


「お前・・・誰だ・・・」


猛烈な嫌な予感と共に血の気が引く感覚をトウヤは覚えた


そして、そんな彼の予感に応じるかの様にアドラだと思っていた者はゆっくりと振り返る


「ウツツ・・・?」


「あ、覚えててくれたんだ、嬉しい」


赤黒く黄金の装飾が為された司祭冠に司祭服、男の身体なのに違和感のある女の顔

トウヤ達に護衛依頼を頼んだ元アイドルであり8大罪であるウツツのはにかんだ表情にトウヤの顔が青褪めていく


「お前・・・なんで・・・」


「アドラじゃなかったのかって? アイツならあっち、今頃召喚の準備してるよ」


「・・・っ!」


『空間魔法、アクティベート』


「変身!」


『音声認識完了、アクシォン!』


「わっ・・・!?」


ウツツが指を指し示した瞬間、トウヤはブレスレットへと魔力を込めると変身して弾かれる様に駆け出すとフレアジェットを展開して飛んで行く


「もう! せっかく再会したのに・・・つれないなぁ」


何処までも飛び続け離れていくトウヤの姿にウツツは中身の無い言葉を吐くと、自分の役目は終わったかの如く踵を返し街の中へと戻っていく


「それじゃあ・・・お仕事をしない悪い子を成敗しに行こうかな」


ギラついた瞳に狂気を宿し、街の喧騒の中へと消えていった













目的の場所へと近付けば近付く程、胸の内が騒つく


正確な場所はわからない筈なのに嫌な気配がその存在の場所を如実に示し出す


「早く・・・!」


ドス黒いまでの嫌な予感が形を成して語り掛けてくる

ーー奴を止めろ、と叫び続けるのだ


そんな内側から巻き起こる焦りは冷や汗と共に肌を粟立たせた


「やめろ・・・!」


視界の先に見えて来た街道の外れにポツリと佇む小さな人影が見える


暗い深淵から湧き出たようなドス黒い気配を撒き散らす見覚えのある赤黒い服装


『オーバーパワー、アクティベーション!』


「やめろ・・・アドラァ!!」


身体を覆うスーツの体色は赤から黄色に魔力布も黄色から緑色へと変えながら、徐々に近付き大きくなってくるそれ目掛け、ブレスレットを擦り合わせなりふり構わず必殺の一撃を放つ


召喚準備を行う8大罪アドラ目掛け一条の矢となり飛び蹴りを見舞うが、閃光と共に展開されていた防御結界へと激突した


火花を散らし拮抗する結界とトウヤ、しかし、穿つことは叶わないまま必殺技は解除されてしまう


先の戦いのようにファルスの腕を用いた攻撃を警戒した彼はそのまま結界を足場にして距離を離す


「おやおや、来るのが遅かったですなぁアサマトウヤ・・・さては狸にでも化かされましたかな?」


「アドラ・・・お前何をしようとしてる」


「何をとはまた奇異な事を聞く、わかっておられるのでしょう? 私が何をしようとしてるのか」


睨み合う2人、片方は嫌らしく嗤い、片方は仮面の下で怒りに燃えて口を結う


「そんな事させない、お前は俺が止める」


拳を構えそう告げる

これ以上好き勝手にはさせないと、強い意志を持って語られた言葉だが、アドラは思わず吹き出してしまう


「何がおかしい」


目の前で空を見上げ大口開けて狂ったように嗤うアドラにトウヤは再び口を開き声を荒げた


「何がおかしい!!」


「いやなに・・・まさか、貴様がくるまで私が何もしていなかったと思うのか?」


一瞬、それがどう言う意味で発された言葉なのか理解出来ない

だが、状況と照らし合わせて理解し続けられないほどトウヤも馬鹿では無かった

暫しの沈黙の後、身体を包む倦怠感と共に血の気が引く


それはある意味でトウヤにとって不幸だったのかも知れない


ひとしきり嗤いきったアドラは懐から瓶をひとつ取り出す


「もう終わってる。あとはお前が来るだけで良かったのだ」


言い終わるや否やアドラは懐から取り出した瓶の蓋を開けて中の紅い液体を足元の地面へ向けて流す


液体は仄暗い紫の妖しい光を発しながら、まるで何かに沿うように線を描いていく

その形はまるで魔法陣の様だった


いや、正確には魔法陣なのだろう

新大陸に広く普及されている術式の様な洗練されたデザインではなく

見たことの無い言語、凡そ魔法陣とは思えない非対称的な紋様であるが、間違いなく召喚のための魔法陣であると彼の中の何かが囁くのだ


「そんな・・・」


暗く、どこまでも昏く、深淵の気配を醸し出し魔法陣は紫色に輝く


「次元の狭間に揺蕩いし原初の魔王よ! 我らが神アズの名の下に今ここに現出せよ!!」


紫の仄暗い光に怪しく照らし出されながら、アドラは嗤う

狂った様に嗤い続ける


愚者は嗤い続けた




神に近しい化け物を使役出来ると愚慮し続けた


魔法陣から幾つもの腕を巻き付かせた様な触手がアドラの背後からゆっくりと伸びて来る


「ははは・・・はひょっ!?」


高笑いを続けるアドラをまるで邪魔だと言わんばかりの勢いでそれは薙ぎ払うと、素っ頓狂な声を上げ吹き飛び結界の外へと放り出された


酷く頭を打ち付けたのだろう、うぅと呻き声を上げるアドラではあったがトウヤはそれを気にする余裕など無い


ーーどうする。どうすれば良い・・・


アドラがいなくなった後も、無数の手と触手が次々と伸び出て重い身体を持ち上げようと地面へと次々としがみついていく


戦えないことは無い

だが、今のままでは勝てないと本能が告げる


「・・・でも、やるしか無いか」


しかし、それは戦わない理由にはならない

強く拳を握りしめトウヤは自身の背後にある街を、そこに住む人々の姿を想い描く


そうして、闘志を燃やす

護るべきものがあるが故に戦おうとする


「あてて・・・あ? ここ・・・何処だよ」


不意に聞こえて来た声に思わず意識が逸れた


顔を向けてみればアドラが不思議そうな顔をして周囲を見渡している


「お前・・・何言ってやがる!」


「うわっ、なんだよいきなり・・・なぁ、ここは何処なんだよ! 俺さっきまで家で寝てたはずだろ? なんでこんな所に・・・うわっ、うわっ!? なんだあれ!!?」


どうにも様子がおかしい事に気がつく


先程まで高笑いを上げて嬉々として召喚した筈の化け物、ファルスの姿を見るや否や顔を恐怖の色で染め上げたのだ


地面を這々の体で這いながら逃げようとする様子に思わずトウヤは眉を顰めた


「何・・・やってんだよ・・・」


「なんだよあれ! 父ちゃん、母ちゃん! 折角異世界に来たのにここは何処なんだよチクショウ!!」


「まさか・・・」


まるで童の様に叫び逃げ出そうとする様子から、トウヤはひとつの結論を出した


「洗脳術式が解けたのか?」


怪人達に施されていた筈の洗脳術式

8大罪にも施されていたのであろうそれが先程殴り飛ばされた影響かはわからないが一時的にでも無効化されて元の人格が蘇った様だった


ファルスを見て混乱し悲鳴を上げるアドラ

そんな彼へと触手が迫る


「来んなよ、こっちに来るなよ!!」


必死に腕を振るい触手を遠ざけようとするが、そんな微々たる抵抗などファルスは意にも返さない


触手はアドラの足に絡み付くとピンと張り詰めゆっくりとその身体を引いていく


「やめろ、やめろよ! 嫌だ・・・」


地面にへばり付き、土を爪で引っ掻きながら堪えようとするアドラではあったが、触手の引く力の方が強いのか地面に爪痕を刻みながら引き摺られていく


ゆっくりジワジワとした触手の緩慢な動きはアドラの心に色濃い恐怖の感情を与えながら、まるで獲物が抵抗するのを楽しむ様に魔法陣へと引き摺り込もうとする


「やだ・・・」


自らの力では敵わない、助からない

そんな諦めの感情がポツリと産まれた時、一瞬アドラの身体が強張り果て踏ん張る力が弱まる


その瞬間、待っていたと言わんばかりの勢いで触手が引かれていく

先程までとは比べ物にならない力に死に物狂いで地面へとしがみついたアドラの指の爪ごと彼の身体を宙へと引き剥がした


「やだやだぁ!! やだあぁぁぁぁ!!!! 助けて!!」


トウヤの存在に気が付いたのか手を伸ばし助けを求めて来る

その姿を見て一瞬彼は戸惑う


助けを求めてきたのは8大罪アドラ、だが、もし洗脳術式が解けているのであれば今はアドラにされた救うべき被害者でもある

果たして助けるべきなのか否か


しかし、そんな思考が整理されるよりも早く衝動的に次の瞬間には駆け出していた


「手を伸ばせ!!」


助けを求める声を無碍には出来なかったのだ


伸ばされた手をがしりと掴む

その瞬間トウヤの身体を衝撃が襲う

なんとか体勢を整えて踵を地面へと接地させて踏ん張ろうとする


「うぐ・・・ぐっ!」


「は、早くしてくれ、痛い!」


土を盛り返しながら結界の手前で止まったが、今度は触手とトウヤとの綱引き状態になった


何とか両手でアドラの腕を掴み引き寄せようとするが、その度にアドラの怪人として強化改造されている筈の身体からプチプチと嫌な音が聞こえてくる


このままでは、と仄かに諦めの感情が生まれ掛けたるが、そんなトウヤを見てアドラは涙を流し懇願した


「頼む・・・助けて・・・」


「・・・大丈夫、助ける・・・絶対に助ける!」


「だからお前は大事なものを失っていくんだよ、灯夜」


「え・・・?」


声が聞こえた瞬間、視界の端に黒が見え掴んでいた腕が軽くなった


「やだ、嫌だぁぁぁ!!」


引き摺られ遠く離れていくアドラの姿を尻餅をつきながら呆然と見つめる


ついには魔法陣の中へと引き摺り込まれ赤い液体がぼこりと上がって来た後、彼の声は聞こえなくなった

その彼を無表情な瞳で見送るとアドラの腕を切り裂いた人物、篝野は刀を鞘へと収め憂鬱そうに頭をガジガジと掻きむしる


「面倒事を起こすなよ、ほら、行くぞ」


「・・・ん・・・よ」


「あ? どうしたんだよ坊主、早く・・・」


項垂れながら何かを小さく呟いたトウヤに怪訝な顔を向けながら早く街に戻ろうと催促しようとした瞬間、篝野の胸ぐらを掴み上げた


「何で切った!! 何でアイツの腕を切った!!!」


「あぁ・・・その事か、アイツをあのまま生かしておく訳にはいかんからな」


「だからって・・・あんなの、組織の洗脳が解けてたかも知れないんだぞ」


「なら、もしその洗脳術式が元に戻ったらどうする気だったんだ?」


「それは・・・」


考えなかった訳ではない

助けるか悩んでいる時に何度も脳裏を過った考えであり、それ故に言葉が詰まる


「もうあんな事はごめんだよ」


「・・・? どういう意味だ?」


「さぁな・・・こっちの話だ、それよりも早く街に戻るぞ、そろそろ出て来る」


その言葉を皮切りに地面が激しく鳴動し始める


「これは・・・まさか!」


「行くぞ、俺たちに今できる事はない」


「なっ・・・ぐっ・・・」


そう足早に去ろうとする篝野の後を、トウヤは間に合わなかった事への責任を感じながら追い街に戻る




やがて残されたのはアドラが作り出した魔法陣とそこに揺蕩う触手だけとなった


それは呼び出された意味を知らない

ただ自分が観察していた者達の一体から呼ばれて出てきただけ

故にそれは自身の思う行動をする





父より言い渡された世界の再構築を始めようと世界を砕きその身体を魔法陣から引き上げた


赤子の鳴き声が世界に響き、現れ出たのは人の身体の寄せ集め

嘗て散った世界の残穢を身に纏う姿は正しく狂気そのもの


その姿は数キロ離れたベガドの街からもしっかりと確認出来た

壁を隔てた向こう側で赤子の鳴き声と共に現れた存在に人々は恐怖し狂気すらも覚えた


「アレが・・・お兄様の言っていた化け物ですか」


町役場の迎賓室からそれが生まれ出るのを見ていたフィレスは、恐怖から声を振るわせながらも睨みつけるような眼差しをそれへと送る


アレが街へと近付けばどれ程の被害が出るだろうか、果たして街と勇者を守りながら撃退出来るのだろうか、幾許かの沈黙の中で思考を巡らせるも出て来るのは不安ばかり


「・・・考えても仕方ありませんね」


考えても答えは出ない

ならば出来る事を最大限やろうと思い至ると後ろで控える使用人へと顔を向けた


「第一防衛艦隊へと連絡して下さい、偽装解除後に戦闘準備に入って下さいと」


王国の威信と存亡を賭け、鋼鉄の艦隊が動き出す


その結末が果たしてどの様な結果になるのか、今はまだわからない

阿鼻叫喚の渦中にあるベガドの街

逃げ出す人々、それを守る為に動き出す第一防衛艦隊


邪神の降臨に王女は決断を迫られる


ーーだから、お願いね?


母たる神の願いに応えるように鈴の音が鳴り、魔力はざわめき、己が拳を握り締める


次回、邪神降臨 4


もちっと続くんじゃよ

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