義妹襲来 5
続きです
次回エピローグ!!
「師匠に・・・乱暴しないでください・・・」
だが、その時が訪れることはなかった
鈍い打撃の衝突音、しかし、一向に来ない痛みに目を開けるとトローネが彼の前に出て腕を交差し盾にして拳を防いでいたのだ
渦巻く風に腕に纏った風魔法が攫われていき彼女の衣服がさらに破れ生肌にも傷が出来ていく
戦闘服に備わった身体強化術式による強化が乗った重い拳の一撃はトローネの腕を押し続け今にも力負けしそうになっていた
それでも、護りたい者が後ろにいるからこそ、トローネは痛みに耐え必死に歯を食いしばり踏ん張る
「師匠は・・・いつも街のみんなの事を考えて、いつも優しくしてくれて・・・そんな師匠に乱暴な事しないで下さい!!」
リーゼの事情は先ほどの問答でわかった
セドを意地でもこの街から離れさせたいのもわかっている
未だに先程味わった痛みが、恐怖となって襲い掛かって来てもいた
呼び起こされる学園での記憶
あの時と同じでどうせ守れないという諦めの感情も浮かぶ
だからこそ、心が叫ぶのだ
それがどうした。そんなの知るかと
セドが傷付くのを弟子として、何よりも人として許せない
守りたいという気持ち
それがトローネの恐怖を振り払い再び立ち向かう勇気を与える。前へと進む力を生み出す
「グゥゥゥ!!」
「この子・・・なんて馬鹿力なの・・・」
気合の叫びと共にリーゼの拳の動きが止まる
それどころか逆に押され始めた事実にリーゼは驚きを隠せないでいた
セドを護りたい
そんな気持ちがトローネに力を与えたのだ
しかして、力と力の均衡は破られる
交差した腕を広げる様にして拳を弾き返す
「トローネ・・・」
「師匠立って・・・立って下さい、このままだと怪我します。それに・・・師匠が傷付くとこなんて見たくないです。だから、逃げて下さい、ここは私が・・・!?」
そう言いリーゼと相対するトローネは拳を構えようとした刹那、彼女の腕をセドが掴んだ
「師匠・・・?」
不意に腕を掴み静止されて驚くトローネだったが、同じ様にセドも自身の無意識の行動に驚いていた
だが、その行動を取った自身の心の内を整理すると顔を上げ立ち上がる
「師匠・・・?」
「すまない、トローネ・・・ここは任せてくれないか?」
遅すぎると思う
勝手に出て行って、勝手に決めて、今更家族としてどの面下げてものが言えようかとも考えた
だが、トローネの言葉を聞き、自身を振るい立たせありのままの想いの丈をぶち撒ける覚悟を決めたのだ
それは同時にリーゼの想いを否定する事に繋がる
しかし、なすべき事を成すために、セドはリーゼへと真っ直ぐな視線を向ける
彼の視線に居心地悪そうに彼女は顔を歪めた
「何ですか・・・何ですか・・・今更、そんな・・・真っ直ぐな眼を向けて・・・」
悲しげな表情を浮かべるリーゼにセドの心が痛む
だが、それでもと
覚悟を決めて手袋へと魔力を流す
「すまない、リーゼ・・・だが、俺にはやるべき事がある。成すべき大義がある」
それは誰に言われたでもない
ただ彼自身の願い
この街に流れ着いたその時から抱いていた願い
亡き友と誓い合った願い
「俺はこの街を守りたい、そうアイツらと約束したんだ」
未だこの街の脅威は去っていない
それどころか3大怪人を倒してから事態は悪化していると言っても過言では無い
トウヤ達がいれば確かにこの街は守れるだろう
だが、それでも
自分がいる事で少しでも犠牲者を減らせるのであれば、ここに残って守りたいのだ
「牙無き民草を護ることこそ、我ら貴族の天命也、故に俺はこの街の民を守る」
拳を封じ自分という存在の証明の為に抱いていた願い
だが、多くの経験を得て今は貴族の生まれとしてただ純粋に願うのだ
この街の人々を護りたい、護らねばと
そして、その願い叶える為に封じていた力を指を弾き解き放つ
『第一制限魔法解除』
解き放たれた魔力が周囲を駆け巡るが、続け様にもう一度指を弾く
『第二制限魔法解除』
機械音声と共に不可視のはずの魔力が可視化され線となって空間に映し出される
魔人を倒し国を守る事を目的とした守人たる貴族の力、実にその3分の2が解放されたのだ
濃密な魔力は空気を重くし、その圧を前にトローネもリーゼすらも気圧された
「まだここからが本番という事ですね、お義兄様・・・」
虚勢を張り、セドへと強気に声を掛ける
「違う、これで終わりにする」
「終わり・・・? もう決着が着くとお思いですか?」
「そうだな・・・」
セドの言葉に気圧されながらも虚勢を張り続けるが、その言葉に小さくため息を吐くと拳を構え出す
「次で決める」
その言葉と共に溢れ出した魔力が強烈な風の奔流へと姿を変え、一定の指向性を持ちながら物を巻き込み収束していき拳を大きく震えさせた
それは必殺の型
全ての型の応用により、風の刃を細胞の隙間を縫わせる事で身体の内側から外側にかけて破壊し尽くす
奥義にして最奥、故に最強
「殺してでも残りたい、それ程の想いがこの街にあるんですね・・・ならば、私も覚悟を決めます」
愛しき義兄の覚悟を前に、気が抜けば飛ぶのではないのかと思える程の勢いを持つ追い風の中でリーゼもまた構えを取る
「あなたの手足をもいででも連れて帰る。それが私の願いですから」
相対するリーゼの拳にも風が収束していき拳が震え出す
セドの作り出した風の流れにより纏まりは悪いが、それでもここで引く訳にはいかない
互いに拳を構え合い鋭い眼光を向けて睨み合う
しかして拳の震えは次第に止まりトローネが息を呑んだその時であった
「「浸透・・・!」」
ほぼ同時に声を合わせながら2人の姿が消え次の瞬間には拳同士を打ち合わせる
「「破砕拳!!」」
ぶつかり合う拳と風
細やかな風の刃は互いに斬りつけ合い弾け消滅していく
次第に弾けた風が周囲の空気を押し退け空気が薄くなるが、それでも2人は押し合いは止まる事はない
だが、リーゼの身体が徐々にではあるが押されていく、力負けしているのだ
そんな状況に冷や汗を流す
「負けられない・・・お義兄様を連れて・・・家に・・・」
譲れない想い
義兄であるセドの身を守る為に、危険なこの街を出て家へと連れ帰る。その願いを胸に足に力を込め踏ん張った
ーー関係ない人もお義兄様も傷付けて?
ほんの僅かに脳裏を過ぎる正気の言葉に気が逸れ踏ん張っていた力が僅かに弱まる
「あっ・・・しまっ!!?」
それが契機だった
互いに拮抗していた力の中で、片方の力が急に弱まったのだから当然ではあった
気が付いた時には既に遅く、ほんの一瞬力が弱まったリーゼの拳は一気に押し切られると、セドが拳を振るった時に押し寄せた風の大波により身体は宙を舞い壁に叩き付けられる
直撃こそしなかったが高密度の風により細やかな刃で刻まれた身体は、立ち上がることすら叶わず、動くことなくただ仰向けに倒れながら茫然と空を眺めることしかできなかった
「負けた・・・私が・・・」
義兄を守る為に拳を握り、あの時の悪夢から逃げる様に戦ったのに負けてしまった
その事実が重くのし掛かりリーゼの心にジワリジワリと染め上げていく
「そうだ、お前は負けた」
そんな彼女にセドは近付きながらも勝者として自身の勝ちを宣言すると、リーゼは思わず顔を歪ませた
「どうして・・・帰ってきてくださらないのですか、この街は危険だと言うのに・・・」
「だからこそ、今帰るわけには行かんのだ」
今にも泣きそうな顔を手で覆い隠す、昔と何も変わらない義妹の姿に思わず小さく息を吐く
「リーゼ、俺は弱いか?」
「いいえ、お義兄様は・・・強いです」
「俺を信用出来ないか?」
「今でもずっと・・・信用しております。お義兄様こそが次期当主に相応しいのだと信じています」
一言発する度にリーゼは首を横に振るう
2度の襲撃も、魔人との戦いも、8大罪との戦いも生き延びてきた義兄が弱い訳が無い
今でもこうやって傷付いても尚気に掛けてくれる義兄を信用できないわけが無い
「なら、俺を信じてくれ」
「お義兄様・・・」
「俺は死なない、いつか必ずお前や父上の元に帰る。だから・・・」
ソッと差し出された手の向こう側、昔と何も変わらない少し困った様な笑顔を浮かべる義兄の顔を見て目を見開く
「今暫く、時間をくれないか?」
そんな彼の姿にリーゼは薄い涙で煌めく瞳を細めると小さく笑う
「お義兄様は本当に・・・困ったお方です・・・」
いつも助けてくれた時と変わらない微笑みを前にリーゼは差し出された手を取った
多分エピローグはすぐ書けると・・・今回よりは早く・・・書きまぁす!!




