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飛んで南国!! 10

大変お待たせしました

新話投稿です

超越者にはそれぞれが極めた力がある


秋雨秋水は剣技

アークトゥルスは魔法


ならばこの国の王たる超越者

ザンセンドの極めたものはなんなのか


「異貌にして異邦の神よ、我が名はザンセンド! この国の王だ・・・どうか大人しく帰ってはくれまいか?」


例え邪教の化け物とは言え神は神

ならばこそそれ相応の礼儀で持ってザンセンドは笑みを浮かべながら語り掛ける


しかし、その声に化け物は答える事はない

返答として送られてきたのはかの者の腕であった


トウヤ達では捉えきれない音を超える速度で衝撃波を生みながら迫る腕を前にザンセンドは勝気な笑みを収める事なく迎え打つ


突き出した拳が迫る腕とぶつかり合った瞬間、暴風が吹き荒れ刃の形となった風が周囲を切り刻む


「よかろう、ならば我が力を持って其方を送り返すとしよう」


離れていく腕と拳

さりとて次の瞬間には再び腕が迫り、ザンセンドもまた拳を振い迎え打つ


ぶつかり合う拳と腕

その度に生じる衝撃波は辺りの物をことごとく切り裂き舞上げて行く


そうザンセンドの極めた力は己の肉体

かつてこの地に訪れ、トランセンドを建国した勇者にあやかり鍛え上げた己自身の肉体こそがザンセンドをこの国の王にして超越者たらしめる力なのだ


力と力のぶつかり合いの余波で草花は空高く飛び

木は薙ぎ倒され噴水は折れて転がる


人もまた例外ではない


「おわ・・・おわわわ!?」


「しっかりと掴まれ!!」


人智を超えた戦い

それを2度見てきたトウヤではあったが、目の前で繰り広げられるぶつかり合いに間抜けな悲鳴を上げ踏ん張り、そんなトウヤにエオーネ達はしっかりと掴まる


「お母様本気出し過ぎよ!!」


「たった5回拳を打ち付け合っただけでこれか!!」


ベーレンの悲鳴の様な叫び

しかし、トウヤには見えていた


ーー5回なんてものじゃない!


また1回打ち付け合う拳

だが、ベーレン達にはあくまでそう見えているだけで実際はもう50回は殴り合っているのだ


ーー早すぎるだろ!?


一体どれだけの修練を重ねればこの境地に至れるのだろうか

想像も付かない力に驚く


だが、そんな拳の応酬も唐突に終わりを迎える

6度目の打ち合いをしたところだった

化け物とザンセンドの動きがピタリと止まり、共に拳を納めたのだ


衝撃波が止み舞い上がっていた物が落ちてくる中で両者は微動だにもせず睨み合う


お互いに察していたのだこのままでは勝負が付かないと、三日三晩戦うことも出来るがそこまで時間をかけたくは無いと


「其方も飽いてきたのでは無いか?」


だからこそ、次で勝負が決まるのだと察する


「・・・そろそろ決めるとしようか」


ザンセンドから溢れ出る闘気から今までのジャブとは違う。正真正銘超越者としての本気の一撃が来るのだと、本能で化け物もトウヤ達も察したのだ


しかして拳を構えるザンセンドへと化け物は今度は握りしめた拳による本気の一撃を放つ


その一撃をトウヤ達は認知出来ない


音どころか光の速度にすら迫る一撃を前にザンセンドはただ不敵に笑う


笑って拳を構え突き出す



何よりも重たい一撃というのは全身筋肉と重心を適切に使う事でなによりも美しいフォームができ、そこから強力無比な一撃が生まれるのだ

民要長書房「我が青春、漢の拳大全」第三章より抜粋



ザンセンドの美しいフォームから繰り出された一撃は空気を、空を断ち、空間のベールが砕かれ漆黒の軌跡を描く


煌めく空間の破片達がザンセンドを輝かせるその一撃に名は無い


しかし、もし名をつけるのであれば皆が口を揃えこう言うだろう



正しく至高の一撃だと



化け物、ファルスの腕が空間と共に砕けた


その事実に遅まきながらも危機感を覚えたのだろう

闇から現世へと出て来ていた腕を総動員させてザンセンドを殴り殺そうと殺到させようとする


その姿にもう先程までの強者たる余裕は微塵も感じられない

だが、全てが遅かった


「もう一撃、踏ん張れよ?」


殺到させた瞬間にはすでにそこにあった筈のザンセンドの姿はなく拳達は空を切ると、変わりに視界に広がる砕けた空間を伴った拳を知覚し、次いで触覚を通じて襲ってくる強烈な感覚にファルスは悶える


次元ごと自身の身体を砕かれる痛み

それはファルスにとって久方ぶりに感じる痛みだった


闇の中へと押し戻されて行く身体を必死に動かそうとするが、抵抗虚しく何かを為すことなく振り切られた拳の軌跡によって押し込まれた後に闇は砕かれ共に消滅していく



後に残ったのは戦う前よりも荒れ果てた教会の庭

その中でザンセンドは先ほどと何も変わらない自信に満ち溢れた勝気な笑みを浮かべている


「遅くなってすまないな、終わったぞ」


陽光を一身に浴び、誰よりも強く、堂々とした有様にトウヤは目を奪われるのだった











「終わったみたいですね」


参列者が避難している教会の中

候補生達が戦っていた異形達が苦悶の叫びを上げ消えて行く光景とザンセンドの勇姿を目にした民衆による喝采の中で、戦う術が無いということで避難していたマイン


どこかつまらなさそうに呟く彼は「この程度か・・・」とため息を吐くと隣に立つ男へと嫌らしい笑みを浮かべながら顔を向けた


「あれが彼らにとっては原初の魔王らしいですよ、どう思いますか? ゼトアさん」


どこか含みのある言葉に思わずゼトアは眉を顰める


マインとゼトアの付き合いは長いがそれでもこの男の嫌味には慣れそうに無い

そう思うと込み上がってくる諦めの感情と共に彼もまたため息を吐く


「どうもこうも無いですよ、あんなのが原初の魔王な訳ないでしょう。もしフェイルさんがここにいれば完全顕現していたとしても一瞬で勝負が付きますよ」


「そうですよねぇ、彼なら一瞬で倒していたでしょうね、それに・・・」


「あぁ・・・もう良いでしょう」


何かを言いかけたマインではあったが、歓声の中で耳を傾けるのに疲れたのか、ゼトアの一声によって遮られてしまう


まだ話し足りなそうにするマインではあったが、無事生還出来た事に喜ぶ人々を眺めるゼトアの姿を見て何を思ったのか開きかけた口を塞ぐ


何も考える事なく、2人はザンセンドを讃える民衆と教会の外でザンセンドに肩を叩かれ痛そうに顔を歪めるトウヤの姿を眺め、今日の事件が終わった事への余韻に暫し浸り始めた


「・・・フェイルさんはこんな事望んでいないですよ」


不意に発された消え入りそうな程小さな声にマインはクスリと嗤う


胸の内から首裏を通って膨れ上がってくる感情の波から思わずポケットに入った時計を強く握りしめる


大切な思い出があった

大切な家族があった


だが、それがなんだったのかもう思い出せ無い


長い時をへて忘却の彼方へと消え去った故郷の姿、しかし、想うことは出来る


「それ・・・あなたが言える事なんですか?」


例えあの失敗作が失敗したとて関係ない

何度も挑み待ち焦がれ、いつか訪れるその時を待つのだーー


「ZTOA」


怨嗟の火が灯った暗く冷たい目で、マインはゼトアを見た



ーーお前達を殺すその時を

クヨキシとアドラはザンセンドとファルスが戦っている最中に逃げました。

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