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飛んで南国!! 9

舞う筋肉に踊る筋肉


異形の襲撃があった教会では候補生と異形との攻防が続いていた


異形からの攻撃を筋肉と技術で受け流し、逆に一撃を加えていく

お互いを見る事なく、ただ類稀なる頭脳で動きを予想して互いの背を守り異形達と互角の戦闘を繰り広げていた


ーーマズイわね


そんな状況でもエオーネは危機感を覚えていた


例え互角に戦えようとも決定打を打てず異形の数を減らせていないのだ


候補生達は少しずつ消耗していっているが、異形はそんな様子を見せる事なく戦い続けている

攻撃を逸らせても倒せない


そんな状況が続けばこちらだけが限界を迎えるのは必然


振るわれたクヨキシの腕の鞭を躱しながらもこの状況への打開策を考える


しかし、そう易々と案など出ない


「打開策でも考えてる? 無理よ、あなた達に出来るのは諦めることだけ!」


エオーネの考えている事がわかっているのだろうクヨキシは嗤いながら再度腕の鞭を振るう


ーー避けれない


完全な直撃コース、当たればただでは済まない人外の一撃を前にエオーネは何をするでもなく腕の鞭を見つめる


諦めたのか?


否である

腕の鞭とエオーネの間に入ってきた1人の漢が鞭を払い防ぐ


「残念だが、我々に無理という言葉は存在しないんだ、諦めは停滞を意味し、停滞は衰退を意味するからな」


「それを無駄な足掻きと言うのよ!」


振るわれた鞭の雨

一振り一振りが音速を超える一撃、だが、彼らはそんな中を踊る様に躱して行く


「今は無駄でもいつか活路を見出すさ!」


「それっていつ? 3年後かしら?」


「せっかちさんね! わからないからこそ足掻くのよ!」


「それが無駄って言ってるのよ!」


叫び声と共に薙いだ腕の鞭

何度も行われてきた攻撃を前に慣れた2人は難なく飛び上がり躱わすが、伸び切った腕から飛び出た突起に何かを察すると身を捩る


その瞬間、エオーネへと向かい棘が伸びた


先に動いていたおかげで躱わす事が出来たエオーネ、その姿を見るとクヨキシは内心苛立ち舌打ちをする


だからこそ、隙ができた


「なっ・・・グゥッ!!」


意識が外れた一瞬の隙をつきベーレンがクヨキシの傍まで一気に近付くと横腹に拳を突き立てたのだ


スライムの柔軟な身体を有するクヨキシではあったが、ベーレンの一撃は重く衝撃波を伴いクヨキシの身体全体を揺らし、それでも消しきれなかった衝撃はクヨキシの身体を最も容易く吹き飛ばす


「ナイスよ、ベーレン」


「ありがとう、だが油断するなよ」


「わかってる」


拳をぶつけ合い称賛の言葉を投げ掛けるエオーネとベーレンではあったが、すぐさまクヨキシへと目を向ける


少なくないダメージを与えた筈だが、2人はこの程度でクヨキシが引き下がるわけがないと考えていた


そして、その予想を再現する様にクヨキシは立ち上がる

先程まで見せていた油断も余裕も全て捨て去った怨嗟の目を向けながら


「さて、そろそろ本番かな」


「良い加減あっちの援護に行きたいけど・・・無理そうね」


そうして両雄は拳を構え怪人を迎え討とうとする





そんな時であった

膨大な魔力の近付きを感じのは


驚きと共に目を向けるとそこには1人の男が立っていた


「・・・なんだこれ」


目の前で美しく舞うようにして戦う筋肉達に状況を飲み込めず混乱しているトウヤの姿がそこにあった


鳥や炎の装飾が散りばめられた水色のスーツ、背中から生えた1対の魔結晶の翼

これが噂のフェニックスフォームかと思うとクヨキシは顔を歪め、エオーネは心強い援軍が来たと笑う


「・・・トウヤ、遅かったじゃない」


「すみません、遅くなりした」


「トウヤ!! 避けて!」


応援に喜んだのも束の間、何かを感じ取ったのかフィリアと戦っていた異形が彼女を無視してトウヤ目掛け駆け出していた


その光景にフィリアは悲鳴のような叫びを上げるが、彼は冷静にフレアジェットを起動する


異形が迫り頭の様な刀が振り下ろされた瞬間、彼の身体は瞬間的にマッハ3にまで加速すると異形の背後へと周り腕から魔結晶の剣を伸ばす


「ウィングソード!」


膨大な魔力の流れを纏い異形の脇腹目掛け振られたそれは異形の身体を両断する


候補生ですら倒せなかった異形を異国の友が倒した。その光景にベーレンは驚きのあまり目を剥き、エオーネはそっと微笑む


「私達じゃ力不足なの、お願いできる?」


上と下とで分たれた異形は身体の端から灰の塊へと姿を変えて行く中でトウヤは振り返ると、真っ直ぐ視線をエオーネに向けながら声高らかに宣言した


「任せろ!」


威風堂々たるヒーローの姿がそこにはあった

その姿に候補生達も教会に避難している者達も、安堵を抱き、心を震わせより強く武器を拳を握りしめる


だが、そんな中でクヨキシだけが歯を噛みしだく


「なんで・・・」


この目で更なる進化を遂げたアサマトウヤを見れたのは良かった

その力を実感できて嬉しかった


だからこそ、想う

何故この場に戻ってきたのかと


怒りに任せ空を見上げながら叫んだ


「アドラ! いるんでしょ!!」


「もちろん・・・」


「・・・!!?」


いつからそこにいたのか、いつの間にここに戻ってきていたのか

それは誰もわからなかった


唯一わかる事は、嫌らしくニヤついたアドラが既にそこにいる


ただそれだけであった


「いつの間に・・・!」


「準備は出来てる?」


「既に終わっている。あとは垂らすだけで良い」


「そう・・・」


彼らが何を言っているのか、理解できるものは1人としていないが何かをしようとしているのは明白だった


ーーなんか・・・まずい・・・


既に異形を召喚し教会を襲撃しかけて来たにも関わらず、この上で何をしようというのか


奴を止めねば

心の奥底から湧き上がる良いしれぬ不安がトウヤ達を前へと駆り立てる


エオーネもベーレンも見守っていたフィリアもトウヤも、近くにいた者達はみなクヨキシとアドラを止める為に走った


「トウヤ、フィリア様・・・」


だが、それには少し遅過ぎた


懐から赤い液体の入った小瓶を取り出すと


「頑張って生き残ってね?」


ゆっくりと傾け地面へと垂らしていく


そして、空中に現れた闇に目を奪われる








「何故呼んだ?」


何故コイツがここにいるのかと

トウヤの心が強く叫ぶ


「何よ、コイツ・・・」


「化け物・・・」


闇より出て闇より暗い

そんな魂が震える存在が先にいた


和国で戦った。あの時と何も変わらない姿

額から伸びる2本の角と大きな口を開け倒された筈の鬼神は闇から出る


ヒシヒシと震える空気が肌を打ち、自然とトウヤ達の足も止まりその場で立ち尽くすと鬼神は悠然と立ちトウヤ達を睨み付けながら口を開き叫ぶ






「何故コイツを呼んだ!!」


瞬間、鬼神の背後から何かが飛び出し鬼神を横から挟み込んだ


それはまるで口

鬼神の巨躯をも最も容易く収めてしまうほどの巨大な口


顔を横倒しにして開いた様な口から生えた白く、縦に並んだひき臼の様な歯が左右から鬼神の身体を挟み、太い腕を潰すがそんな中でも鬼神は叫んだ


「何故だ・・・コイツは我らが父と違う、あやつとも違う・・・ただ狭間を揺蕩う獣なんだぞ! 何故コイツを呼んだ!!」


尚も無事な腕を使い歯を押し退けトウヤ目掛けて手を伸ばす


だが、そんな抵抗も虚しく鬼神の腹に細く青い肉が巻き付く


「何故だぁ!!!」


次の瞬間には叫びを上げながら青い肉、舌によって奥へと引き摺り込まれていき口は閉じられた


しかし、そんな光景を目の当たりにしてもトウヤ達に動揺はない


最初から彼らが怯え見ていたのは正しくこの存在だったからだ


まるで嗤うように縦に重なり合う歯を見せつけるそれは青いふっくらとした唇をゆっくりと閉じていく


闇の中に縦に浮かぶ巨大な青い唇

その光景に思わず生理的嫌悪感を覚える程に生々しい光景に吐き気を覚えた


「キッショ・・・あんなのが原初の魔王なの?」


「おお!! よくぞ、よくぞ!! 我らが主の半身にして滅びの神よ!」


閉じた唇が今一度開かれ巨大な瞳が姿を見せた時、アドラは歓喜の声に打ち震え涙を流す


浮かぶ闇の中からいく本もの触手が伸びる光景にアドラは興奮気味に声をたかだかと張り上げた


「さぁ覚悟しろ異教徒共、我らが神の制裁を喰らうと良い」


現れいでた無数の手がうねる巨大な目と口

身体の奥底、魂から湧き出る嫌悪感と共にトウヤ達は冷や汗が止まらない


「諦めろ、もうお前達は終わりだ」


勝ちを確信して発された最後通牒

それは確かな事実なのだろう


化け物

その言葉に相応しい異形の姿は、この世界において見ることの無い方法で現世に現れ、生物としてあまりにも異質で、神として崇めるにはあまりにも冒涜的な姿をしている


武器を握り、拳を握りしめながらも誰しもがもうお終いなのだと何処か達観した気持ちになっていた


ただ1人を除いて




「まだだ・・・まだ諦めてたまるか・・・!」


「ほう・・・」


震える足を前へと出しながらトウヤが叫ぶ


「まだ俺達は生きてる。まだ俺はここにいる!」


「トウヤ・・・」


恐ろしい異形が出た


ーーだからなんだと言うのだ・・・


この世の終わりを考えてしまった


ーーだからなんだと言うのだ


コイツには勝てない


ーーだからなんだと言うのだ!!


まだ彼の心の火は消えない

恐ろしくとも、終わりを連想しようとも、勝てないと悟ったからとて

立ち向かわない理由にはならない


力が抜ける程の恐怖を拳を強く握り締め堪えながら、トウヤは叫んだ


「俺達がやらなくて誰がやる。俺達が諦めてどうする。今戦わなかったら明日の誰かが傷付く、なら立ち向かわない訳には行かないだろ!!」


俺達、複数形で発した激励の言葉

それは果たして誰に言った言葉なのだろうか

フィリアなのか、ベーレンなのか、エオーネなのか


それとも自分自身に向けて発された言葉なのだろうか



だが、今はそんな事どうでも良い



考える間もなく、エオーネもベーレンもフィリアもその言葉に反応して前へ、前へと足を動かす


今護るべきものを護る為に

明日の名も知らぬ誰かを護るためにと

決意を固め恐怖に屈する事なく前へと足を動かす


そんな彼らにアドラは暫し呆然とする


恐怖に屈せず、諦めずに前へと出る人の強さを見た


そうであるが故に、アドラは下卑た嗤いを浮かべる


ならばこそ、その心をすぐに折って絶望に歪む顔を楽しもう

そう考えるとトウヤ達に向かい歩き出す


召喚した闇、ファルスの隣を通り前へと出るとアドラはーー



「ならさっさと惨めにしンゲフェフ!!」




ーー吹き荒れる衝撃波と共に間抜けな悲鳴をあげながら音を置き去りにして吹き飛んでいく


何が起こったのか理解できないでいるトウヤ達ではあったが、巻き起こる風を前にたじろぐぎながらも確かにその勇姿をしかと目に焼き付けていた


「その生きやよし、だが、まずは私が手本を見せてやろう」


生きとし生きる者の父にして母、トランセンドの王にして超越者


超越者ザンセンド

ここに推参

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