おいでませ異世界 2改
長いと思ったので、分割しました
ベオテの森は魔の森だと言われている。
中心に向かえば向かうほど魔素、大気中に浮遊する粒子化した魔力が濃くなり、細胞が壊死して死に至るか、魔獣へと変異すると言われている。
だが、外縁部はそれ程魔素の濃度は濃くなく、豊富な種類の魔獣や地面に滞留している魔素の影響で変異した植物により観光地としてや、高性能な防具、装飾品や各種魔道具の材料として需要を得ていた
その所為か密猟者も後を立たず、毎年の死亡者の過半数がこの密猟者のものであった。
「だから私みたいな村出身の人が毎回見回ってるの、そう考えるとある意味運が良かったんだよ?毒もらった時に私が通り掛かったのは、もしもあのままなら魔獣に食べられてたかも」
「へ、へー・・・」
街馬車の乗り場までの道中、トウヤはライフルを携えた少女、サラより森の説明を受けていた。
しかし、正直何を言われてもどれも現実味に欠けるまるでファンタジー小説の様な内容に、ただただ混乱していた。
そもそも魔素やら魔力やら魔獣やらと説明を受けたところで信じれるはずもないのだが
「あ、ほら見て、あそこにいるのがポズア、あの蛇には気を付けてね、あれに噛まれると最悪死ぬから」
サラが指差した方向に目を向けると、とぐろを巻いている45cm程の太さを持つ巨大な蛇がいた
「うわぁ、でっかぁ・・・あれどんだけデカい蛇なんだよ」
「成体でだいたい12mくらいはあるらしいよ?」
「なんかあそこだけ地面が蕩けてるけど・・・」
「それはポズラの毒の所為、近付くと目から吹きかけてくるから気を付けてね」
何気なくさらりと言われた言葉に思わず戦慄するが、そんな様子のトウヤを安心させる様にサラは言う
「まぁ最悪雷魔法を使ったら撃退できるから、準備だけしとけば大丈夫だよ」
「ま、魔法? あの呪文唱えるやつ?」
「いやいや、なんで古式使おうとしてるの? 現代魔法で十分だよ?」
「古式? 現代?」
「えっと、和国人だっけ? それなら陰陽術の方が馴染み深いかな?」
わからない、そのどれもがわからない
そもそも古式と現代の差すらわからないのに陰陽術という単語を入れられるとさらに混乱に拍車がかかる。
頭が真っ白になり、沸騰しそうなほど頭が熱く、重くなる状況にトウヤは
「うん、そうだなぁ・・・でも陰陽術って、その・・・実際に見た事ないんだよなぁ」
諦め、受け入れる事を選択した。
どこか虚げな瞳でサラを見つめなんとなくそれっぽく答えた
もし彼がこれから赴いたであろう職場で経験を積み、営業について学べば違う答え方もあっただろうが、今のトウヤにはこの答え方しか知らなかった
「そっか、なら魔法の使い方すら知らないんだね・・・うーん、なら軽く使い方覚えてみる? 初歩的な部分だけだけど、簡単に覚えられるし、何より街馬車乗り場までまだかかるから覚えてもらってた方がこっちとしても助かるし」
「えっ!? 良いのか、なら頼む!」
「すごい食いつき方、まぁそれなら少し場所を変えよっか、ついてきて」
流石に魔物が近くにいるとやり辛いのでサラは場所を変えることにした。
サラの後に続き歩いていると、少しだけ開けた場所に来た。
彼女は徐に腰に巻いたポーチから一枚の札を取り出すとそれを地面に置いた。
「・・・今何をやったんだ?」
「魔獣除けの結界、東洋の陰陽術って奴でこんな事もできるんだって、これだと普通の防御結界みたいに眩しく無いし、場所も大きく取れるし、何より魔物自体が勝手に遠くに行くから便利なんだよねぇー」
これは言ってしまえば確実に効果のある獣除けのようなものである
魔素が満ちる魔の森で魔物がいないところなど存在しないのだが、だからこそこういった道具を使用して魔獣を寄せ付けない様にするのだ
それを設置したサラは、トウヤへと近付くと説明を始めた
「さて、それじゃこれから魔法を使う練習をするけど、一から十まで教えようと思ったら今からじゃ時間もないし、魔力の使い方と初歩的な身体強化の魔法を教えるね」
「おぉ! お願いします!」
「うむ、よろしい! それじゃあ少しばかりお手を拝借・・・」
元気の良い返事と年上の男から期待の眼差しを向けられ満足したのか、サラは少しばかり調子が良くなりながら彼の手を取る
いきなり異世界に来て魔法が使えるのかと、緊張と少しばかりの恐れの混じった表示で見つめているとサラが笑いかけてきた
「少し手に魔力を流すだけだからそんな緊張しなくても大丈夫、私が魔力を流したら手の中に流れを感じるからその感覚を覚えて、いくよ」
その言葉と共に触れてる手の中にまるで自身の中で何か細い管が巡るようなキミの悪い感覚がする。そのあまりの気持ちの悪さにトウヤの首筋から背中にかけて震えが走った
その感触は手から腕と徐々に移動していき、より強い嫌悪感を抱き、「うわ!」と手を離しそうになるが、ガシリと手を強く掴まれる
驚いて彼女へと顔を向けると、鋭い目つきでトウヤを見つめ、動かないでと、額に汗を流しながら静かに強い口調で言葉を投げ付けてきた
そんな様子にトウヤは腕の中を掻き分け進んでいく感触に顔を歪めながら静かに耐える事にした
そして、感覚は腕から胴、やがて頭にまで到達し、眉を顰め瞼と口を強く引き締めているとその感覚が突然フッと消え、ハァハァと激しく息を切らすサラの声が聞こえてくる。恐る恐る目を開けると顔を汗で濡らし肩で息をするへたり込んだ姿のサラが目に映る
「サラ!?大丈夫か・・・!」
「ご、ごめ・・・ちょ、ちょっと待って・・・しんど、しんどい・・・、あなたどうなってるの、こんなしんどい魔力共鳴初めてなんだけど・・・」
「そんなにか・・・?」
「まぁその、さっきの魔力が通う感覚を思い起こして頭から掌に向けて魔力を巡らせて火を起こすイメージをしてみて、消す時は魔力を自分の身体に中に戻すイメージをすれば良いから」
「おぉ、やってみる」
今も息が絶え絶えのサラを尻目に指示通りに先ほどの感覚を再度思い起こしてみる。あまり良い感覚ではないがこれで魔法が使えると思うとトウヤは少し楽しみではあった
先程の身体の中を管が這い回る感覚を思い起こし頭から手に到達させる。イメージするのは火、父が使っていたライターの様な仄かな暖かみのある小さな火種
そうイメージすると手のひらの中心に小さな火が起こり、隣からサラの出たねという声が聞こえるが、トウヤは少し物足りなさを覚える
火といえばもっと煌々と燃ゆる物ではないかと、更にイメージをしていく
それは火、原初の火、全てを燃やす全てを灰燼へと帰す増悪の火
「なんか違うくね・・・」そう考え思考を戻そうとした時だった
「お・・さ・いな・・ば!!!」
「え?サラ、何かしゃべ・・・」
目の前に映る光景に絶句した
燃え盛る炎、赤く染まる空
建物を照らすは縦3尺、4尺ほどの2本の枝が付いた松明
道を照らすは折り重なるように道に並べられた火のついた薪達
黒い腕が3本脚4本の怪物が街を練り歩き人々を刈り取っていく
肌に感じる熱気が、周りから聞こえて来る悲鳴が叫声が、目の前に映る吐き気を催す光景が何故か重く心にのしかかる
俺のせいだ、そう流した涙は誰の涙か
お前のせいだと、内から聞こえる叫びは誰に向けての声なのか
わかるけどわからない、湧き出る矛盾に心がザワつく
「あ・・から・やく!」
また別の声が聞こえて来る
内からの声ではない、空間全体に響く外からの声
「ねぇ!・・く消し・!!」
どこか焦る声を聞くたびに心が落ち着きを取り戻していくと同時に、どこか胸中がくすぐったい感覚がする
「何笑って・・・!!あっついって!」
小さくふっと息を漏らすように小さく笑うと外からの声は怒ったような声を浴びせて来る
「熱いから早く消してよ! もぉ!!」
「いったぁぁ!!」
頭に響く衝撃に我に帰る
一瞬視界が白染を起こし、意識が僅かに抜け出る感覚がした後に、緑の森と自身の手のひらから噴き出る炎が目に入る
「うぇあ! アッツ!!!」
「ちょっと早く止めて止めて!」
「これどうやって止め、アッツ!!」
「あぁもうほら水だすからちょっと待って」
「いったぁ!!」
サラの手から吹き出た水はそのままの勢いでトウヤごと火を吹き飛ばし少し宙に浮いたあと地面に落ちた
手の熱さから解放されたかと思えば今度は背中の痛みに身悶えする
少し勢いが強すぎたと僅かな反省の念を携えサラが大丈夫かと聞いて来た
これが大丈夫な様に見えるかと内心トウヤは思う
だが本気で心配してくれてる様子にその気持ちも収まってくる
「ごめん、魔法の威力強過ぎた・・・頭大丈夫?」
「あぁ大丈夫ありがとう、にしてもこれが魔法かぁ・・・普通はこんな火って出るもんなの?」
「・・・まぁ覚えたての頃は魔力を過剰に流し過ぎる事もあるけど、さすが先魔、魔力量が桁違いだね・・・ねぇ! ひょっとしてヒーローになるつもりでこの国に来たの?」
「え!? あーうん、まぁ先魔? ヒーロー? についてはちょっとまだ思い出せないけど多分そうかな?」
「うーん、そっか、先魔は先天性魔力過剰障害っていう先天的に魔力量が多い人のこと、トウヤの持ってた入国許可証にも書いてたよ?」
「そっか、なら後で読み返してみるか」
「まぁそのうち思い出すだろうし、良いんじゃない?」
「まぁな」
また知らない単語が出たよ
そう思い少しばかり遠い目をしながら空返事を返す
こっちの方が良かったなあ
2/9に修正入れてます