飛んで南国!! 5
あらすじ
超越国トランセンドへとやって来たトウヤ達ではあったが、王ザンセンドとの食事中親友の結婚式と聞いたエオーネが倒れてしまった
登場人物
浅間灯夜:本作の主人公
フィリア・リース:トウヤの先輩ヒーロー
エオーネ:超越国トランセンドの王子、ベガドの街でbarエオーネを営む
マイン:ベガドの街にある教会の神父をしているエルフ(森人)の男
雫&茜:トウヤの先輩冒険者、和国の忍び
ザンセンド:超越国トランセンドの王にして超越者
それは幼き頃の記憶
まだザンセンドの元で超越者候補生としての訓練に明け暮れていた時のことだ
この国の超越者に対しての認識は他国のそれと大きく異なっていた
曰く、この国を建国した数世代前の勇者を模し、男であり、女である事を求められたのだ
可憐でありながら逞しく、常に凛々しく美しくしなやかであれ
賢者であれ、戦士であれ、父であれ、母であれ
それ故に求められた技術は多岐にわたる
剣術、棒術、格闘術から始まり、槍術にテーブルマナー、街の木や花の手入れ、料理、化粧、算術、化学、様々な事を学んだ
それらを教えるザンセンドの指導は厳しくもあり温かい、まるで実親の如き暖かさを持っていたが何分覚えるべき知識の量が膨大であり、多くの者が途中で挫折しかけた
エオーネもまたそんな中の1人だった
「うぅ・・・」
幼き頃の彼はよく王城の空き部屋の隅で膝を抱え泣いていた
自分は果たして超越者となれるのだろうか
そんな不安が未だ彼と呼ばれていたエオーネの中に渦巻いていた
「見つけた。エオーネ!」
そうして蹲っていると、決まって彼を連れ戻しにくる少年がいた
剃り上げた髪にまだ少年としてのあどけなさを残しながらも、同年代と比べ凛々しい顔付きの彼にエオーネは何度励まされた事か
「ザンセンド父様が待ってるよ、早く行こうぜ!」
「ちょっと待ってください!!」
「何よ、ここからが良いところなのに」
そこまで話してから待ったがかかり、これからが良いところなのにと口を尖らせた
「ザンセンド父様って!?」
「お母様の事よ?」
さも当然の様に語られた言葉にトウヤは困惑した
「あ・・・あぁ・・・ん? いや、まぁそれは良いとして・・・良いのか?」
「・・・とりあえず聞きたいのはその親友の方は何故ザンセンド王の事を父様とお呼びになっているのか・・・ですよね?」
「そうです! それ!」
「あぁ・・・ここではね、超越者候補生はみんな王の事を父や母と呼ぶの」
「え、なんで?」
訳の分からなさに思わず真顔になる雫
だが、そんな彼女の気持ちが理解出来るのかエオーネもまた困った様に眉を顰めた
「なんと言うか・・・複雑なのよ、この国を建国なされた勇者様が皆の父であり母でありたいからって好きに呼ばせてたのが元みたい」
「この国建国した勇者って一体何なんですか・・・」
この神殿と言い、超越者候補生という制度と言い、この国の有り様と言い
一体この国を建国した勇者とは何者なのかと不思議に思い、エオーネの言葉に納得した様な納得していない様な微妙な顔を一同は浮かべた
彼らが今いるのは王城内の医務室
何故先程まで会食室にて食事をしていた彼らが、ここにいるのかと言うとザンセンドから親友の結婚式についての話が出た瞬間、エオーネは白目を剥いて倒れたのだ
まるでマネキンの様に気を付けの姿勢のまま身体を硬直させ真っ直ぐ後ろに倒れたエオーネの姿に皆驚き慌てふためくが、何をしようとも起きる事はない
「どうしよう」
「とりあえず医務室に・・・」
「我が変わろう」
その様子に慌てるトウヤ達ではあったが、見かねたザンセンドが彼らの前へと歩出る
エオーネの顔をじっと見下ろしたザンセンド、しかし、次の瞬間には神速の平手打ちをエオーネの顔へとぶつけた
「しっかりしろ、エオーネ!」
巻き起こる突風の中、トウヤ達には何をしたのかわからなかったが唯一分かったことがひとつだけある
「エオーネさんんん!!!!」
「泡拭いてますよ!?」
「むっ? この程度で泡を吹くとは・・・すまない」
「と、とりあえず医務室に連れて行きましょう!」
兎にも角にも今すぐに医務室に連れて行こうと思いトウヤは全力でエオーネを担ぎ上げようと持ち上げようとした瞬間、言い知らぬ違和感に気がつく
確かに肩に手を添えて力を入れた筈、それなのに大岩を持ち上げんとするかの様にピクリとも動かないのだ
ーーえ? 何これ・・・動かない・・・
自分も鍛えている筈なのに全く動かない事実に、これが人の重さかと内心混乱するがそれならば仕方がないと全力の身体強化魔法を発動し何とか持ち上げる
「うっ・・・!?」
全身に汗が流れる
身体強化魔法を全力で行使している筈なのに背中に背負った瞬間、身体全体に掛かる重さにトウヤの顔色が一気に青くなった
「だ、大丈夫ですか・・・?」
「大丈夫・・・です・・・」
プルプルと足を痙攣させながらも、トウヤは何とか力を振り絞ると一歩、また一歩とドスンと音を立てながら歩き出す
そうしてなんとかエオーネを医務室を運んだのが、つい数十分前の話であり、原因について尋ねれば先ほどの話をし始めたのだ
「それで・・・その親友が原因?」
「それだけその人の結婚式に出たくなかったの?」
倒れた原因を問い正しこの発言が出たということはこの親友とやらが、エオーネの倒れた原因なのだろう事は皆わかってしまう
嫌な事でもされたのだろうか、それとも別に何か会いたくない理由でもあるのだろうか
「いや・・・その・・・なんと言うか複雑だったのよ」
「複雑って・・・、その、もし嫌なら王様に言って辞退させてもらう事は・・・」
「そんなの出来ないわ、大切な友の門出よ! 祝わないと親友の名が廃るわ!」
言い淀んだ割にマインの言葉に首を振るうエオーネ、何か複雑な事情があるのだけはわかるがそれにしてもこのままにして良いのかと、珍しいエオーネの割り切れない姿に頭を悩ます
だが、そんな中でフィリアだけが彼女の気持ちに気が付いたのか、徐に口を開いた
「好きだったの?」
何故その言葉が出て来たのか分からない
しかし、彼女にはエオーネの気持ちが何となくだが理解出来る気がした
対してエオーネはその言葉を肯定する様に小さく頷く
「昔の話なんだけどね、なんだか・・・急な事でビックリしちゃって・・・」
「・・・良いの?」
「え・・・?」
「好きなのに、結婚する」
正直なところエオーネは彼女から色恋沙汰で心配される様な言葉を言われるとは思っておらず内心驚く
これまでも変化しているとは思っていたが、ここまで変わっていたのかと嬉しく思いエオーネは微笑む
「良いの、どちらにせよ性別すら超越した超越者となれば子は作れないし伴侶も選べない・・・それにね、嬉しいの」
「嬉しい?」
「そう、共に同じ鍋を突いた友として、好いていた身としても、無二の親友が最愛の人を見つけて幸せになる事が何よりも嬉しいの、諦めの感情も幾らかあるけどね」
「そういうものなの?」
「そうよ・・・でもね、あなたには理解出来なくて良い、出来るならそうなって欲しくないしね」
そう言ってフィリアを見つめる目は何処か慈愛に溢れていた
恋愛とは常に成就する物ではない
時として諦め、身を退く事も少なくはないのだ
彼女はまだそんな進退すら経験した事がないし、経験すらして欲しくもない
そこまで考えるとエオーネの腹は決まる
考えれば考える程にバカらしくなって来たのだ
もう終わった事にここまで未練がましく縋りつこうとする自分が、途方もない阿呆に思えてくる
友の門出を祝うは我らが使命、友のために花道作るは我らが誉れ、何人たりとも色染めさせぬ白亜の道、故に見守る我らの後ろに道は無く、あるのは共に突き進む栄光への前進なり、故に
「我ら候補生に惰弱なし」
あの日誓った言葉が脳裏に溢れてくる
「エオーネ?」
不思議そうにこちらを見つめるフィリアの視線に気がつくと、エオーネは笑みを浮かべるとベッドから立ち上がる
「ごめんなさい、何でもないわ、ただ・・・考え過ぎなんだなって気が付いたの」
「・・・そっか」
「えぇ私はもう大丈夫よ、さっ会食室に戻りましょう、この国のデザートは絶品だから楽しみにしていて」
「やった! 食べてみたかったんだよねここのスイーツ!」
そう言うといつもと変わらない姿を見せながら彼らを引き連れ会食室へと戻ろうとする
エオーネが元気になった事を喜び共に戻ろうとするが、そんな中でエオーネは誰にも聞こえない小さな声でそっと呟くのだ
「ありがとう」
出会ってくれて、共にこの国に来てくれて、今一度この国を立つときの気持ちを思い出してくれて
ーー友よ、再び前に進めさせてくれてありがとう
遠い異国の地にて出来た新たな友に感謝の心を携えながら、共に歩き出す
漢、漢、男が燃える〜
よっしゃあ漢唄とかおジャ魔女カーニバル!!とか聞きながら書いてます。
あ、あとちょっと長く書きすぎたので今回分割して2話投稿します
23時30分に投稿予定です