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飛んで南国!! 4

筋肉筋肉

あぁ筋肉ってやっぱ素晴らしい


登場人物

浅間灯夜:本作の主人公


フィリア・リース:銀髪無表情なトウヤの先輩ヒーロー、何やら魔人達にとって重要な人物らしいが・・・


雫&茜:トウヤの先輩冒険者、和国出身の忍び


マイン:ベガドの街にある教会で神父を務めるエルフの男、何やらトウヤが気になる様子


ゼトア:ベガドの街で冒険者ギルドの人事兼ヒーロー係の担当を務める人物、マインと並々ならぬ関係にある様だが


エオーネ:ベガドの街でbarエオーネを営むオカマ、本話の舞台であるトランセンドの王子


ザンセンド:超越国トランセンドの王、生物的分類は女性だが種族的分類は超越者


あらすじ

怪人大進行、8大罪アガーの襲撃を退けたトウヤ達

エオーネが故郷であるトランセンドに戻るというので共に着いていくことになった

美しいトランセンドの街並みに感動しながらも、一同王城へと向かうとそこで待っていた王ザンセンドから食事の誘いを受けたのであった

「自己紹介が遅れてすまないな、我が名はザンセンド、この国の王だ、よろしく頼む」


同じ王城内とは思えない新大陸の様なシャンデリアがぶら下がった仄かな朱色の木製の壁で作られた豪勢な会食室へと案内された彼らは、各々がその内装に驚きながら席に着くと王、ザンセンドが自己紹介して全員の顔を確かめる様に顔を動かすと2回手を叩く


合わされた手のひらがパンパンと軽快な音を出すと共に会食室の扉が開かれ料理が運ばれて来た


「うわぁ・・・」


まず最初に彼らの前に前菜として置かれたのはグラスの底に紅いゼリー、その上半分程に敷き詰められた分厚い白い泡の層が見事なコントラストを描くなんとも美しい料理だった


「さて、食べようか」


ザンセンドの言葉と共にスプーンを手に取り掬い口に運べば、シュワリとした泡の舌触りの下に酸いゼリーの味が広がりなんとも言えない感動を味わう


「美味いか?」


「はい、とっても!」


「そうか、口にあった様で良かった。我が国の候補生達が腕によりをかけて作った料理だ、存分に味わってくれ」


それを合図に次々と料理が運ばれてくる

優しい甘さを持った黒いスープ、魚料理、ほんのりと甘味を持った氷菓のソルベに肉料理と、庶民的な暮らしをしているトウヤ達には中々味わえない料理の品々に各々が顔を輝かせ舌鼓した


王城の中での会食会

しかし、色鮮やかな料理の品々やザンセンドの柔らかな母性とも父性とも言える温かな雰囲気に和気藹々と言った様相を呈していた


だが、そんな雰囲気もザンセンドのとある一言により一変する事となる


「ところで、修行の方はどうだ? エオーネ」


グラスを傾けながら、ザンセンドがそう尋ねるとエオーネは僅かに表情を暗くさせた


「まずまず・・・と言いたいところですが、あまり良くありませんわ」


「ほう、どうした? 聴かせてみろ」


眉を顰めな儚さを覚える表情をしながら発された言葉に、ザンセンドは肉料理を切り分けながら反応を示す


「・・・大切な友人が死んだのです」


「なるほどな・・・友人の死か・・・それは確かに大事だな」


エオーネの言葉に神妙な面持ちを浮かべるザンセンドだが、エオーネは言葉を続ける


「ですが、私は・・・彼らを理由に逃げてしまったのです。 現実を受け入れられず必死に目を背けようとして、街にも多くの被害が出たと言うのに・・・戦うのが怖くなったのです」


怪人大進行の折、それまで寝込んでいたエオーネではあったが非常事態の為、前線へと赴き戦っていた

だが、その心には常に戦いに対する恐れを宿していたのだ


ラーザ達の様に人々が死ぬ光景を見たくないという恐れの感情に屈指、恐怖に突き動かされるままに戦う

超越者候補生としてあまりにも情け無い醜態に自らを責めていた


そうして自身の情けない姿を思えばこそナイフを握る手に力が入る


同じ痛みを共有するトウヤや雫達もまた、そんなエオーネの姿に食事をする手を止め心配そうな眼差しを向けた


「なるほどな、戦いへの恐怖か」


「はい・・・」


「エオーネ、其方は何か勘違いしているのでは無いか?」


「え?」


叱咤されると思っていたエオーネだが、ふわりと可憐で優しい顔付きを浮かべながら返された思わぬ言葉に驚く


「幾ら我々が超越した力を持とうと人は人、感情が強く揺れ動く時など幾らでもある。親交深き者の死など特にな、なればこそ、其方の感情もまたそれで良いのだ」


どれだけの研鑽を重ねようとも、どれだけの立場にいようとも、人の心は常に揺れ動くものなのだ


ザンセンドなりの励ましの言葉、その言葉にエオーネは頭を下げる


「・・・ありがとう・・・ございます」


心に僅かなシコリを作りながら言い放たれた感謝の言葉


正直なところ、自分に自信が無くなり言い淀みそれらしい態度を取ってしまったが、ザンセンドの言葉を素直に受け入れられるだけの心の余裕は今は無い


母たる王の励ましの言葉の意味は確かに理解しているし感謝もしているが、要約すれば気にするな、という言葉だけでは納得出来ない理由があった


だが、そんなエオーネの内心をザンセンドはお見通しだった様だ


「まだ納得がいってないな・・・戦うことへの恐怖心、また同じ友を失う恐怖、つまりはそれが拭い去れないまま修行を続けて良いかという心の葛藤だな?」


ザンセンドの言葉にエオーネは内心驚いた

まさかここまで言い当てられるとは思っていなかったからだ


「はい」


「なればこそ、強くなると良い」


「強く・・・?」


「いくら友とは言え、鎖で繋いで自身の近くに繋ぎ止めておくことなど出来はしない、友を尊重し信頼し、せめて近くにいる時は護れる程に強くなれ、それは同時に其方の心を強くする。そうすれば葛藤も日の出の霧の様に霧散していく、無論、すぐに出来る事ではない無いが・・・我は其方ならば出来ると信じている」


「お母様・・・」


励ましの言葉だけのではなく、更なる目標を示してくれた母たる王を前にエオーネの瞳に火が灯る


「エオーネ、友を信じよ、其方の友は弱いか?」


「いいえ」


友の諦める姿を見た

どんな苦境にも屈せず戦う姿を思い起こす


周囲を見渡せば、どんな時でもただひたすらに誰かを護ろうとする強い信念を宿した眼が、こちらを信じ見つめる姿が見えた


それを見ればこそ、エオーネの心に灯る熱い意志を感じる


「其方はもう進めぬか?」


「いいえ!」


一度燃え出た日は止まらない

日はやがてエオーネの心を強く奮い立たせた


「この地にて生まれ出でた其方の心は今どこに向かっている?」


「西から東へ、この身が沈み行く時まで我が心は常に前へと進み世を照らし続けます!」


それはこの国の宣誓の言葉

生き様をいついかなる時も落ちる事のない太陽に例え、他者を尊び、慈しむことを誓うと言うものだ


他者を想う気持ち

それはこの国の建国者たる勇者が最も大切にしていた考えであり、同時に超越者たるオカマを目指す候補生達にとっては何事にも変えられない心に刻んだ言葉でもあった


強い信念の籠ったエオーネの宣誓にザンセンドは満足げに頷く


「ならばそれで良い、それこそが我らが本懐也」


「お母様!!」


「エオーネ!!」


感極まったエオーネが堪らず立ち上がるとザンセンドもまた立ち上がり、熱い握手を交わす









「・・・なんか最後はよくわかんなかったけど、エオーネさん、立ち直った様で良かったよ」


その盛り上がる光景を見たトウヤは嬉しい事なのになんとも言えない表情を浮かべる皆と顔を合わせそう言うのであった












「そうだ、まだここに其方を呼んだ理由を言ってなかったな」


「そう言えば・・・なんの要なの?」


確かに何故自分は呼ばれたのかと不思議がるエオーネの表情を見ながらザンセンドは愉快そうに口を歪める


「其方、招待状は届いてたであろう?」


「・・・まさか」


「そうだ、其方の親友の結婚式だ、無二の親友たるお前が出席しないでどうする?」


晴れ渡る様な美しく清々しい笑顔を浮かべるが、エオーネは言葉を聞いた瞬間固まる


ーー親友の結婚式だ


その言葉がエオーネの脳内を何度も何度も反発し順転していき、ジワリと脳内に染み渡ると共にエオーネの意識は暗転した

やっぱ筋肉って万能だな

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