飛んで南国!! 3
お待たせしました
続きの投稿です!!
酷い目にあった
それは王城へと続く階段がある広間にてエオーネ達と合流すべく待っていたトウヤが内心思った事だ
時は夕方、橙色の陽光が白い街を覆い幻想的な風景を醸し出し多くの人々が帰路へと着く中、トウヤ達はエオーネ達と合流すべくこの広場へと来ていた
しかし、そんなトウヤの頭の中には未だに先程までマインとゼトアに語られた内容が頭の中を彷徨っている
曰く、初代勇者は魔獣を使役した
曰く、目にも止まらぬ斬撃で異形の身体を切り裂いて行った
曰く、光と闇の魔法を使い戦っていた
曰く、慈愛の心の持ち主であり、兵達のみならず大陸原住民のオークやゴブリン、ダークエルフを救った
という話を延々と聞かされ続けたのだ
当の本人達はフィリアと何やら次に行く場所について話しているが、トウヤにしてみれば要らぬ説教をされた気分ではあったのであまり混ざりたいとは思えず
手持ち無沙汰で暇なのもあってか、なんとなしに少しでも早く忘れられるようにと祈りながら空を眺めていた
「お、いたいた」
不意に掛けられた声に顔を向けてみると、ショーを見終わったエオーネ達が手を振りやって来るのが見えた
満足げな表情を浮かべる彼女達に短く「楽しめましたか?」と問えば満面の笑みで楽しめたと返される
トランセンドボディビルショーの良さというのがあまりわからないトウヤではあったが、彼女達は楽しめたみたいなので良かったと思い笑みを返した
「おや、お帰りなさい」
「ただいま、そっちはそっちで楽しめた?」
「いやぁ・・・僕とマインさんは勝手に楽しみましたが、浅間さんとフィリアさんにはご迷惑をおかけした様で」
「もう、ダメだよ」
「はい、申し訳ございません・・・」
メッ、と指を突き出して来るフィリアの言葉に、本当に反省しているのだろうゼトアは頭を掻きながら下げ誤って来る
「本当、これだからあなたという人はダメなんですよ」
「あなたもですよマイン? わかってます?」
「まぁまぁ! ほらっ、多分王様も待ってると思うので行きましょうよ!」
このまま放置していればまた要らぬ喧嘩の火種となると思ったトウヤが慌てて皆にそう言うと、エオーネも「そうね、そろそろ時間だし行きましょうか」と言うとついて来る様に伝え歩き出す
エオーネの後に続き階段を降りた先、掘り進められて広げられ、蝋燭や松明よりも明るい魔法の光により照らし出された地下空間で一行が最初に目にしたのは聳り立つ石柱達だった
地下空間を支えるように伸びる均一に配置され、浅浮き彫りがなされたそれらは地下空間という陰鬱な場所であっても威風堂々とした立ち姿を見せつける
浅浮き彫りをよく見ればまるでこの国の歴史を紹介してきるようにも見えるが、それよりも彼らの目を引いたのはその均一に並ぶ石柱の道の終着点に存在している建造物だ
遠目から見れば四角い形をした建造物
入り口に見える天井を支える6本の柱の上部には小さく渦巻く葉のような形のキャピタルと呼ばれる装飾がなされおり、王城というよりも神殿の様な神々しさを放っていた
「おぉ・・・スゲェ・・・」
「これは・・・まさか、勇者の世界の?」
「えぇ、幾つか前の勇者様にご指導いただいて、勇者様の世界でも有名な神殿から作ったみたいね」
「なるほど、どうりで・・・」
この世界における統一宗教であるデアテラ教、その司祭である自身が見覚えのない神殿の様な作りに納得したのか、マインは目の前の神殿に思わずため息を吐く
「お待ちしておりました。候補生エオーネ」
そんな王城へと目を奪われていた一向、正確にはエオーネに対して声が掛けられる
声の方向へと目を向けてみると、そこには使用人らしき女性が立っているのがわかるとエオーネは前へと歩でた
「あら、ご苦労様」
そうエオーネが労いの言葉を掛けると、使用人は軽く会釈をする
「ご友人の皆様も遠路はるばるよくお越し下さいました。それではご案内させていただきます」
使用人に案内され王城内へと入ったトウヤ達を出迎えたのは豪華絢爛とは言い難い飾り気のないながらも、何処か目を引く純白のエントランスだった
「あ、どうも」
「ご苦労様」
廊下を歩いていく度に通り掛かる使用人達がエオーネの顔を見る度に頭を下げてくると、トウヤも思わず会釈を返してしまう
「本当にエオーネさんは王子様なんですね」
「みたい」
ベガドの街でbarエオーネという店を営む1等級冒険者レベルの力を持つ気さくなオカマ、という認識ではあったが次々と頭を下げて来る使用人達の姿を見る度に、トウヤ達は本当にエオーネはこの国の王子なのだと言うことを理解していく
そう考えていくうちにも場所は移り変わっていき、使用人の歩みが大扉の前で止まる
「候補生エオーネ、及びご友人方のご到着です!」
一瞬声を張り上げたかと思えば次には暫し沈黙の後にガチャリと扉のノブを回す音が聞こえた
硬く重いギギギと軋む音と共に扉が開け放たれ
「待っていたぞ、よく帰ってきたなエオーネ」
野太く低い女性の声が聞こえた瞬間、重厚な圧が感じ皆が膝を降り首を垂れる
「・・・え?」
先程の和気藹々とした空気が一点する
何故自分達は膝を降っているのか、疑問に思うと共に寒気を感じ全身が粟立ちぶわりと嫌な汗を流れた
マズイ、そう思いながら立ち上がろうとするが濃密な死を感じさせる圧に身体が震え強張り、力が入らない
「よい、そう畏るな・・・面をあげよ」
そんな彼らの様子に構う事なく楽しげな様子を見せるが、恐ろしさから何をどうしようとも顔を上げる事ができないでいた
ーーチクショウ・・・
訳がわからず自分達が一方的に恐る状況
最初こそ得体の知れない圧に気圧されたが、望まず無理やり膝を突かされた状況にトウヤの中で徐々に強い反発心が生み出され、悔しさから何とか顔を上げようとする
「ほう、そなた・・・変わっているな」
少しずつ顔を上げようとするトウヤの姿に感心するように呟く
自身の発する圧に呑まれることなく抗おうとする意外過ぎるトウヤの姿に興味を惹かれたのだ
だが、そんな茶番もすぐさま終わりを迎える
「お母様、あまりふざけ過ぎるのもどうかと思うわよ」
顔を上げたエオーネが額に汗を滲ませながら困り顔を浮かべそう言うと、母と呼ばれた人物は破顔し、その瞬間トウヤ達に向けられていた圧が消えて彼らは解放される
「はははっ、すまない、エオーネの友と言うから少しばかり揶揄いたくなったのだ、其方らも試すような事をしてすまなかったな」
「あぁ・・・いえ、大丈夫です・・・」
荒い息をして疲労困憊と言った様子を見せながらも、トウヤの言葉に同意するようにエオーネを除いた皆が頷いていく
その言葉に王は頷くと遠く部屋の奥に鎮座する玉座から立ち上がる
遠目からもわかるほどのしなやかな筋肉を纏った王は、トウヤへと手を差し伸べてきた
「そうか、立てるか?」
「えっ・・・!? あ、はい!?」
目測で30mくらい先にあるだろう玉座にいた筈の王が次の瞬間には目の前に来ていたことにトウヤは驚きを隠せないが、王はそんな彼の肩を掴むと片手で持ち上げ立ち上がらせる
「中々良い目をしていたぞ、その調子で精進すると良い」
「あ、ありがとうございます・・・」
ーー大きい・・・
近くで見ると王の巨躯がよりわかる
170cmある筈の彼だが、それでも上を見上げなければ顔を見ることすら叶わない
「それでお母様、要件とは何なのですか?」
そんな王の姿にトウヤが驚いている傍でエオーネはズボンについた埃を叩き落としながら問い掛けると、王は変わらずと言った様子で答えた
「その件についてはゆっくりと食事でもしながら語ろう、皆も腹が減ったろう、食事を用意してあるから共に食べよう」
そう言いながら腰に手を置き、ニカリと美しく凛々しい満面の笑顔を向けてくる
暫し息が整う迄の時間を貰い、皆が立ち上がると食堂へ向かう王の背中を追い、状況を把握出来ないまま歩いていく
突拍子も無い突然の王の行動にトウヤ達は不信感を覚えるが、そんな最中、王もまた先程までの出来事について考えていた
ーーさて、異様な気配がしたから試してみたが・・・まさかそれ以外にもおかしな者がいたとはな・・・
彼らが入ってくる前、だいぶん抑えられていたが扉越しに伝わる人のようで人ではない異様な気配
王はそれに興味が惹かれたのだ
だからこそ、不躾とわかりながらも王は彼らに圧を送った。純然たる殺意を宿した圧を
その結果は言うまでもない
ーー先程の青年も気になるが、それよりも気になるのはあの2人・・・
思い返すのは圧を送り俯いた彼らの中で圧に屈する事なく、ただ周りに合わせて動いただけの2人の姿だった
それ程魔力を持っているようには感じなかった
強いとも思えなかった
だが、間違いなくあの2人は何かおかしいと超越者としての直感が告げていたのだ
ーー不気味だな
だからこそ面白いのだ
先頭を歩き誰にも見られる事なく超越者たる王はニヤリと口角を上げる
この先に起こるであろう事件に、事象に
来るなら来いと、全てを護ってみせる
それこそが超越者たる自身の責務だと、密かに奮起した
南米舞台なんですけど、なんか迷いますよねぇこういうの
こう建造物の感じとか、現地民の生活とか
欧州舞台のとこは何となくなろうって感じで、日本舞台のとこは言わずもがなって感じですけど
あとそろそろ終盤も近いので、ちょっと展開が早足になるかもです