第32話 飛んで南国!!
登場人物
浅間灯夜:本作の主人公
フィリア・リース:トウヤの先輩ヒーロー
セド・ヴァラド:トウヤの先輩ヒーローで大貴族ヴァラド家の元次期当主
トローネ:セドが保護した魔人の少女、大進行の際に学園で見た光景がトラウマとなっている
エオーネ:barエオーネの店主の超越者候補生でオカマ、実はだいぶん前の話でちょろっと書いたけどとある国の王子様
雫&茜:ベガドの街の1級冒険者の忍者
マイン:ベガドの街の教会の神父、学園での騒動以降悩み事を聞いてもらっている
ゼトア:トウヤの面接も担当した冒険者ギルドの人事担当兼ヒーロー達の責任者
オータム:上級怪人を魔法も無しに刀の技術だけで最も容易く倒してしまうチート冒険者、またしても何も知らない男、この話も出番無し
8大罪の一角たるアガー撃破の報はあの後街中にすぐに広まり、多くの人々を沸かせることになった
街の上空で起きた爆発が大きな決め手ではあり、その光景は人々の目に止まったからだ
8大罪が一群を率いて襲撃という憂鬱な話に包まれていたベガドの街も連日この話で大盛り上がりであったが、全てがその話で盛り上がっていた訳ではない
「えっ!? エオーネさん帰るんですか!?」
街の襲撃事件後、再び開店したbarエオーネにてトウヤは持っていたスプーンを落としながら驚愕の声を上げるが、対してエオーネはそんな大袈裟な反応をとる彼の事が面白かったのかクスクスと美しく笑う
「もう大袈裟ね、ただ一時帰国するだけでまた帰ってくるわ」
「あぁ・・・びっくりした。もう帰ってこないのかと思った」
「何しに帰るの?」
胸を撫で下ろすトウヤ、その隣に座るフィリアが小首を傾げながらそう問えば、エオーネは少しばかり困った顔をする
エオーネ曰く今回の帰国は王、即ちエオーネの母親からの呼び出しとの事だが、詳細は聞かされていない様で兎に角1週間程予定を空けて帰って来いとの事だった
「だから、私にもなんで帰って来いって言われたのかわからないのよねぇ・・・」
王からの呼び出しと言われると、思い当たるとすれば何かとんでもない事が起こったかも知れないという考えがトウヤの頭に一瞬浮かび上がるが、案外会いたいだけなのかも知れないとも思えた
「どうやって行くの?」
「雫達に繋いでもらって帰る予定よ」
「え、それ大丈夫なんですか? その・・・雫さん達が帰る日とかに依頼が入った時とか」
「その辺は大丈夫! 私達もついて行くからね!」
どうやらトウヤの懸念は問題がない様で、いつものカウンター席に座っていた茜が胸を張りながら声を上げる
「あぁ茜さん達も行くんなら安心ですね」
「まぁ私達は観光目的で行くだけだけどね」
「なら楽しんで来てください、お土産期待してます!」
「何ならトウヤ達も来る? おやすみもらってるんでしょ?」
不意にかけられたエオーネの提案にトウヤは驚く
「えっ!? 良いんですか?」
「宿はこっちで手配しておくから大丈夫よ、ね? カガリノさん」
そう少し離れたテーブル席に座る無精髭の男、篝野に声を掛けると、まだ昼間だと言うのにすでに酔っているのか顔を赤くしながら少しばかり回っていない呂律で答えた
「うーん? おう、任せろよ!」
「おっちゃん今の話聞いてたのか?」
「何言ってやがる! 何となく事情は察したぞ! まぁ俺は強いしセドも居るからな、安心して行って来い!」
「え? セドさん行かないんですか?」
彼の発言にトウヤは思わず同じ卓に座るセドへと顔を向けると、彼は微笑みながら答えた
「あぁ、色々とあるからな、俺は辞めておくがお前達だけで目一杯楽しんでくると良い」
彼がそれ以上答えることはなかったが、何となくトウヤ達は理由を察せた
トローネ、セドの隣でいつも以上に彼にベッタリな彼女もまた大進行の折に起こった学園での戦いからトラウマに苦しんでいたのだ
本来であれば旅行というのはそんな彼女を癒す手段としては最善なのだろうが、今回の帰国はそもそもが王命での帰国という事もあり、もし出先で何か事件に巻き込まれでもしたら洒落にならないので今回は辞退した
「その・・・楽しんできてくださいね、トウヤさん」
「おう、ありがとうトローネ、お土産期待しててくれよな!」
セドの身体から僅かに顔を覗かせながらそう言う彼女に、トウヤは満面の笑みを浮かべながら答えるとトローネも「はい」と答えて微笑む
しかして、エオーネの一時帰国には雫と茜、トウヤとフィリアが付き合うという事でこの日は話が纏まったのだが、いざ出立の日となればその予定も幾らか変わった
「何でお前が居るんだよクソ神父」
「おやおや、いきなり喧嘩腰とは・・・私何かしましたか?」
「カガリノさん落ち着いて、マインさんも煽らないで」
「・・・何これ?」
出立の日、集合場所にトウヤが向かうとそこにあったのは正しく修羅場である
睨み合う篝野とそれ流す様に笑うマイン、そんな2人を何とか諌めようとするゼトアの姿だった
「何してるんですか?」
思わず呆れ返りながら彼らへと声を掛けると、ゼトアはこれ幸いと表情を明るくしてトウヤへと助けを求めてきた
「トウヤさん彼らを止めてください!」
「えっ・・・と、とりあえずおっちゃん落ち着けてって!」
止めろと言われたがどうしたら良いのかわからないトウヤは、一先ず2人の間に割り込む事にした
「ウルセェ! 今日という日はこいつゆるさねぇ!」
「許さなければ何だというんですか? あ、ちょっ邪魔しないでくださいトウヤさん!」
「痛い痛いやめて、痛いってやめて、いたっ・・・や、やめろぉ!」
割り込んだことで暴れるカガリノに何回か拳をぶつけられながらも何とか鎮めることは出来たのだが、これからの旅路に不安を覚えるのであった