孵卵 7
次で31話終了です
突如現れ自身の拳を片手で掴み止めた相手に、アガーは驚きの表情を隠せないでいた
ーーアサマトウヤは未だ意識が戻っていないと聞いていたが、いや、そんな事より・・・
「なんで・・・お前が・・・」
暴走状態であったとは言え、本来であれば3大怪人に苦戦する程度の相手だと聞いていた
だが、今目の前にいる相手はなんだ?
自身の拳を受け止めただけに飽き足らず涼しげな様子すら浮かべている
予想だなしなかった相手の出現と、明らかにパワーアップしたであろう力に警戒心と敵対心を剥き出しにしながらも手を振り払うと後ろへと高く飛び距離を取った
「お前・・・姿が変わったな?」
そこで彼の姿の変化をより見ることが出来た
噂に聞くパワードと呼ばれる形態では全身鎧の様な姿をしていたが、今は違う
大進行の折にやってきたノーマルモードとも異なっていた
全身は水色に変化し何処か炎や鳥の羽をイメージさせる風貌に変わっており、雫の様な形の仮面は鳥の顔をモチーフにしたであろう物へと変化している
そして、何よりも身体から溢れ出る魔力量が桁違いに高まっていた
僅か1日、何故これ程の進化をするに至ったかわからないが警戒しておくに越したことは無い
そう考えると未だ戦闘を行う怪人達に向けて声を張り上げる
「お前ら、こいつを殺せ!!」
8大罪たるアガーの声に反応した怪人たちは遠距離攻撃手段を持つ3体の怪人が足止めに回り、先に平安貴族の烏帽子の様な頭を持つ異様に指の長い怪人と、折り重なったエビの様な攻殻で身体を覆い大きな鋏を持った赤い怪人がセドとの戦闘を中止してトウヤ目掛けて駆け出す
彼らも感じていたのだろう
この中で今すぐにでも排除すべきはフレアレッド、アサマトウヤであると
対してそれを見たトウヤは噴出するスーツよりも濃い青色の魔力布をはためかせながら構えを取る
超人的な身体能力を持つ親衛怪人達はあっという間にトウヤとの距離を縮めると先にエビの様な赤い怪人が彼を排除すべく鋏を振るう
「ハァッ・・・! ウィングソード!!」
そんな攻撃を前に気合を入れた声を上げると鋏の一撃を魔力の流れを纏わせた腕で払い除けると共に腕から魔結晶が伸び、ひび割れて砕け散ると1本のブレードを成形する
「魔結晶だと!?」
魔結晶を作り出し武器へと成形する
まるで魔人のような攻撃に赤い怪人は驚き声を上げるが、その間にもブレードには濃密な魔力の流れが纏われ炎が吹き上がりだす
「セイヤァ!!」
目にも止まらぬ速度で振り抜かれたブレードによる一撃は怪人の硬い攻殻を容易に切り裂き空中へと舞い上げ爆散させた
「馬鹿な・・・一撃だと!?」
下級とは言え親衛怪人が一撃で撃破された
その事実は距離を詰めていた烏帽子の様な頭の怪人を萎縮させ足を止めさせるが、トウヤはそんな怪人の隙を見逃さない
身体強化術式を用いた爆発的な加速で逆に近付き懐に入ると拳の先にドリルの様に捩れさせた魔力の流れを叩きつけを展開して怪人の顔を粉砕しながらかち上げる
爆散する2体目の親衛怪人、その光景にアガーや怪人達は息を呑む
たった数十秒のうちに2体の親衛怪人がやられた
その事実が怪人達の心胆を寒からしめ、恐怖からセドを放って銃弾、形を変えて攻撃するボール、家屋保護結界すら切断する水流カッターと各々の武器を使ってトウヤへと全力の攻撃を始めるが、それすらも彼の展開した防御結界の前に容易く防がれてしまう
「ば・・・化け物だ・・・!」
圧倒的な力と防御力の前に戦意を喪失してしまう怪人達を横目に見ながらトウヤはアガーへと向き直る
「そんな馬鹿な・・・お前なんかが・・・なんで・・・」
視線を向けられたアガーは怯む様子を見せるが、トウヤは手を抜かず次の為の準備を始めた
「フレアウィング!」
『フレアウィング、Deployment!!』
その言葉と共に音声認識機能が起動して背中に折り畳まれていたウィング生成機が展開され魔結晶の翼が作り出された
同時に背中へと魔力供給を行うと甲高い吸気音と共にフレアジェットに火が灯る
フレアウィングとは魔力量が大幅に上昇したトウヤに合わせてアップデートが行われたフレアジェットの制御翼であった
これを展開する事により、抑えられていたフレアジェットの出力を限界まで発揮することができ、その速度はフレアジェットの数倍以上のマッハ3にも及ぶ
「なっ・・・グハッ!?」
一瞬で最高速まで加速しアガーの眼前へと到達したトウヤは、彼の顔面に対して容赦なく膝蹴りを見舞う
速度と尋常では無い程の出力となった身体強化術式により繰り出された膝蹴りはアガーの体勢を崩し怯ませた
しかし、アガーとて8大罪である
体勢を崩しながらも拳を電流へと置換してすぐさま反撃へと転じるが、フレアウィングにより制御されたトウヤは速度を維持したまま、まるで独楽の様に回転して側面に移動すると再び展開したウィングソードでアガーの腹を切り裂く
脇腹に走る激痛はアガーの顔を激しく歪めた
「ガァァァッ!?」
痛みからか叫び声を上げ、腕をがむしゃらに振り回し何とかトウヤを離れさせようするが、高速移動状態を維持したトウヤに全て躱され逆に手痛い反撃を喰らう事になる
一撃、二撃と攻撃を喰らうたびに重たい拳が、鋭いブレードがアガーの身体を傷付けていく
最後には反撃する力すら無くなりトウヤのなすがままに攻撃を受ける事になる
そうなれば最後の一撃を打ち込むべく、アガーの身体を空高く蹴り上げた
「グウォォっ!?」
凄まじい勢いで蹴り上げられたアガーは激しい痛みから苦悶の叫び声を上げるが、不可思議な浮遊感を覚え痛みを堪えながら周囲を見たわたすと驚きの色で顔を染める
視界の上半分を占める青い空
下に目を向けると見えたのはベガドの町並み
たった1回の蹴りでアガーは空高く舞い上がったのだ
「これは・・・!!」
あまりのことに言葉を失う
常人の数倍はあろう重さを持つ自分がたった1回の蹴りでここまで蹴り上げたのかと
そして、気がつく
雷魔法は地に足が付かなければ使うことが出来ない
即ちここは彼にとっての処刑場なのだと
空高く舞い上がり点となったアガーを見つめトウヤは力強く拳を握り構えを取る
「ラーザさんシスさん、俺進むよ・・・泣き言を言いながら、泣きながら、それでも諦めずに前に進むよ、だから・・・見ていてくれ!」
そう宣言する様に今は亡き恩人たちに向けた言葉をつぶやくと、腰に装着したガジェットへとブレスレットを擦り付けた
『フェニックス!! Increased power!!』
直後、解放された膨大な魔力が溢れ出し焔となってトウヤに纏わりつく
臨界となったフレアジェットは先程よりもけたたましい程の吸気音を鳴らしながら飛び上がる
凄まじい速度で迫り、点となっていたアガーの姿がハッキリとした形となってくる
溢れ出してくる魔力はさらに多くの焔へと変換されトウヤの身体が完全に焔へと包まれると1匹の魔法生物を擬似生成した
曰く、膨大な魔力を含む土壌から生まれる生きた焔
曰く、涙は自身ごと万物を焼き尽くす焔の大火となり、その灰の中から土壌の魔力を吸い新たな肉体を構築して再生する不死の魔法生物
かの者の名をフェニックスと皆は呼ぶ
故にそんな魔法生物を擬似生成するこの技の名は
『フェニックスストライク!!』
「セイヤァーーー!!!!」
拳を突き上げるトウヤの雄叫びと共に不死鳥が甲高い鳴き声をあげ、アガーの身体へとぶつかる
フェニックスの焔はトウヤの強力な拳打と同時にアガーの耐熱性に優れた表皮を最も簡単に燃やし尽くし昇華させてよりいき、拳を振り抜けば飛び上がっていくフェニックスの焔に包まれながらさらに空高く舞い上がる
「クソォッ! チクショウ!! チクショウ! この俺が・・・この俺がぁ!!」
そんな断末魔と共に舞い上がっていったアガーの身体はフェニックスが弾け飛ぶと同時に爆散していった
次回31話エピローグ
フレアウィングは形的には生物的な翼というより機械的な翼って感じです
イメージしやすくするならコードギアスのランスロットアルビオンの翼みたいなのをイメージしてもらえたらと
フェニックスの設定何処いったんだろ・・・
どっかに書いたと思うんですけど、リメイク設定とりま貼っときますね
次は忘れません
フェニックス
とある膨大な魔力が溢れる火山に生息する魔法生物であり、どの様な生体活動なのか、如何にして生まれてきたのか未だ解明されていない
ただわかっているのはあらゆる生物の生息が困難な程の濃密な魔力に汚染されている限られた地域にのみ生息しており、そこから離れることもない
目から焔を垂らす「不死鳥の涙」と呼ばれる活動を行うことにより、自身を巻き込んだ周囲数キロの範囲内を焼き尽くし焦土に変え灰の中から新たに身体を再構築して生まれてくるということのみであった
土壌の魔力を喰らい生まれ死に、また生まれ直す
まるでその土地の魔力を喰らい尽くすのが使命であるかのように