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孵卵 6

あと2話くらいで31話完結予定です

増援として現れた怪人達との戦闘の中でセドは焦っていた


それは迫る銃弾に棒状に変化するボール、水流カッターに対応しきれないからという訳ではない


何もない空間から飛んで来た舌の鞭を叩き落とし掴むと、自身に向けて怪人の身体ごと引き寄せ拳をぶつけた


体色を変化させて隠れ潜んでいた緑色の怪人が姿を現しタタラ踏んだところで追撃を加えようとするが、他の怪人達が攻撃を仕掛けてきた為に中断させられる


1対6にも関わらず、戦闘の流れはセドが握っており優位に立ち振る舞えていた


ーーマズイ


だが、戦うにつれて優位な状況とは逆に彼の焦りは募っていく


その原因は彼自身にあるのではない

目の前で危機に瀕した仲間の姿にあった


「グッ・・・」


先ほど受けたダメージから立ち直れていないフィリアはアガーがゆっくりと近づいて来るのを、這いずって逃げる事しかできなかった


「逃げろ! フィリア!!」


鬼気迫る様子で叫び助けようとするセドではあったが、次々と怪人達が行く手を遮り彼女の元へ辿り着けないでいた


そうして彼女の元まで近付いたアガーはフィリアの首を掴むと持ち上げる


まるで人形でも掴むかの様に簡単に持ち上げられたフィリアは必死に手足を動かしもがいて抵抗を試みるが、首を掴む手はますます力を強め振り解けないでいた


「殺すな、とは言われてたがよ、要は殺さなきゃ何やっても良いんだろ」


皮が張り塞がった目をしながらも口元の動きだけでアガーが気味悪い笑みを浮かべるのがわかると同時に、フィリアの心中には薄寒い感情が湧き上がる


それを言葉にするのであれば恐怖と嫌悪感であった


「何が・・・目的・・・?」


少しでもそんな感情を振り払いながら、いや、目を背けようとしているのだ

アガーへと今出来る最大限の抵抗の意志を込め睨みながら問い掛けると、それが彼の加虐心をくすぐったのだろう、声に愉悦の感情を乗せながら喋り出した


「目的・・・? んなもん俺の強さを証明するためさ、弱者を痛ぶるのは強者の特権だからな、これで俺を紛い物だなんて思わせねぇ」


自分は強者であるというプライド

それがアガーを動かす原動力となっていた


「あぐっ・・・!」


首を締め付ける力は尚も強まり、フィリアは苦悶の声を漏らすとアガーはより笑みを深めていく


他者の悲鳴が彼の自尊心をより高めていっているのだ


「安心しろよ、殺しはしねぇ・・・ただ俺が満足するまで玩具になってもらうだけだからよ」


熱の籠った勝ち誇る様な声音で呟かれた言葉、しかし、それとは対照的にフィリアの胸中に浮かんだのは「くだらない」という哀れみにも似た冷めた感情だった


「そんな事の・・・ために・・・?」


「あ゛ぁ゛・・・?」


締め付けられ呼吸が乱れ朦朧とする中で無意識に発された言葉に首を締め付ける手にさらに力が籠る


「お前なんて言った!! そんな事の為だと! 馬鹿にしやがって!!」


彼女の言葉はアガーの逆鱗に触れたらしい

激しくプライドを刺激された怪人はフィリアの首に指を食い込ませ首をへし折らん勢いで締め付けてくる


今までに感じたことが無いほどの明確な死を感じながら、フィリアは漠然と考えてしまう


こんな奴に殺されるのかと


そう考えた直後、彼女の脳内に過去の記憶が過ぎる

義祖母の家の前に捨てられた赤子の頃の記憶、ベオテ村で感じた疎外感、ベガドの街に来た日、街で過ごした記憶


そして、この街で出会った仲間達と大切な家族、眠りについているトウヤの姿が過った


ーー嫌だ


このまま死ねば二度と彼らと逢えなくなる

もしかするとこの怪人はこのまま暴れ続けてこの街を破壊し尽くすかもしれない

また大勢死ぬ、仲間達も


ーーそんなの嫌だ


そう考えた直後、フィリアの内に何かが脈動し息吹くのを感じた

強く温かな感覚に彼女は朦朧とする意識の中で、手のひらを大きく広げると水流を放出する


「・・・!? なんだ!?」


フィリアの突然の行動に驚くアガーではあったが、そうしている間にも放出された水流は1本の鞭となり怪人の身体に巻き付いていく


強烈な拘束感からそれが膨大な魔力を圧縮した高密度の魔力の塊であり、ただの水魔法では無いことを悟る


「お前・・・何しやがる!! こんな事しても無駄だってのがわからねぇのかクズ!!」


突然の反抗からアガーは怒りに燃え白い息を吐きながら声を荒げた


そう白い息を吐きながら


「は・・・?」


自身の吐いた息の白さに気がつくと僅かに肌寒さを感じるのに気がつく

まだ残暑の残る季節何故こうも寒いのか


その答えに怪人が行き着く前には答え現れた


自身に巻き付いていた水の鞭がフィリアの手のひらを始まりとして凍りついて行くのだ


水の氷結はすぐさま身体に巻き付く水の鞭の先端にまで到達してアガーの身体を完全に拘束する


「こいつ・・・! 水魔法使いじゃなかったのかよ! 離せ!!」


何かマズイ

直感からそう思ったアガーは躊躇する事なくフィリアの首をへし折ろうと掴む手にさらに力を入れようとすると、鞭の先端がほんの僅かにパキリ、と耳触りの良い音を鳴らし欠けた


その音はアガーの耳にも届いており、音を聞いた瞬間に彼の背筋に悪寒が走る

すぐさま身を守ろうと身体に張り巡らされた身体強化術式で全身の筋肉を硬化させようとするが一歩遅かった


全身に巻き付く氷に一瞬でヒビが入ったかと思えば、瞬きをする間もなく次の瞬間には爆散する


「うぐおっ・・・!!」


「うっ・・・!」


悲鳴と共に細やかな氷の破片を伴った耳をつんざく程の激しい爆発と衝撃によりアガーの身体は地面を転げ回るが、同時に至近距離で爆発を受けたフィリアもまた壁に背中を叩きつけられた


首の狭まりは無くなったが、今度は背中を叩きつけられた事により肺の空気が外へと吐き出され、身体が新鮮な空気を求めようと荒い呼吸を行い激しく咽せ返る


ーー何とかなった?


突如として異様なまでの膨大な魔力が溢れ出してくるという自身の身体に起こった変化に戸惑いながらも、フィリアは解放された事にひとまず胸を撫で下ろす


しかし、拘束が解かれたからと言って状況は依然として好転していなかった


「こいつ・・・こいつ・・・ちくしょう!!」


怒号を上げながら立ち上がるアガーの姿が視界の先に見える


無意識のうちに放たれた一撃だったが、それでも8大罪たるアガーを仕留めるまでは行かなかったらしい


爆発と吹き飛ばされた衝撃によるダメージからか、僅かにふらつきながらも赤い鱗で覆われた2本の足で立ち上がる姿を前をフィリアは息を呑む


「お前・・・絶対ゆるさねェ!!」


その言葉と共にアガーは身体を電流へと置換させフィリアへと迫る


本来ならば目で捉えることは難しい電流を溢れ出た魔力により強化された目でしっかりと見つめ続けた

それが己の前で怪人の姿へと変わり、拳を振るう瞬間まで


その光景を見ていたのは彼女1人ではない

近くで戦っていたセドもではあるが、もう1人


彼女らの頭上でその光景を目撃した男がいた

彼は落下しながら腰の突起へと赤い鳥の形をした道具ーーガジェットを取り付けるとブレスレットと擦り合わせる


『フェニックス!!』


「変身!!」


機械音声の抑揚のある声と共に聞き覚えのある男の声が街中に響き渡る

その声に誰もがハッとして上を見上げようとした瞬間、フィリアとアガーの間に水色の人影が落ちてきた


アガーの放った拳を強く握り受け止める水色の人影にフィリアは顔を緩める


たった1日だけとは言え、彼が帰って来たのだと考えると安堵から今の状況と似つかわしくない言葉が口からこぼれ落ちた


「おかえり・・・トウヤ」


「ただいま、待たせたなフィリア」


『旭日昇天! 灰の中から日はまた登る。Hatch and evolve! フェニックスモード!!』


新しい力を伴って、浅間灯夜が来た

えいえいおー!

えいえいおー!


この話を書いてる時、あぁ遂にここまで来たんだなって思えてきました。

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