Balut 3
登場人物
フィリア・リース:トウヤの先輩ヒーロー、魔人からは様付けで呼ばれていたが・・・
アガー:8大罪の1人、筋肉隆々の浅黒い肌をした男
ウココツ:8大罪の1人
『フィリア、急いでくれ!! トウヤくんの様子がおかしい・・・これはっ』
「わかってる。もう少しで着く」
トウヤが中央広場に到着してから暫くして、フィリアもまた彼との合流を急いでいたが、そんな最中にゼトアから通信があった
曰くトウヤの魔力が不安定になったかと思えば急速に膨れ上がったとのことだ
彼からの通信に猛烈に嫌な予感がする
ーー急激な魔力の上昇・・・魔人化・・・まさか・・・
一時的な魔人化ではなく、魔人としての覚醒が始まってしまったのではないか
そうなれば彼はどうなるのだろうか
様々な不安が頭をよぎりながらも広場へと到着したフィリアは、目の前で光景に目を剥き立ち止まる
「すごいすごい! 見てみてみんな! なんか飛んできた!!」
「はしゃいでないでちゃんと避けて!」
放たれる結晶の槍の雨を同じ顔を持つ7人の少女と赤い鱗で全身が覆われた2本の巻き角が必死に避けている
その中に見覚えのある顔付きと衣装を着た2人がいたが、フィリアの目を引いたのはそれらとは別の存在だった
全身を形造る魔結晶の身体、頭に1本の角を生やした人の姿はしていれど非生物的な外見を持つそれを眺めながら、フィリアは全身の力が抜ける感覚を覚える
「アアア! アアアアアア!!」
遅かった。急いできたつもりだったが全てが遅かったのだ
苦しげに叫び攻撃を続けるそれの姿に顔を歪め悲哀のこもった声で呟く
「トウ・・・ヤ・・・」
如何に人外の姿をしていようとも彼女にはわかった
あれはトウヤなのだと、そして、自分は間に合わなかったのだと悟り膝を折り地面へと力無く座り込む
「なんで・・・」
「それはね、私達が煽ったからなの」
顔の横から聞こえてきた声に驚き振り向くと、にこやかに手を振るすぐそこで戦っている少女達と同じ顔を持つ少女がいた
「お久しぶり・・・と言っても良いのかしら? フィリアさん」
彼女の言葉に反応してすぐさま飛び退き距離を取る
いつの間に隣に、気が付かなかった。あれは誰だ
いくつもの言葉が脳内を駆け巡るが、そんな中でも一際大きな疑問が彼女の口から滑り落ちる
「あなた・・・誰?」
機敏に動き警戒しながらダガーを強く握りしめ構える彼女とは対照的に、少女は緩慢な動作でフィリアへと顔を向ける
「私は・・・イア、イアでありクヨキシ」
「どういう」
「どういう事って? そんなの簡単よ、イアと私は同一であり表裏、8大罪たるウココツ様の純潔と色欲を司る感情から生まれた分体なの」
「つまり・・・8大罪の能力で生まれた存在?」
「まぁそう思ってもらっても良いわ」
それだけ告げると彼女はフィリアから顔を背け未だ続いている戦闘を眺め出す
「ところで、彼大変な事になってるわね」
「彼に何をしたの」
フィリアの問いかけにクヨキシは小さく微笑う
「だから煽ったって言ったじゃない、私達がHMWを設置して彼の知り合いを殺したって伝えたらあんな状態に・・・」
瞬間、殺気を感じたクヨキシが咄嗟に腕を刃に変えてフィリアの振るったダガーを受け止め火花と衝撃が吹き荒れる
「あら、物騒ね」
怒りと強い殺気の籠った刃を前にしても、クヨキシは先ほどまでの態度を崩す事なく小さく微笑う
「あなた達が・・・ラーザとシスを・・・!」
「おぉ怖い、彼だけじゃなくてあなたの知り合いでもあったのね、そのラーザとシスって人」
力任せに刃を押し込むとフィリアの身体はいとも容易く押し切られる
8大罪の分体、彼女はそう言ったがそれでもフィリアとクヨキシとの間には大きな力の差があった
しかし、彼女は攻撃を続ける事なく刃を元の腕の形と色へと戻す
「やめてよね、あなたは殺したらダメってスポンサーから言われてるんだから」
「スポンサー・・・魔国のこと?」
「さぁ・・・これ以上は言えないわ、それで・・・良いの? 彼、そろそろまずいと思うけど」
彼、その言葉の意味を察したフィリアはすぐに目を向けた
西区中央広場、戦闘の場となったそこで膝をつく結晶を纏ったトウヤとそれを見下ろす怪人達の姿
「・・・! トウヤ!」
叫びと共にフィリアは考えるよりも先に彼の元へと駆けた
「もう終わり? 案外呆気なかったわね」
アガーの一撃を喰らい膝をつくトウヤに対してウココツは額に汗を滲ませながら強がる
実際は呆気ないという程簡単な戦いでは無かったのだが、彼女の言葉に対して誰も否定の言葉を口にしない
組織の最高戦力たる8大罪が2人がかりで戦わなければならない、彼らにとって認めたくない事実なのだ
それがどれだけ変えられな事でも
「それじゃ、さようなら」
身体の体積を変えて左腕を構築していたスライムとしての肉体を右腕へと集中させて巨大な刃を形成すると、膝をつくトウヤの首目掛けて振り下ろし叩き切ろうとする
「させない!」
だが、当たる寸前にトウヤと刃の間に割って入ると刃の一撃を受け止めた
しかし、華奢な見た目に反して重くのし掛かる重たい刃は受け止めたフィリアをいとも容易く押し切りトウヤごと後ろへと飛ばす
「グッ・・・トウヤ!」
圧倒的な力の差を見せつけられ地面を転がるフィリアではあったが、それを気にすることなく自分諸共飛ばされたトウヤの事を気遣い彼へと視線を向ける
自身よりも遠くに飛ばされ壁に背中を打ち付けた彼ではあったが、それ程ダメージを感じていないのか彼女が顔を向けた頃には立ち上がり彼女の事を見下ろしており、その事にフィリアは安堵から胸を撫で下ろす
「トウヤ・・・良かっ・・・!?」
しかし、安堵したのも束の間
自身の顔目掛けて腕を伸ばしたトウヤは彼女の顔を掴むと持ち上げる
何故、そう疑問を浮かべる前に猛烈な痛みが顔を襲う
「あぐっ・・・あぁっ!!」
ミシミシと音を立てる顔の痛みから彼女は掴んできている彼の腕を掴みながら悲鳴を上げる
必死に抵抗しようとするが、押し除けようとする手は彼の表面に纏われた結晶で切れ血まみれになり、それでも動かすことすらできずただ表面を触るだけで終わった
そんな目の前で唐突に起こった光景をウココツ達とアガーは暫し呆然としてしまう
「クッ・・・」
一体誰が発したのだろうか、誰かが耐え切れず吹き出すと次の瞬間には嗤い声が合唱となり響く
「怒ったと思ったら・・・まさか敵と味方の区別も付かなくなってるなんて」
「哀れだな、哀れだなぁ・・・ハハハッ!」
同情ではなく嘲笑を
哀れみではなく侮辱を
彼らにとって言葉に意味はなく、場面に応じて行っているだけの呼吸と大差はない
そこに相手を思う情はなく、あるのは相手を見下す優越感か自分のプライドを刺激された怒りか
ただそれだけである
「グゥゥッ!」
「聞いた? まるで潰されたカエルみたい!」
後ろから掛けられる声に怒りの感情を抱く事なくフィリアは痛みから悲鳴を上げ続けた
ーートウヤ、どうして
痛みの中、想うのは今自身の顔を握りつぶさんとする青年のこと
何故こんな事をするのか、何があったのか
彼を想うが故にこの状況をどう打破すべきか思考を巡らせようとする
だが、圧倒的な力の前に策など打てず思考は止まり掛けていた
「トウ・・・ヤ・・・」
力でも叶わず、策も打てない
そんな彼女の唯一打てる手は彼を呼び掛ける事だけだった
トウヤへと向ける哀しみ、困惑
怪人と自身に向けた怒り
様々な感情がないまぜにさせながらフィリアは意識を失いそうになりながらも呼び掛けた
「ト・・・ウヤ・・・やめて・・・」
「だってよ坊主、その辺でやめとけ」
声が聞こえた刹那、フィリアの頭を掴んでいた腕が切断される
腕から解放されたフィリアは一時宙を舞うが、そんな彼女を大きな手が受け止めた
「カガリノ・・・」
「よう、久しぶりだな嬢ちゃん・・・助けに来たぜ」
領民0人スタートの辺境領主様って漫画めっちゃ面白いわぁ・・・
アホの子主人公ってこんなにも引き込まれるというか良いんだなって再認識できる
なんかこう主人公オッサンなのになんか可愛いのよね
可愛いおっさん
でも、やっぱ原作者と漫画家の力量もあるんだろうなぁ・・・
すっごいわ、やっぱこういう話作れる人って