怪人大進行 3
登場人物
リーゼ・ヴァラド:セドの義妹、セドが自分よりも幼い少女の弟子をとったことに内心モヤモヤしている
浅間灯夜:もう2話ほど出番がないかもしれない本作の主人公
テッラの名乗りと共に放り投げられたリーゼは壁に背を打ちつけ小さな悲鳴をあげた
「ぐっ・・・8大罪・・・あなたが?」
「うん! 僕8大罪!」
背中の痛みを感じながらヨロヨロと立ち上がり、自身の聞き間違いではないかと祈りながら聞いた言葉を再確認するように呟くと、怪人は先ほどと変わらず愉快そうに笑いながら頷く
8大罪、組織の最高幹部の出現にリーゼは唖然とした表情を浮かべる
「なんで8大罪がここに・・・何が目的ですか!」
声を荒げながらリーゼはチラリと学友達へと視線を向けた
今は少しでも早く保健室に行き負傷した学友の怪我の治療を行うべきであり、喋っている時間は本来ならばない
だが、8大罪という自身が全力を出しても倒せるかどうかすらわからない相手が出て来た以上は、少しでも時間稼ぎをして学友達が逃げる隙を伺うべく怪人に向けて声を荒げ問い掛ける
しかし、怪人の解答はひどくあっさりしたものだった
「うーん・・・わかんない!!」
「え・・・?」
「わかんないけどウココツが、どこでも良いから暴れろって言ったからやるんだ」
そう言うと腰に手を当てカラカラと笑う
まるで自分の事を誇らしく思うような姿にリーゼはひどく狼狽すると共に、胸の内の激しい感情の乱れを感じる
確かに時間稼ぎのための会話だ、元々ちゃんとした解答など期待していなかった
「そ・・・うで・・・」
「ん? 何、聞こえないんだけど」
期待していないが、だからと言って憤りを感じないわけではない
言われたからやった。それはつまりは目的もなく、意味もなく人々を害していたという事だ
絞り出された言葉を今度は眉間に皺を寄せ荒げながら発する
「そんな理由で人々を傷つけていたのですか!? 目的もなく、ただ言われたからというだけで!!」
明確な目的を持たず、ただ言われたから意味もわからず無作為に人々を殺してまわっていた
その事実が彼女の心を乱す
だが、そんな彼女を前にしてもテッラは尚も態度を崩さない
「そんな事言われても知らないよ、僕はただ言われた事をやってるだけなんだから」
それどころか拗ねるよな態度を取りリーゼに言い返す
「もう良い? 僕早くここを片付けたいんだ」
「そんな事させません! 私が今ここで貴方を止めます!」
窓のサッシに手を掛けると力を振り絞り立ち上がる
「止めるって、そんな実力じゃ危ないよ? 戦わずにやられた方が楽じゃない?」
「そんな事を言われて辞める人が何処にいるんですか!」
不思議そうに呟くテッラへと虚勢を張るリーゼ、しかし、確かに8大罪に勝てる程の力は無い
だが、それと戦わないのとは話が異なる
「逃げて!!」
彼女はそう叫ぶと共に風を纏いながら怪人に向けてに駆け出し拳を打ち付け、恐怖から立ち尽くしていた学友もまた走り出す
何故立ち向かって来たのか疑問に思っていたテッラではあったが、それを見た時に何かを察したのか「あぁ、そういうことか」と呟き微笑む
「友達を逃すために囮になったんだね、友達想いだねぇ」
再び受け止めた拳を離すと毛のような細い腕を伸ばしまとめ上げリーゼ目掛けて振り下ろす
「グゥッ・・・竜鱗!」
それを彼女は風を腕に纏わせながら盾にするように前へと構えた
重くのし掛かるテッラの一撃は纏わせた風の盾越しに彼女へと少なくないダメージを与えながらもいなされる
いなされた拳により、廊下が粉砕され細かな礫の幾つかがリーゼに当たるが気にすることなく拳の連撃を見舞った
だが、そんな攻撃もテッラの体毛のような小さな腕の前に全て防がれてしまう
「ダメだよ、僕にそんなの通用しないって」
「なら・・・!」
拳が通用しないとわかると、後ろへと飛び退き両手を合わせ魔力を集中させた
繰り出すのは息吹、風竜の大いなる風を再現した技
「竜砲!」
突き出した両手から細かな刃を伴った荒れ狂う風の奔流を撃ちだす
建物の破損など気にしていられない、と考えたリーゼは魔力を最大限込めた全力の一撃をテッラへと叩きつけたのだ
「おー」と気の抜けた声を漏らすテッラを呑み込みながら奔流は校舎の壁に穴をあけ瓦礫を粉々に砕きながら外へと飛び出していく
激しい爆音と共に風により抉られた廊下と風穴の空いた壁から土煙が舞う中で、リーゼはただ一点を睨みつけるように凝視していた
「・・・なんて頑丈な」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら呟かれた言葉に、陽気な声が返ってくる
「頑丈さは僕の取り柄のひとつだからね!」
煙が急激に晴れたかと思えば、腰に手を当てた無傷のテッラの姿がある
建物を容易く破壊する一撃、しかし、8大罪であるテッラには効果が無いようで、圧倒的な力の差がそこにはあった
ーーどうすれば・・・
浸透破砕拳など次の一手がないわけでは無い、だが今では無い
今放ったところで躱される。ならば確実に決められる隙を伺えば良いのだが、いかんせん守りが硬く強化服の無い今の自分では隙を作れそうもないのだ
そう悩んでいると、テッラが今か今かと何やら待っているのがわかった
「何をそんなに楽しそうにしているのですか?」
正直彼女の心境としては腹立たしいという言葉が1番に出てくるが、あまりに不気味だった為につい言葉にしてしまう
「えぇ? えっへへどうしよっかなぁ、でも知りたい? ならしょうがないなぁ」
無邪気さを隠しきれない様子で全身の細い腕をザワザワと蠢かしながら彼女の言葉に反応するとスッと腕を伸ばし一点を指差す
それは学友達が走り去っていった方角だった
「実はねゲームを考えてたの」
「ゲーム・・・?」
唐突な言葉に怪訝な表情を向ける
「うん! 今から追いかけっこしよ? 目標はさっき走っていった子達!!」
「なっ、辞めなさいあの方達は!」
「よーいスタート!!」
リーゼの静止を聞くことなく、テッラは先程空いた壁の穴へと向かうと飛び降りていくとリーゼもまた急いで学友達を探すべく走り出した
あなたを奪ったその日から・・・!
良い感じになってきたんじゃないですぅ!!?
めちゃくちゃ誰も幸せになってないけど! こっからどう大団円に繋がるのか
楽しみ