ベガドの危機!?魔王軍侵攻! 6
らーらーらー
みな私の美声に酔いしれると良い
オーマイガー空軍第6飛行隊所属のオータマゲッタ
君達の言葉で、おったまげたという意味だ
これより参列に参加する
隆起した地面から1体の手足の生えたデカイドリル付きのトゲだらけの皿みたいな魔獣がなんか飛び出した
その瞬間を目撃したトウヤの抱いた感想はそれだった
おそらくは民衆も同じ感想を抱いた事だろう
呆然とした様子でその光景を眺めていた
次いで襲ってきたのは考えれる未来への恐怖
そこからはあっという間だった
恐怖により民衆は濁流の様な勢いで駆け出したのだ
先程壁上を溶かした紫の光線の事でラーザ達と話していた筈だが、アレはなんだ、みんななんで慌てているんだ?
知識のないトウヤは何故という疑問により、現状の把握が出来ないでいるが、ただその感情だけは理解できた
恐怖
これから恐ろしいものがやって来るのだという恐怖だ
「おい!トウヤ、しっかりしろ!ぼさっとしてんな戦闘準備!」
「早く武器を構えて、来るよ!」
ラーザとシスの声で現実に引き戻される
先程地中から飛び出てきた魔獣はワタワタと四肢を動かした後に動かなくなっていた
だが、周りの冒険者達は誰1人としてその事を気にする様子はなかった
全員が武器を構えてあの魔獣が掘った穴を凝視している
「あの穴なんですか・・・?」
「魔王軍の地中侵攻、結界魔法が突破出来ないならその内側から攻めれば良いっていう馬鹿みたいな発想だよ」
「つまりあそこからたくさんの魔法兵器が攻めてくるって事よ」
「え、ちょマジすか!?」
その言葉にトウヤは慌てる
話には聞いていたが、実際に出会って戦うとなると話は別であり
嫌でも緊張してしまいへっぴり越しで棍棒を慌てて構えた
その場にいる全員が静まり返り、穴から出て来るものをすぐさま撃退しようと神経を尖らせる
だが全く出て来る気配がなかった
「なんだ・・・?ただのこけおどしか?」
ハハッと乾いた笑みを浮かべる1人の冒険者が警戒しながらも穴へと近づいて行く
「お、おい、お前やめろ」
「平気だって、そうだ、こんなのただのこけおどしさ、中には何もいない、そうに決まっている」
そう言って近づき、ついには穴を覗き込む
その先に見えるのは真っ暗な空洞だった
ほら、やっぱりなと息を吐き安堵する
それから一瞬だった
その冒険者の身体を宙を舞う、次いで伸び出てきた触手に地面へと叩き付けられたのは
「ゴーレムじゃない・・・スライムローパーだぁ!!?」
一瞬だった
スライムローパーの触手だけが穴から顔を出したと思った瞬間、大量のスライムローパーが穴から顔を出し始めた
我先にとワラワラと湧き出て周辺の冒険者に襲い掛かる
穴の近くにいたものは果敢に剣を持って挑むが誰もこれもが剣を振るう前に触手で薙ぎ払われた
ある者はスライムローパーの触手を身体強化を掛けて剣で受け止めようとして剣ごと叩き潰される
ある者はスライムローパーの身体に取り込まれ生きたまま溶け殺された
叩きつけた剣は表面をぶにっと押し込むだけで傷すら付けられない
ライフルでの銃撃も、その弾性に優れた表皮により受け止められ弾丸は勢いを失い落ちていく
対してスライムローパーはただ触手を振り回せば、しなやかな鞭となり冒険者のハラワタを破壊する凶器となる
目の前で繰り広げられる虐殺
誰もスライムローパーに勝てない、傷すら付けられない
それもそうだ、本来スライムローパーは対MRAを想定した魔法兵器であり、本来は人の手で倒せる者ではないからだ
幾ら筋力を鍛えようとも、幾ら魔法を使おうとも、ただの人であれば勝てない
そんな現実をむざむざと見せつけられる
そうして呆然とするトウヤに気が付いたスライムローパーが、彼は近づきそのしなやかな死の鞭が振り下ろした
「トウヤ!なにぼけっとしてんだ!」
だが触手はトウヤへと届く事はなく、彼とスライムローパーの間に大剣が差し込まれた大剣により逸らし触手を受け流される
「ら、ラーザさん・・・」
「トウヤ、お前は一旦民間人の救助に回れ、ゴーレムならと思ったがスライムローパー相手には無理だ、急げ!」
「でも、それじゃラーザさんが・・・」
そう声をかけるとラーザはニヤリと笑みを浮かべる
そうして目の前にスライムローパーがいるにも関わらず大剣を肩に担ぎこちらへと振り返る
「何心配してんだよ、俺はお前より先輩なんだぞ?何回か戦った事あるし倒した事だってあるんだ、それに俺よりも強い奴がいる事を忘れたのか?」
ラーザにはシスとのスライムローパーの共同撃破の経験が何度かあった
だがそれでもこの数相手では彼でも厳しいだろう
しかし、ラーザは笑顔でそう言ってのけた
「そうだねぇ、何せ私たちは1級だからね!」
不意に後ろから少女の声が聞こえる
声の主はトウヤとラーザの隣を一陣の風の如く通り過ぎていくと、次いで前から強烈な水音と打撃音が鳴り響いた
見れば、1人の忍び装束の少女が、岩の様な拳で持ってスライムの身体を突き破りコアを叩き壊している
「ラーザお疲れ様、カッコつけてるとこ悪いけど、ここの相手全部もらうねぇ」
「お前が来るってわかってたからカッコつけてたんだよ、ありがとよ茜」
へへーと笑う茜の姿がそこにあった
いつもの私服とは違い仕事衣装なのだろうか、忍び装束を身に纏っている
そんな笑い合う彼女を別の触手が狙いを定めたのだろう、後ろからゆらりと揺れる触手が彼女の頭上に現れ叩き潰した
「茜さん!!」
トウヤはあっという間にやられた茜の姿に悲痛な叫びを発し身を案じるが、それは杞憂に終わる
「危ないなぁもう、後ろから狙うなんて卑怯だよ?」
「え?え?」
叩き潰されと思った茜が、トウヤの隣で叩きつけてきた触手の持ち主であるスライムローパーへメッと注意する様な仕草をする
当のスライムローパーが触手を持ち上げれば、そこにはぐずぐずになった札と木片が散らばっていた
「変わり身の術、今度はこっちから行くよ!」
そう言うや否や拳を構え、足を開くと片足を持ち上げ地を踏みつける
ドカッと石畳が割れると刹那、スライムローパーの懐に入り込んでいた
「忍法、疾風迅雷:鉄砲!」
忍術により置換された魔力が岩の塊となり腕を覆う
足を開き右の拳を半身ごと後ろへ引くと、拳を開き身体全体を使い一気に叩き込む
当たる寸前に岩の塊が前へとせり出し張り手と共に岩が掌から撃ち込まれる
撃ち出された岩は弾丸となりスライムローパーの胴体を突き抜け大穴を開けた
そこにあったであろう核ごと
「ありゃ、やり過ぎた?」
「やり過ぎだ、後ろのスライムローパーまで吹き飛んでるぞ、他のやつに当たったらどうするつもりなんだ」
「あ、ごめんごめん、次から気をつけるね」
後ろにいたであろうスライムローパー達もまた撃ち出されバラけた岩に巻き込まれたのだろう
身体の半分を失いグズグズと溶けていた
失敗失敗と頭を掻き茜は笑うとラーザは本当に反省してるのかわからない彼女に対しため息を吐く
「茜、ラーザ、何遊んでるの?」
「あ、雫!」
忍び装束を纏った雫が穴のある方向から歩いて来るのを見つけると、茜は彼女へと駆け寄る
「そっちは終わったの?」
「まだ出て来ると思うから油断できない、でも穴から出てる分は終わった」
そういう彼女が後ろにチラリと視線を向ける
つられてトウヤも視線を向けると、そこには身じろぎひとつしないで動きが止まっているスライムローパーの姿があった
何かが巻き付いているのだろうか、全身がまるで細い糸で巻かれたように内側に食い込み盛り上がっている
雫がおもむろに人差し指を上げると、そこには1本の細い糸の様なものがピンと貼ってあるのが見えた
「さようなら」
彼女が人差し指を軽く振ると指から糸が離れる
するとスライムローパーの身体の節々が明滅し爆散した
「忍法、魔力糸:爆導糸」
圧倒的だった
冒険者達をいとも簡単に虐殺していた魔法兵器達が、彼女達2人により鏖殺されたのだ
歴然とした技量差に唖然とする
これが1等級冒険者、その力量の差を実戦で持って示された
ドカッと頭に手がのし掛かる
ラーザがトウヤの頭に手を置いたのだ
「言っただろ俺は死なないって、だから言って来い、ここはこいつらと俺で守る、他に3つほど穴が空いてんだから住民の避難を手伝って来い」
そう言ってラーザが笑う
雫と茜という存在感の後押しもあってかトウヤは快く返事をし、自身の新たな役割を全うする為に走り出す
「倒したの私達だけどね」
「ラーザ、カッコつけたいのはわかるけど」
「あぁうるさいうるさい、良いだろ別に、俺だってここまで生き残ったんだから」
ラーザはそう言うと穴へと向き直る
そこには新たに湧き出てきたスライムローパーが蠢いていた
彼らは再度武器を構えると、スライムローパーへと向かい走り出す
未だ戦いは終わらない
なっがぁ
切り取りしようにも、良い感じの切り取り方なかったんです
ユルシテクダサイナンデモシマスカラ
ん?今なんで持って・・・
ちゃらららーらー、ちゃらららーらー、ちゃらららーらららーらー
カタカタカタカタ
金曜ハードショー