大陸間会談 8 終
これにて27話終了です
街の門に近づいた時、彼らを出迎えたのは事態収集のために動き出したロイヤルフォースを含めた皇室専用艦所属の陸戦隊だった
彼らは街中で発生した爆発と共に通信が途絶し、安否不明となった王族の救援と街の避難活動を行っていたのだ
そんな陸戦隊のMRAに市民達を預けると、念の為に街の外周に設置された野戦病院で検査を受ける事になった
MRAの案内に従い歩いていく市民達の背中を見送った後、トウヤとセドはすぐさま踵を返し街に戻ろうとしたが、そんな彼らに向けて呼び止めるように声がかけられる
「トウヤ、セド?」
聞き覚えのある声に振り向いてみると、そこにいたのは茜と雫だった
「茜さんに雫さん! 無事だったんですね!」
「うん・・・なんか、爆発音が聞こえたと思ったら気を失ってて・・・」
「気が付いたらここにいたの、今どうなってるの?」
「・・・今、街はかなりの被害に遭ってます。HMWの煙と魔獣化した人がそこら中にいて・・・」
トウヤの言葉に2人は悲痛な面持ちを浮かべる
冒険者には現在避難誘導の指示が出ているにも関わらず、自分達は野戦病院のベットで寝ていたのだから
「なら、今すぐにでも行かないと・・・」
「いや、それはやめた方がいいよ」
そう言って現れたのはオータムだった
血のへばりついた衣服から他の冒険者を従え街から戻ってきたのだろう彼は、眉間に皺を寄せ悔しげに口を開く
「HMWの煙がもう街全体を包み込んでいる。今行ったら汚染されて魔獣化してしまうだろうね・・・」
「なら・・・残った人達は・・・」
「残念だが、もう人は残っていないと判断された」
それはつまり町民全てが魔獣化したと判断し生き残ってる者は見捨てる事を決定をしたという事である
伝えられた言葉に「そんな・・・」とトウヤは漏らす
まだ生きているのであれば助けるべきではないのか、しかし、思う一方で生きている者達を守る為には仕方がないのか
そう思う自分がいるのも確かであった
街の門付近では、先程から銃撃音と共に獣の悲鳴が響いている
地を這う煙を外に逃がさないようにと、四方の出入り口を結界魔法で塞ぎ栓をしているが、それを永遠と続ける訳にもいかない
もう全てを終わらせるには元を断つしか無いのだ
「なりません!!」
その判断に納得していないのは王女であるフィリスもなのだろう
案内された司令所で現場指揮官へと抗議の声を上げる
「王女・・・これは司令部の決定です。どうか落ち着いて下さい・・・」
「あなた・・・いえ、そうですね。申し訳ございません・・・」
困った様子を浮かべる指揮官の顔に怒りが込み上げてくるが、深く息を吸い気持ちを落ち着かせると冷静に謝罪する
今この場で彼を困らせたところで意味がないのだ、彼に決定権は無いのだから
「なら、私の方から司令部に問い合わせます」
「・・・王女、失礼ですがあなたも現場をご覧になられたのでしょう?」
指揮官の一言に思わず言葉が詰まる
彼が言いたいのは、つまりはもう手遅れということだろう
例え生き残っていたとしても、この狭い城壁都市の中で魔獣化した人とHMWの煙を吸わずに救援を待っていられるほどの人間はいない
いたとしても既に脱出している
仮に救援部隊を編成しても、二次被害の危険性がある以上は安易に出せない
爆破を許してしまった時点でもう全てが手遅れなのだ
だが、彼女にとっての凶報は終わらない
「王女! 至急王都にお戻りください!」
指揮所へと慌てた様子で兵士が飛び込んでくる
その様子から何かあったのだと察して彼女は黙って次に来る言葉を待つが、飛び込んできたのは驚きの情報だった
「ザンディオン帝国を含めた旧大陸の通商同盟がテロ首謀者明け渡しを求め宣戦布告!」
「なっ・・・まさか・・・!?」
旧大陸の軍に動きあり
その報は聞いていたが、まさか宣戦布告をするとは思ってもみなかった
連絡が届くには彼らの技術ではあまりにも早過ぎる。何よりも会談に来た関係者はあの爆発で全滅したのではないか
様々な疑問が頭の内を駆け巡るが、すぐさまどれも違うという事に気がつく
連絡が届いたのでもなければ、生き残りがいたのではない
相手は元よりそのつもりだったのではないか
その考えに思い至ると拳を強く握りしめる
「やってくれたわね・・・」
予め軍を動かしていたのはこのための準備
初めから彼らは真面目に会談に挑むつもりなどなかったのだ
「すぐに王都に戻ります。船の準備を・・・!」
そう言い指揮所から飛び出さんとした最中、不意に足を止めると何かを言い残したかのように僅かに逡巡しながらも、指揮官へと顔向ける
「この街の事を、お願いします・・・もし生存者がいれば・・・」
「お任せ下さい、我々とてこの国の防人、生存者が見つかれば全力で救う所存です」
力強く答える指揮官の言葉に、フィリスは満足げに頷くと急ぎ指揮所を立ち去る
「へぇ、王女様生き残ったんだぁ」
潜り込ませた偵察怪人の視覚共有により映し出された光景を見て、ウココツは独りごちる
本来ならば現地ヒーローでは対応出来ない下級怪人による数によって殺害、第二プランでHMWにより殺す手筈だった
しかし、確かに彼女は生きてそこにいる
一体なぜなのだろうかと僅かに考えるが、見覚えのある姿を見つけ合点がいく
「なんだ、また君だったんだね。トウヤ君」
アサマトウヤ
出自は不明、年齢は20、性別は男
現在はヒーローとして活動中
調べさせた彼の経歴は謎ばかりだったが、素体狩りの邪魔から全大怪人の討伐と無視出来ない被害を組織に与えている要注意人物
ーーもう私たちが行動に移すべきか
大怪人クラスで討伐が出来ないのであれば、これ以上邪魔立てさせないように自分達が動こう
そう思った時、ウココツは笑みを浮かべた
底の見えない悪意を含んだ笑みを
「あら・・・」
「どうしたんですか?」
ベガドの街にあるbarエオーネ
そこの店主であるエオーネの声に、カウンターに座り酒を嗜むゼトアが心配げに声を掛けると、困った笑みを浮かべながらエオーネが棚に置かれた酒瓶を手に取る
「ラーザとシスのキープしてたボトルにヒビが入っちゃったのよ」
確かにエオーネの持つ酒瓶を見てみると、僅かに亀裂が入っている
「おや、酒瓶にヒビが入るなんて・・・珍しいですね」
「ほんと何か嫌な感じね、もう少ししたらお祝いしないといけないのに・・・」
「そういえばついに告白したらしいですね。ラーザくん」
「そうなの、やっとあの子告白する気になったみたいで・・・早くみんなでお祝いしたいわ・・・」
そう言うと、酒瓶から中身が漏れ出していないか確認した後、静かに酒瓶を棚に戻す
彼らが帰ってきた時に、飲み切ってもらおうと思いながら