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大陸間会談 7

トウヤ達が立ち去った後、1人残されたラーザは頭をガジガジと掻きながらため息を吐く


ーーどうしてこうなったんだろうな


重要な会談が行われる街

きっと屋台が多く出て楽しい時間を過ごせる筈だ

そう思っていたのに


幾ら考えても答えの出ない後悔に頭を悩ましながら、後ろから聞こえた足音に振り向き、哀しげな微笑みを浮かべ魔獣化したそれと向き合う


「よう、遅かったじゃないかーー




ーーシス」


きめ細やかな透き通る肌は盛り上がった筋肉により赤く爛れ、細くしなやかな四肢はかつての面影を残しておらず、唯一シスとわかる顔は2本の頭蓋骨が変形した角が額から生え、目は真っ赤に充血していた


遠出するとわかり、気合を入れて2人で買いに行った服はボロ布となり虚しくはためいている


「もうちょっと早かったら・・・トウヤ達に逢えたのにな、お前ってほんと間が悪いよな・・・まぁ今回ばっかりはそれで良いんだけどさ」


話を聞いているのか、そもそもこちらが喋った内容が理解出来ているのかすら怪しい


だが、それでも話すのを止められない


「ほんと・・・ついてないよな、覚えてるか? お前が屋敷を逃げ出す時、溜め込んだ逃走資金全部無くしてさ・・・」


いつか返事が来るのではないか、いつもみたいに買い言葉に売り言葉で喧嘩して、騒いで、気がついたら仲直りしている

そんな瞬間が戻ってくるのではないか


僅かな希望を信じて、信じたくて話し続ける

だが、いつまで経っても返ってくるのは呻き声ばかりだった


「あんまりだよな・・・、何がしたいのかわかんないけどさ、こんなのってよ・・・」


魔力を練りながら顔を歪める

最後に一度だけでもよかった。ただ君の声が聞きたかった


そんな想いを打ち砕く様にシスだったものはラーザ目掛けて走り出す

無論、熱い抱擁を交わすためではない

目の前の餌を食う為に迫る


そんな彼女を前に武器を持たぬラーザは迎撃しようと練り上げた魔力で魔法を行使しようとして


やめた




幾ら姿が変わろうとも彼女はシスなのだ

だからこそ、突き立てられた歯をなんの抵抗もなく行け入れる


舞う鮮血と痛みの中、ラーザの脳裏にはこれまでの思い出が巡っていく


シスと共に彼女の実家である貴族屋敷から逃げ出す時、シスと冒険者として活動した時の苦労と笑い合った日々、大切な仲間達との思い出


ーーあれ?


背中を打ち付ける衝撃と共にそこで彼は、ふと疑問に思う


ーーそういえば、なんか凍ってたよな


シスが煙に呑み込まれた後、自分に迫る煙が氷の粒に変化したのだ


あれは一体何だったのか、ひょっとしてーー

そう疑問に思った時、突き立てられた牙による痛みが消えて答えが現れた


「・・・ラーザ」


声が聞こえる

そう思い唯一動く顔を声のした横へ向けると、立ち尽くすカガリノの姿があった


何故彼がここに、そんな疑問で呆気に取られるが次の瞬間には何かを察した様に静かに笑う


「やっばりお前だったのかーーー」


口を動かして発された名前に、カガリノは驚く


「なんで・・・」


「そんなの決まってるだろ、俺はお前の先輩だぞ? わからなくてどうすんだよ」


ラーザの言葉に息が荒くなると共に、喉元まで上がってきた感情がカガリノの心を掻き乱す

やめろ、出てくるな

そう思い我慢しようとするが、熱くなる目頭から数滴の涙が流れる


「俺は・・・あんたを・・・あんた達を助けたかったのに・・・」


「そういえば・・・雫と茜、オータムさんを助けてくれたのもお前なんだろ? ありがとう、おかげで俺も助かったよ」


「助かってない!!」


荒々しく発された声、彼が何を見て気付いたのかはわからない

だが、全てが遅かった。遅かったのだ

2人を助けようと急ぎ、やっと見つけたかと思えばシスは既に煙に呑み込まれ、せめてラーザだけはと思い煙を凍らせたが、彼の死もまた回避出来なかった


「いつもそうだ、俺はあんた達を救おうとして・・・いつも・・・いつもぉ!!」


いつもの彼らしくない、後悔の念から捻り出された言葉

どの様な経験を経て発された言葉なのか、ラーザには知る由もない


ただ彼の叫びを聞いたラーザは、いつもと変わらぬ様子でカガリノへと問い掛ける


「・・・なぁ、お前がなんでそうなったのか、何があったのかってのは多分、俺には理解出来ないと思う、だけどさ・・・これだけはハッキリと言える」


何を言うつもりなのか、カガリノは身構える


だが、そんな彼に反してラーザは微笑みながら優しく言葉を紡いでいく


「誰かの命を救った時点でお前はヒーローなんだよ、俺にとってそうである様にな」


いつかの言葉

今は無き、自身が覚悟を決めたきっかけである心に深く刻まれたその言葉に唇を強く噛み締める


「だから、ありがとうな、おかげでこいつと一緒に居られる」


「ラーザ・・・さん・・・」


止まることのない涙で視界が歪み、在りし日の自分が蘇る


「おいおい、泣くなよ・・・なんか湿っぽくなっちまうだろ」


泣いてしまったカガリノの姿を見て、ラーザは困った様な表情を浮かべる

どこまでも相手を気遣う、微笑みを見せながら


「なぁ・・・シスと2人にしてくれないか?」


「それは・・・わかった・・・」


彼の言葉から何をするつもりなのかわかっていたカガリノだったが、真っ直ぐな視線で見つめる彼の眼差しに一瞬顔を歪めながらも了承する


彼の最後の願いを叶える為に、カガリノはその場を後にした


時の止まった空間で、残されたラーザはシスへと顔を向けると小さく笑う


「びっくりだよな、まさかアイツだったなんてな」


呟くと共に皮の剥がれかけているシスの頬を傷付けないように優しく撫でる


「アイツのおかげで腹が決まったよ」


燃え上がった民家、そこから上がる火が少しずつ色を取り戻し、人々の悲鳴がチャチなスローモーションVTRのようにゆっくりと聞こえだすと、腹の痛みがチクリと痛み出す


その痛みを感じながらラーザは魔法を発動する

自身の込められるありったけの魔法を手のひらに込めた












その爆発は遠く離れたトウヤ達からも確認できた

先程自分達がいた場所でありラーザがいた場所だと、わかった瞬間トウヤは走り出そうとして肩を力強く掴まれる


「トウヤ、どこに行くつもりだ」


「セドさんも見たでしょ、あそこは・・・!!」


決まっているだろう

そう言わんばかりにトウヤは勢いよく振り向き言葉を失う


唇を強く噛み締め血を流しながら、怖いくらいの形相で睨み付けるセドの顔があったのだ


彼は務めて平静を装いながらも、震え出した手でトウヤの肩を掴んだまま再度問いかけた


「お前の任務は・・・終わってないだろう、このまま・・・このまま置いていくつもりか」


彼らしくない言葉足らずの言い方に、トウヤは彼の心境を悟る


今すぐにでも向かいたい気持ちと、市民と王女を護らねばならないヒーローとしての責務の間で葛藤する男の姿に、トウヤの心は未だ動揺しながらもある程度の落ち着きを取り戻すとセドはトウヤの肩から手を離した


「それで良い・・・行くぞ」


全ての感情を呑み込み彼らは走り出す

今はただ責務を果たす為に

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