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大陸間会談 6

町役場の前は一瞬で喧騒の波に飲み込まれた


建物の上層階が突然爆発したのだ

花咲く蕾の様に紅が膨れ上がり炎が噴き出し轟音が場を支配した


舞う粉塵と衝撃から頭を守るようにしていた腕からキュッと閉じていた目を開き爆発の起こった場所を見ると、フィリスの顔が驚愕と焦りの色に染まっていく


「あそこは・・・まさか・・・!?」


「フィリス、無事か!」


「私は無事です・・・でも、あそこには旧大陸国家の方々が!」


彼女の言葉にセドも顔を向ければ、そこは確かにいつもよりも一足早く到着していた旧大陸国家からの来賓がいる筈の階層だった


「クソッ!」


『こちら第三小隊・・・聞こえるか、ヒーロー』


急ぎ救出の為に役場の中へと入ろうとするが、ノイズが混じりながらも入ってきた無線に耳を傾ける

第三小隊、それは来賓達の護衛を担当している部隊であり、彼らが無事であった事に一先ず胸を撫で下ろす


だが、伝えられたのは最悪の事態だった


『来賓は全滅、爆弾はHMW、今すぐ王女を連れて避難しろ! 煙と魔獣の群れが・・・』


そこで通信は途切れ、同時に薄紫の煙が役場の通路から、爆発で開いた穴から溢れ出る


「まずい・・・非難するぞ、急げ!」


焦るセドの声に慌て避難を開始した


これが本当にHMWならば、煙を吸い込んだ時点で普通の人なら魔獣化してしまう可能性があり

もしそうでなかったのなら、より悲惨な運命を辿る事になる

いつか読んだ本の内容を思い起こしながら、トウヤは王女の御付きや怪人との戦闘で逃げ遅れた人々を庇いながらもまた走り出した


そして、思い知る事になる

本の内容の本当の意味を、読むだけでは感じられない恐ろしさを


それを知る事になったのは、避難を開始して暫く経ってからだった

どうやら仕掛けられたHMWはひとつだけではなかった様で、街の至る所で発生した薄紫の煙に人々はパニックに陥っている


そんな中を走っていると、突然路地から飛び出してきた女性が足をもつれさせて彼らの目の前で転けた


「大丈夫か? ほら、急いで逃げるぞ」


先頭を走っていたセドが、そう言って女性を起こすと彼女は血走った目でセドの腕を掴み悲鳴の様な声を彼へと浴びせ掛ける


「あなたヒーローよね! お願い、助けて! 夫と子供が煙を吸って倒れたんです!」


「お、落ち着け! 一旦あなたも避難を・・・」


「そんな事してたら間に合わない! 早く助けて! あそこに・・・あそこにニカが!!」


必死の形相で助けを求める女性

引っ張られる腕は魔法を使ってないにも関わらず、女性とは思えない程の力強さを持っていた


そんな彼女を前にしてセドは何も出来ない悔しさから顔を歪める

煙を吸った

それ即ち、もう手遅れであることを知っていたからだ


やがて女性は泣きじゃくりながら、縋り付く腕の力が抜けていきズルズルと座り込む


「お願い・・・お願いします・・・あの人は・・・あの子は私の・・・私の!!」


言いかけた時だった

彼女の背後から何かが飛びつき、首元に噛み付く


「なっ・・・!」


その姿を見て、セドはあまりの光景に言葉を失う


1本の角、頬にはエラの様に剥がれ硬質化した皮膚、目は赤く充血した子供らしきそれ

小さな体格に似合わぬ程の赤く爛れた皮膚と筋肉は一回りほど身体を大きく見せ、それが本当に子供なのかどうか判別が付かない


しかし、女性は噛み付かれた首から血を流しながらも愛おしそうにそれの頬を撫でる


「ニ・・・カ・・・」


次の瞬間にはさらに強い力で地面に押さえつけられ、汚らしい水音を立てて細かく噛み切られていく母親とそれを咀嚼して飲み込んでいく子供の姿


その光景にトウヤは目眩のする感覚と共に吐き気を催した


「こんな・・・」


場にいた物達はあまりに凄惨な光景に息を呑む

町中から響く悲鳴、すぐ近くで聞こえる悲痛な叫び


「やめて!」


「お父さん離して!」


「嫌だ、助けて!」


家族が、仲間が、友が、どの様な関係かも関係無く、分け隔てなく訪れる悲惨な情景は彼らの心胆を寒からしめた


唖然とした表情で立ちすくんではいたが、目の前で家の扉が破壊される音と共にセドは我にかえる


「行くぞ・・・、兎に角この街を脱出するんだ・・・」


「・・・はい」


彼の声に応え彼らはまた走り出す

その時、先程破壊された家から飛び出た動かない手と覆い被さる手の薬指に嵌められた指輪を見て、トウヤは一抹の不安を覚える


「ラーザさん・・・シスさん・・・」


彼らは果たして無事なのだろうか

雫や茜、オータムもこの街に来ていると聞いたが無事なのだろうか


必死に足を動かし途中で見つけた生存者と合流し、時に抱えながらトウヤは彼らの無事を祈った


そんな祈りが通じたのだろうか

道の真ん中で佇む人影を見た時、セドとトウヤは暗くなっていた表情を僅かに明るくさせた


「ラーザさん!!」


「ん? お、セドにトウヤ! お前ら無事だったのか!」


明るい声で呼びかけに答えたラーザの姿にトウヤ達は胸を撫で下ろすが、すぐさま違和感を覚え不安になる


「あの・・・シスさんは・・・」


いつも共にいるはずのシスの姿が見えないのだ

まさかもうすでに、そんな考えから自然と肩に力が入り不安な面持ちを浮かべるがラーザはあっけらかんと答えた


「あぁ・・・あいつなら別のとこで生存者を探しに行ってるよ、俺はたまたまこっちに来ただけだ」


いつもと変わらぬ様子で微笑みながらそう答えると、トウヤ達は安心して「よかった」と肩の力を抜く


「そんな事より、お前らあの大きい空中戦艦で来たのになんで走ってんだよ」


「通信が繋がらないんだ、おそらく通信妨害が・・・」


「なら、こんなところで道草食ってないで早く安全なところに避難しろよ」


自分から聞いてきたにも関わらず、ラーザはセドの言葉を遮る様に早く行くように促す


確かにここで時間を掛け過ぎるといつ魔獣化した人々の群れに襲われ煙に巻かれるが分からない


しかし、だからこそラーザのことが心配なのだ

そんな彼の心情を察してか、彼は笑う


「心配すんなよ、俺もすぐいくからさ」


「・・・わかった。あとで会おう」


「ラーザさん、また後で」


不安げな表情を見せながらそう言い残すと走り出す

そんな彼らに向けて、ラーザはただ一言だけ呟く


「おう、またな」

とりあえず2本連続投稿予定でしたが、ちょっともう少し掛かりそうなので明日の朝一投稿予定です

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