大陸間会談 5
そういえば少し過ぎてしまいましたが、予定してた話数50話まで残り23話となりました
このまま今年中か来年度中には完結予定になります
まぁまだ折り返し地点ですからどうなるかわからないけど
まず異変が起こったのは彼らが会談を行う町役場の前へと到着した時だった
「ん・・・?」
ふと何者かの視線を感じる
悪意が混ざり合ったガムの様にベタつく視線、しかし、振り返ってみると視線は消えて王女の姿を一目見ようと集まった民衆が集まっているだけがあった
何か嫌な予感がすると直感が告げる
「セドさん」
「あぁ・・・構えろ」
お互いに魔力を指輪とブレスレットに送り、起動準備を整える
意図した通りに機械音声が『空間魔法アクティベート』と声を発すると同時に、民衆の群れの中から幾つかの影が飛び出す
老若男女様々で数にして6人の人が、市役所の中へ入らんとするフィリス王女目掛けて駆け寄る
一部の過激なファンか、それとも反体制主義者の過激派か
いや、何れもが違う
身体が膨れ上がり走りながら異形へと変わっていくのをみると、トウヤ達は彼らの前へと立ち塞がりブレスレットを擦り合わせ、指を鳴らす
「変身!」
「変身」
『音声認識完了、アクシォン!』
『音声認識完了、エクスチェンジ』
光を振り払うと同時に2人は怪人達を迎撃すべく駆け出す
まず最初に攻撃の動きに入ったのは触腕を持った怪人だった
長い腕のリーチを使い王女諸共吹き飛ばそうとしたのだろう、足を止め腕を横薙ぎに振ろうとした最中、構わず飛び込んできたセドが後ろへと動かしていた腕を掴みその勢いのままに隣にいたカマキリ型怪人に向かって放り投げたのだ
迫る巨体に突き飛ばされ怪人は隣にいた怪人をも巻き込みもつれ合いながら倒れ込む
一方のトウヤはヒートソードを呼び出し熱線の刀身を展開すると伸ばされた触腕を溶断し、横から襲いかかってきた下級怪人へと袈裟斬りをお見舞いして空高く蹴り上げた
空高く舞い上がり空中でもがく怪人、そんな怪人に向けてもう片方の手に呼び出したフレアシューターを向ける
『熱烈、一線! フレアシュート!』
銃口から打ち出された太い一条の熱線が怪人を包み込み爆散する
「クソォォッ!」
爆散する仲間の姿を見た片腕を失った一つ目の怪人が、残った触腕をバタバタと揺らしながらトウヤへと勇ましくも挑もうと駆け出す
だが、次の瞬間には力を解放したヒートソードを突き立てられた後に空高く蹴り上げられ爆散することになった
「これで全部か?」
「いや、まだだ」
セドの方へと目を向ければ彼もまた4体の怪人を処理し終わった様で、風によって作られた僅かに浮いた球状の檻の内側から小さな炎が吹き溢れているのがわかる
それを見てトウヤは全て倒しきったのだと確信するが、セドの警戒を解くことなく発された言葉に呼応する様に、4体の怪人が姿を現す
「流石にあれで終わる訳ないか・・・」
国の代表を一網打尽に出来るこの機会を組織が逃すはずがなく
さらに追加で集まってくる怪人達にトウヤは構えを取り、セドは通信機を起動する
「・・・司令部、怪人の襲撃を受けた。応援は可能か?」
ここではない何処かから響く轟音を聴き頼んだところで誰も来れるわけがないかと思いながらも、セドは防衛隊司令部へと通信を行う
「・・・司令部?」
しかし、いつまで経っても返事が来ない
通信機の向こうから聞こえるのはノイズ音ばかりであり、返事どころか通信に出る気配すらない
猛烈な嫌な予感が冷や汗となり、セドの頬を伝う
「いったい・・・何が・・・」
顔をゆっくりと上へと上げると、町役場の上層、防衛隊司令部がある場所へと不安を浮かばせながら目を向けた
暗い、暗い下水道にカツンカツンという靴音が響く
ネズミやモップ虫が這う下水道の通路を女が歩き、暗い視線の先に見えてきた人影に陽気に手を振る
「調子はどう?」
「来たか・・・今はウツコウだったか? ウココツ」
筋肉隆々の浅黒い男に名前を呼ばれた瞬間、余程嫌だったのだろう黒髪を緑のハイライトで染めた女は苦虫を噛み潰したような顔をする
「その名前やめてよ、なんだか鶏の名前みたいで嫌なのよ」
「はっ、そうかい」
そんな女の反応に心底どうでも良さそうに男は鼻で笑うと、しゃがんだ姿勢から立ち上がる
「もういつでも起動準備は出来ている。なんなら今すぐにでも始められるぞ」
「あら、流石ねアーガ、それでこそ8大罪」
「今は関係ないだろ」
アーガ、そう呼ばれた男が呆れた様子を見せるとウココツはクスクスと笑う
「確か・・・HMW、Human Mutation Weaponだっけ?」
「おぉ、その中でもとびきり強力な人体魔獣化爆弾だ」
HMW
それは目に見えない魔力というエネルギーを気体という形で可視化出来るまでに圧縮する事で、起動した周辺の動植物を魔力で犯し魔獣へと変異させる兵器
本来であれば新大陸の法律で使用を禁じられた物ではあるが、彼らはそれをこの街に持ち込んだのだ
「それは・・・」
ならばこそ、その用途は容易に想像がつく
「楽しくなりそうね」
悪辣な笑みを浮かべながら、この先に待ち受ける地獄を想像してハラワタが捩れそうなくらい愉快な気持ちになる
楽しみだ
人が魔獣化する光景を見るのが
素敵だ
家族や友だった者が、見知らぬ隣人が魔獣化して襲われる人々の姿が
嗤えてくる
必死に助けを乞い、逃げ惑う姿を想像するだけで絶頂しそうだ
「まぁ黒い仮面の男に何個か破壊されはしたが、どうする? もうやるか?」
伸ばされた腕の先に握られた起動術式
それを見てウココツはゆっくりと近付く
「あら、そんなの決まってるじゃない」
逸る気持ちを何とか抑え、渡された術式をーー
ーー起動した
「あった・・・これだ」
ベガドの街に残ったフィリアは図書館で本のページを捲り、目的の物を探し出した
本の題名は「人が魔人に成り果てる奇病」
開かれたページには魔人化についてと、そのリスクについてが書かれていた
「魔人化した者は・・・」
読み進め、次に書かれた言葉に思わず息を呑む
魔人化した者を治すことは出来ない
そのページにはそう書かれていたからだ
魔人化する原因については感情がトリガーと言われているが、実際のところは今もわからない
ただ、一度でも魔人化した者は未来永劫その病により身体を変化させられ、魔獣を誘引する事になる
その一文を読み、フィリアはパタリと本を閉じる
「トウヤ・・・」
胸のざわつきと共に、今は街にいない男の姿を思い描く