ベガドの危機!?魔王軍襲来! 5改
はい、これにて元その1終わりです
それはほんの僅かな反応だった
ほんの一瞬だけ上空で魔力反応があったのだ重たげに頭を上げて、ムロイ変異型は空を見上げるが、遠くに小さな点の様な鳥達が見えるだけで他は何も見えない
何も気になる物が居ないのを確認すると頭を下ろす
まだ目の前の憎き怨敵はまだ撃破出来ていない、だからこそもう一射で自身もろとも吹き飛ばす
そうして再び筒状花の部分へと魔力を集め始める
その時だった
突如として首元に衝撃が生じ、くの字に曲がる
首への衝撃だけで13mはあろうその巨大な体躯は地面へと叩きつけられた
「かった!!!なんだこいつ!」
その正体は徐々に顕になっていく、まるで周りの風景が、絵の具がボロボロと剥がれ落ちる様にして白いMRAの姿が顕になってくる
着地前に身体強化の術式を全開にして、落下の運動エネルギーと共に振り下ろしたハルバードはムロイ変異型の黄緑色の首に刺さりはしたが切断する事は出来なかった
さてどうしようかと隊長が考えていると、突如大きな揺れが襲う
首裏にへばりついた異物を振り払わんとムロイが暴れているのだ
咄嗟に切り刺さったハルバードを持つ腕に力を入れて振り落とされない様に踏ん張る
「このやろう・・・」
足裏についた固定用の爪を作動させてムロイの体表へと突き刺す、爪はムロイの青緑の皮膚を食い破り隊長をしっかりと固定する
そうしてそのままハルバードを今一度大きく振り上げ術式を発動させる
術式へ供給される魔力の仄かな光が身体中央から線状に全身へと駆け巡り包み込む
内部では人が出せる限界を超えた魔法出力により強化された筋肉が膨れ上がっていた
「暴れんなぁぁ!!」
雄叫びにも似た声と共にハルバードを首の切り裂かれた傷口にもう一度その刃を滑り込ませる様にして振り下ろした
傷口に叩き込まれたハルバードは途中で何度か止まり掛けたが、力任せに強引に押し込むとムロイの筋繊維がブチブチと音を立てながら切り込まれる
首の半分以上が裂かれたムロイはプラプラと垂れ下がる頭を揺らしながら力無く崩れ落ちた
ムロイ変異種の撃破を確認した隊長はその上から飛び降りる
倒れた時の砂塵が舞い周囲の視界が遮られる中、ハルバードを地面に立てながら隊長は通信を開く
「こちらロア、ムロイ変異型の駆除にせい・・・」
そんな報告を上げている隊長の背後から砂煙のカーテンを割きながら1匹のスライムローパーが姿を現した
スライムローパーはその勢いのまま、目の前の微動だにしない敵に振り下ろし押し潰さんと強靭なしなやかさと膂力を持った触手の1本を振り上げる
その時であった
スライムローパーの上から人型の何かが降ってきた
その何かはスライムローパーの身体を自身の重量と勢いで持って踏み付け、弾性のある皮を引き裂き、中の液体魔力を飛散させて核を潰したのだ
重厚な落下音と共に大量の砂塵を再度巻き上げながら、人型の影を揺らしながら隊長へと向き直る
「隊長、油断大敵だぜ?」
「来るとわかってたからな、ナイス着地だ」
MRAの中でニヒルに笑う男に隊長は声を掛けた
そんな掛け合いと同時に上空から発砲音が聞こえてくる
それはH型換装パックに備え付けられている70mm速射砲の射撃音であった
上空へと目を向ければ背中に装備された降下用の風魔法を使用しながら緩やかに降りてくる4機のMRAの姿があった
彼らは両手に装備された軽機関砲をもって、残存しているゴーレムやスライムローパーを撃破していっている
やがて小隊各機が地上にて本格的な殲滅戦を開始した
背部に備え付けられた120mm無反動砲が火を吹くと敵を纏めて吹き飛ばす
70mm速射砲を撃ち出せば貫通し射線上の敵を薙ぎ払った
時折ゴーレムの投擲した岩が飛んでくるもMRAの防御結界により阻まれダメージはない
そうして一方的な蹂躙が展開される
『こちらシープドッグ、そちらの状況はどうだ?』
隊長機が目の前のゴーレムをハルバートで両断したところで通信が入る
シープドッグ、即ち牧羊犬ではあるが誰の事かと一瞬頭をひねるがなんて事はない
第二陣の誘導を担当しているスピアー隊の事だった
「牧羊犬・・・あぁスピアーか、殲滅はあらかた終わったぞ、そちらの誘導はどうだ?」
彼らは第二陣として都市に迫っている30匹の狼型魔獣マードグを第七空挺団の方へと追い込んでいる最中であるが通信が来たという事はもう近くまで来ているのだろうか、と隊長は予想を付ける
『こちらは順調だ、もうそろそろ到着する。そちらも準備してくれ』
「了解、お前ら!デザートの時間だ、第二作戦地点へ移動するぞ!」
予想通りの回答、通信が終わるや否やすぐさま隊員達に伝えると各員が自機の脚部へと魔力を集中させる
身体強化魔法により強化された脚はMRA達を高く跳躍させ射撃地点である街道へと向かい出す
使われることの少ない作戦ではあるが、飛行隊による誘導というのは主に残敵を残さないという目的の元、実施される
もしも倒し損ねた魔獣が1匹でもいればそれは野生化し付近を通行する住民に被害を出しかねない
過去には取り溢した魔獣による村への被害も確認された
それ故に行われるのは魔獣の射撃地点への速やかな誘導、集団から離れた魔獣の駆除である
スピアー1は低速で飛行し、手に持つ20mm軽機関銃で持って集団の外側を発砲する
僅かに逸れていた先頭はその弾を避ける為に起動修正を行い、元のルートに戻る
それに後ろから付いてくる魔獣も追従していく
「スピアー3、離れたマードグ1体の駆除完了」
「こちらスピアー6、後方が広がって来た、1人来てくれ」
低速移動ながらも平地を走る速度は70kmにも達する
そんな中、彼らは的確に集団を射撃地点へと誘導していく
「隊長、見えて来ました」
スピアー2からの声掛けで前へと目を向けるとそこには到着した第7空挺団の各機が、群れを殲滅すべく横に長い列を組んでいるのが見えた
その後ろで挙げた腕で円を描き合図する隊長機の姿も
「各機散会、射撃に巻き込まれるな」
それを合図に群を囲う様にして展開していた飛行隊が離脱を開始する
それは射撃準備を整えていた第七空挺団の目にもしっかりと映っていた
「撃ち方始め、1匹も残すなよ!」
隊長の声と共に発砲が開始された
全5機による70mm速射砲の一斉射撃、集団の前列は砲弾が直撃し飛散し、貫通した砲弾により後列にも被害が出る
横に長い横列を組んでいた為、分散して避けようとしても無駄だった
暫くした後、残ったのは物言わぬ肉塊だけなっていた
『こちらスピアー、これより残敵の捜索に入る』
「了解」
「今回の任務、なんかヤバそうに言ってましたけど楽勝でしたね」
隊員からはそうケラケラと笑いながら話す声が聞こえた
それはお調子者の3番機の男からである
「お前な、こういう時こそ油断するなよ、勝って兜の緒を締めろって言葉を知らんのか?」
「おっとこりゃすみません、まぁとりあえず帰りましょうよ」
『第7、66聞こえるか!!』
「こちら第7、聞こえてます」
そんな中、突如として通信機から慌てた様な声で連絡が入る
何事かと思い通信に応じると思わぬ事態が報告された
『こちらベガド防衛司令部、現在ベガドの街に魔法兵器が多数侵入!地中侵攻だ、突然地中から反応が出た、迎撃は失敗!現在冒険者と防衛隊で対応しているが止められない、急ぎ応援を!』
「了解した。これより街へと向かう」
それは思わぬ事態だった
言った側からこの様な事態になったので思わず隊員達は3番機に目を向ける
「な、なんだよ!俺のせいじゃないからな!」
全くもってその通りであった
「はいはい、お前ら換装パックをパージしろこれから市街地防衛戦だ、全速力で街の救援に向かうぞ!」
空挺団各機が各々の追加装備である追加装甲や火砲を外していくと、腰部に分離した状態で下げていたハルバードへと手を掛け組み立てる
そうして準備を整えた後、再び脚部へと魔力を集中しMRAの身体強化魔法を掛けると駆け出していく
時は戻り、空挺団がムロイ変異種を撃破した瞬間に戻る
ムロイ変異種の撃破を確認し、司令部は湧き上がっていた
あれだけ苦戦した街の防御結界を切り裂く化け物を簡単に討伐して見せたのだ
彼らは喜び、全身に溢れる達成感に酔いしれる
そんな中、突如聴音班が声を荒げた
「な、司令!急に都市直下より掘削音、音源6、地中侵攻です!」
どよりと驚愕の音が鳴る
化け物の撃破に湧いていた司令部は一瞬にして現実に引き戻された
そんな中、司令官だけは冷静に指令を出す
「グラウンドバスター発射、迎撃せよ!」
「グラウンドバスター射撃始め!」
街に設置された合計8基のグラウンドバスターが3つの音の発信源へ向けて射出される
地中へ向け射出されたグラウンドバスターは別空間へと転移、その音の発信源の手前で戻ってきてそのまま目標を貫く
「着弾音、音源3消失、迎撃失敗!まだ3体残っています!」
「予測進路は、どこに出てくる」
「・・・スラム街6番地、北大通りの真ん中、それと避難場所、南中央広場のど真ん中です!」
それを聞き司令官は青褪める
そこには避難してきた民衆が大量にいたからであった
すぐさま中央広場からの避難指示と冒険者への迎撃を伝えるも時すでに遅かった
長いねぇ