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飛んで西国 7

今回長く書き過ぎたので分割してます

アークトゥルスと切り結んでいたトウヤとフィリアは自分達の限界に気が付いていた

既にこの怪物を抑える術は無い


だが、それでも彼らは武器を振るう

勝てないかもしれないと思っていてもわかっていても、ほんの僅かな可能性があるのならば戦い続けるのだ


ーーこんなやつを野放しにできない


それは酷く陳腐な理由


ーー倒さないと、被害が出る


顔すら知らぬ、声すら知らぬ誰かの為に、そんな考えが彼らを突き動かすのだ


光の剣の一撃を避けると、ほぼ2人同時にアークトゥルスへと斬り掛かった


「グゥッ!?」


「・・・グッ」


だが、トウヤの魔力の刃は光の剣で受け止められフィリアのトンファーダガーは結界魔法を展開した手で掴み取られ、そのまま2人とも後ろへと突き飛ばされた


「フィリアさん・・・大丈夫ですか?」


「大丈夫、トウヤは?」


「俺も平気です。けど・・・参りましたね、勝ち筋が全然見えないや」


目の前で悠然と立つアークトゥルスの姿に思わず乾いた笑みが溢れる


ここまで差が歴然ではどうしようもない空虚な気持ちにトウヤ達は襲われてしまう


「でも、やらなきゃ」


「ですね、気合い入れ直します!」


それでも彼らは真っ直ぐにアークトゥルスを見据えると、ふらつきながも立ち上がり武器を構えた


「芽吹け命、夢の芽が萌ゆる為に」


その瞬間凛とした声が響く

酷く落ち着く声、目を向ければ片腕を失ったラントが長杖を構え何かを詠唱しクレアが彼女を守る様に前で控えていた


「回れ白く淡紅の先を持つ花よ、終わりを告げる儚き美よ」


花が舞う、全体的に白く先端が淡紅色で縁取られたまるでりんごの花のような美しい花がくるくると回り内側へと向かい収束していく光景を彼女の頭上に幻視した


「なんだ・・・これ・・・」


唖然とするトウヤ達だが、アークトゥルスもまたその光景に見覚えがあるのか、落ち窪み底のない闇を湛えた目で周囲を見渡すと僅かにだらしなく開かれた口から、途切れ途切れに音を漏らす


「あ・・・アろ・・・ン?」


まるで呻き声の様な音を絞り出したアークトゥルスは、何かに気がつくとラントへと目を向け狙いを定めた


「・・・! させるか!!」


彼女へと向かい剣を振り上げ突撃しようとしたアークトゥルスをトウヤが身体をぶつけ止める


「ググゥ・・・!」


「廻れ赤き実よ、始まりを告げる循環の徒よ」


空中を舞う花が中心へと収束し赤い果実を作り出す、とても美しく目の奪われる始まりの果実


そこに込められるのはラントの生命力を基にした膨大な魔力と1人の男の願い

自分が死んだ時、もしもその身体悪用する者が現れた時に残した抑止力たる力


果実を掌に収めると、恐れを抱いた目でラントは自身の生命力の具現化たる果実を見つめる


ーー本当にこれで良いのだろうか


弟子を残していく事と死への恐れから果実を口にするのを躊躇う


そんな時、まるで自身の気持ちを確認するかの様に視線を果実からクレアへと向けた


彼女は震える身体を必死に抑えラントを守る為に、トウヤを退かそうと必死になっている今にでも迫らんとするアークトゥルスへと目を向けている


その姿にクスリと笑うと、自分の葛藤が馬鹿馬鹿しく思えた


ーー悩む必要は、無いな・・・


トウヤを突き飛ばし、自分達目掛けて迫ってくるアークトゥルスを尻目にラントは果実に口を付けた










ラントが果実に口を付けた後、アークトゥルスは駆け出した勢いのまま地面へと崩れ落ちると塩の塊となり風に吹かれて消えていく


その光景を眺めながらトウヤ達は「終わったのか」と、唐突な強敵との戦いがあまりにも呆気なく終わりを告げた事に実感を感じられず暫し間、呆然としてしまう


「師匠、起きてください・・・師匠!」


彼らの元に声が響く、見れば塩の塊となったアークトゥルスの向こう側でクレアが必死に倒れ伏したラントの背を揺さぶっていたのだ


「クレア、ラントさん・・・どうしたんだよ」


歩み寄れば幾ら揺さぶられてもピクリとも動かないラントの姿に気が付き、トウヤ達は猛烈な嫌な予感を覚えた


「まさか・・・」


急ぎラントを起こし脈拍を確認する

冷たい素肌から伝わってきたのはあまりにも残酷な程の静寂だった


「ラントさん・・・まさか・・・」


「師匠は・・・自分の命を使って・・・」


ラントの最後に放った術は魔法というよりも呪術と言えた

人を呪わば穴2つ、相手を呪い殺すのであればそれ相応の代償を払う必要がある


超越者アークトゥルス、その強大な力を持つ肉体を昇華させるには使用者自身の命を使う必要があったのだ


ラントの死を以てアークトゥルスを討つ事ができたが、彼らが心に宿したのは勝利の余韻よりも失ったものに対する喪失感だった

Q.超越者の倒し方

A.これしか思い浮かびませんでした。


アヴァロン

超越者にして王たるアークトゥルスの願いにより産まれた呪術

自身の死後、亡骸を利用して人の世を害そうと企む者が現れた時に自身をもう一度殺す為に作り出された呪術

超越者の超常的な肉体を破壊する為に使用者の生命力を使う必要がある

抽出する工程で花になり、それが収束した瞬間発動者と対象の命はひとつの実に集まる

対アークトゥルス専用特攻呪術


元ネタはアーサー王伝説のアヴァロン島

アヴァロン=りんごの島、という事でりんごにしました

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