25-5 終
腹に突き刺さった刀身の感触にラスはただ「あぁ終わったのか」とそう思った
ぐらりと重なる影がズレたと思えばラスはそのまま地面へと背中から倒れる
全てが遅く感じられる中で怪人達は倒れ伏したラスの姿をただ呆然と見つめていた
「アサ・・・マ・・・トウヤ」
「・・・なんだよ」
ラスへと顔を向ける事なく俯きながら呼び声に応えたトウヤ、その表情は未だ仮面に隠され見えないが声は震えていた
「何を泣いている。お前は・・・勝ったのだぞ・・・」
「わかってるよ、そんな事・・・」
まるで不貞腐れる様な物言いで返って来た言葉に苦しそうに呼吸しながらラスは思わず笑顔を浮かべる
「どこまでも・・・甘い男だな・・・」
「うるせぇ・・・」
「フッ・・・クク・・・」
またしても発された言葉の言い様にこれが勝った者の姿かと堪え切れず笑ってしまう
「良いか、戦う道を選んだのならばこの先お前はより多くの別れと出会いがある。中にはより強い悲しみを抱くこともあるだろう」
戦う事、それは即ち多くの出会いと別れを経験する道
時には仲間が、時には敵が、良くも悪くも多くの別れを経験していく事になる
この数ヶ月だけでもそれを少なからず経験したトウヤは様々な想いを胸の内に駆け巡らせながら、彼の話を黙って聴く
「だがな、そんな中でも前を向き歩け、正道を行くのであれば前を向きただひたすらに進み続けろ、それがお前の責務だヒーローフレアレッド」
どんな事があろうとも正しい行いをした以上は前を向かねばならない
それは簡単な様でとても辛い茨の道だ
「・・・辛いな、それは」
そんな過酷な道を想像し弱音が溢れる
地面へと横たわるラスが顔を向けながら問いかけた
「無理か?」
その言葉にトウヤは仮面越しに顔を向け応えた
「いいや、やるよ・・・やれる様に・・・頑張るよ」
「それで良い」
トウヤの返事に満足げに笑うと頭を力無く下す
それと同時に彼の折れた刀身の刺さった傷口から青白い炎が上がる
怪人としての術式回路が不活性状態である人間体として戦い、致命傷を負ったが故の緩やかな死
その姿に怪人達がざわめき出す
「すまない皆、私は負けたよ」
「スーラ様・・・」
悲しげな声は広がり、木々のざわめきの様に周囲から聞こえ始めた
「アサマトウヤ、アインとトラン・・・子供達に伝えてくれないか? 先に行くすまないと、今までありがとうと・・・」
「わかった。伝える」
やがて嘆く声は万歳三唱となり公園中に響き渡る
ラスは空を見上げ小さく笑いながら呟く
「ヴェロ、私は仲間や周囲の人々に恵まれていた様だよ」
ーーお疲れ様、ラス
それは幻聴かも知れない
死の間際の走馬灯なのかも知れない
それでも確かに彼の耳に入って来た声に僅かに涙ぐみながら、言葉を返した
「ただいま、ヴェロ」
やがて火は全身に行き渡り大怪人スーラは灰となって消えていく、風に吹かれ舞い上がる灰を見つめながらトウヤは終わったのかと独りごちる
最後の大怪人を倒し、これで組織との戦いもひと段落ついたのかと思うと力が抜けていく
「スーラ様の・・・仇・・・」
そこで周囲から向けられる殺気に気が付く
辺りを見渡せば茂みから、地面から、空間から滲み出る様に怪人達が姿を現す
その数はざっと見ただけでも30体は超えているだろう
「まっずい・・・」
連戦で疲労困憊でスーツの耐久は既に限界に近い
もし戦うとなれば確実にやられる
冷や汗を流し怪人達を見渡しながら何とか踏ん張り立ち上がると構えをとった
そうして怪人が飛び掛からんとした時だ
「待て!」
公園に声が響く
「ダライチ・・・スーラ様がやられたんだぞ!」
公園の出入り口からボロボロの姿をしたダライチに向けて怪人の1体が叫ぶ
「それでもだ・・・、スーラ様のお言葉を忘れたか?」
「しかし・・・!」
「悔しいのはわかる。だがな、スーラ様は誇り高く戦いお行きになられたのだ、その戦いに泥を塗るのは許さん」
拳を握りしめたダライチの言葉に思わず怪人達は顔を顰めたじろぐ
彼の圧に負けたのではない、ラスの事を思いたじろいだのだ
「・・・くそ、くそッ!」
互いの顔を見合った怪人達は、悔しさを露わにすると皆散り散りに去っていく
2人残されたトウヤとダライチは互いに顔を見合う
「・・・助かったよ、ダライチ」
「勘違いするな、俺はただ・・・あの方のご意志を汲んだだけだ・・・これで終わったと思うなよアサマトウヤ」
背を向けるダライチは彼に顔を向ける事なく言い放つ
「組織はまだこの街を諦めた訳ではない」
それだけ言うと彼もまた他の怪人同様に立ち去っていく
未だ不穏な影は街を覆い続けていた
今よりもより濃い影を作りながら
第25話 愛に生きた男 スーラ