The lee of the föhn wind 8 終
怪人が爆散するのを確認しセドが変身を解くと、後ろから声が掛けられる
「セドさん!」
「トウヤ、トローネ怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」
トローネの無事を確認すると、「そうか」と呟き胸を撫で下ろす
「セドさんあんな強かったんですね! 親衛怪人をあんな簡単に倒すなんて!」
興奮気味にそう言うトウヤではあったが、セドはその言葉に対して静かに首を横に振るう
「いいや、倒せたのはお前のおかげだよ、お前が気持ちをぶつけてくれたからこそ俺は自分と向き合う事が出来たんだ、ありがとう」
「あぁ・・・そっすか? いやそれならまぁ良かったですよ」
真っ直ぐと見つめられながら発された言葉に照れ臭そうに頬を掻きながらも、改めて述べられた感謝の言葉に喜ぶ
「トローネ、どうかしたのか?」
そんな話の最中、どこかトローネに元気がないのがわかりセドが声をかけると、僅かな逡巡の後に恐る恐る口を開く
「あの・・・私、あの怪人とか言うのに狙われてるんですよね?」
恐れを目に宿し発された言葉に2人は思わず言葉を失う
幾ら魔人とはいえ年端もいかぬ少女、それなのにこれから組織に怪人の素体として狙われ続けるのかと、彼女のこれからの人生を思えばこそ仄暗い気持ちになる
「トローネ・・・」
トウヤの彼女に対して同情的な呟きはえてして吐き出されたものだった
トローネは目に恐れを宿した目を閉じる
「私・・・魔人としての力を使わない様にって両親から言われてきました。人とは違う力だからって・・・でも、その力のせいで狙われてしまうんですよね」
「トローネ・・・諦めちゃダメだ、まだ何か狙われなくなる道があるかも知れないだろ!」
「いえ、違います! 諦めたとかそんなのじゃなくてですね・・・その、なんというか」
首を振りトウヤの言葉を否定したトローネは、野暮ったらしく呟く
彼女の言葉の意図が分からず困惑するトウヤ達だが、意を決したかの様に強い意志のこもった目をセドに向ける
「私に・・・戦い方を教えて下さい・・・」
それは彼女なりの覚悟だった
「私・・・両親に内緒で魔法を使った事があったんです。でも力の制御が出来なくて・・・その時魔法ってこんなに怖いものなんだって知りました・・・」
「・・・」
ポツリポツリと発される彼女の言葉をセドは何を言うこともなく聞き続ける
「でも、そうやって自分の力と向き合う事なく過去の出来事を引きずったまま、怪人にされたり、誰かが犠牲になるのは嫌なんです! お願いします。戦い方を教えてください!」
そう言い頭を下げるトローネの姿にセドはつい先ほどまでの、過去の出来事から力を恐れていた自分の姿を自分を写し見た
だが、他人を見て学べる彼女の方が実直だなと小さく笑みを浮かべ否定するとトローネに問い掛ける
「・・・力の扱い方は一朝一夕には出来ないが良いか?」
「そんな事はわかってます」
「力を扱える様になれば力を持つが故の責任も出て来るが、それを背負う覚悟はあるか?」
「はい・・・!」
「それでも犠牲が出る事はあるが、その責任を背負う覚悟はあるか?」
「・・・覚悟はしてます!」
自身の問いかけに、一瞬悩み気圧されながらではあるが答えていく彼女の姿に、セドは彼女の意思を見た
適当に答えるのではなく、考えた上で返事をしている。本気で自分を変えたいと言う彼女の意思を
ならばこそ、自分も未熟者ではあるがその意思に応えよう
「なら行くぞ、トローネ」
「え・・・?」
言葉の意図が分からず困惑するトローネだが、そんな彼女にセドは微笑みながら言う
「何をするにしてもまずはお前の日用品を買ってからだ、明日は早いぞ」
「・・・! はい!!」
そうして去って行く2人の後ろ姿を見ながら、また騒がしくなりそうな日々の予感にトウヤは胸を躍らせるのだ
「それで今あの子はセドの家に泊まってるの?」
いつもの様にエオーネの店に集まった彼らは、トウヤの口から語られたトローネの顛末について聞いていた
「そうです。確か今日もこの店に連れて来るそうですよ」
テーブル席に座りシスの言葉に返事をするトウヤ、その言葉にラーザはフォークで分厚い特製ソースが掛けられた肉を突きながらも不思議そうな顔をする
「あのセドがねぇ・・・珍しいこともあるもんだな」
「ねー、あいつ弟子にしてーって言う人が来たら要件も聞かずに突っぱねてたのに」
ラーザの言葉に同調しながらも、セドの変化にシスは驚く
そんな彼らの席にエオーネがグラスを持ってやって来た
「まぁ彼なりに心境の変化があったって事じゃないかしら? はい」
「ありがとう、変化ねぇ・・・、トウヤ何かやったの?」
「いやまぁ・・・やったって言うか・・・」
ラーザ越しに顔を向けて来るシスに、トウヤは気まずそうに頬を掻く
「殴り合ったらしいね、彼と」
「えっ、そうなの!?」
「ちょっ、なんで知ってるんですか!? オータムさん!」
突如として隣の席から聞こえてきた声に、トウヤは驚き振り向くが、オータムは笑みを浮かべている
「そりゃ路地裏で男2人が喧嘩をしてれば噂にもなるさ」
「はぁ・・・青春してるわねぇ」
「あのセドと殴り合い・・・お前ほんと根性あるよな」
感心する様な呆れる様なシスと、あまりの事態に笑ってしまうラーザの反応に、トウヤは恥ずかしくなってくる
「いや、あの時は・・・その、なんか感情的になっちゃって・・・つい」
「それでも、すごい」
「フィリアさん・・・」
トウヤの隣で脂身の乗った豚肉の照り焼きを食べながら、いつも通りの無表情のフィリアにまでそう言われ、トウヤは思わず情けない声を上げてしまう
そんな折に、店の扉がリンリンと呼び鈴を揺らしながら開かれる
「あら、いらっしゃいセド、それにトローネ」
その日から彼らの日常に新たな仲間が加わった
「ねぇ聞いて聞いて!」
学園での授業が終わり寮へと戻る最中、学友達と歩いていたリーゼは後ろから不意に掛けられた声に振り向く
そこには楽しげに笑う学友の姿があり、疑問符を浮かべた
「どうしたのですか?」
「それがさ、あのセド先生が私達よりも小さな女の子と歩いてる姿を隣のクラスの子が見たんだって!」
「えぇ!?」と驚く学友達は楽しげに話している
「うっそ・・・マジで?」
「ほんとほんと! 何でも弟子とったらしいよ!」
「あぁ先生強かったもんね」
「実技とか凄かったし」
「え、でも本当にそれだけなの? 実は・・・歳の差だったりして」
「えぇ!? それ凄くない!?」
わいわいと話を盛り上げて行く彼女達とは対照的に、リーゼはカバンを握る手に力を込めて行く
「お義兄様・・・なぜですか・・・」
自分の誘いを断り、年下の少女の弟子を取った義理の兄へと密かな想いを巡らせ、痛む胸を抑えながらも今はここに居ない義兄へと小さく呟き問い掛ける
大貴族の魔法と魔人の違いは魔法の制御に重点を置くか、魔力の制御に重点を置くかの違いにしてます
魔力制御に優れる魔人は膨大な魔力を結晶化させたりそのものを纏って防御力を底上げしたり
逆に大貴族は魔法の制御でそれに対抗しようとしているって感じ
まぁ昔はそれが必要だが今は兵器が発達したので、それだけに頼る事はないが魔人の中でも高位の存在には必須って感じですね
勇者達には教えてないです
彼らに必須なのは魔法ではなく、それぞれの武器の扱いとそれに必要な魔力制御なので
まぁ魔力制御を教えるにしても魔人レベルのは教えられないですけどね
ここもうちょっと練れば良かったなぁ
あと久々のリーゼ登場です
第7話以来ですね
次回から新しい話です
ここからトウヤくんが主人公に戻ります