The lee of the föhn wind 6
ぶっちゃけ悩みました
やりたい展開といやこう言うだろうなって考えとでせめぎ合って訳わかんなくなりながら書いたので、正直ここは修正箇所があったら未来の自分にお任せします
大筋はそのまんまでしょうけどね
笑い合う男2人をトローネは何とも言えない表情で路地から覗いていた
「なんで殴り合ったんだろ・・・」
側から見ればただの喧嘩、危なっかしいたらありゃしないのに今はただお互いに笑い合っている
不気味で仕方のない光景だが、信じ合える仲間だからこその光景にある意味でトローネは羨ましく感じた
今まで自分の出生故に本心を明かすことが出来ず、悩みも全て内に秘めて来たからこそ、過程はどうあれ本音を言い合える仲というのに強く憧れを抱いてしまうのだ
「お嬢さん」
そんな彼女に声が掛けられる
振り返ってみればスーツを着込みハット帽を被った紳士が立っていた
紳士はにこやかに尋ねる
「こんな所で何をしているのですか? ここにいては危ないですよ」
「えっと・・・あなたは一体・・・」
警戒心を露わにしながらも尋ねるとハット帽のつばを掴む
「私ですか? 私はなに・・・ただの・・・」
そのままハット帽を取るとトローネの視界を一瞬塞ぎ、次の瞬間には
「怪人ですよ」
先程までセドと戦っていた怪人、ジュクフウの姿へと変貌していた
「いやぁぁぁ! 離して! いやぁ!」
路地から聞こえる声にセドとトウヤはすぐさま反応して立ち上がる
「・・・! あいつは!」
建物の屋根にはトローネを抱え連れ去ろうとする怪人の姿が見えた
「待て!」
急ぎ追い掛けるが、怪人はチラリとトウヤ達を一瞥するといやらしい笑みを浮かべ飛び上がると屋根伝いに去っていく
「俺行って来ます!」
そう言うと慌ててブレスレットへと魔力を込める
『空間魔法、アクティベート』
「変身!」
『音声認識完了、アクシォン!』
「フレアジェットレディ!」
その言葉に従い背中の噴出口に火が灯る
『イグニッション、プレパレーション!』
「おい、トウヤ待てっ・・・!」
「イグニッション!!」
セドの制止の声を聞く暇もなく、トウヤは空高く舞い上がると怪人の後を追う
「全く、少し待てと・・・!」
1人残されたセドは、トウヤの進行方向に続き後を追おうとしたが
「おい、待てよ坊ちゃん」
彼の目の前に篝野が道の真ん中に突如として現れた
それは何の比喩でもなく、音も無く目の前の景色にまるで瞬間移動でもして来たかの様に映り込んできたのだ
ーーこいつ、いつの間に? どうやって
突然の事に困惑するセドだが、篝野は構う事なく口を開く
「坊ちゃん、お前今行ってどうするつもりだ?」
「・・・それはどう言う意味だ?」
彼の言葉に身構えると、篝野は呆れた様に首を振るう
「どうもこうもねぇよ、お前まだ拳振るえないのに行くつもりか?」
その言葉にピクリと指先が動き反応した
「あんな言葉程度で拳が使えるようになるとは思えない、そんな状態で行って何になる?」
鋭い視線を向け言い放つ篝野の言葉、確かにトウヤとの問答でセドは負の思考のループから正気に立ち直っただけで、拳を振るえるかどうかはまた別の話である
その事実を指摘されゆっくりと顔を俯かせ自身の拳を見つめながらセドは言う
「そうだな・・・確かに気持ちは楽になったが拳が振るえるかはわからない・・・」
「だがな」そう言うと顔を前へと上げ、真っ直ぐな信念のこもった目を篝野へと向けた
「それは行かない理由にはならない、怪人に怯える人がいるのだ、俺達が行かずに誰がいくんだ?」
これが自分の進むべき街の守人としての正しき道だと見せつける様に
正道を行くが故に下を向く事なく、前を向いて言ってみせた
「あぁ・・・そうかよ」
そんなセドを篝野は慈しむ様に目を細め見るが、次の瞬間には刀を構えた
「だが、拳が使えるかわからない以上は行かせるわけには行かない」
「何故俺の拳にそこまでこだわる? 今の俺でもトウヤの援護くらいなら出来る」
「わかったらだろう? 人質がいるんだぞ、お荷物が一つ増えると厄介なのはお前にもわかる事だろう? それにお前の為にもならないからな」
「拳を構えろ」そう睨み付けながらそう言い放つ篝野からは、自分と一戦交えなければ絶対に通さないと言う強い意志を感じる
そんな彼に思わず笑ってしまう
「以前の修行の時も思ったが、些かトウヤに甘い様だなお前は」
「トウヤにだけ甘いんじゃねぇよ、お前らに甘いんだ俺は」
笑みを浮かべ拳を構えるセドに対して、篝野はニヒルに笑い返す
この男の目的がどうであれ、拳を交えるのをご所望ならば乗ってやろうとセドは考えた
同時に彼は拳を構えた瞬間不安に思う、あの時と同じ結末にならないかと
そう考え出した瞬間にあの時の光景が脳裏によぎり出す
自身の魔力制御が未熟だった故に細切れになった使用人達の姿と切り裂かれ血塗れの母の姿が、その瞬間から拳が震え出す
同時に先程のトウヤの言葉がセドの心に思い起こされた
『あんたが暴走した時は俺達が止めます。だから、あんまり過去に囚われないで下さい・・・』
後輩にあれだけの啖呵を吐かせたのだから、自分はそれに応えなければならないという使命感が、今までの様に拳を納めていた筈の恐怖を抑え込む様にしてせめぎ合う
「なぁ・・・坊ちゃん」
そんな中で、篝野がポツリと呟く
「お前の母親、最後に何て言ったんだ?」
「・・・覚えていない」
僅かに眉間に皺を寄せ答えるセドに篝野は構う事なく続ける
「覚えてない事なんて無いだろうよ、その時の母親の言葉なんて罵倒か、応援か、2つに1つだからよ」
「何故わかる?」
不意に過った疑問を躊躇う事なく口にすると、篝野は変わらずニヒルな笑顔を浮かべながら何気無しに言って見せた
「母親だから」
そのあまりにも場当たり的な答えに思わず呆気に取られる
「だから・・・思い返してみろ家族の事を、その前の事も含めて・・・それまで待ってやるよ」
「家族の事を・・・その前の事も・・・」
優しく言い聞かせてくる篝野の言葉に不思議な感覚を覚えながらも、声に出し呟くと目を閉じて言われるがままに思い起こす
学園で久方ぶりにあった幼少期の活発な姿から美しく成長した義妹の姿、去り際に挨拶をした際も自身に背中を向け顔を見せる事のなかった威厳あふれる父、そして、父が放った最後の言葉
『健やかに生きろ、それが私達の願いだ』
そして、常に温かな目で自分たち兄妹を見守り、気遣ってくれた優しくも厳しかった母の温もりと冷たい感覚
思い起こされるのは罵倒ではなく、子を思う注意の言葉、我が子の姿を慈しむ言葉、我が子を労る言葉
そのどれもが時に厳しく、だが総じて優しさの込められた言葉ばかりだった
ーーセド、大丈夫
「・・・!」
だからこそ、脳裏に過ったその言葉にセドは一条の涙を流す
今まで母の死を自分の所為だと言い、思い起こす事なく封印し続けて来た母の最後の光景と言葉が明確に思い起こされた
無意識に流された涙の訳をセドは知らない
だが、これだけはわかる
「カガリノ・・・」
拳の先に魔力が流れ込むと同時に魔法が発動され風が収束していく
「なんだ?」
何の迷いも淀みもない、覇気の溢れる声を聞き篝野は嬉しそうにしながらも優しく聞き返す
風を纏った拳を構え直しセドは言う
「ありがとう」
「どういたしまして!!」
2つの猛き戦士がぶつかり合う
トローネを助けに向かったトウヤは苦戦していた
怪人ジュクフウを追ったまでは良かったが、狭い路地裏に入った瞬間、攻撃を仕掛けて来たのだ
すぐさまパワードへと変身して反撃に転ずるがトローネを盾にしながら狭い路地裏で戦う事を強いられ攻めあぐねる
「卑怯だぞ!」
「戦いに卑怯もクソもないだろう? お前あれか? あまちゃんか!?」
悪徳な笑みを浮かべ連撃を繰り出すが、トウヤはそれを弾き返す
「このままだと埒が明かないな、ほらよ、返してやるよ」
「あぶなっ!?」
そう言い怪人はトローネをトウヤへ向けて押し出した
押し出された事でトローネはバランスを崩しながらも咄嗟に受け止めたトウヤの胸元に収まる
「大丈夫か!?」
「は、はい・・・」
突然の怪人の奇行に驚くトウヤではあったが、奇行に至った動機を考える間も無く答えは出された
「・・・!」
「えっ!?」
急にトウヤに抱き締められて素っ頓狂な声を上げるトローネではあったが、彼の背中に痛々しい音と共に小さく悲鳴を上げるトウヤの姿に事態を理解した
「お前・・・!」
咄嗟にトローネを庇ったトウヤは庇いながらも顔を後ろに向け怪人を睨み付ける
そんな彼の様子に楽しげな様子でヘラヘラと笑う
「大変ですねぇ、ヒーローというのはお荷物を抱えると私のように有効活用出来ないのですから」
「なん・・・だと・・・!」
「ほらほら! 怒る暇があるなら守らないと!」
怪人は大きく腕を上げると指の鞭による息のつく暇も与えぬほどの連撃を仕掛けてくる
どうにかして反撃に転じたいトウヤではあったが、反撃の為には自身が後ろを向く必要があり、それをすればトローネに攻撃が当たる危険性があった
背中に走る衝撃と痛みに堪えながらも、必死にしがみ付くトローネの姿を目にしながらトウヤは焦る
「どうすれば・・・」
「だから待てと言ったのだ」
その言葉と共に、屋根の上から怪人とトウヤの間に割って入り、振り下ろされる鞭をいなし壁へと叩きつけた
「セド!」
「待たせたな、ここからは俺に任せろ」
熱い気持ちを心に宿し、風のヒーローはやって来た
はい、次回から漸くセドのバトラシーンです
この男めんどくさいな
「なぁにいちゃん大丈夫か?」
「あぁ、すまないな気にしないでくれ大丈夫だ」
声を掛ける男は、目の前で木箱の山に頭から顔を突っ込む彼に心配そうな表情を浮かべるが、当の本人は特に気にする事なく明るい声を出している
「よっと」と言いながら身体を起こすと不意に先程までの光景を思い出してしまいへへっと笑う
「行ってこいよ、セド」