勇者抹殺計画 6 終
やっと終わりです。
正直2話構成は以前もやりましたが、今回は長過ぎた・・・
次回から新しい話です
復興の為に多くの人々が尽力し、朝から街は喧騒に包まれていた
笑い合いながら復興の為にと働く多くの人々に槍の勇者アルベルトは感嘆の声を漏らす
「なんか凄いな」
「何がだ?」
「いや、あんな事があったのに笑いながら復興の為に働けるなんてよ、逞しいっていうか強いなって思ってよ」
ジャイアントアント襲撃に魔人の襲来という危機が到来した。それにも関わらず笑い合いながらも働く人々の姿が何よりも眩しく見えたのだ
「そうですわね、皆さん本当にお強い・・・だからこそ、この戦争を一刻も早く終わらせないと」
この戦いが終わり、これから始まる別の戦いへと思いを馳せながら決意を新たにする勇者達ではあったが、そこでふとクバワナが何かに気が付き辺りを見渡す
「そう言えば天華はどこだ?」
その声にアルベルトも「そう言えばと」呟き、先ほどから姿の見えない仲間に心配の声を上げるが、長銃の勇者であるオリヴィラは笑みを堪えながら2人に言う
「あの子ならボーイフレンドのところに行ってますよ」
戦闘の終わった市内でトウヤと天華の2人は瓦礫に腰掛けながら話していた
「じゃあ本当に和国って日本みたいな所なんですね」
「まぁなんか変な作りの屋敷とかもあったけど、ちゃんと日本してたよ」
久方ぶりの同郷の少女との会話は、トウヤにとって何事にも変え難い至福の時間となっていた
和国に行った時にも望郷の念に駆られることはあったが、やはり自分の知ってる物を共有できるというのはどこか安心感を与えてくれるものだ
異世界という現実離れした世界であれば特に、知っている物を共有できるというのは心に染みる
「良いなぁ、私も行ってみたいです」
「なら、戦争が終わったら行ってみるか?
「良いんですか!?」
トウヤの言葉に天華は目を輝かせる
「あぁ・・・まぁ雫さん達に聞いてみないとだけど、もし無理なら船旅って手もあるしさ」
「なら、是非お願いします!」
「おう、ならちゃんとその時まで生きて帰ってこいよ、約束な!」
「あ・・・ありがとう・・・ございます」
明るく話すトウヤの目が、ほんの一瞬哀しい色に染まったのを天華は見逃さなかった
生きて帰ってこい、その言葉は彼なりの祈りの言葉なのだろう、魔人との戦いで天華達がこれから戦う敵の強大さを知り、それでも信じて送り出そうとしてくれているのだろう
ーーやっぱり、トウヤさんは優しいですね
お互いの数ヶ月の別れを補う様に話していく中で、天華は自身の感情の中で確信に近いものを感じていた
会いに来たのもただ今の自分の姿を見せたいという気持ちの他に、自身の心の片隅にあった仄かな淡い思い
もう会う事が出来ないかもしれないと思うと、心が締め付けられる様な感覚に陥る。だからこそ、そんな思いをトウヤにぶつけようとする
「あのトウヤさん・・・私!」
「トウヤ、仕事」
意を決して言おうとした最中、2人に向けて凛とした少女の声が掛けられる
顔を向けてみれば、無表情の銀髪の少女、フィリアが立っていた
「お邪魔だった?」
「あ、いえいえ! 大丈夫です! あ、トウヤさん行ってください!」
彼女は静かに小首を傾けると、静かにそう尋ねるが天華は首と手を素早く何度も振るい違うとジェスチャーすると、赤らめた顔をトウヤへと向け行くようにと催促してくる
「お、おう? まぁそれなら行ってくるよ」
何か様子のおかしい天華に、トウヤは不思議そうにそうにしながらも立ち上がるとフィリアと共に歩き去っていく
ーーあぁ・・・やっちゃった
もしかしたら最後かも知れなかったのに、そう考えながら頭を抱え猛省する
「あ、そうだ・・・天華!」
「あ、はい!」
何かを思い付いたかのように呟くと、トウヤは振り向きながら、頭を抱える天華へと声をかけると彼女はびくりと肩を動かしながらも姿勢を正す
そんな彼女へ向けて、トウヤは一言告げる
「もし良かったらさっきの言葉の続き聞かせてくれよ、じゃまた後でな!」
それだけ言うとトウヤはフィリアと共に立ち去っていく
「後で・・・」
彼の後ろ姿を見送りながらも、力が抜けて背中を丸めながらも天華はにやけてしまう顔を手で覆い隠す
「そっか後で、後でかぁ・・・後で・・・」
嬉しさにより興奮気味だった彼女の言葉は、落ち着きを取り戻していくにつれて次第に尻すぼんでいく
顔を覆い隠していた手をそっと膝に乗せると、僅かに哀しげな表情を浮かべ上を見上げる
「本当に・・・言って良いのかな」
彼女には迷いがあった
自分はいつか元の世界に戻る身、ならば思いを告げてしまえば彼の重荷にならないか
もしも彼が元の世界に戻ってしまえば二度と逢えないのに
「捏妄街なんて・・・私の世界には無かったですよ、トウヤさん・・・」
街の門で上がる歓声を他所に、瓦礫の上で蹲りながらただ1人で寂しげに、ポツリと呟くのだった
「あー!! 疲れたぁ!」
久方ぶりとも思える南門を潜りながらも、帰還を待っていた民衆からの歓声を一身に受ける決死隊の一人としてラーザが発した第一声がそれだった
そんな彼の姿に安堵を浮かべながらも、エオーネは母の様に慈しむ美しい微笑みを讃えながら労う
「お疲れ様、ラーザ、シス」
「いや本当・・・てか腹減ったよ俺」
「疲れたよエオーネェ・・・」
「はいはい、後でご飯持ってくから待ってなさい、シスも寝るなら自宅のベットにしなさい・・・」
ほんのりと目に涙を浮かべながらも、クスクスと笑い今すぐに倒れ込もうとするシスに注意の言葉を投げ掛けるが、何を思ったのかすぐに顔を伏せてしまう
その様子にシスが訝しげな表情を浮かべた
「どうしたの? エオーネ・・・うわっ!?」
「どうしたんだよ、エオーネ! らしくねぇぞ?」
「あなた達・・・本当によく・・・よく生きて・・・」
決死隊
MRA隊6人中5人戦死、1人行方不明
歩兵隊12名中6名戦死、3名行方不明、3名帰還
冒険者24名中、9名戦死、7名行方不明、8名帰還
総勢42人の決死隊で帰還できたのは約3割の僅か11名だけであった
それ故に新人の頃から見知った顔が生き残っていてくれた事への安堵から、2人へと抱き付き涙を流す
そんなエオーネの様子に、ラーザとシスは顔を見合わせると笑みを浮かべた
「大丈夫だよ、エオーネ、私達は死なないから」
「そうだよ、それに今回はなんつうか・・・運が良かったんだよ」
「運が良かったって・・・どうしたの?」
離れながらエオーネが目頭の涙を指で拭いながら問い掛ける
「私達のことを見失ったのか、突然消えたのよ」
「消えた・・・? どう言うことかしら・・・」
シスの言葉に眉間に皺を寄せ訝しむエオーネではあったが、何かに気が付いたのかラーザが声を発した
「あれ? そう言えば他の連中はどうしたんだよ」
街が復興へと動いている中で、セドも復興の為にと働きながらもただ1人、仄暗い気持ちを浮かべていた
「俺は・・・何をやっているんだ・・・」
悔しさで握った拳を見つめながらも、後悔の念に苛まれる
あの時拳を使えていれば魔人ともっとマシに戦えた筈なのにと
未だにあの時の母の顔が忘れられず、拳を振るえない
ジャイアントアントと戦って行方不明、それはつまりまぁ・・・想像にお任せしますが想像通りですねぇ
パニックホラーではありがちですよねぇ
スパイダーパニックとか、まぁアリはアリなので、ちゃんと待って帰る時はアリらしく持って帰りますよ
街から離れた地点で、ラーザとシスはジャイアントアントに追われていた
あの後班を3つに分けて別れたが、自分達の班の殿を努めたMRAも、歩兵隊もすでにやられ、冒険者達も残すところ自分達のみとなっていた
先回りしてきた足の速い個体へとシスが銃弾を撃ち込み、その死体を踏み越えて更に前から迫るアリをラーザが両断しながらも足を止めずに走り続ける
どれくらい走った頃だろうか、後ろから聞こえていたアリ達の大音量の足音が急に消えたのだ
すぐさま静寂が支配し出し思わず2人は足を止め振り返るが、そこにいるはずの数百匹のジャイアントアントの姿はカケラひとつ残さず消えていたのだ
「・・・これどういう事だよ」
「知らないけど・・・一応警戒は怠らないで」
2人は武器を構えながらも周囲を警戒する
そんな彼らを見守る一つの影があった
「ラーザさん、シスさん、あなた達にはまだ死んでほしくないんですよ」
そう呟いたフルフェイスヘルメットの様な仮面を付けた黒い和服姿の男は、次の瞬間には姿を消したのだった