魔獣大侵攻 3
「作戦概要を説明します」
「999年7月、現在大陸の半分は魔王軍の侵攻により奪われている状態です。」
「今回の作戦では奪われた領土と敵地に囚われた市民の解放を目的とし、勇者を三部隊に分けた第一から第三特務隊を前面に押し出し第一軍、第二軍、第四軍の三軍団による大規模反攻作戦を行います」
「なお、各軍団にはダーカー工房製の技術を用いた新型MRAが配備される予定です。より細かな作戦は・・・何事だ!」
警報が突如として鳴り響く
「フェイル王国の主要都市に魔物の大群が出現!」
「現在各都市の防衛隊で迎撃中ですが、手が足りてません!」
「何だと!」
それはトウヤ達が帰ってくる日に起こった
日がそろそろ明けるであろう時間、警備の兵士たちはあくびをしながらも必死に眠気と戦いながら目を凝らしている
夜間当直のレーダー監視員もそれは同様だった
コップに入った苦味のある黒い液体を啜りながら、眼精疲労の為かしょぼしょぼする目を何度か擦るとレーダーへと目を向ける
「ん?」
そこでレーダーに違和感を覚えた
「・・・! レーダーに感あり! 北部方面、数200!」
急ぎ声を荒げると防衛隊司令部は一気に慌ただしくなる
けたたましく鳴り響く通信機の音にフィリアは起こされる
僅かに煩わしく思いながらも、布団から手を伸ばしベッドサイドテーブルに置いてある通信機を手に取ると、眠気を帯びたガラつく声で返事をした
「はい」
『フィリア、今どこにいる』
通信機越しに聞こえるゼトアの声に、何を焦っているのか、と疑問に思う
だが、その答えはすぐさま出ることになった
けたたましいサイレンが街中に響き渡ったのだ
「家、すぐに出る」
ただ事ではない、そう感じたフィリアはすぐに準備を始める
『頼む、現在街の北部方面から魔獣200が接近中、地下からも幾つか振動音を検知していて現在防衛隊が迎撃作戦を展開している』
「なら、街中の避難誘導と警備?」
服のボタンを閉めながらそう呟くと『南地区を頼む』と返事が返ってくる
「了解」
そう言い窓を開け放つと、遠くからはグラウンドバスターの特徴的な高い射出音と砲撃の音が夜の街に響いていた。彼女は窓の縁に足をかけるとそのまま2階の寝室から外へと飛び出ると、足裏から結界魔法を展開しながら、空中を駆けた
自宅のある西地区から南地区に到着すると、サイレンと断続的な砲撃音から来る恐怖により、既に多くの住民が逃げ惑い阿鼻叫喚の様相を呈している
「落ち着いて、避難所に行って」
無表情ながらもフィリアは声を張り上げ叫び1人でも住民を安全な場所まで誘導しようとする
「お前ら魔族のせいでこうなったんだぞ、わかっねるのか!」
「お前ら毎度毎度何なんだよこの野郎! 俺たちに勝てると思ってるのか!」
そんな中で聞こえてくる怒声にフィリアが気がつく
と、すぐさま声の方に向かうとそこには1人の男を囲う3人の男達の姿があった
「何をやってるの」
近くに降り立ち声を掛けると、人の顔に猫科動物の耳と尻尾を生やした半獣人の男が声を荒げる
「こいつは魔人だぞ! こいつらのせいでまたこんな目に遭ってるのに、ほっとけって言うのか!」
そう言われて、囲われて頭を抑えながら震える男を指差す
「なんでわかるの?」
「こいつは余所者だ! この街にいなかったつい先日来たばかりの!」
「ベラベラと自分は魔人で郷土料理を振る舞いに来たなんて馬鹿みたいに言ってやがったんだ!」
確かに男を見てみると、フィリアも見覚えが無かった
「そう、でも今は関係ない、逃げて」
魔国が侵略を始めてから数ヶ月、魔人に対する扱いが酷くなるのは知っていた。この男達も今回で2度目となる侵攻に恐怖と苛立ちを隠せないでいるのだろう
しかし、今はそんな事は関係ない
「防衛隊が対応してる。でも、どうなるかわからない、避難所に逃げて」
無表情ながらも鋭い瞳を向けると、男達は渋々といった様子ではあるが走り出していく
その背中を視線で見送りながら、頭を抱え震える魔人の男へとフィリアは近寄る
「大丈夫?」
「はい・・・す、すみません助けてもらって・・・」
「良い、避難所に向かって?」
「は、はい・・・その、お名前を教えてもらって良いでしょうか? お礼を言いたくて」
立ち上がりながらも、男は弱々しい口調で怯えた目をしながらそう言ってくる
「フィリア、フィリア・リース、この街のヒーロー」
「・・・あなたが、ありがとうございます。あなたの名前忘れません!」
そう言うと男は避難所に向けて走っていく、それを見届けた後、フィリアは残ってる者がいないか確認の為に再び高く飛び上がると空を駆け出した
フィリアに助けられた魔人の男は避難所へ向かう道を真っ直ぐ走り、やがて路地へと入ると下卑た笑みを浮かべる
「あの魔力・・・間違いない、見つけた。遂に見つけた!! フィリア様!!」
狂った様な笑みを浮かべる魔人は、避難所へと向かう道をそれ路地裏へと入ると夜の暗闇の中へと消えていく
軍隊の描写は正直過去に諦めたので、なんかそれっぽく書いてます
まぁうちはヒーローものなので、と言い訳挟んどきます