入学式
午前六時四十五分。目覚ましの音で目が冷めた莉月は、仕切っていたカーテンが開かれていることに気がついた。亜寿樹のベッドに目をやると、姿が無かった。すぐ戻って来るだろうと莉月は特に気に留めず、簡単に朝食を取った。だが、莉月が支度を終える頃になっても亜寿樹が部屋に帰って来ることはなかった。
入学式で少し早めに教室へ向かわなければならないとしても、六時四十五分に登校する程、馬鹿ではないことを願って莉月は部屋を出た。教室は校舎の二階にあり、莉月達の部屋は三階にあるのですぐに教室に着いた。莉月はかなり早めに教室へ来たのにもかかわらず、先着がいたようで、その人は机に伏せて寝ていた。座席が隣の莉月は起こさないように座りちらりと寝ている先着の人を見た。青い髪が日光を反射して輝いており、何処か見覚えがある。
(もしかして、あいつか?)
先着の人が亜寿樹かもしれないと思った莉月は顔を確認する。寝ている先着の人の顔を見て莉月は目を見開いた。
「嘘だろ、、」
寝ていた人は、亜寿樹だった。
(六時四十五分に登校する馬鹿だったとは)
莉月は、一瞬起こそうと思ったが、起きたら隣で騒がしくされても嫌だし、何より起こすのが面倒くさいのでそのままにしておいた。やがて、他のクラスメイトも教室へやってきて、入学式が始まる時刻になった。
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入学式の式場へ移動中、莉月の隣で何でもっと早く起こしてくれなかったのかと亜寿樹が騒いでいた。
「はぁ、まず人に起こしてもらう前提でいるな。自分で起きろ。そもそも早朝から教室で寝てるお前が悪い」
「えー!冷たいこと言うなよ!これも遅刻しない為の戦略なんだぜ!」
「戦略?何だそれ」
「よくぞ聞いてくれた!お前が寝てからちゃんと荷解きしたんだけど、気づいたら朝日が昇ってたんだ。今から寝れば入学式までに起きられそうにないし、かと言って寝ない訳にもいかないだろ?そこで、俺は思いついた。教室で、寝れば寝過ごしても遅刻にはならないってことを!」
そう誇らしげに語る亜寿樹にため息をつく莉月。そんな様子の莉月に気づかず亜寿樹は喋りまくる。どうでもいいから黙って欲しいという莉月の思いとは裏腹に、亜寿樹のお喋りは入学式が始まる直前まで続いた。
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「只今より令和4年度国立成煌學園入学式を開式いたします」
司会の男性の声で入学式が始まった。入学式は成煌學園の學園ホールで行われた。このホールは、学園祭等の行事から併設されている研究所の意見交流会等にも使われるらしい。そのためか、全校生徒自体は多くはないが多様な場面で使用されるこのホールは広かった。故に、比較的前の列に座っていた莉月だったが、壇上までは距離があった。着々と式は進行し、現生徒会役員の紹介になった。生徒会役員である九名が壇上に上がり、次々と紹介されていった。もちろん、その中には実美と婀恵の姿があった。最後に生徒会長が紹介され、そのまま生徒会長からの祝辞を聞く。
「一年生の皆さん。ご入学おめでとうございます。これから皆さんには沢山の試練が待ち受けているでしょう。ですが、仲間と助け合い壁を乗り越えて下さい。皆さんが、個人の実力を最大限に伸ばし、輝く事を願っています。以上、成煌學園生徒会役員一同でした。」
いい終えると軽く頭を下げ、生徒会役員が壇上から降りた。その後、司会の閉会の言葉を聞いて、これでやっと退屈な入学式が終わったと莉月が思っていると、肩を軽く叩かれた。後ろを振り返ると先程、壇上にいた実美が立っていた。
「莉月くん。久しぶりね。急で悪いんだけど、ちょっとついて来て。亜寿樹くんもついて来てね」
何処か急いでいる実美の後をついて行くと、第一会議室と書かれた部屋の前に着いた。実美は二回軽く戸を叩くと戸を開け、莉月達を部屋の中へ誘導した。その誘導に従って部屋に入ろうとした莉月だったが、中にいた人物達に驚き足を止めた。何故なら、第一会議室には生徒会役員が勢揃いしていた。