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冷泉亜寿樹

 入学式前日、莉月は慌ただしくしていた。なぜなら、今日は、成煌學園の寮へ引っ越すからである。元々、荷物が少ない莉月は、荷造りがすぐに終わった。それでも慌ただしくしている理由は、目の前の二人が原因である。一人は、莉月の祖父、龍喜(りゅうき)。もう一人は、莉月の母である緋智(ひとみ)。それぞれが、あれは必要、これは要らないと家中を散らかしながら追加で莉月の荷造りをしていた。二人共、莉月を思ってやってくれているというのは分かっているが、正直なところ大人しくしといて欲しいと莉月は思った。


「あ、インスタント食品も持っていきなさい。疲れて自炊出来ない時とかに便利よ」

「莉月。儂があげた本は持ったか?あれを読めば警守官の基本知識は学べるからな」

「母さん、學校にはレストランやカフェがあるから必要ない。それに、本は持ってかなくても、學校の図書室に似たようなやつぐらいあるだろ。頼むからもう荷造りを終わってくれ」


そんな三人の様子を莉月の父、悠夜(ゆうや)は微笑ましく見ていた。莉月は、悠夜に疑問があった。


「どうして成煌學園に入学しなければならない事を黙ってた?」

「莉月が警守官を嫌ってそうだったし、将来の道を狭める事もしたくなかった。お前には自由に生きほしいんだ。家柄に囚われずね」

「俺は、警守官という職業を嫌ってる訳じゃない。それこそ、家柄に囚われたくなかったからなりたくなかっただけ。」

「それが成煌學園に入学するだなんてどういう風の吹き回し?」

「成煌學園に入学したからって絶対警守官にならなければならないというわけでもないだろ?じゃあ、将来の事は成煌學園に入学後ゆっくり決めればいいと思ったんだ。」

「なるほどね。さぁ、もう出る時間だよ。父さんと緋智は放っておいて。多分夜まであんな感じだから」

「わかった。行ってきます」

「うん。いってらっしゃい。明日の入学式ちゃんと行くからね」


莉月は未だに、家中を散らかしている二人を放って、十五年間お世話になった実家を離れたのだった。


✿✿✿✿


 成煌學園の学生寮は、校舎の四階から六階の部分であり、原則二人部屋。故に今日から赤の他人と暮らすのである。二人部屋と言っても、カーテンで仕切れるようになっているため、プライベート空間は保たれる。


(五月蝿くない、静かな同居人だったらいいな)


そう思いながら、莉月は荷解きをしながら同居人が来るのを待った。

 

 日が暮れて、月が昇っても同居人は姿を現さず、同居人の荷物すら届いていない。もしかして、自分だけ一人部屋なのではと莉月は考えていた。だが、そこで戸を軽く叩く音が響いた。莉月は、やっと同居人が来たかと戸を開けた。そこに立っていたのは、青の髪に紺の瞳、身長は莉月より少し高い男がいた。


「はじめまして!俺、冷泉 亜寿樹(れいぜん あすき)!今日からよろしく頼むぜ!」

「一条莉月。よろしく」


こうして、莉月に五月蝿い同居人が出来たのだった。荷物を部屋に運び込んだ亜寿樹は、まず始めに部屋中を見て回った。部屋には、備え付けの台所、浴室、洗面所、お手洗いまで揃っている。それらを亜寿樹は順番に見て回り、感嘆の声だけが莉月の耳に届いた。


「あ!お前、一条って言ったよな!?一条ってあの一条か!?」


部屋を一通り見た亜寿樹はベッドに腰を掛けて話しかけてきたが、何より、声量が大きい。そしてよく通る。


「どの一条を言ってるのか知らないが、もう少し静かに話してくれ」

「あ、うるさかった?ごめん。俺、姉ちゃんにもよく同じ事言われるんだ」

「お前の姉貴って生徒会会計の冷泉婀恵か」

「お前、姉ちゃんのこと知ってるのか!?」

「まぁ、顔見知り程度だがな。それよりも、お前、今日は荷解きしないつもりか」

「あー!今やるから!」


そう言って亜寿樹は荷解きを始めた。その姿を見て莉月は寝る準備を始める。そして、カーテンに手を伸ばし仕切ってベッドに入り照明を消した。亜寿樹の元気なおやすみという声を聞いて、莉月は眠りについた。

 そうして莉月の寮生活が始まったのである。

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