癲者
短い銀髪を靡かせ、両手には大量の紙袋を持ち、大通りを軽快な足取りで歩く女と、その女の姿を見て、引き気味で一歩後ろを歩く女がいた。
「ねぇ、実美、いくら何でも買いすぎ」
一歩後ろを歩く女が、大量の紙袋を持って軽快な足取りで歩いてる女、実美に言った。
「別にいいじゃない。久々の休みなのよ。それに自分のお金で買ってるんだから問題ないでしょう。婀恵、何か欲しいもの無いの?何も買ってないじゃない」
「あんたの付き添いで来ただけ。もう十分買ったでしょ。早く帰って寝たいんだけど」
一歩後ろを歩いていた女、婀恵はため息をつきながら今朝の出来事を思い出していた。警守官である二人は久しぶりに休みをもらい、婀恵は一日中寝ると決めていた。だが、邪魔が入ったのだ。そう、実美が朝の六時半頃から一緒に買い物に行こうと騒ぎ始めたのである。始めは無視していた婀恵も、騒がられると寝ようにも寝れない。だから、仕方なく付いてきたのだった。そんな婀恵とは対象的にまだまだ買い足りないといった様子の実美は足が疲れたから一旦休憩しましょうと言って喫茶店へ入って行った。婀恵はもう一回ため息をつきながら後を追った。
二人は喫茶店に入り、注文したところで連絡が入った。その内容は、中心街近くにある神社の側の公園で癲者が現れ、どちらか一人が対応してほしいとのことだった。
「婀恵、行ってきて」
「嫌。ここは実美が行くべき」
「分かったわ。じゃんけんして、勝者が行くってことでいいかしら?」
「わかった」
そうして、二人の間でじゃんけんが行われ、勝者の実美が行く事になった。しかし、連絡を受けて五分ぐらいで現場に着いたのにもかかわらず、癲者は一人の男によって既に葬られていた。
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莉月が公園に着くと悲鳴が聞こえ、公園の奥から人々が走って来た。走ってる人は皆、逃げろ、癲者が現れた、等と叫んでいる。莉月は、周囲の人と逃げようとしたが、一人の老婦人が癲者に襲われそうになっているのが目に入り足を止めた。老婦人は、恐怖で足がすくみ逃げられそうにない。このままだと確実に死ぬだろう。自ら面倒事に足を踏み入れたくはないという思いと、少しの正義感が莉月の心の中で争っている。
(あの老婦人を見過ごせば面倒事は避けられるが、目の前で死人を出すわけにもいかない)
そうして莉月は、癲者と老婦人の間に滑り込んだ。癲者は一本の火の矢を形成し、その矢を莉月に向かって放ったが、莉月は一歩も動かず火の矢を手のひらで吸収し、水の弓と矢を形成した。そして、癲者の眉間にある一葉の模様を狙って矢を放つ。矢は的中し、癲者はその場で倒れた。莉月は初めて癲者に遭遇したにも関わらず、冷静に対処し、怪我人を出すことも無かった。それから間もなくして警守官と思わしき一人の女性が到着した。