夢の狭間
(また、この夢か)
夜明け前、莉月は目を覚ました。兄と夜中に家を抜け出した時の夢でトラウマを植え付けられた時の夢を見ていた。夢の内容は、幼い頃の記憶があまり無い莉月にとって唯一覚えていた出来事だった。幾度となく見てきたその夢は、慣れそうにもなく、寝覚めが悪い。乱れていた息を整え時刻を確認する。午前四時三十分。休日にこんな早起きをする人は滅多に居ないだろう。だからといって、もう一回寝るのも御免な莉月は昨日読みかけていた本を手に取った。その時、自室の扉が軽く叩かれた。そして顔を出したのは、父、悠夜だった。
「おや、起きていたんだね。おはよう」
そう言って部屋へ入って来た父は仕事着に見を包んでいた。
「おはよ、父さん。仕事に行くのか?」
「そうだよ。癲者が市内に現れ、応援要請が来た。行く前に、莉月の顔を見たくて寄っただけなんだけど、起こしたかな」
「大丈夫」
「良かった。じゃ、父さんは行ってくるね」
「ああ、」
そう言って慌ただしく悠夜は出ていった。数ヶ月前までは、仕事で外に出る用事があまりなかったが、ここ数日、家に帰ってくる方が珍しくなってきた。また、家に帰ってきても、書類の処理で忙しそうだった。そんな父の姿を見て、莉月はいつ寝ているのかと心配していた。悠夜の仕事が忙しくなった原因は癲者の出現だ。現在、倭国では、国民全員が神通力というものを宿してる。神通力が暴走し、自我を失い、凶暴化した者を癲者といい、癲者となれば3日間しか生きられない。放っておけば命尽きる癲者だが、そうすると大きな被害をもたらすためより早く癲者を葬る必要がある。そして、癲者を葬る専門家、神通力の専門家が警守官である。莉月の父、悠夜は警守官の一員である。人が神通力を宿し始めた時代から癲者は存在した。ところが、ここ数ヶ月は癲者の出現率が上がっている。それで警守官が忙しく動いているのである。世の中は、癲者の脅威に恐れているが、室内好きな莉月にとったら癲者なんてどうでもよかった。外にでなければ癲者の被害に遭う事も、癲者に遭遇することも無い。
莉月は手中にある本を開き読み始めた。そして、本をめくる度に物語が進むように刻一刻と夢が過ぎていった。




