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第一話 始まりの風  作者: 古都 黒
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人獣戦争の始まりから星歴533年

これを読み始めるであろう者が未だ知らぬ世界…いつかの時代のお話。


その世界には「人獣(じんじゅう)」と呼ばれる種族が住んでいた。

人獣は姿そのものは人間だが、獣らしい耳や尻尾が生えている種族である。

人獣たちは科学よりも魔法の技術を発達させ、生活を豊かにしてきた。


その世界をさらに発達させるためそことは別の世界、人間が住む世界「人間界」と行き来できるようにした。

(追記。呼称が確定しないため、人間界と名を付けるとする)

交流を深めるべくただ行き来するだけでなく、人間界からの来訪者もこの世界に住むようになった。

魔法が発達したこの世界は、来訪者たちによっていつしか「魔導界(まどうかい)」と呼ばれるようになった。

人間たちは魔導界では乏しかった「科学」という技術を持ち込んだ。

それにより更なる発展へ導かれることになった。


魔法と科学、互いの長所を活かし短所を補い、不自由がより少ないように生活や技術を発展させた。

いつまでも平和に豊かに暮らしていけると、誰もがそう思っていた……。


■ ■ ■ ■ ■


とある街。


見えるのは街中が炎に包まれる様。

焼かれ燃えて崩れる建物。煙と灰は辺りに立ち込める。

叫び逃げ惑う人々。その人々を追う、炎に照らされた人影。

追いついては一人、また一人と断末魔が聞こえてくることも。


まだ火の手も襲撃者が辿り着いてない区域、そのうちの一軒。

一人の人獣の少女は部屋に身を潜め、外の様子を密かに眺めるだけ。

少女は声を震わせながら言った。


「ねぇ、お姉ちゃん。この炎はいつになったら消えるの?」


何かの好機を待つかのように、少女の側で外の様子を窺う姉。

彼女もまた人獣ものようだ。


「消えると信じていれば、きっと消えるよ」


姉はそう言って、とにかく安心させようとした。


だが、部屋の外から見える他の区域の炎は次第に勢いを増すばかり。

このままでは身を潜め続けてもいずれ家を燃やされる可能性も。

または、襲撃者に見つかり殺されてしまうのかもしれない。

諦めるという選択はしたくない、姉は不安と焦りで困惑してしまいそうになっていた。

焦っても仕方ない、少しづつでも冷静に考えをまとめないとなんとか思い込み続けた。


ほんの少し経ち、ふと、姉は何かを感じたらしく急いで玄関の扉へと向かった。


「私、行ってくるね」


突然の行動に驚いて呼び止める。


「どこへ行くの?」


思い詰めて少し沈黙を挟んで。


「…必ず、戻ってくるから」


そう言って扉を開け、赤い景色の方へ走り出していった。


「ねぇ!お姉ちゃん、一人ぼっちにしないで!」


玄関に方へ歩みながら、開きっぱなしの扉の向こうへ叫んでも叫び続けてもその声は届かなかった…。


≫ ≫ ≫ ≫ ≫



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


星暦510年頃、人間の国「エントゥーシアスモ」と人獣の国「バレンティア」の間で戦争が起きた。


人間たちは更なる発展のため人獣たちが所有する土地が欲していた。交渉を申し込んだが、その結果は決裂。

納得がいかなかった人間たちはバレンティアに戦争を仕掛けたという。

その戦争の始まりは、「人獣戦争」と呼ばれるようになった。


時が経つにつれ争いの勢いは増してくばかり。

一方的な攻撃は続いていており、「エーレ」と「シェノアール」にも多少影響受けているという。

エーレとシェノアールは人間と人獣が共に暮らしている国だが、戦争によりエントゥーシアスモからも目をつけられ、日々の生活に支障をきたされている程という。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


人獣について。


姿そのものは人間だが、獣らしい特徴である耳や尻尾など生えているのが多い。

爪や歯は人間よりも鋭利で太さ長さも多少異なる、体つきも少し違いがあったりする。

運動能力はもちろんのこと、五感も人間より優れているという。


「獣人」という種族もこの世界にいるが、その種族よりは人間寄りのため生活感も人間と似ることが多いようだ。

獣の血が1〜3割程だと人獣、4〜8割程で獣人に特徴が寄るとのこと。

獣人たちは獣と同様身体の殆どが体毛に覆われているという特徴があり、

人獣の殆どは人間と変わらないような体毛の生え具合であることも、人獣と獣人の大きな違いでもある。

星暦300年頃に人獣という種族が生まれてきたといわれている。▼


□ □ □ □ □



星暦533年

ウェステン大陸、王都エーレ。エーレから北西の方角、(みさき)の山脈の峡谷(きょうこく)に「ウインゴージ」という町がある。

長い年月かけて風化してできた少しの平地から、人々が住み易いよう開拓してできた町だ。

幸いにも硬い地層が主となってるため、居住地としても相性が良かったという。

風の通り道になってるため、ほぼ一年中風が吹いており洗濯物はよく乾き、風力を利用するものを最大限活用しやすいとのこと。

ウインゴージはゴージウインド、峡谷の風の意味を持つ。

そして、その町には「国立魔法学校アルスナディア」という魔法学校があった。

そんな学校でのある日の教室。



 沈黙の中、よくあるようなプリント用紙に鉛筆やペンで書く音が教室に響き渡っている。結果次第でその人の評価が決まるという、希望と絶望が交差する、あの定期テストだ。この定期テストに備えて、多くの生徒たちは必死に勉強して臨むという。そう、多くの生徒たちは。


 テストの科目は国語。国語とはいっても、人間界の日本という国とは何も変わりもない科目である。この世界の共通言語は日本語であり、初めてこの世界にやって来た者が広めたらしく、いつの間にそうなったらしい。人間たちが来るまでに使ってた文字や言葉は今でも使われているとこがあるにはあるが、なんとも都合がいい話。

 学校指定の制服、紺青(こんじょう)色のローブを着ている生徒たちの中、一人だけ淡い青色のパーカーで黒のミニスカートの服装をしている女子生徒がいた。彼女はこのクラスで中間よりやや上ぐらいの学力を持つ“水青 瑠璃(すいしょう るり)”だ。瑠璃は人獣という種族であり、耳が獣特有のふさふさな耳(猫耳)になっている。

(前の定期テストよりは手応えはあるけど、今回も余裕ね)

 テスト2週間前からしっかり勉強をしていた瑠璃にとっては、答案をスラスラと埋めていけるほど余裕であった。その余裕さはふさふさとした獣耳(けものみみ)を見れば分かりやすい。

 瑠璃は気分によって耳のたれ具合とかが違い、ピンと真っ直ぐに上に立つ程よく、下にたれるほど調子が悪いことが多いようだ。現在はピンと真っ直ぐに立っており、良い感じに問題が解けているのもあるか、たまに両耳がぴこぴこと動いているくらい最高に調子が良い状態だ。

 瑠璃がクラスの生徒たちと違う服装をしているには訳があり、どうやらこの学校で指定された服装でいるのが嫌なようだ。学校内で指定された服装をしないのは学校規則違反に該当する。が、瑠璃の言い分によると、快適じゃないし動きづらいし地味すぎるというのが主な理由で着たくないようだ。

 瑠璃は指定された制服を着ない以外に数多くの規則違反をしており、動物の持ち込み、許可のない外出、借りた本が未返却等の違反をしている。一応、これでも退学寸前なことには一度もならず通い続けられている。

 教師から見放されているのか、ただ呆れられているだけか、例外的に見逃されているのか定かではない。

(そういえば、(すずな)はどのくらい終わっているのかな?)

 瑠璃は菘という人の様子が気になっているようだ。菘は瑠璃の左隣にいる生徒。彼女はちゃんと規定の服装である紺青色のローブを着ており、深緑(ふかみどり)色のショートヘアで丸眼鏡をしている。

 黒板の前で先生が獲物を狙う鷹のような鋭い目つきで、不正行為がないか生徒たちを見張っている。

 瑠璃は先生が目を逸らした隙に隣にいる“草葉 菘(そうは すずな)“の方をチラッと見た。

(うーむ…。日ごろ勉強してないツケがきてるわーこれ)

 眼鏡しているせいか知的な雰囲気を漂わせているが、彼女はただ単に視力が低いだけ。

 顔に書いてあるくらいわかる。菘はかなり悪戦苦闘しているようだ。時間が刻々と過ぎる最中、菘の額には冷や汗、右手に持つ鉛筆はテスト用紙に記す気配もない。4時限目、終わり数分前なのにも関わらず、菘の答案用紙は驚きの白さと言っても過言ではないくらいほぼ白紙。絶体絶命である。不運なことに記号問題もないので、運試しで答えるような手が使えず、それなりに勉強をしないと点数を取れない仕様になっていた。かなりスパルタな教師がこのテストを作ったに違いない。

 菘は瑠璃の視線に気づき、渋い顔つきで眼鏡の真ん中を人差し指と中指で少し上にズラして合図をした。あれは、非常に困ってたり悩んだり相当苦戦している合図だ。

(あの様子だと、菘は大分結果がマズいかな。菘、朝待ち合わせていた時からテスト前はすごく余裕そうだったのに。…まぁ分かりきっていたけど)

 そう思っている間に、瑠璃は答案をパズルが完成したかのように全て埋め終わっていた。


 テスト終了まで残り3分——



国立魔法学校アルスナディア。

この学校は国立という割には少し小さめなのだが、学校内の設備はそれなりに完備されている。創立されてから17年しか経っていないが、種族関係なく地元だけでなく隣町からも生徒たちが通いに来る。

学年は10学年まであり、中等部から10年(12歳から22歳)まで通える。

瑠璃は第5年生、菘は第6年生であるが同じ教室で学校生活を送っている。

学年違いで同じ教室になったりするのは、この学校では階級制度を採用しているからである。


階級制度とは、学年関係なく適正や能力によってクラスを分けている制度である。入学時に面接や試験を行い、成績が良ければ良いほどクラスを選択する自由が広まる。

階級は上から、深緑(しんりょく)紺青(こんじょう)深紅(しんく)夜黒(やこく)の4つのクラスに分かれていて、それぞれのクラスを選択するには条件が存在する。


「深緑組」は面接と試験での適正検査で優秀と判断された者だけが入れて主に数学、歴史、魔法学(高度魔術、四大元素)、魔科学を学んでいるクラス。学期末の成績で評価4以上(五段階評価)を毎回取っているような人ではないと厳しめだといわれる程のエリートクラスである。


「紺青組」と「深紅組」は面接と試験での適正検査で優良と判断されるか、特化した能力を持つ者が入れる。

主に理科、数学、歴史、魔法学(四大元素)を学ぶが、紺青組が理系、深紅組は文系に重視したクラスとなっている。五段階評価で3以上ほど取れているくらいならやっていける。瑠璃と菘はその紺青組で学んでいる。


「夜黒組」はよほど酷くなければ適正関係なしに入れるクラス。主に武術、魔法学(白黒魔術)、機械工学を学んでいる。成績関係なく入れるクラスだが、評判はそんなに悪くなく、夜黒組が主で学んでいるものは他のクラスと違った面で必要とされている学科である。


階級制の学校は年に1回、適正階級テストを実施する規則がある。

異動希望者は参加しテストを受け、合格後に教師との面談をし、クラスを決めていくことができる。

その逆もあり、クラスに適していないと教師から報告を受けた学校長の判断により、個別で生徒に適正階級テストを与えられることもある。学校によっては降格テストという形で実施されることもあるようだ。▽


——今から約6時間前、ちょうど瑠璃がぐっすり寝ていて起きる前の時間まで遡る。


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