【ネタ供養】安楽カウチ探偵・空木奈帆の事件ノート
連作短編シリーズ「安楽カウチ探偵」は、現場に行かなければ推理もしない、「安楽椅子探偵」から推理を引き算した探偵が登場する作品です。それって何もしてないじゃん、という話になりますが、代わりに主人公の旦那が推理と実働部隊をやってくれます。
主人公はタイトルにもなっている、空木奈帆という稀代の天才です。そもそも父親が外交官、母親も国連職員で、日本人なのに日本にあまりなじみのない帰国子女。東京の名門中の名門、お嬢様学校の帝国女学院中学・高校時代も成績トップを維持しており、高校在学中は3年とも高校生クイズに主将として出場し、3連覇に貢献しています。さらに高校一年生時にはミスコンでも優勝。その他、頭と顔がいいとできることは全部やってきたという、設定盛り盛りの主人公です。
対して旦那は司法試験に合格するくらい賢いものの、隣に大天才がいるので数段見劣りしてしまうという悲しいポジション。ですが奈帆が惚れ込むほどの優男で、相性バッチリな夫婦探偵として話が進みます。推理も実働も旦那がやるのですが、探偵の名は奈帆の方にあります。それはなぜかというと、旦那が奈帆の頭脳を借りて推理を進めていく、というある種の異能力を持っているからなのです。
奈帆の活躍は中学・高校時代にとどまりません。高校を成績トップで卒業後、帝都大学文科甲類 (モデルは東京大学文科一類)に共通テスト・二次試験ともにぶっちぎりの点数を取って首席で入学。この時の点数に無駄にこだわっているのもポイントです。
〇共通テスト 883/900
英語 200/200 (リスニング満点含む)
数ⅠA 100/100
数ⅡB 100/100
国語 193/200
化学基礎 50/50
物理基礎 47/50
世界史 97/100
倫理、政治・経済 96/100
→帝都大文科は全類で110点に圧縮。107.92/110
〇二次試験 404/440
英語 113/120 (リスニング満点)
数学 75/80
国語 105/120
世界史 51/60
日本史 60/60
合計 511.92/550
※例年の文科甲類首席は460点前後
共通テストは英語、数学、化学基礎という満点を比較的取りやすいところで取っておきながら、国語で一問落としてたり、物理基礎で満点取れてなかったりするところがポイント。彼女が国語で落とした一問は、たぶん現代文小説の最後の問題ですね。あと文系でセンター/共通テストを受けられた方なら分かるかもしれませんが、文系なのに理科を化学基礎・物理基礎選択していたり、社会を世界史・倫理政経選択していたりという変態ぶりも見せています。そのくせ、二次試験は世界史日本史選択という。ちなみに、二次試験は意味の分からない得点にあえて設定しました。
まだ彼女の快進撃は終わりません。在学中に司法試験に一発合格し、首席で卒業。犯罪をする人間は生まれた時から悪と決まっている、それを言い渡すために検事になっています。
そして物語の流れとしては、稀代の天才・奈帆が自分を恨む様々な人物と接していくのがメインでした。彼女自身が何かしでかしたわけではないのですが、天才すぎたがゆえに方々から知らず知らずのうちに恨みを買っている、というのが徐々に明らかになってゆく構成です。ネタとして書く予定だった話のメモを公開します。
①幽刻のリストランテ
これに関しては次に公開予定だったもので、挫折してしまったのですが、書きかけの約2000字をせっかくなのでここで公開します。
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「……というわけなんです。すごく現実離れしてて、作り話だろうって思われるのは分かってて……ここしか、相談できるところがなかったんです」
空木探偵事務所は、警察官であり、私の旧友で大学時代の同級生の高見くんが担当する事件に首を突っ込むのが主だ。一般の人から相談や依頼を受けるのも窓口として開いてはいるが、そちらに人が来ることはまずない。私は旦那が依頼者と応対しているのを奥で聞きながら、ソファに寝そべってスマホをいじっていた。旦那にはよく横着をするなと怒られるけれど、こうやって溶けるようにだらーっとしているのが一番いい。猫のように液体になりたい。昔はこんなことなかったのに、と思わなくもないけれど、やる気が起きるわけではない。
「うーん……人が消えるレストラン、ですか」
旦那の声質が、困惑を物語っていた。当然だろう。フレーズだけ聞けば忙しすぎて雇ってもやめる一方、雇ってもまたすぐにやめるので悪循環に陥っているレストランに思える。人手不足が叫ばれて久しい今の時代の飲食業界は、よほどのことがない限りそんな問題を抱えていることだろう。しかし依頼者の女性はそんな訴えをしたいのではない。依頼者の弟さんが、件のレストランの常連になったのち突然失踪したというのだ。
「失礼を承知でうかがいますが。弟さんに、精神的な疾患がおありだったとか……あとは、店主さんと仲が悪かったとか。そのあたりのことは」
「ない、と思います。景は誰にでも笑顔を崩さない穏やかで優しい子ですし、それに……」
「なるほど、人間関係のトラブルではなさそうだと」
「あの……やっぱり、他殺の路線でお考え、なんでしょうか」
「あなたはそうお考えではないですか?」
「いえ……景のことだから、悩みや困ったことがあったらすぐに私に相談してくれると思うので。でも、その、自殺の可能性が全くゼロかといわれると、そうとも言い切れないのかもしれないとも思って」
「分かりました。その線も残しておきましょう。何か分かりましたらこちらからご連絡差し上げます。くれぐれも、身の回りにはお気をつけて」
「……はい」
依頼者の女性は車で来ていた。旦那が送っていくことを提案して、往復30分ほどで帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりー」
「……どう思う?」
「いきなり?」
「僕は他殺の線で調べていきたいんだけど」
「あの話を聞いたら、まずは他殺を疑って然るべきだと思う」
「話し方の問題かもしれないけどね。バイアスがかかっていることも頭に入れないと」
「高見くんには連絡入れなくていい? 『警察』に連絡するのと、『警察の高見くん』に連絡するのとじゃ話が違うから」
「いや……やめておこう」
「ん?」
「なんだろうな……よくない予感というか。虫の知らせを感じるんだ」
「何、それ」
いったん二人で情報を集めていこうということで、ネットなり周辺住民の話を聞き始める。といっても、それらはほとんど旦那の仕事で、私がやることはどう情報集めをするか、方針のアドバイスや、有力そうな情報が出てきたら推理してみるとか、それくらいにとどまる。昔は推理さえまともにせず、旦那に任せていたが、それではいよいよ頭が腐りそうだと思ったので、最近は気が向いたら考えるようにしている。そう思うと、私もなんだかんだで根本は変えられない勉強好きなのかもしれない。
「西川口のレストランか……もう、怪しいね」
「それはそうね」
西川口は今や、都心のベッドタウンが廃れてゆくロールモデルとして見る向きが強い。外国人が多く住むようになり、多様な文化が混ざり合って独特の雰囲気を放ち始めたところまではよかった。その後、大規模なガス爆発事件と、度重なる暴力沙汰で煙たがられ、人口減少が著しくなり、今や一部地域は廃墟と化している。日本人が経営する飲食店など、もはや数えられるレベルではないだろうか。
『黄泉の国、あの世とこの世を繋ぐ、シックな雰囲気のレストラン』
レストランの名前を検索して出てきたホームページの一番目立つ場所に、そんな文句が書かれていた。最近お熱になっているコズドラ(Cosmic Dragons)というソシャゲのスタミナ回復を待つ間に、私も私なりにいろいろ調べてみる。
「あの世とこの世をつなぐ、ねえ」
「奈帆ちゃんはどう思う?」
「ひっそり人殺ししてあの世にご案内してるって言いたいのかな」
「バイアスがかかってるのかもね」
美術館でも博物館でも、人の死や死後の世界をテーマにしたものは数多く存在する。人は自分が死んだ後の世界を見ることができない。だからこそ興味が湧く。どのように記録が残されてゆくのか。自分は爪痕を残せているか。ただ、博物館で「死」を扱った特別展の期間限定ミュージアムショップは見たことがあっても、「死」そのものをテーマにしたレストランは聞いたことがなかった。人はみな命を食べているということ、それを再認識させるためのアイロニーなのだろうか?
「とりあえず行ってみようか」
「よろしくー」
「奈帆ちゃんも行くんだよ」
「いや! いや! し、死ぬ……!?」
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「来てしまった……」
家事すらだいたい旦那に任せているので、外に出ることすら久しぶりだった。
「ようこそお越しくださいました」
少々格式ばったレストランのようだったが、予約は必要なかった。足がすくむ私を引っ張って、旦那が先に店内に入る。
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この後の内容としては、知的好奇心を刺激する内装になったレストランで、犯人の店主が奈帆に襲いかかろうとしたところをすんでのところで旦那が止める、といったオチ。犯人は窃盗の前科持ちで、刑務所で詐欺などの知能犯にいじめられた過去があり、頭のいい人間を目の敵にしていた、という設定。さらに「空木奈帆」は偽名であり、実際は男であると妄信して、知的好奇心をそそる内容に興味を示した者たちを手当たり次第に殺し、本物の「空木奈帆」をあぶり出すことを目的としていました。このオチにつなげるまでの流れが思いつけず、また話を一つ生み出すのに毎回とんでもなく苦労しており、最終的な話の着地点もぼんやりしていること、さらにミステリやサスペンスを書くのが苦手なんだなとつくづく実感させられたことが原因で、断念することとなりました。このメモ書きをもって「安楽カウチ探偵」シリーズはペンディングになりますが、もしよろしければネタを活かしてやってください。
②神様の使用期限
こういうフレーバーテキストと言いますか、かぐわしいサブタイトルを思いつくのだけは楽しかったのですが。肝心の内容がさっぱりでした。こちらはタイトルだけ思いついたものになります。
③死神の遺言状
これは一応ざっくりあらすじが残っているので、そのまま公開します。
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稀代の大学生作家が著作に沿って殺人をやっているのではないか、という疑い
それを中心とした人間ドラマ
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ミステリーとかサスペンスとかを意識しなければ書きたくなるのですが、やっぱり難しいですね。
④生者の行進
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若者の自殺は次の生へと期待を込めた行為であり、悲観的に捉える必要はないのでは、と唱えた社会学者が何者かに殺された事件
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これもなんでこんな難しそうなテーマの事件考えたんだと言いたくなるような話。ここまで来るとパクれるもんならパクってみろ、という感じがします。
以上、ネタ放出でした。
最後に。せっかく書き出し祭りにも出したネタなので、誰かには活かしてほしいなと思っています。普段からミステリを書いている方や、これから書いてみようという方の何かしらきっかけになれば嬉しいです。許可を取る必要はありません。強いて言うなら、お前のネタ使ってやったぞ、という報告があれば嬉しいな、という程度です。
今の私にはミステリー・サスペンスは書けそうにないということで、これで供養とします。